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夜間警備

 皆が2階に上がり寝静まった後、小さな淡い灯りをつけて、店内に待機する。一応、外に光が漏れないことは確認しているが、光量が強すぎると、いざという時に動けなくなるので、最低限まで落としている。

 のんびりと座りながら、店内を眺めている。特にすることが無い。暇つぶしになるような物を、何も用意していなかったので、店のメニューを1つ1つ見ていく。今日一晩あれば、名前はすべて覚えられそうだ。いざとなったら、ウェイターとして働けるかと思いながら、くり返し読んでいる。

 今のところ、【索敵サーチ】で見た限り、目立った動きをする者はいない。夜8時ごろから、右隣2軒目の家の向かいに、1人寝ているくらいだ。話によると、3日ほど前から、夜間になると現れる浮浪者らしい。この店の不審者の気配は、2週間前からだそうなので、犯人の見込みは薄いだろうとの事。念のため【付箋タグ】は付けてある。

 最初に変化があったのは11時ごろで、右隣3件目の家から6人出てきた。どうやら、遅い時間ではあるが、仕事帰りのようだ。こっちとは、反対方面へ全員向かったので、これも多分違うだろう。

 そんな中、怪しいと思える動きがあったのは、日付が変わって0時少し過ぎの頃。左側から1人、こちらに向かってくる人がいる。【付箋】付で、昼間いた客の1人だった。これは、1日目で解決かと一瞬喜んだが、2件ほど先で立ち止まっている。時々、こちら側に寄ってくる動きはあるのだが、近くまで来ては戻るを繰り返している。今のままでは、言い逃れができてしまいそうで、こちらから出ていくわけにはいかない。30分ほどうろうろした挙句、帰ってしまった。

 顔や家の場所を確認したいが、留守にして追うわけにもいかない。浮浪者からも、この暗さでは、顔は見えなかっただろう。また、店に来るだろうから、確認はその時でもいいかと思い直す。

 緊張をほぐすため、ここで1回コーヒータイムにする。【格納庫ガレージ】から、ポットを取り出し、カップにコーヒーを注ぐ。さっきの事は一度忘れて、ゆっくりとコーヒーを楽しむのだった。

 2時頃、今度は室内から足音が聞こえてくる。トイレは1階にしかないので、誰かが下りてきたようだ。少しして、こちらにショーナさんが姿を見せた。カウンター越しに、小声で話しかけてくる。

「おつかれさまです。何かありましたか?」

「今のところは、至って平穏ですね」

 中途半端に、さっきの話をして怖がらせるより、何もないと言った方が、安心して眠れるだろう。

「そうなんですね。お腹は減ってませんか?」

「朝までは、何とかもちますよ」

 こちらの言葉を聞かず、棚をゴソゴソと探している。

「お店で出せない、欠けたのがあるので」

 そういって、クッキーをお皿に乗せて持ってくるのだが、その姿に思わず息をのむ。

 裸ワイシャツ、いや一応女物のブラウスか。ゆったりとしたブラウス1枚の姿だった。

「私も、お腹が少し空いちゃって。時々こっそり夜中に食べてます」

 といいながら、無邪気に食べ始める。

 これは、いったいどんな状況だ。その時、ふと頭に声が響く。

『信頼を失うような行動があった場合…』

 これはディアナさんが試しているのか?罠なのか?

「食べないんですか?」

 俺が、1枚も食べないので聞いてくる。

「あっ、もらいますね」

 1枚、2枚と俺もつまむ。口に広がる、クッキーの味。甘い香りに少し落ち着く。

 俺も食べ始めると、あっという間にお皿のクッキーは無くなった。

「ふわぁー」

 あくびをするショーナさん。

「ごちそうさま。早く寝ないと、朝が大変ですよ」

「はいー」

 返事が眠そうだ。

「それと、会ったばかりの男の人の前で、そんな恰好は見せないこと」

 頭をなでながら、注意する。柔らかな髪の感触を楽しむ。

「はーい」

 ゆっくりと立ち上がる。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 2階に上がる足音を聞きながら、ため息を吐く。

『一歩間違えたら、俺が不審者になってしまうところだった』


 その後は4時ごろに、浮浪者のところへ近寄っていく人が1人居たが、その人物はすぐに居なくなった。こちらも、念のため【付箋】は付けておく。5時を過ぎると、最初の浮浪者もいなくなり、あとは通行人がちらほらと出始めてきた。こうなると、不審者もうろつくことはできないだろうなと、【付箋】を付けるのも止めた。

 結果的に、一番怪しそうなのは0時の男だろう。男とわかっているのは、昨日の店でのチェックは、男性しかしていなかったからだ。

「おはようございます、昨日はどうでしたか?」

 ジョージさんが、2階から下りてきて聞いてきた。

「おはようございます。そうですね、一通り伝えますが…」

 と、昨晩から今朝にかけての報告をする。ただ、ショーナさんの件については、黙っておいた。

「昨日のうちに、すでにマークしていたとは。とりあえず、その男と思って良いのか…」

「気になるのは、最後まで店に近寄れなかった点ですが、今後も確認していれば、わかる事だと思いますので」

 意見も大体一致したところで、話を切り上げる。ちょうど、朝ごはんの準備が終わったので、席に着き食べ始めた。朝食は、パンと野菜を多く使ったシチュー。一晩中起きていたので、お腹が減っている。胃を満たす感覚に、幸福感と同時に眠気も来た。このまま、ひと眠りした方が良さそうだ。

 食事が終わり、部屋に上がろうとしていると、パーシスさんが声をかけてきた。

「昨日の夜、つまみ食いに誰か下りてこなかった?」

「来ましたよ。自分も少し分けてもらいましたが、もしかしてまずかったですか?」

「いや、それは問題ない」

 問題ないと言う割には、困ったような感じで、こちらを探るように見てくる。なんとなく、言いたいことが分かったような気がした。

「大丈夫ですよ、何もしてませんから。あの、無防備さには驚きましたけどね。俺は大丈夫ですけど、今後他の男の人が警備に来るようなことがあれば、ちゃんと対策しておいてくださいね」

「すいません」

「目覚まし効果は抜群でしたので、俺の時は構いませんよ」

 と、冗談をいいながら、部屋に戻っていた。


 目が覚めたのは、お昼の1時近くだった。大体6時間ほどの睡眠をとれたようだ。【索敵】を唱え確認すると、昨日の昼にチェックした客は2人いるようだが、夜中の不審者候補はいない。

 とりあえず、この店の店員と思われるような服に着替える。男性は、店長のジョージさんしかいないので、決まった服が無いから、店の雰囲気にさえ合っていれば誤魔化せる。

 着替え終わると、すぐに階下へと向かう。カウンター裏で、ジョージさんに声をかけた。

「昨日の夜中の不審者はいないようですね。お昼に、個人的にチェックしていた人は、2人いますが」

「ちなみに、その2人とは」

 俺が、その2人について教えると、カウンターの中から、ジョージさんが伺う。

「1人は、この近所に住んでいます。単に声をかける勇気が無くて、見てるだけですね。夜に行動することもないでしょう」

 なんか、ちょっと同情を覚える評価だった。

「もう1人は、覚えがないです。最近来たのでしょう。少なくとも、2週間前には、居なかったと思います」

 やはり、夜の人が来るまで待つべきか。日中は自由にしていい契約だが、気になるしな。

「ところで、その恰好は」

 俺の姿を見て聞いてくる。

「カウンター内から覗くときに、あまり場違いな恰好で居ると、怪しまれるかと思いまして」

「ウェイターと間違えられて、注文されるたらどうします?」

 からかうように言ってくる。

「書いてあるメニューと値段は、一通り覚えてます。昨日一晩暇だったので」

 いたずらっぽく笑いながら答える。

「これは、1本取られましたな」

 予想外の言葉に、ニヤリと笑ってくる。

(ガシャン)

 タイミング良く?いや、悪く?客が何かを落として、割った音が響く。

 2人で顔を見合わせて

「それでは、片付けをお願いできますか」

「はい、いってきます」

 カウンター裏に置いてある、塵取りと箒を持って片付けに向かった。

 俺の出現に戸惑う、ウェイトレス3人。俺が何でもないように、片付け始めるので、ジョージさんを見ているが、あちらも全然気にした素振りを見せず、仕事をしている。しょうがなく、3人はそのまま自分達の仕事を再開していった。

 客が多かったこともあり、流れで数件注文対応をしてから、隙を見てカウンター裏へ戻る。

「夜間だけって聞いていたのだけど」

 パーシスさんが声をかけてくる。

「そのつもりだったんですけど、昨日の昼に気になっていた人が居たので、ちょっと確認に下りてきました」

「これからどうするの?」

「気になる人物が出てきたら、店内に出るかもしれませんが、それ以外は邪魔しないようにします」

「邪魔とは思ってないから平気だけど、さっきは急すぎて驚いたわ。マスターは、ちょっとしたいたずら気分だったんでしょうけど」

 ジロッとジョージさんを睨んでいる。

「何かある様だったら、マスターと相談して、適当にお願い。こっちは、いつもどおりに進めていくから」

「はい。お願いします」

 パーシスさんは、店内に戻っていく。

 入れ違いに、レベッカさんが裏に入ってきた。

「いつの間に、ウェイターの仕事覚えたんですか?」

「昨日、客として見てましたからね。メニューの方は、夜中に暇つぶしに」

 喫茶店自体、通い慣れていたからな。ウェイトレスの知り合いは5人いる。若干参考にならない人もいたが。

「びっくりしました」

 目をパチパチさせている。

「驚かしてごめん。とりあえず、気になることがあったら、また店内に出るかもしれないので、その時はよろしく」

「はい」

 返事をして、出来上がった料理を片手に、店内へと戻っていった。

 それを見送ると、一旦階段まで戻り、身を隠しながら休憩する。

『何もなければ、夕方にドナさんのところへ行かないとな』

 お守りをもらいに行くことを思い出しながら、残りの今日の予定を考える。

『アルヴァさんに会って、明日の出発時間を再確認して、あとは今日のうちにお守りも渡しといたほうが良いよな』

 余裕をもって、4時くらいから行動した方が無難だろう。その旨を伝えようと思って立ち上がった時、【索敵】内に夜中の不審者の印が入ってきた。

 カウンター裏へと入ると、ジョージさんと目が合う。俺の雰囲気を見て察したのだろう。小声で聞いてくる。

「来ましたか?」

「まだ店には着いてませんが、こちらに近づいてます。とりあえず、3人には伝えない方が良いと思うのですが」

「そうですね。まだ決まったわけでもないですし」

「帰るときには、裏口から出て追いかけます。それと、その後用事があるので、帰りは結構遅くなりますが、心配しないでください」

「わかりました。でも、大丈夫ですか?」

「【索敵】使うので、50メートル離れて尾行できます。ばれることはありません」

「相手も使える可能性は?」

「それなら、夜中の時に自分の存在に気付くでしょうから、あんな行動はとっていなかったと思います」

「そうですか」

 そんな会話をしている間に、目的の不審者候補は来店した。

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