武器作成依頼
「おはようございます」
〈ドーン武具店〉の扉を開け、声をかける。
「おはよう、ケンヤさん。ごめんね。今、親方来客中で、少し待っててもらえる?明後日以降ならいつでも、何て言っていたのにね。そんなに時間はかからないと思うから」
ドナさんが、申し訳なさそうな顔をこちらに向けてくる。
「気にしないでください。来客のタイミングなんて、予想できるものじゃないですから」
カウンターに向かいながら、返事をする。ドナさんの前に、色々な道具が置いてあり気になる。
「ドナさんは、何をしてるのですか?」
「私も、親方に鍛冶を習っているの。武器じゃなくて、小さなアクセサリーが専門だけど」
置いてあるアクセサリーに、細かな装飾がされている。
「繊細な作業のようですね」
「これでも、こういった装飾だけなら、もう一人で任されているわ」
手先が器用なのだろう。俺の武器とは別に、何か頼んでみるのも良いかもしれない。
「直接ドナさんに、装飾の依頼ってしても平気ですか?」
「私に?どんなの」
俺は、昨日買った2つの素材を取り出す。《玉》勾玉2つを合わせた物は、ビー玉を軽くつぶしたような形をしている。子鹿の角《子角》は、円錐が軽くカーブしたような形、例えるなら、丸みを帯びた短い牙のような形と言えばいいだろうか。
「《子角》をくり抜いて、この《玉》をはめ込む事ってできますか」
「そのくらいなら、できるわよ」
「明日の夕方までは、可能ですか?」
「《子角》は、細工しやすい素材だから、大丈夫」
「後は、革ひもを通せる穴か、金具を付けてもらえばいいかな。《子角》自体への装飾は、ドナさんにお任せします」
「了解。ところでこの《玉》、何?」
「正直、よくわかりません。素材が良さそうなので、使ってみようかと」
昨日おばあさんから聞いたことを、そのまま伝える。
「分解できないんだ」
「らしいです。光系の何かと睨んでいるんですがね」
「光系ね。効果がわからないのに、持ち歩くと?」
「そうですね。気軽に、お守りでも持ち歩くのをイメージしてもらえば」
「なるほど、お守りか。とりあえず、金額は50Gね」
「そんな安いんですか?」
基準がよくわからないので判断に困る。
「そんなもんよ。本体の材料の質、今回は《子角》ね。そこから作る物のランクが決まるの。そして、作る物の内容によって技術料や素材の代金が加わる。今回は、素材は全て持込だからね」
そんな話をしていると、奥から人が出てくる。
「おう、初めて見る奴だな」
「親方、この前伝えたティルの知り合いです」
この人が、ドナさんのお父さん、ドーンさんか。華奢なドナさんにあまり似ていない。小柄ではあるが、ごつい体のドワーフだった。
「初めまして、ケンヤ・モリと言います」
「変わった武器が欲しい、って話は聞いてる。トレヴァーからも色々と聞いてるぞ」
なんか、楽しそうな顔をしている。トレヴァーさんとも仲が良さそうだ。
「よろしくお願いします」
「おう、とりあえず中に」
俺が中に続くと、
「親方、私も一緒に聞いてもいいですか」
ドナさんが言ってくる。
「そうか。なら、ここでするか」
奥に行こうとしていたようだが、カウンター横の部屋にするようだ。
「それじゃ、さっそく始めるか」
「はい」
「とりあえず、作りたいものは聞いている。予算はどのくらいで考えてる?」
「予算の前に伺いたいのですが、金属の買い取りってしていますか」
「買い取り?してはいるが」
「錆びたり、壊れたりしている物でも大丈夫ですか?」
「原料として使えるなら問題ない」
そこで、崖下で拾ってきた破損武器を【格納庫】から出す。
《鉄斧(壊)》2本
《鋼鉄防具(壊)》2体分
《鋼鉄剣(壊)》10本
《銀槍(壊)》5本
次々と取り出した武器、全部で約150キロ。
他にも、まだ崖下にはあった。ただ、あの時のMPと魔法回復薬の量では、安全を考えると、これが限界だった。
「街の外で拾った物ですが、原料として使えそうですか?」
声をかけると、反応が無い。2人を見ると、固まっていた。
「あのー」
「おう、悪い。正直、驚いた」
「すごい量ね」
さっそく、2人で確認を始める。1つ1つに目を通し、メモを取りながら計算をしていく。その間、店のお客の対応で、ドナさんが席を外したりもした。
「まず、鉄、鋼鉄に関してだが、破損によって金属量が減少している。それと錆びが多いから、原料へと戻す処理費用が高くなる。銀の方は変色しているだけで、減少は無い。処理費用だけだな」
と言いながら、紙を見せてくる。
80,500G《鉄》《鋼鉄》
175,000G《銀》(1個35,000G)
-51,100G 減少、処理費用
「減少分と費用で、元の価値の2割減になるわ」
「そして、1つ問題があってな。うちで、これだけの《銀》を買い取る金が手元に無い」
「えっと、ちょっと待て下さいね…」
ここまで高額になるとは思っていなかったので戸惑う。考えてみれば、一部捨ててきたとはいえ、馬車1台分のアイテム。そういえば、金貨もかなり隠してあったな。金持ちの商人だったら、高い商品を扱うだろうから、それなりの金額になるか。
こちらが黙って考えていると、ドーンさんが声をかけてくる。
「提案なんだが、まずは《鉄》と《鋼鉄》を売ってもらって、《銀》は処理してインゴットにして一旦返す」
「はい」
「そうすると、80,500G-51,000G=29,400Gになる。これなら払える」
「はい」
「後は、《銀》で装備品を作り、29,400Gで足りない費用は、その都度余っている《銀》のインゴットをうちに売る」
「はい」
「それで構わないか」
「はい」
「一応、確認だが理解してるか?」
「大体わかります。今言われた方法でお願いします」
俺が『はい』しか言わないから、不安になったようだ。
「よし、それじゃ具体的に話を詰めよう。そうだな、原料の金属の他に、使えそうな素材があれば出してくれ」
【格納庫】から、《蜂針》《琥珀翅》《青銅の欠片》《虫鉄鎌》《白鋼鎌》と出していく。《青銅の欠片》はゴブリンから回収したのだが、今回は多分使わないかな。
「魔法用に最適なのは《琥珀翅》だな。そういえば作る物なんだが、効果が高い方が良いと言っていたが、腕輪か首輪になるがどうする」
「腕輪でお願いします」
金属を首にかけるのは、あまり好きではない。消去法で腕輪に決定する。装着する腕の部位、大まかな形状を確認し、最終的に、右の二の腕に装備することになった。
「《銀》は、5つのうち1つ使うことになるな。《琥珀翅》の方は、少し材料が余る」
「わかりました。費用はどのくらいに?」
「材料は持込。作るのは《銀腕輪》だが、《銀杖》に匹敵する加工をするので、差引すると40,000Gだな」
「そうすると《銀》のインゴットを1つそちらに渡すことになりますね」
「ああ」
《銀》は1つ武器に、1つは支払いに。後3つ残るか。《黒蜜》用にも、銀で何か作ってもよさそうだな。
「他の武器も、お願いしていいですか」
ドーンさんに言うと、ニヤリと嬉しそうに笑う。
「詳しくは教えてもらえなかったが、トレヴァーの話じゃ、変わった武器を使ってるらしいな。見せてもらえるのか?」
それで、笑ったのか。俺は《黒蜜》を、色々な形に変形させて見せる。最初のうちは、2人とも驚いていたが、すぐに職人の真剣な目に変わる。最終的に《棒》にしてから、ドーンさんに渡す。
「こいつはすごいな。《魔法銀》の一種だろうが、こんなの見るのは初めてだ」
「できれば、その《棒》を槍として使いたいので、穂先を作ってほしいんですが」
「これを一旦、《剣》にしてもらえるか」
なぜ《剣》にと思ったが、変形させて再度渡す。しばらく刃をみたり、軽く叩いてからこちらに渡してくる。
「《銀》をどれだけ加工しても、そいつの切れ味を上回ることはないが、それでもかまわないか」
そういうことか。俺は《黒蜜》の性質を1つずつ説明する。こちらの話を聞き、時に質問をしながら、ドーンさんは整理をしていく。
「なるほど。直接触れていないと変形できないから、手元はこの《黒魔法銀》にしておきたいと」
「そういうことになります」
納得してもらえたようだ。それにしても《黒魔法銀》と名付けたか。
「わかった。そうすると、穂先の他に、《黒魔法銀》が掴んで固定できるように、握りのような部分も必要そうだな」
「それなんですが、店に並んでいる《苦無》をイメージしているのですが、どう思いますか?」
「その場合、穂先が20cm、持ち手が10cmと大きめの《苦無》になりそうだが」
「それでいいと思います。そのままでも、ちょっとした武器にできる方が良いですし」
「そうなると、持ち手に革は巻くか?」
「いえ。それをすると《黒魔法銀》で固定しづらいので。手の方に、皮手袋でも装備します」
「なるほど。なら、後部の輪もなくして、少し小さめの穴を設けておけばいいか」
「それで、お願いします」
だいたいまとまったか。後は素材か。
「素材は、何かつけた方が良いですか?」
「今ある素材だったら、付ける必要はないだろうな」
「あまった《琥珀翅》とかは?」
「量的に足りないな」
となると、こんなところか。
「もしよかったら、アクセサリー作る?《琥珀翅》の残りから《髪飾》《胸飾》くらいなら作れるわよ」
そこで、ドナさんが声をかけてくる。ふと、そこで閃くものがあった。
「《琥珀翅》と《白鋼鎌》で、魔法使いに恩恵のあるアクセサリー作れます?」
「その2つなら、良い物できると思うわ」
「《耳飾》両耳にして、性能は《髪飾》と同等にできます?」
「なんか、注文が多いわね。できるけど何が作りたいの?」
そこで【格納庫】から、ある物を出す。
「デザインは、これでお願いしたいのですが」
「あら、可愛い。これって、自分で付ける物ではないわね。誰にあげるのかしら?」
「さあ?」
誤魔化す。
「急ぎ?」
「いえ、急ぎじゃないので、さっきのお守りを優先で大丈夫です」
「もしよければ《蜂針》も素材にする気はない?」
「良い物ができるなら」
「良い物というか…《蜂針》は《鋼》以降にはほとんど効果がないの。持ち物を見る限り、《鉄》で何かを作ること無さそうよね。だったら、仕上げに使っても良いかなと。性能は多少耐久度が上がるくらいだけど、見栄えはかなり良くなるわ」
なんか、力説してくる。そこまで言うなら、任せた方が良さそうだな。
「なるほど、わかりました。それなら使ってください」
「ありがとう」
思った以上に、作る物が増えたような気がするが、お金はどのくらいかかるだろうか。
「これで決まりか?」
ドーンさんが、確認してくる。
「はい。費用どうなりそうですか?」
ドナさんが計算をして、ドーンさんに確認している。
「最終的にこんな感じね」
+ 80,500G《鉄》、《鋼鉄》
+175,000G《銀》5個
- 51,100G 減少分、処理費用
●29,400G(80,500G-51,100G)
《銀》5個 インゴット
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-50,000G腕輪作成
-25,000G特殊加工
+35,000G材料持込《銀》、《琥珀翅》
-50,000G穂先作成
+35,000G材料持込《銀》
- 2,000G耳飾2個作成
+ 1,000G材料持込《白鋼鎌》、《琥珀翅》、《蜂針》
- 100Gお守り作成
+ 50G材料持込《子角》、《玉》
費用合計56,050G
《銀》1個35,000G売却
●費用残21,050G(56,050G-35,000G)
《銀》2個、《琥珀翅》、《白鋼鎌》、《蜂針》、《子角》、《玉》材料提供
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●受取
8,350G(29,400G-21,050G)
《銀》2個 インゴット、《白鋼鎌》未使用分
《腕輪》、《穂先》、《耳飾》2個、《お守り》
「《銀》は1個売却で2個は材料。残りの2個がインゴットに生成され戻ってくると」
「そうなりますね。製作順はどうしますか?」
「とりあえず、お守りは明日の夕方まで。後は全部合わせて、どのくらいの日数がかかりますか?」
ドーンさんが考えながら、返事をしてくる。
「8から10日だな」
「それでしたら、《穂先》優先でお願いします。後はお任せします」
「わかった。とりあえず4日後に一旦来てくれ」
決まったばかりなのに、今から武器の受け取りが待ち遠しい。
【格納庫】の消費MPの計算、残金設定などに手間取ってしまった。
この調子でいくと、MPの方は問題ないのだが、お金が足りなくなりそう…




