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護衛の依頼

 お店の名前は〈ブラウン〉、喫茶店だった。コーヒーの香りが店内を漂っている。

 時刻は午後2時を過ぎたところで、客が多く忙しそうだった。もう少し空いてからの方が良いだろうと、空いている席を見つけ、コーヒーを頼む。

 飲み物を待ちながら、まずは客層を確かめる。こんな時間からのんびりお茶ができるという事は、それなりに余裕のある生活をしているのだろう。身形が整っている人が多い。俺の服装も、ギリギリ合格点といったところか。募集条件の清潔感などの見栄えは、客の前で店を出入りする事態を、考えての事だろう。

「お待たせしました」

 店員さんが、にこやかな笑顔でカップを置く。とても感じ良く丁寧だ。

「ありがとう」

 その雰囲気に、自然と口からお礼の言葉が出る。軽く会釈して去る店員さんを見送りながら、カップを手に取る。フワッと漂うコーヒーの香り。

『おいしい』

 コクがあるというのだろうか、口に広がる酸味と香り。目を閉じその風味を楽しむ。こちらの世界のコーヒーが美味しいのか、それともこの店だから美味しいのか。そのまま依頼の事を忘れ、しばらくお茶を楽しんでいた。

 のんびりと1杯目を過ごした後、2杯目を注文して観察を再開。怪しまれない程度に、軽く眺める。どうやら働いているのは4人のようだ。

 まずは、店の奥に1人、マスターらしき30代後半に見える渋い男性。それから、きびきびと働く、すらりとした黒髪ショートの20代と思しき女性。残りの2人は、10代半ばといったところか。可愛い耳をピコピコ揺らしながら、パタパタと歩く兎人の女の子と、先ほど俺にカップを運んできた、ふわふわした感じの羊人の女の子。

『そろそろ、依頼の件を話しに行っても大丈夫かな』

 先ほどより客も減って、ちょうど2杯目も飲み終わる。席を立って、会計の支払いに向かった。対応してくれるのは、ちょっと落ち着きのない、兎人の女の子。お金を払いながら、声をかける。

「ごちそうさま。とても美味しかったです」

「ありがとうございます」

「失礼ですが、あちらの男性の方が、マスターでよろしかったですか?」

「はい、そうですが」

 こちらの問いかけに、少々戸惑った顔を見せる。

「ご依頼の件で伺ったのですが、今時間的に大丈夫ですか?」

「ちょっと聞いてきます」

 マスターのところに向かい、何か話している。こちらを向く男性に、軽く会釈をする。男性がこちらに向かってきたので、ギルドから渡された手紙を取り出した。それを見て、こちらの用件に気付いたのだろう。

「奥へどうぞ」

 男性に連れられ、店の奥についていった。

「すいません。お客様のいる前で、ギルドの名前を出していいのか、迷ったものですから」

 奥の部屋に入ると、手紙を渡しながら話をする。

「お気遣いありがとうございます」

 手紙を受け取りながら、椅子を勧めてくる。

「ケンヤ・モリと言います。Lv14、魔法使いです」

 椅子に座り、簡単に自己紹介をする。

「私は、ジョージと言います。この店のマスターです。今回の依頼の件に入る前に、少々確認があります。まず、魔法使いとの事ですが、街中にしろ、狭い店内にしろ、魔法での戦いは制限を受けます。何かあった時に、不利かと思いますが、大丈夫でしょうか?」

 条件はLv10以上なのだから、本格的な戦闘を考慮していたとは思えない。それなりに戦えると言えばいいだろうか。

「もし戦闘があった場合は、補助魔法を使います。いつも、自分に魔法をかけて魔物と戦っていますので、レベル相応の戦闘なら問題ありません。それと、空間魔法を使えますので、周囲の監視ができます。敷地内への侵入に対して、遅れをとる事はないと思います」

 このぐらいできれば、今回の依頼なら大丈夫だと思うのだが。

「なるほど。魔法使いといっても、人によってスタイルが色々あると。確かに今のお話なら、今回の件に適しているでしょう」

 能力面については、納得してもらえたようだ。

「それでは、早速仕事について話を詰めましょうか」

 立ち上がりながら言ってくる、ジョージさん。

 あれ、これで面談終わり?他に審査とかないの?あまりに短いので、思わず確認してしまう。

「すいません。面談はもう終わりですか?」

「はい、こちらがギルドへ出した条件を満たしていますし、いざ戦闘になっても、それなりに対処できると感じましたから。それと、年齢の割に落ちついていて、状況判断も良いようですし」

 こちらを向きながら、そう言ってくる。

 あっけなく受かってしまったと思っていると、目の前にクッキーが置かれる。

「コーヒーはどうしますか?先ほど飲まれていたようですが」

 店内で飲んでいたのは、気づいていたらしい。

「今は、やめておきます」


 目が覚めると、時間は夜の8時少し前だった。ここは〈ブラウン〉2階の一室。もう少ししたら夜ご飯の時間なので、身支度を整える。

 面接の後、仕事内容について打ち合わせをした。内容については、ギルドで聞いたことそのままで、新たな内容は細かい時間合わせくらいだったが。

 警備時間は、夜の10時から朝6時の間で、1階の店舗で待機する。初日は様子見で、屋内から見張ることになった。相手の人数が分からないので、自分が追いかけてる隙に別の人が侵入、何て事態になると困るので。初日の状況で、2日目以降の方法を模索することになった。1人だと、やっぱ限界がありそうだなと思う。

 それと食事の時間は、朝が6時30分で、夜が8時過ぎ。夜はお店の状況で、多少前後してしまうようだ。

 そんな感じで、打ち合わせが終わると、俺は一旦ギルドに報告に向かい、その足でアルヴァさんの宿まで伝えに行った。アルヴァさんにあまり無茶はするなよと言われ、さみしそうなアリシアさんに見送られて、ここに戻り仮眠をとった次第だ。

 とりあえず、これからご飯を食べる事になるが、その時に他の店員に挨拶する予定だ。ここの店員は皆、店舗2階に住んでいるそうなので、夜は全員揃い紹介するのに丁度いいらしい。

「そろそろ時間ですが、大丈夫ですか」

 ドアをノックする音とともに、外から声をかけてくる。

「はい大丈夫です」

 ドアを開け、そのまま階下へ一緒についていく。

 店内に入ると、皆席に着いていて、こちらを向いていた。

「最近、不審な物音などがあるので、夜間警備をお願いすることにした」

 ジョージさんは、そう言ってから、こちらを向いてくる。

「今日から、店内で夜間の警備を担当する、ケンヤ・モリといいます。1週間と短い期間でありますが、よろしくお願いします」

 挨拶をして、頭を下げる。

「おかしな事は夜間のみなので、日中は自由に過ごしてもらうことになっている。まぁ、うちの店で冒険者を1日中拘束したり、複数雇うほどの料金は払えないからな」

 ジョージさんの言い方に、皆が笑っている。

「こちらの紹介は、食事をしながらにしましょう」

 場が和んだところで、俺も席に着き食事が始まる。

 食べながら、各々の紹介を行う。1人目はパーシスさん、3人のリーダーで仕事だけでなく、生活面でも何かあったら、彼女に聞くように言われた。次は兎人のレベッカさん。ちょっと気弱そうな感じで、耳が小刻みに動いていて、少々落ち着きなく見える。最後は、羊人のショーナさん。接客されていた時にも感じたが、おっとりのんびりした雰囲気を持つ癒し系だ。

 食事の方は、お店で出した余りものが中心ではあるが、しっかりと作り込まれており、とても美味しい物だった。これに慣れて舌が肥えたら、携帯食は口にできなくなりそうだ。いや、携帯食の代わりに、料理を【格納庫ガレージ】に入れておけばいいのか、などとつまらない事を考えてから、1つお願いを思いつく。

「ジョージさん、コーヒーをポットに1つ作ってもらえませんか。夜中に飲みたいので」

 店に置いてある、小さ目のポットを指しながらお願いする。

「ポットにですか?夜中だと冷めてしまうけど、よろしいので?」

「夜中にお湯を沸かしたら、相手に気づかれてしまう可能性がありますし、自分には【格納庫】があるので、冷めることはないんですよ」

 飲み物を作っていたら、不審者に気づかれて逃げられました、なんてなったら話にならいしな。それに、俺はあんな美味しいコーヒー作れない。

「なるほど、便利ですね。あとで作っておきます」

 納得したようで、作ってもらえる事になった。夜中の眠気覚ましには、贅沢な一品だ。

 食事のあと、かたづけやら、明日の仕込みやらで皆が働いている。こちらは、店内の様子やら、鎧戸のチェックを行う。

 ジョージさんが、コーヒーポットを持ってきてくれる。お礼を言って【格納庫】にしまい、そのまま少し話をする。

「ジョージさん」

「何か?」

「不審者って、彼女達のファンなんじゃないですか?」

 営業中の店内を眺めていた時から思っていたのだが、一部の男性客は、明らかに彼女たちを熱心に眺めていた。念のため、その数人には【付箋タグ】を使って目印を付けている。

「そう思いますか」

「このお店の事情や、働いている人のプライベートを知りませんので、断言はできませんが。客の一部に、そう見えなくもない人が居たように思えます」

「まぁ、同意見ですね」

「その場合は、捕まえてしまってよろしいですか」

「遠慮はいりません」

 そうなると、今回の低レベルでいい条件の理由は、

「相手が一般人だと、大体目星はついていたんですね」

「多分そうでしょう」

「ちなみに男性にした理由は」

「不審者の矛先が、うちの店員から護衛の冒険者に変わるのを防ぐためです」

 護衛に雇った女性が、逆に襲われると心配してか。ならレベル条件を上げれば…そうすると雇い賃が高くなるし、ディアナさん的に言えば擦れた人になり、この店のイメージに合わないと。

 とりあえずは、そこまで大変な仕事にはならなそうな気がしてきた。油断は禁物だが、初依頼の仕事としては手ごろな物にありつけたようだ。

名前が少しずつ増えてきたのですが、自分はカタカナの名前を覚えるのが苦手です。

今回の登場人物等について

●ブラウン 店名

 コーヒーの色、茶色

●ジョージ

 缶コーヒーの銘柄ジョージ○より


●パーシス 人

 アルファベットのPパーソンから始まる

●レベッカ 兎人

 アルファベットのRラビットから始まる

●ショーナ 羊人

 アルファベットのSシープから始まる

それと、ウェイトレス3人は発音(促音『ッ』や長音『ー』の位置)を種族名に似せています。

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