冒険者ギルド
ドーンさんが作業場に戻り、細かい手続きや打ち合わせのため、ドナさんとカウンター越しに話をする。
「《腕輪》は、シンプルなのが良かったんだよね」
「そうですね。あまり派手なのは」
「少しだけ、模様を入れてみない」
「どんなのですか?」
「そうね、こんな感じかな」
さらさらと、紙に描いていく。無造作に落書きしているようなのに、描かれているものは本格的だ。
「すごい、うまいですね」
「それほどでも」
口調が嬉しそうだ。
出来上がったイラストを見て、その意図を察し了承する。
「よし、気合を入れて作るわよ」
「その前に、お守りお願いしますね」
「それは大丈夫、忘れてないわ」
打ち合わせも終わり、少し気になったことを聞く。
「ドーンさんには、いつも丁寧語で話すんですか」
「仕事中はね」
「普段は違うと?」
「もちろん。普段は『親方』とも言わないし、丁寧語も使わないわよ」
「なるほど。俺もお客だから、『さん』付けなんですね」
「そう」
「そこ以外が敬語になってないから、違和感ありますけどね」
笑って指摘する。
「ティルの友人と聞くと、どうしても意識が甘くなりがちで」
苦笑いしながら言ってくる。
「もう、『さん』なしでいいですよ。こっちも、気が楽ですから」
「そうさせてもらうわ」
午後になり、ギルドに向かう。カウンターに知り合いを発見。
「こんにちは、ディアナさん」
「今日はどのようなご用件で?」
なんか硬い雰囲気だ。昨日の件が尾を引いているのか。とりあえず【格納庫】から、シトリンディアー以外の魔石をだす。
「お願いします」
確認をしてから、料金を渡してくれる。今日は、長居しない方が良さそうかなと、離れようとすると、呼び止めてくる。
「一応、タイタスから頼まれているから、ギルドの説明するから…」
「今日のディアナさん怖いから、また今度にしますね」
皆まで聞かず、退散する。呆気に取られるディアナさんを尻目に、ギルドを出ようとしたが、
『しまった、メアリーさんへのことづけ忘れてた』
立ち止まらざるをえなかった。くるりと向きを変え、ディアナさんとは別のカウンターへ向かう。
「伝言を1つお願いします」
さっきのディアナさんとの様子を見ていたのか、怪訝そうな顔をしている。構わず用件を伝えると、すぐに手続きに入ってくれる。少しすると、背後に人の気配が。何をしているのだろう。
「何か背後に居ませんか?」
俺の言い方が面白かったのだろうか。くすりと笑いながら、受付のお姉さんが答えてくれる。
「何か居ますよ」
「色々と用件があるから、帰らないように」
背後の人物から声がかかる。そして
「2番の部屋へ案内お願い」
とお姉さんに言って、立ち去っていった。
「何かしたんですか?」
「うーん、多少心当たりはありますけど。悪いことはしてませんよ」
「本当に?2番の部屋って尋問部屋ですよ」
「うそ!」
「冗談です」
このお姉さん、面白い性格している。
「もしかして、こうやって、ディアナさんもからかったりしてます?」
「時々ね。反応が面白いから」
「あまり顔に出なくないですか。尻尾は反応しますけど」
昨日の反応を思い出して言う。
「それが、面白い」
笑顔で答えてくる。気が合うかもしれないと思ってしまった。
「それじゃ今度、何か楽しい話があったら教えてください」
「はい。あ、2番の部屋は、その奥右側です」
部屋を教えてもらい、そちらに向かった。
「失礼します」
「さっきのは、どういう意味かしら」
入った途端、声をかけてくる。ドアは閉めるが、入り口で立ち止まる。
「怖いというのは言いすぎました」
今は怖いですが、と心の中でつけ加える。
「とりあえず、座ったら?」
「その猟犬のような目が、もう少し優しくなったら」
そういえば、ダックスフンドはアナグマ用の猟犬だったっけ、と彼女の耳を見ながら思わず言ってしまった。
「それは、返答次第ね」
距離を保ったまま会話をつづける。
「怖いと言うのは、後ろ暗いからじゃないの」
ティルダさんとアリシアさん、2人と出会ってからの事を、思い出してみる。3人で毛布に包まってみたり、馬車や宿でも色々3人で、からかいあっていたよな。昨日の事なら、わざとしたのでなければ、許容範囲だと思えるけどな。
「後ろ暗いとは思ってませんね」
正直に言ってみる。
「では、何でさっき逃げたの?」
逃げた事と、昨日の事、どっちに怒っているのかが分からない。ついでに、最初に硬かったのは、昨日のタイタスさんの名前を出した事が原因だろうか。
だんだん、考えるのが面倒になってきた。少し強気に攻めてみるか。椅子に腰かけ話しはじめる。
「まず、昨日の事については、一緒に出掛ける事ティルダさんも知っていたし、あのこと自体はわざとじゃないので、悪いとは思っていません。」
「そう」
「それから、昨日タイタスさんの名前を出したのは偶然で、特に意図していたわけではないです。さっきここに来た時に、ディアナさんが硬かったのはそれでですか?それとも、昨日の自分の行動に対してですか?」
「それは…」
「最後に、さっき『一応、タイタスから頼まれているから』って言いましたよね。一応頼まれているからってことは、頼まれなければ話したくないってこと。そう受け取って、俺は帰っただけです」
最後は、少し屁理屈に聞こえなくもないが、こんなところだろう。
ちょっと一気に言い過ぎたか。黙っているディアナさんの表情からは何も読めない。ついでに、しっぽも見えない。
少しの静寂の後、ディアナさんが口を開く。
「そうね。私が最初に硬かったのは事実。公私は分けなきゃね」
「こちらも、少し言い過ぎました」
お互いため息をつく。
「気を取り直して、用件を済ませませんか」
「それがいいわね」
「まずは、ギルドにある依頼の内容について説明します」
仕事の顔に戻ったディアナさんが、1つ1つ丁寧に説明してくれる。大まかにまとめると、依頼内容は5種類に分類されるようだ。
●魔物退治
依頼を受ける必要はなく、魔物を倒したら、ギルドへ魔石を持ちこむだけ。魔石のランクによって、お金が支払われる。
例外で、大量発生等の緊急対応が起こった場合、ギルドから依頼を出し、通常より高い金額が支払われる。
●護衛
旅の安全確保のために、商人や旅人の護衛をする。冒険者ギルドと商業ギルドの話し合いで、目安となる金額が設定されている。
その他には、街中での要人警護、商家の用心棒の様な依頼もある。
●調査依頼
魔物の生息地調査、魔物以外の獣や植物の分布図など、街の外での活動が多い。
●捜索(人物、ペット)
行方不明者の捜索、逃げたペットの捕獲など。意外と高額になることも。
●素材入手
魔物のドロップや、郊外の植物の採取、鉱石の採取など。
「魔物が大量発生した時、買い取りが高くなることがあるんですね」
「最近だと、南の方でウルフが、対象になりましたね」
「例えば、普段から魔石をためておいて、そういった時にまとめて売る人が、出たりしないんですか?」
「魔石の場合、採取して2日ぐらいは、わずかな反応があるので、古い物は見分ける事ができるから大丈夫です」
「そんな見分け方があるんですね。大量に出るということは、依頼が出る前から徐々に増えてるだろうし、2日程度なら範囲内ってところですね」
「はい」
「そういえば、魔物の大量発生っていうけど、そもそも魔物はどのように生まれてくるんですか」
何もない所から生まれるのだろうか。それとも、魔物同士の繁殖?
「魔物は、魔石と獣が融合することによって生まれます。」
「融合ですか?」
「はい。大まかにですが解明されています。獣と魔石が融合すると魔獣系。妖精と魔石の場合は鬼系。獣と妖精と魔石で獣人系。死体と魔石で死人系ですね。生きた人が魔石と融合した話は、今のところ確認されていません。後は、スライムやキメラなどの合成生物、悪魔や魔族に分類されるものについては、よくわかっていません。」
「魔石がどうやって生まれるかは?」
「それも、解明されていませんね」
何から生まれるかはある程度わかっても、大本の魔石については、わかってないのか。それが分かれば、危険は減るだろうに。でも、魔石が無いと生活は不便になるのか?
ギルドの依頼内容から、話がずれたな。依頼で他に気になるのは…
「捜索って、高額になるんですか?」
「ペットを飼っているのは富裕層ですからね。お気に入りのペットが居なくなれば、必死になって探しますから。魔物退治より安全で、高額なんですが、成功率はかなり低いです」
俺の場合、【索敵】を使えば、獣の位置がわかるので、多少は有利だろうか。そんなことを考えていたら、
「空間魔法が使えれば、少しは見つけやすいかもしれませんね」
と言われてしまった。
「ディアナさんの耳は、心の声が聞こえるんですか」
「それだと、便利なんですけどね」
こっちを見て笑っている。大分雰囲気が和らいだようだ。
「とりあえずその手の依頼、今ありますか?」
あれば、受けてみようと思ったのだが、
「もしよければ、護衛の仕事を1つ受けてみませんか」
「護衛ですか?」
「条件を満たせる人が、あまりいないので、頼もうと思っていたんです」
不意の護衛依頼にとまどう。他の人が満たせなくて、俺が満たせる条件なんてあるのだろうか?
「護衛をする条件って、何ですか?」
気になったので聞いてみる。
「強さは一般人より上であれば、高レベルでなくても構わない。Lv10を超えていれば合格。この前Lv11だったから平気ね」
「そうですね。今はLv14ありますから」
ケンヤ・モリ Lv14 HP:77 MP:100
物攻:23 魔攻:29 防御:23 魔防:29
必殺:23 素早:24 技能:24 幸運:24
タイタスさんとの、効率的なレベル上げの訓練で、3つ上がっている。MPも100の大台に突入した。
「上がり方が早いのは、マンティスの影響かしら。1人で戦う時は、無理しないように」
「はい」
「条件の続きになるけど、見た感じが荒くれ者は駄目。清潔感のある、若い男性。あとは、依頼主と面接して合格できるか」
「見た目もですか。一般的な護衛の依頼って、どれもこんな条件なんですか?」
「いえ、さっきも言ったように、これは少々変わった依頼です。レベルが低くても良いから、大人しくて、清潔感のある男性。この条件、冒険者向きでないでしょう」
「確かにそうですね…って、俺は冒険者っぽくないって事になるのでは?」
「まだ成り立てで、擦れていませんからね」
物は言いようだな。気にしないことにしよう。
それよりも、そろそろ仕事内容を聞いてみた方がいいだろう。
「依頼内容を教えてください」
「仕事は、店舗の夜間警備。そのお店は、1階が店舗、2階が住居になってます。最近、夜間に店舗の周りをうろつく者がいるようで、不審者の確認、状況によっては逮捕、撃退です。」
「確認だけでも良い理由は?」
「不審者の意図が分からないし、相手の人数や強さなど、不明な点が多い事ですね。場合によっては、手に余ることもあるので、状況で判断が変わります」
「報酬内容は?」
「6日間で900G、1日150Gね。夜間の警護のみで、日中の行動は自由。宿泊用の部屋と食事2回付。期間内に解決しても、6日間警備する。未解決時の延長については、状況次第」
「なんで解決した後も、6日目までは警備を?」
不思議になって聞いてみる。
「相手が、複数いた場合を考慮してだそうです」
「念を入れてるわけですね。後は、聞いておくことありますか?」
思い付くことは聞き終わったので、確認をする。
「そうですね。一応ギルドからの推薦になるので、信頼を失うような行動があった場合、ギルドの利用に制限がかかることもありますので、注意してください」
「わかりました」
「説明はこのくらいになりますが、引き受けてくれますか」
「はい。お願いします」
そして俺は、そのまま依頼先へ向かう事になった。
1日前(2人で散歩)で、微妙な会話をしたので、そのまま普通に対応するのはおかしいと思って、書いてみたのですが…だいぶ変な方向に脱線して、長くなりすぎてしまいました。




