捜索の報酬
「おはようございます」
カウンターにいるディアナさんに挨拶をする。
「おはよう。早速、捕まえたらしいわね」
「早いですね。もう聞いたんですか?」
ギルドの情報収集能力はすごいな。夜中の出来事を、朝一でもう知っているとは。
簡単に、事の顛末を説明する。
「これで、良かったんですかね?」
「気にすることは無いわ。多少煽ったくらいで、火をつけるような人なら、そのうち同じことしていたと思うわ。むしろ、警備している時で、被害を減らせたのだから、かえって良いくらいよ」
依頼を受けてたギルドが、そう判断してくれるなら、問題ないのだろう。
「警備の方は6日間なので、このまま期限まで続けます」
「最後までしっかりとお願い。ところで。今日は報告に来たの?」
「いえ、この前の話の続きになりますが、ペットの捜索ってありますか?」
成功すれば、金額は高いって言っていたからな。
「あるけど、魔物狩りはしないの?」
「警備と掛け持ちですからね。日中は睡眠もとるから、移動時間も考えると、あまり魔物狩りはできません。街中で活動した方が無難かと」
「それもそうね、ちょっと待ってて」
カウンター後方の棚から、紙束を持ってくる。
「ここ最近だと、これくらいかしら」
10枚くらいの紙を出してくる
「けっこうありますね」
「街全体の依頼が、ギルドに来るからね」
渡された紙、1枚1枚に目を通していく。そして、そこに書いてある金額に驚き呆れる。
「数枚軽く見ましたけど、報酬金額が最低でも1万Gなんですけど。魔物倒すより、よっぽど条件が良いじゃないですか」
「それだけ、見つからない物なの。夢見る冒険者もたまにいるけど、ほとんど途中で諦めるわ。探す冒険者がいなければ、依頼を受けてもらおうと、さらに金額が高くなる。最後の1枚、もう目を通した?」
そう言われてたので、最後の1枚に目を通すと
「10万G…記憶違いでなければ、家が買える金額じゃなかったですか?」
「その認識間違ってないわよ。ちなみにギルド風に言うなら、駆け出し冒険者の40ヶ月分の稼ぎに相当するわね」
「お金って、余っているところにはたくさんあるんですね」
「そうねー」
2人してため息を吐いた。
とりあえず、ペットのイラストと特徴を書いた部分を、順番に並べていく。
「何をしているの?」
ディアナさんが不思議そうに聞いてくる。
「この中から、どれかを選ぶより、いっぺんに探した方が効率が良いので。【写真】」
金額が高い物数匹選ぶより、この方が遭遇率が上がる。ついでに俺の場合は、面倒なメモを取る必要が無い。まとめて【写真】に収める。
「イラストを、手で写す必要もないか。便利な魔法ね」
俺から、紙束を受け取りながら頷いている。
「ところで、過去の捕獲場所の情報ってありますか?」
「それは、全て街の北西部ね」
「北西部…食品管理をしている地域ですね」
「当たり」
食物が多ければ、それに集まる動物は増える。食物自体もそうだが、それに集まる鼠なんかも餌になるわけだし。当然の結果か。
「場所がある程度絞られても、捕獲率は高くならないんですね」
「北西部ってだけで、十分広いからね」
まぁ、それもあるだろうが、そこ以外は探してない可能性がありそうだな。他に集まりそうなところとなると…
「この街の、ごみの管理ってどうなってますか?」
「ごみ?それなら、一定区画ごとに捨てる場所があるわよ」
「それって、街が管理しているんですか?」
ごみの収集とかあるのだろうか?疑問に思ったので聞いてみた。
「街というか、主に南西に住んでいる人が、回収や分別をしているわ」
南西ってことは、スラム街か。安全な場所でないらしいが、今のレベルだと危険なのだろうか。
「行くのは、あまりお勧めしないわね」
黙考していると、ディアナさんが口を挟んできた。
「やっぱり、レベルが低いうちは、行かない方が良いですか」
「今のレベルなら、そこまで問題は無いと思うけど。ある程度のレベルがあれば、普通の人は南西部に住む必要はないからね。レベルというよりは、面倒ごとが多いから、関わらない方が良いだけかな」
一般人は大丈夫だが、悪い奴と関わると面倒だと、そんなところか。行く必要が出てきてから、どうするか決めればいいか。
「捕まえたら、首輪に紐でも付けて連れて来ればいいですか?」
「籠や檻に入れてもらうと助かるわ。ギルドに余っているのあるけど、持っていく?」
「そうですね、小さい物ならお借りします。後、何か聞いておくことありますか?」
「猫相手なら、アイテムの《マタタビ木片》が有効ね」
「《マタタビ木片》ですか?」
普通のマタタビと、どう違うのだろうか。
「猫系魔物を、睡眠や魅了状態にするアイテムね。普通の猫にも効くわ」
「そんなアイテムがあるんですね」
「マタタビは、そのままだと作用が様々でね。眠ったり、恍惚になったりならいいんだけど、狂暴化することもあるから。そういったのを調整したのが《マタタビ木片》よ」
「便利ですね」
「だけど、使い方に注意が必要ね。過去に、猫がたくさんいるところで使って、取り合いに巻き込まれて、大けがした冒険者もいるから」
「狂暴化しないのでは?」
「数が多く、争いが始まったら話は別ね。そもそも、魔物の猫は群れないから、そういった前提で調合されているし」
「気を付けることにします」
魔物ならまだしも、野良猫の争いに巻き込まれての怪我は勘弁したい。
猫の対策はわかったけど、犬には有効な物はないのだろうか。
「ディアナさんは、何が好きなんですか?」
「…このタイミングで聞くのは、どういった意味があるのかしら?」
俺の視線が、チラッと自分の耳に向かったのに気付いたようだ。ジト目で睨まれる。
「冗談です」
「肉よ」
その時、ディアナさんの後ろから、以前話をした受付のお姉さんが声をかけてくる。
「それは飼い犬の話ですか?それともディアナさんのこと?」
「どっちもね」
「変な会話は止めなさい」
「真面目な話よ」
「そうですね」
「…いいかげんにしないと、怒るわよ」
お姉さんと一緒に、ふざけてませんよ、という雰囲気を出すが、ディアナさんが静かに睨んでくる。
「そんなことで、怒っちゃ駄目よ。4日前、仕事交換してあげたでしょ」
「そ、それは、か、関係ないでしょ」
なぜか、言い淀む。4日前と言えば…そっか、タイタスさんがらみか。納得して、思わず手をポンっと叩く。それを見てディアナさんが、視線を逸らした。
あまりいじり過ぎると前回のようになるので、捕獲についての会話を続ける。
「ちなみに、肉っていうのはどういう事ですか?」
「肉っていうのは、半分冗談。ようするに、食べ物を与えれば、懐きやすいって事。元はペットだし、ほとんどが人間慣れしているから。ただ、群れていたりすると、逆効果なのは猫と一緒だから注意ね。ちなみに、犬系の魔物に有効なアイテムっていうのは、聞いたことないわね」
「魔物の方は別として、ようするに食べ物なら何でも良いと」
「そう。犬もディアナもね」
「…私、籠を取ってきます」
そう言うと、ディアナさんは諦めたように、奥へ行ってしまった。
それを見送りつつ、話を続ける。
「あんまり、いじめたら駄目ですよ」
「このぐらいなら、大丈夫。すぐに機嫌を直してくれるわよ」
「そうですか?まぁ、平気だっていうなら、別に良いんですけどね」
「それじゃ、次は真面目な話」
改まって、話題を変えてくる。
「最近、街の周りの魔物が増加傾向にあるわね」
「やっぱり、冒険者が南に流れたからですか?」
「それもあるけれど、それ以上に、少しゴブリンの数が増えすぎているようなの」
「ゴブリンが?」
そういえば、トレヴァーさんが訓練の時に、遭遇率が高いって言っていたな。
「このままいったら、ギルドから討伐依頼が出る可能性があるわね」
「報酬が高くなるんですか?」
ギルド依頼になると、金額が上がるって話だったよな。先日のディアナさんの説明を思い出す。
「最下層のゴブリンだからね。額も知れてるけどね」
「そうでしたね」
「とりあえず、今は調査中だからまだ決定ではないわ」
「わかりました。頭の隅にでも入れておきます。どっちにしても、今は街の外には行く余裕無いですし」
「そうみたいね」
「情報ありがとうございます」
ディアナさんが戻ってきて、籠を渡してくれる。
とりあえず、今日の用件はこのぐらいだろう。
「それじゃ、あまり期待はしないでくださいね。空いてる時間に、片手間でやる様な物ですから」
「1件ぐらい、片付けてもらえると、ギルドの面目が立つんだけどね」
ディアナさんが、笑って言ってくる。
「それじゃ、1匹捕まえたら、ご褒美に何か奢ってください」
「その額の報酬が手に入るんだから、私の方が奢ってほしいわ」
確かに、最低でも金貨1枚だもんな。
「それだと、彼も張り合いないでしょ」
そこで、お姉さんがまた割り込んでくる。
「そんなこと言ったって、どうしようもないでしょ」
「そうね…よし、捕まえたらディアナがキスしてくれるって」
お姉さんの爆弾発言に、固まるディアナさん。
「それ、タイタスさんに怒られませんか?」
「いい案だと思ったんだけど、それは面倒そうね」
再び考え込む俺とお姉さん。ディアナさんは、固まったままだ。
「ディアナさんの、耳と尻尾に触らせてもらうのはどうでしょう?」
「尻尾は駄目!」
「それはセクハラね」
以前から興味のあった、さわり心地の良さそうな耳と尻尾を提案したが、即座に2人からつっこまれた。
「キスは良いんですか?」
「私が言うのと、当事者が言い出すのは別だから」
にやりと笑うお姉さん。
「ところで、自分の居たところには、獣人族が居なかったからよくわからないんですが、耳や尻尾に触れるのは駄目なんですか?」
習慣を知らないので確認してみる。
「冗談じゃなくて、知らなかったのね。尻尾は完全に駄目ね。お尻に触れるのと同じようなものよ。耳は特にないけど、だからって知らない人の体に触れたらアウトよね」
「興味本位で、触ってなくて良かった」
つい触って逮捕されました、なんてなったらシャレにならん。
「とりあえず、追加報酬はなしって事で」
くだらない冗談もここまでかと思って言うと、お姉さんが笑っている。
「何言っていの、尻尾は駄目だけど、耳は大丈夫よ」
きょとんとする俺とディアナさん。
「言ったでしょ。知らない人ならアウトって。それに本人も『尻尾は駄目』とは言ったけど、耳は言ってなかったでしょ。これで決定ね」
思わず2人で顔を見合わせる。
「えっと、簡単に捕まらないって話ですし、大丈夫ですよディアナさん」
自分の言った事なのに、変な形でフォローする羽目になってしまった。




