侵入者
久しぶりに、視点変更があります
**********
が、境目に入ります。
予定よりも遅くなったが、〈ブラウン〉に戻る。フードを外し、裏口から入る。
「戻りました」
ジョージさんへ声をかける。
「大丈夫でしたか」
「はい。予定外の行動もありましたが、概ね順調です」
若旦那の行動や、所在地、近所の評判などを伝える。
「それなりに裕福な商家、入り婿の若旦那ですか」
「近所の人が言っていた話ですが」
近所の噂、どこまで正しいかはわからないが、少なくとも商家くらいはあっているだろう。
「それと、武器の購入ですか」
「それについては、少し刺激を与えすぎたのではと、反省しています」
「加減は難しかったと思います。それより、対策は平気ですか」
「はい。武器が良くても、扱えなければ何の意味もありませんから」
ドナさんの見立てでは、武器に関しては素人のようだし。
「それに、屋内に侵入できなければ、どんな武器を持とうが関係ないです」
「確かに。聞いた限りでは、鍵明けの技術も持っていないでしょう」
「はい。しばらくドアのところで、もたつくでしょう。万が一開錠できたら、開けた瞬間にでも勝負をつけます」
「中で待機していると、何をしているかわからないから、気をもむでしょうね」
「そうですね。気配だけして、何をしているか見えないですからね」
「あきらめて帰った場合は?」
「後を追いかけて捕まえます。二晩来たのなら、捕まえても文句は言わせません」
「それなら、念のため裏手の鍵をお渡ししておきます」
そんな話をしながら、対策を考えていった。
夜間の警戒を始める。今日も、今のところは浮浪者が1人。周囲の状況は、昨日と全く同じ。
やる事もないので、これから起きることを予測してみる。
『まず、ドアを開けようとするのだろうか』
過去に、ドアが開けられたことは無いらしい。開けた形跡や、店内の物が無くなったとか、そういったことは確認されていないそうだ。
今まであったのは、外で物音がした、人の気配がした、外に置いてある物が動いていた、足跡があったなど、店の周囲に誰かが居たというくらいで、 侵入された感じはなかったとの事。
『そもそも、何をしに来ていたのだろう?』
侵入しようとして無いみたいだし、そうすると会いに来たって事でもないよな。それとも、最後の1歩を踏みとどまっていたのか?
『わからん。どういった理由にしろ、夜中にうろつかれるのは迷惑だから、捕まえてしまおう』
考えるのが面倒になり、『とにかく捕まえる』それだけを考えることにした。
**********
「旦那、今日は飲むね」
親父が、そういいながら新しいのを置く。
出された酒を飲みながら、今日の事を思い出す。
『あいつ、いつから働き始めた』
今日の昼、いつものように楽しみにしていた〈ブラウン〉でのひと時は、急に現れた男のおかげで散々だった。
『随分と仲良さそうだったな』
ショーナさんの笑顔が、あいつに向けられていたのを思い出してしまった。
酒をぐっと飲み干す。
イライラが止まらない。
イラつくといえば、家の奴らもだ。俺の事ないがしろにしやがって。
家の事を考えると、さらに腹が立ってきた。
『やめだ、やめ。家の事はどうでもいい』
1か月前の事を思い出す。
偶然寄った〈ブラウン〉で、彼女の笑顔を見た時の事を。
家の事で荒んでいた俺の心を、一瞬で癒してくれた。
あの日から、俺の習慣に1つ加わった事がある。
それは、酒を飲んだ帰りに〈ブラウン〉の前を通る事。
彼女のそばに、例え会えなくても少しでも近くに居た、という事実が欲しかった。
時々、酔った勢いで〈ブラウン〉の周りをうろついたこともある。
昨日は、迷って近づけなかった。うろうろと中途半端になってしまった。
今日、こんな事が起こると分かっていたならば…
だから、今日は昨日より飲む。
もっと近くに行きたいから。
昨日のような中途半端じゃなく、さらに近くへ。
そう、今までよりさらに近くへ…
「親父、小瓶に酒を入れてくれ。持って帰る」
いざという時のために、小瓶に入れて持っていこう。
直前で、また逃げないように。
「そんなに酔っているのに大丈夫か?」
親父は、そう言いながらも酒をよこす。
そいつを受け取ると、勘定を払って歩き出した。
**********
【索敵】に反応が出たのは、昨日とほぼ同じ時間だった。
『来たか』
相手は《鋼鉄短刀》を持っている。油断は禁物。
『普通にいけば、表は目立つから、裏口側に回るよな』
人通りを確認すると、近くに歩いている人はいない。
浮浪者は、まだ同じ場所にいるようだ。
【格納庫】からアイテムをだし、準備をすすめる。
『夜中だし、できれば静かに終わらせたい』
そう願いながら、相手が来るのを待った。
**********
気づいたら〈ブラウン〉の裏口にいた。
景気づけの酒は、無くても平気だったようだ。
すぐに作業に取り掛かる。
早く、近くへ行きたい。
《灯魔石》で手元を照らす。
ドアの隙間に、ナイフを突っ込んでみる。
うまくいかない。
何度か動かすが全然駄目そうだ。
こんなちっぽけな店の裏口。
簡単に開くだろうと、見くびっていた。
『面倒だな』
念のために買った《鋼鉄短刀》を手に取った。
これなら、切れ味が格段に良い。
簡単に切れるだろう。
そう思ったが、今度は隙間に入らなかった。
これなら、ナイフの方が良いか。
脇に置いて、またナイフを使う。
今度は、別の角度から押してみる。
手ごたえはない。
それでも、手を動かし続ける。
**********
『今日は随分と積極的だな』
今までは、中に入ろうとしてなかったはずなんだが。
やはり、昼間は挑発しすぎたか。
『時間がかかっているけど、これは諦めてくれそうにないな』
それならば、ドアを開けた直後の隙を突く。
予定どおり、その瞬間まで待つことにする。
**********
鍵が開かない。
ナイフを幾度も入れているが、全く駄目だ。
『俺の邪魔をするな!』
ドアが、昼間の男に見えてくる。
近くに行くには、ドアが邪魔だ
近くに行くには、あの男も邪魔だ。
どうする。
『そうか、邪魔する奴は、燃やしてしまえばいい』
足下に置いていた、酒の小瓶を思い出す。
そこら辺にある、燃えそうなものを集めてドアの前に置く。
それに酒をかける。
ドアにも酒をかける。
《灯魔石》を《火魔石》に持ちかえた。
『俺の邪魔をする奴は、すべて燃えてしまえ!』
(ボンッ)
あたりに白い煙が舞った。
**********
ドアが、ずっとガタガタ鳴っていた。
何かをこじ入れるような音もしていた。
それなのに、今はその音がしない。
代わりに、周囲を漁る物音と、ドアに何かが当たる音が聞こえる。
何をしているのだろうか?
少しの静寂の後、ドアに水をかける音がした。
何をしているのか、ここからではわからない。
手に持った武器を握りしめ、ただ待つしかなかった。
**********
白い煙を吸い、せき込む若旦那。
後ろからとびかかり、その手から《火魔石》を奪う。
何もせずとも、若旦那はその場へ倒れ込んだ。
「危ない、危ない。まさか火を放つとは思わなかった」
そのまま、すぐに若旦那に猿轡をして、縄で手足を縛った。
「もう、ドアを開けても大丈夫です」
ドアの内側に潜む人へ、声をかける。
出てきたのは、ジョージさん。
「何が起こっていたんですか?」
「ドアが開けられなくて、火を放とうとしてました」
「!」
驚きで、声も出ないジョージさんだった。
俺は今までの経過を説明する。
まず、今日は店外で見張りをしていた。店内にいると、若旦那が何をしているか見えない。見ていた方が対処しやすいし、場合によっては証拠を【写真】で撮れると思ったからだ。
おかげで、証拠写真もばっちり撮れた。ドアの隙間にナイフを入れているところ、燃える物を集めて酒をかけているところ、火魔石を取り出しているところ。これだけ揃えば言い逃れはできまい。
それから、もしドアを開けることができたとしても、入る時は中へ意識が向く。その隙に後ろから抑える方が、店内で待ち構えるよりも成功しやすい。
そんなわけで、本当ならドアを開けるか、諦めて帰るときに捕まえる計画だったが、火を放とうとしたので、念のために用意していた《眠粉》を使って眠らせた。
《眠粉》は《塵紙》で包んで用意していたので、投げて頭にぶつけたら、(ボンッ)とはじけて、白い煙が飛び散った。若旦那はその粉を吸い込んで、身体異常の睡眠に陥って寝ている。
「ジョージさんは何故、中で待機していたのですか?」
「物音が聞こえたので、静かに下りてきましたが、ケンヤ君が店内に居ない。下手にドアを開けない方が、良さそうだと思いましてね」
そう言うジョージさんの手には、フライパンがあった。
「とりあえず、ここまでやられたら、過去の不審者の件を確認してから、何て言ってられませんね。詰所に引き渡して良いですね」
「無論、同意します」
「それでは、詰所まで人を呼びに行ってきますので、見張りをお願いしても良いですか?」
頷くジョージさん。
「一応、片付けはしないで、現場はこのままの状態にしていて下さい」
そう付け加えて、俺は詰所へと向かった。
詰所の兵士を〈ブラウン〉に連れてきてからは、あっという間に話は進んでいった。俺自身は、特にやる事もなく、証拠【写真】を提出して、簡単に状況を説明して終わり。決定的な【写真】が有るため、彼のやった事は弁解しようもない。〈ブラウン〉の人達も早々に解放された。後片付けをして、俺以外の人は部屋に戻った。酒瓶や魔石などは、証拠品として回収していったが、脇に置いてあった《鋼鉄短刀》には気づかなかったみたいだ。証拠として必要ないならもらっておくかと、ちゃっかり【格納庫】へしまう。何か言われたら、渡すことにしよう。
後で聞いた話だが、過去の不審者もやはり若旦那だったらしい。あぁ、名前は聞いたが忘れてしまった。多分会うこともないし、無理に覚えておくこともないだろう。
「今日は、どうされますか?」
朝食の後、ジョージさんが声をかけてくる。
「用があるので、出かけてきます。夕方から仮眠をとって、夜の警備に備えるつもりです」
「わかりました」
「夜間に怪しい人が来れば、また昼に確認しますけど、次の候補者はまだいませんからね」
日中は契約どおり自由にさせてもらおう。
「そうですね。もっとも、これ以上出てこられても困りますが」
「同感です」
泥酔状態だったいえ、放火までするとはなぁ。
「それでは、行ってきます」
アリシアさん達の見送りのため、北門に向かうことにした。
視点変更
1回だけジョージさんの視点が入りました。
【ケンヤ】
予定よりも遅くなったが、〈ブラウン〉に戻る。
**********
【若旦那】
「旦那、今日は飲むね」
**********
【ケンヤ】
【索敵】に反応が出たのは、昨日とほぼ同じ時間だった。
**********
【若旦那】
気づいたら〈ブラウン〉の裏口にいた。
**********
【ケンヤ】
『今日は随分と積極的だな』
**********
【若旦那】
鍵が開かない。
**********
【ジョージ】
ドアが、ずっとガタガタ鳴っていた。
**********
【ケンヤ】
白い煙を吸い、せき込む若旦那。
この視点変更で、
1 ケンヤが店内にいる
2 ドアに火が付いた
と、誤解してもらえたら良かったのですが…
文章を組み立てるのは難しいですね。




