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2人で散歩(南通り・西通り)

「次の南通りはですね…」

 アリシアさんが、話している。

 さっきのディアナさんは、なかなか大変だった。適当に振った『そういえば、昨日タイタスさんと何してたんですか?』の一言が無ければ、今も解放されていなかっただろう。一瞬の反応の後、ポーカーフェイスを気取っていたが、しっぽの動きが、そわそわと落ち着きが無く揺れていた。俺の視線が尻尾に向かっているのに気付くと、慌ててお尻を抑える仕草がまた何とも…これ以上考えると、タイタスさに悪いかな。

「…って聞いていますか」

 怪訝そうな瞳で、覗き込んでくるアリシアさん。

「ごめん、ちょとボーっとしてした」

「…それじゃ、もう一回言いますね。南通りは…」

 アリシアさんの話を要約すると、街の南側には職人系の平民が多く住んでいる。その為、南通りは武器防具、生活用品などの生産品が売る店が多い。また、直接通りに面していない、隠れた良いお店も多いらしい。〈ドーン武具店〉なんかも、その1つだそうだ。こういったお店は、東側に生産系、西側には素材を扱う店が多いらしい。

 あとは、南側でもやはり東に近いほど、裕福な生活を送るものが多いそうだ。そして西南地域は、スラム街のようで治安が悪く、あまり近づかないよう注意された。

「この通りの露店は、変わった物が多いね」

 軽く辺りを眺める。服や生活雑貨なんかもあるのだが、意味の分からない芸術品みたいな物や、売り物に見えない様な物まで、様々な物にあふれている。

「はい。お店をもたない生産者の作品や、骨董品、変わった素材など、何でも雑多に売っています。掘り出し物もあるようですが、見せかけの偽物も多いですよ。あとは、値段も本当に安い物から、無駄に高い物もあるので、買う時は注意が必要です」

「そうなんだ。とりあえず面白そうだから、色々見ていかない?」

「はい」

 2人で、露店の物色を始める。気になる物は、1つ1つ手に取り【鑑定】を使う。しかし、鑑定不可の物や、鑑定が機能しない物など結構多い。この世界での認知度が低い物、知られていないだけの物、そういった物なら値打ち物の可能性がある。だが、ここにあるのは、ただのガラクタの可能性の方が高い。【鑑定】で安全そうな物を見極め、値段の安い物を数点購入する。

 何件目だろうか、器などを扱う露店で、包み紙として使われていたボロ紙の中に、日本語の走り書きを見つける。

「ちょっと、その紙を見せてもらってもいいですか?」

「?こんな物に興味があるのか?ただの紙だぞ」

 内容を見ると、何かの実験のメモのようだ。この紙だけでは、意味をなさない。

「これの続きってありますか」

「この紙の中のどれかだろうな」

 見せられた束は、かなりある。ここから探すのは難しいかと思っていると、

「ここにあるのは、3冊分の本と、意味の分からない紙の束だな」

「本3冊ですか?」

「どこでも売ってる本に、書き込みが多くあってな。売り物にならないから、バラして包み紙にしてある」

「それが、順番関係なく混ざっていると」

「落として、バラバラになったからな。包み紙にするのに、順番は関係ない」

「包み紙として、何枚使いました?」

「さっき出したばかりだから、全部揃っているぞ」

 全部揃っているとはいえ、これの順番を直すのは骨だ。

「この紙、どこで手に入れました?」

「解体する家の中にあった。ずっと前に空き家になっていたから、誰が住んでいたのかもわからん」

 本人を探すのも無理か。

「この紙束、売るとしたらいくら?」

 売り手の目が光る。

「そうだな、800でどうだ」

 だいぶ、吹っかけてきた。舐められたものだ。口調を少し変える。

「ただの包み紙じゃなかったのか」

「あんたにとっては、そうじゃないんだろ」

「いや、少し読めそうってだけで、何かはわからない」

「それじゃ、650だな。本はそれなりに高価だ」

「バラバラの本じゃ、はっきり言って価値はない」

「だったら…」

「書き込みが合って、売れなかったんだろ」

「わかった。500」

「残念だが無理だな」

 アリシアさんに声をかけ、その場を離れる。

「あ、ちょっと…」

 後ろで声が聞こえるが、そのまま歩く。

「もう少し、安くなりそうでしたけど、良かったんですか?」

「あの紙束から、3冊の本を作り直したいと思う?」

「…それは、面倒ですね」

 同意してくる。

「大体3冊ってのも、包み紙として1枚も使ってないってのも怪しい。高く売るための、口実の可能性もあるしね」

「そう言われてみると、そうですね」

「包む以外に使えない紙束。あんな高値で吹っかけてこなければ、多少は信用したんだけどね」

気になったのは、走り書きに合った『移動混鈍足』の文字。あれは、魔法なのだろうか。

「次は、あの店を見ませんか」

 アリシアさんが指したのは、素材や骨董を扱う店だった。

【鑑定】を使いながら気になる物をチェックしていると、鑑定不可の物を発見。見た目は勾玉2つを合わせた、タオのマークに近いだろうか。色は白と紫、そして漢字が掘られている。白には光、紫には囲。

『光囲、ライトドームになるのか?』

 水や火などの上級防御魔法に【水囲ウォータードーム】【火囲ファイアードーム】があったが、光には無かったと思うのだが。

「それが、気になるのかい」

 露店の主、おばあさんが聞いてくる。

「これは何ですか?」

「昔の物らしいが、誰も使い方わからなくてね」

「変わったデザインですね」

「その変な彫り物さえ無ければ、アクセサリーとして売れたんだろうが、それじゃただの傷ついた商品にしかならんでね」

 意味が分からないこの大陸の人には、いたずらにしか見えないようだ。

「少し小さくなるけど、磨き直すとかはしなかったんですか?」

「どうなっているのかわからんが、削ったり分解したりできないらしい。加工もできないと、宝石としての価値もない」

 さて、これはまだ使えるものなのだろうか。

「いくらですか?」

「そうだね…50Gでどうだい?」

 おばあさんは、少し考えてから告げてくる。効果はわからないが、お守り感覚で持っているのもいいだろう。

「買います」

「ありがとよ」

 他にも気になった物を数点、交渉しながら買う。さっきと違い、いい感じに買い物ができた。

「おまたせ」

「なんか、変わった物を買っていましたね」

「これの事」

 さっき買った、白と紫の玉を見せる。

「はい。色が綺麗ですね。この彫ってあるのは何なんでしょうね」

「詳しくはわからないけどね。白い方は『光』を、紫の方は『囲』を表しているね」

「『光』と『囲』ですか…って読めるんですか?」

「まぁ、詳しくはないけど何となくね」

 適当に誤魔化しながら返事をする。

「そうなんですね。そういえば、さっきの紙に書いてあったのも、雰囲気的にはこれに近い感じでしたね。」

「そうだね。念のために聞くけど、【光囲】なんて呪文ないよね」

「聞いたことないですね」

 光魔法だとは思うのだが、やっぱりアリシアさんでも知らないようだ。

 その後も、適当に露店を回りながら、南通りを楽しんだ。


 そろそろ夕刻がせまってきたころ、最後の西通りを歩きはじめる。気の早い冒険者は、つまみを食べながら、一杯始めている。

「露店は、お酒やおつまみなどを提供するお店が多そうだね」

「そうですね。夜になると、冒険者がこの通りに集まり、こういった露店で、飲まれるそうです」

「冒険者が集まる理由は?」

「住んでる場所ですね。家を持っている人、借りている人のほとんどは、西通り南側の裏手に集中しています」

 スラムと近く、かつ魔物の多い西側。普通の人だと、ためらう立地だもんな。

「あとは、西通りには安宿が多いので、冒険者がよく利用しているというのもあります」

「ここら辺は安宿では無さそうだね」

 ざっと見た限り、普通の宿に見える。

「はい、ここら辺はまだ中央に近いので。西に向かうほど、安めの宿と、軽い食事を提供する店が増えます」

「軽い食事?」

「露店は朝やってないので、冒険者はそこで朝ご飯を食べる方も多いとか」

「家に住んでる人も、自炊はあまりしないと」

「多分」

 そのまま、冒険者の食生活について、あれこれと話しているうちに、安そうな雰囲気の宿が増えてくる。それにつれて、若干騒がしさも増したような気がする。

 そんな時、前方から3人組が歩いて来た。狩りから帰ってきたのだろうか。こちらからは、西日で顔が見にくいのだが、前方の1人がこちらを見て、反応したように見える。そして、そのまま他の2人へ話しかけている。

「アリシアさん、ストップ」

「どうしました?」

 俺の急な呼びかけに、戸惑った様子だ。

「前方の3人に見覚えある?こっちを見て、何か反応があったようなんだけど」

「西日でわかりませんが、私の知り合いではないと思いますが」

 その返答を聞き、少しだけ前に出てアリシアさんを後ろに庇う。

 こちらに向かって、3人組が歩いてくる。近くに寄ってくるうちに、1人の顔に見覚えがあることに気付いた。

「先日は失礼しました」

 見覚えのある顔が、頭を下げてくる。盗賊に加担していた冒険者だった。

「そちらのお2人が人質になっていた方ですか?」

「はい、ご迷惑をおかけしました。私、リーダーを務めているメアリーと申します。」

 横の女性が挨拶してくる。

「弟が、そちらの方々に魔法を向けたこと、そして罪が重くならないよう口添えしていただいたこと、すべて聞いております」

 口添えは、トレヴァーさんがガルトさんに言っていたことだな。

「本当なら、すぐにでも挨拶をと思っていたのですが…」

 話によると、謝罪とお礼のために連絡を取りたくて、ギルドに頼んだらしいが、教えてもらえなかったらしい。できれば挨拶したいとの事だった。ギルドが言わなかったってことは、アルヴァさんかトレヴァーさんの意向だろうか。

 兄弟3人で冒険者、ってところは少し驚いた。弟さんがマリウス、妹さんがマーシャと言うらしい。

「わかりました。自分には判断できないことなので、そのお気持ちについては、伝えておきます。それから、お会いするかについては、ギルドの方へ伝言をしておきます。明日の夕方までには、伝えられると思いますが、忙しいのでご希望に添えるかはわかりません」

 アルヴァさん達は、明々後日に出発するからな。時間的に難しいだろう。


 途中で、思わぬ時間を取ったが、日が沈む前に西門へ辿り着く。

「きれいだね」

「はい」

 夕焼けで、西の平原が赤く染まっていた。

「もしかして、これを見せてくれるために、西門を最後に?」

「いえ、もう少し早く回ると思っていたので」

「そっか、まぁ、色々あったもんね」

 今日の出来事を思い返してみる。何が一番印象にあるかといえば…やはりお昼だろうな。アリシアさんはどうなんだろうと思っていると、そっと手を握ってきた。

 また、顔は真っ赤になっているのかなと思ったが、どうやら夕日を見ていて、こちらに視線は向けてなさそう。ならば、俺もそのまま見続けるかと、日が沈むまで一緒に眺めていた。

ちょっとした違いですが

●鑑定不可の物

 一般的に知られていない物

 情報を伏せられている物

●鑑定が機能しない物

 アイテムや素材として、認識されない物


という意味があります

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