手袋(裏話)
ケンヤの居ない所でのお話です。
ストーリーの流れでは〔武器作成依頼〕直後のお話になります。
『あんなに、たくさん材料を持ってくるとは思わなかった』
ケンヤが、街の外で馬車を見つけた話は、一応ティルから聞いていたが、ここまで持っているとは思わなかった。あれだけの量を持ち歩けるということは、相当MP容量が高いのだろう。冒険者として、やっぱり有望なのかな。
それに、一介の冒険者としては、かなりのお金持ちになっただろう。そのおかげで、作成依頼も良い物ばかりだった。素材に、銀をふんだんに使っている。うちとしても、普段あまり作れないから、うれしい依頼だ。親方も、夢中になって準備をすすめている。ついでに、言い方は悪いけど、かなりの儲けもでる。大助かりだ。
『ティル、内に連れてきてくれてありがとう』
心の中で、友人にお礼を言う。
ケンヤが帰って、2時間ほどしただろうか。カウンターで、穴をあけた《子角》を研磨している。大分良い色になってきた。もう少ししたら、彫りに入ろう。これは、ティルもお気に入りの子に、あげる物らしい。聞いた話では、3人で仲が良いみたいだが、これからどんな風になっていくのだろう。本人達がそれでいいなら、私が口を出すことでもないだろう。
「こんにちは」
ドアを開けて入ってくる少女。うちのお客にはあまり似合わない、その雰囲気を見て気づいた。
「いらっしゃいませ」
『この子だ』
ティルの言っていた特徴と雰囲気。間違いない、アリシアちゃんだ。
彼女が、カウンターに向かってくる。
慌てて作業中の《子角》をしまった。多分、これは秘密で頼んできたのだろう。見られてはいけない。
「すいません、アルヴァの代理で来たのですが」
「はい。準備はできています。少々お待ちください」
『やっぱり、当たったか』
アルヴァさんから頼まれていた物を、隣の部屋から持ってくる。
カウンターの上に置きながら声をかける。
「アリシアさん、で間違ってない?」
きょとんとした顔。初めて会ったから当然か。
「あっ、はい。そうですが」
「ティルから聞いていた感じそのままね」
「ティルダさんからですか?」
半分納得、半分は…とまどいかな?そんな表情に見える。
「私はドナ。ティルの友達」
そう言って、彼女と話をする。
会話をすればするほど、ティルが気に入ったわけが、分かるような気がする。
私自身も、この短時間で、すっかり気に入ってしまった。
「アリシアちゃん、ってごめんなさい。お客様なのに、つい」
「ふふっ、大丈夫ですよ。ティルダさんにも、そう呼ばれてますから」
「そう?なら、そう呼ばせてもらおうかな」
「はい」
会話をしながら、商品の確認をしていると、ふと彼女の腰のポーチが目に入った。
「そのポーチって、もしかして手作り?」
「はい。暇な時に色々と作ってます」
「革細工か…」
そこで閃く物があった。ここは、お姉さんが一肌脱いであげよう。
「そういえば、少し前までケンヤが来ていてね……
**********
『手袋か…』
素材を探しながら、ドナさんとの会話を思い出す。
……穂先になる武器を、そのまま持って使うみたい……金属を長時間、直に持つのはね……手袋とかあった方が……
『武器を持つためなら、やっぱり丈夫な革がいいかな』
丈夫な革、柔らかい革。手袋の部位によって、使い分けが必要になる。頭の中で、大まかな型紙を思い浮かべる。
『色は、やっぱり青かな』
ケンヤさんは、装備品に青系が多い。色合いを思い出しながら、革を慎重に吟味していく。
『後は、どのくらい必要かだけど、手の大きさは…』
自分の手を見る。私のよりどれくらい大きかったかな。握ってくれた事、抱きしめてくれた事、その温もりを思い出し、頬が少し熱くなる。
お店のおばさんが、温かいまなざしで見守っていることに気付かないまま、買い物を続けていった。
宿に戻って、諸々の用事を片付けると夜になってしまった。明日も、1日自由なわけではない。
『簡単な物なら、両手作れるけど…手抜きはしたくないかな。とりあえず、武器を持つ右手だけなら間に合う』
迷ったけど、きちっとした物に仕上げたいので、右手1つ分を作ることにする。左手は、次に会う時までに作ればいい。
心を決めたら、後はそのまま集中するだけ。時間が許す限り、作業を進めていった。
次の日、午前中の手伝いを終える。午後の仕事は、家族が手分けしてくれる事になった。
感謝をしながら、すぐに作業を始める。時間に余裕ができたので、さらにもうひと手間かける事にした。
失敗するようなこともなく、順調に進んで、夕方には右手の手袋が完成した。
『頑張ったら、左手も間に合うかな』
そう思ったけれど、集中力がどこまで続くだろうか。
結局、落ち着くために、一旦休憩を入れることにした。まずは、気分転換に、少し散らかった部屋を片づける。
結果的には、無理をしなくて良かったと思う。なぜなら、
「アリシアさん居る?」
部屋の外からケンヤさんが呼んできたから。
「はい」
周りを見て、何もないことを確認してから扉を開けた。
夜、布団の中で《子角のお守り》を手に取る。夕方の出来事を思い出して、自分でも顔が赤くなるのが分かる。
左手用は、作ることができなかったが、その代わりにとても素敵な時間が過ごせた。
『手袋、作っていて良かった』
もう少しで、自分だけもらう事になるところだった。お世話になったのは、私の方なのに。
最後にもう一度《子角のお守り》を見てから、服の中にしまおうとして気づいた。
『これって…』
昨日、ドナさんを最初に見た時、カウンターの中にしまっていた白い物だ。
多分、ドナさんはこの事を知っていたから、私に手袋の話をしてくれたのだろう。
『ありがとうございます』
心の中で、ドナさんの心遣いに感謝する。
次にこの街へ来たとき、必ずドナさんへ会いに行こうと誓った。
これで、2章は終了になります。
次は、番外編を1つ入れてから3章へ




