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仕事の合間に

「さっきのは何?」

 店に入った途端、ドナさんから聞かれる。

「あまり詳しくは、話せないんですけどね。簡単に言えば、護衛の現場を彼が通った。そんなところです」

 ものすごく簡略化した。

「仕事がらみなのね。危険じゃないの?」

「そこまで危険ではないと思いますが、始まったばかりなので、まだなんとも言えません。参考のために、さっきの彼はどんな感じでした?」

「さっきの人なら、どう見ても素人ね。質問の仕方も、武器の持ち方も。あれなら、私でも相手出来るわ」

「ドナさんも武器を使えるんですか?」

「作るからね。ある程度使えないと、良い武器は作れないのよ」

「そうなんですね」

 まぁ、バランスとかの使い心地は、実際使ってみないとわからなそうだしな。

「それじゃ、そろそろ本題に入って、《お守り》見せてもらってもいいですか」

 護衛の件は切り上げて、ここでの本来の目的に移る。

「どうぞ」

 渡された《子角のお守り》は、短期間で仕上げられたとは思えない出来栄えだった。

 まず《子角》が丁寧に磨かれていて、渡した時と全く輝きが違う。そして、円錐状の底部側の側面には、繊細で綺麗な模様が彫られている。しかしその模様の美しさも、メインの《玉》を超える様なことはなく、全体として調和のとれた一品になっていた。

「すごいですね」

 残念なことに、単純な感嘆の言葉しか出せなかった。

「何というか…すいません、言葉が見つかりません」

「それは、満足してもらえたって事でいいのかな?」

「もちろんです。ありがとうございます」

「喜んでもらえて良かったわ。そしたら、さっさと届けてこないとね」

「はい?」

「明日の朝には出発するんでしょ」

 確かにそうだ。

「そうですね。届けに行ってきます」

「ケンヤは悪い人だね。2人の女性に贈り物をするなんて」

 いたずらっぽく笑っている。

「やっぱり、周りから見ると、そう思われるのかな?俺としては、お世話になったお礼がしたいだけなんだけどなぁ」

「うーん、人それぞれだしね。私の聞いた限りじゃ、3人の仲は良いみたいだし。本人たちが良いなら、それはそれで構わないんじゃないかな?」

「自分たちが良ければ…かぁ。そうですね、そう思うことにします」

 お礼を言って、武具屋を後にした。


 宿屋に行く前にもう一度、不審者の位置を確認しに行く。彼は、まだ自分の家に居るようだ。

 そういえば、名前を聞くの忘れたな。みんな若旦那と言っていたしな。俺も若旦那と呼ぶか。まだ、完全に不審者と決まったわけではないし…夜中にうろついてはいたが。

 そんなことを考えながら、宿屋に到着。実は、宿屋と〈ブラウン〉の距離は、そこまで遠くない。【索敵サーチ】を最大にすれば、範囲内に収めることができる。若旦那の警戒の為、最大範囲で【索敵】を設定しながら、部屋に向かった。


「アリシアさん居る?」

 部屋の外から声をかける。まぁ、居るのはわかっているのだが。

「はい」

 戸が開き、部屋へ入れてもらう。今は、アリシアさん1人だ。

「他の人は?」

「お父さんは、この前の冒険者さん、えっとメアリーさん達と会ってます。お母さん達は買物で、私が留守番です」

「そっか。アルヴァさんに聞こうと思ってたんだけど、明日の出発時間は変更なし?」

「予定どおり、北門8時に変更はありません」

「了解。その時間なら、自由時間だから大丈夫。問題が発生しなければだけど」

 若旦那は、今日実行するのだろうか。それでも、昨日の時間なら、影響はないはず。

「問題ありそう何ですか?」

「正直、何とも言えないけど、多分大丈夫」

 少しだけ、事情を話す。詳細はぼかしたが、うまくすれば相手が今晩行動してくるかもと。

 話が終わると、少しふくれっ面を見せるアリシアさん。こんな顔もするんだと、思うと同時に、なぜこんな表情に…

「それって、明日以降にできたのでは?」

 言われてみれば、早く解決したくて、そこまで考えてなかった。

「いや、不審者が周りをうろついてるんだし、早く片付けた方が良いと思うけどなぁ」

 間違ってない。そう間違っていないはず。

 じっと見てくるアリシアさん。

「俺は間違ってない、とか考えていますね?」

「だって危険なんだし、間違ってないよね?」

「でも、今晩するように仕向けた時、明日の出発の事忘れてませんでしたか?」

「…忘れてました」

 アリシアさんは、後ろを向いてしまう。

 直前まではちゃんと覚えていたとか、一時的に忘れただけで覚えているから今ここにいるんだとか…何を言っても駄目なんだろうな。

一時いっときとはいえ、忘れてごめん」

 素直に謝ることにした。

 沈黙がしばらく続いた。

「間違ってないと思いますし、私でも同じことしていたと思います。でも…出発の事は忘れてほしくなかったです」

 そう言ってこっちを向くアリシアさんは…笑っていた。

 何故笑ってる?

「とりあえず、今回の事は貸しにしておきます」

「貸し?」

 思わず、聞き返してしまう。

「そうです。大きな貸しです」

 まぁ、貸しで許してくれるなら、それでもいいかなと思う。

「できれば、俺に払える大きさにして下さいね」

 と、念だけは押しておいた。そうしたら、

「わかりました。努力すれば、ギリギリ払えるくらいの大きさにしますね」

 微笑みながら、無茶な返事をされてしまった。


「ところで、今日ここに来たのは、明日の出発時間を聞くためですか?」

「いや、それはついでの用事。本当の用事は別」

「本当の用事ですか?」

 こちらを不思議そうに見てくる。

「これを渡そうと思って」

 俺は【格納庫ガレージ】にしまってあった《子角のお守り》を取り出して、アリシアさんに渡す。

「これって、一昨日買っていた物ですか」

「そう、加工が間に合って良かったよ」

 驚いたように固まって、それを見ている。

「とても綺麗…」

「依頼した俺も、ここまで綺麗になるとは思ってなかった」

 しばらく無言で、それを手に取り眺めている。

「本当にもらってもいいんですか?」

「もちろん。その為に作ってもらったんだから」

「ありがとうございます」

 こちらに目を向けてくる。

「効果があるかわからないけど、光系統の物だからね。アリシアさんに合うと思う」

「効果なんてあってもなくても…」

「そうかもね。でも、どうせなら守ってくれた方が、俺としてはね」

「はい」

 もう一度、手元に目を向けている。

「そこに、紐を通す穴があるよね」

「ここですよね」

 細くなっている方の先を指でつまんでいる。

「そう。紐持ってきたけど、カードの紐と2重になるから。どっちの紐に通す?」

 一応、紐を取り出しながら聞いてみる。

「用意してくれた紐が良いです」

 取り出した紐を見もせずに即答する。そして、こちらに《子角のお守り》を渡してきた。

 すっと穴に通すと、紐の両端をまとめて軽く結ぶ。

「長さを調節するために、軽く結んであるから」

 そう言って、もう一度手渡すと、アリシアさんは、それを手に持ってじっと見ている。

 何か考えてるようにも見えるが、なぜ付けないのだろう?

「付けているところ、見せてくれる?」

 声をかけると、こちらを向いて

「直接、首にかけてもらえませんか」

 そう言って、こちらに渡してきた。

 受け取った《子角のお守り》を持って、前から近づく。

 紐の輪を広げると、ゆっくりと頭を通す。

 肩まで紐を下ろしたところで、そっと手を離す。

 その時、アリシアさんが動いた。

 俺の首に、すっと両腕をまわしてくる。

 そのままそっと顔を寄せて…唇を重ねてくる。

 不意を突かれて、固まること数秒。

 そのまま目を閉じて、肩を抱き寄せた。



 数分経過しても、いまだに真っ赤になって、動けないままのアリシアさん。

 このままだと、時間がいくらあっても足りない。

 しょうがないので、紐の中に入ったままの髪を、そっとかき上げて出してあげる。

 ふわりと広がる髪と、さわやかな香り。

「似合ってるよ」

 曲がった紐を、調整してあげてから声をかける。

 コクッと頷くアリシアさん。

「長さも、このくらいで良さそうだね」

 コクッ。

 そのまま、首の後ろに手を回し、軽く結んでいた紐をきつく締める。

「よし、これで終わり」

 そう言いながら【索敵】に目を向ける。

 これが、時間的にラストチャンスかな。

「アリシアさん」

 呼びかけて、こちらを向かせる。

 紐を結んで、首筋近くにあった手を、そのまま肩に置く。

 そして、今度はこちらから唇を奪いにいった。

「んっ!」

 一瞬、驚きから身を離そうとしたが、そのまま身をまかせてきた。

 そのまま抱き寄せて数十秒、名残惜しいが唇を離す。

「残念だけど、そろそろみんな戻ってくる」

【索敵】内にある、アリシアさんの家族の反応。範囲を広げていたので、距離はそれなりにある。

 多少時間はあるけれど、アリシアさん、いつものように振る舞えるだろうか。

 見た感じだと…これは駄目そうだな。2回目は少々やり過ぎだったか。けど、アリシアさんにやられっぱなしもなぁ。

「一旦部屋から逃げるか…そういえば留守番中だったっけ。部屋を空けるのはまずいか」

 どうしようか悩んでいると、

「大、丈夫です。」

 なんとか返事が返ってきた。が、持ち直すのと逃げるの、どっちの意味の大丈夫なんだろうか。

 こちらをじっと見てくる。

「えっと、大丈夫っていうのは、みんなが来るまでに、いつもどおりに戻れるってこと?」

 首を横に振る。

「部屋を出ても大丈夫、つまりこの場から逃げるって事?」

 頷いてくる。

「…了解。それじゃ行こうか」

 アリシアさんの手を引いて、部屋を出る。

 そのまま宿の裏口から、夕暮れの街へと出かけるのだった。

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