2人で散歩(東通り・北通り)
曜日(火水土風雷花)の表記について
火ノ日、水ノ日 のような表現で使用していきます。
〔曜〕にすると、現実と混同しそうなので
朝8時、野営していた時と比べると、遅めの出発時間。トレヴァーさん、タイタスさん、ティルダさんの3人が、これからエヴァレット村へ向けて街を出る。
見送るのは、アリシアさんファミリーと俺、それから武具屋のドナさんである。
場所は北門。エヴァレット村はエヴァレット山を越えた向こう、東の方にあるのだが、山は険しく、馬で越えていくのは難しい。通常は北回りで山を迂回していく。
「それじゃ、気を付けてな」
「あぁ、そっちもな。次はアイゼンで」
アルヴァさんとトレヴァーさんが声を交わす。
「ティルダさん、気を付けて行ってきて下さいね」
「無理はしないで下さい」
「装備品の事は、まかせておいて」
「うん、お願い。みんなも無理しないでね」
アリシアさん、俺、ドナさんは、ティルダさんに声をかける。
「ふーん。どうせ俺には、誰も声かけてくれねぇーんだ」
「どうせ昨日のうちに、ディアナさんとたっぷり時間は取っていたんでしょ」
冗談口調のタイタスさんに、ドナさんが反応する。
「それと、これは別だな」
「昨日については、否定しないんですね」
俺も、会話に混ざる。楽しそうに笑うタイタスさん。
「とりあえず、また戻って来っから。それまで、街暮らしを楽しんでろ」
「はい、そうします」
一通り挨拶が終わり、3人は馬にまたがる。
「それじゃ」
「おう、頑張ってな」
最後に、トレヴァーさんとアルヴァさんが、もう一度声を交わす。
出発間際、ティルダさんと目が合う。お互い、軽く頷きあって笑顔を浮かべる。
走り出す馬。道はまっすぐで、遠くまで見える。3人の馬が見えなくなるまで、皆で見送っていた。
帰り際、ちょんちょん、っとドナさんが俺を突いてくる。小さな声で、
「本当に、何でもないの?」
と、少しニヤつきながら聞いてくる。
「どうでしょう?」
こちらも、笑いながら返答をした。
「それじゃ、今日は街を見て回ろう。といっても、俺は詳しくないから、案内お願いできる?」
「はい。今日は、4つの大通りを案内しますね」
4つの大通りとは、街の中心から東西南北の各門へつながる、一番大きいメイン通り。道幅がとても大きく、整備もよく行き届いている。
「とりあえず、一番見るところの少ない、東通りから行きましょう」
「見るところが、少ないんだ」
「はい。貴族向けのお店が多いので、あまり関係ないかと。代わりに歩きながら、簡単な街全体の話をしますので」
なるほど。見るところが少ない分、話でこの街について教えてくれると。アリシアさんなりに、考えてくれているようだ。
「エクレストンは、東にエヴァレット山、南にエッジヒルの森、西から北にかけてはアール平原に囲まれています」
「そうだね。3日間、訓練で回ってきた」
「はい。北は穀倉地帯で、警備が万全ですが、他の方面は魔物がいます。特に、南と西は多くの魔物が現れますね」
「東はそうでもない?」
「はい。街の警備兵が訓練を兼ねて、頻繁に狩りをしていますから」
東側だけ重点的に?不思議そうな顔をしていると、アリシアさんが笑ってる。
「順に説明しますね。その前に、周りを少し見ませんか」
アリシアさんに言われ、東通りを軽く眺めながら進む。日用品、食糧、武器屋など、まんべんなく店があるのだが、どれも門構えからして、とても高そうに見える。
「さっき、貴族向けって言ってたっけ」
「はい。貴族は、この街の東を中心に、やや北寄りに住んでいます」
「なるほど。貴族は東側に住むから、安全確保のために、警備兵が東側で狩りをすると」
「そうです」
「それなら元々安全な、北側でも良いような気もするけど?」
「実は、エヴァレット山は、温泉が湧くんです。もっとも効能は、あまり良くないので、観光地や療養地には向かないのですが。それでも、手軽に楽しめますから」
「ようするに、貴族が自宅に温泉を引くと」
「そうなりますね」
「贅沢の為か」
「街中にも、公衆浴場は結構ありますから、平民でも楽しめますよ」
そういえば、宿でも気軽にお湯を使えたのは、お湯が豊富だったからか。
「余談ですが、エッジヒルの森で、サップスライムと大量に戦ったの、覚えてますよね」
「旧街道での戦闘だね」
「はい。あのときのドロップアイテム《泡袋》って覚えてます?」
「持ってるよ」
【格納庫】から《泡袋》を取り出して見せる。
「これは、石鹸の材料になります。お湯と石鹸が手軽に手に入るので、他の街と比べ衛生率が高いんですよ」
そうすると、この街は住みやすいってことになるのかな。そんな風に考えていると、東門に着いた。
「それじゃ、また街の中心へ戻りますね。次は、もう少し街中を眺めますか?」
「そうだね」
ゆったりした道の真ん中を、並んで歩く。他の通りも、何回か歩いているが、東通りは他とは雰囲気が違う。丁寧な作りというか、清潔感があるというか。人通りもあまり多くなく、埃っぽさもない。やはり、貴族向けなのだろう。
「東通りって、他の通りよりも広くない?」
ふと、感じたことを聞いてみる。
「いえ、4つの大通りは、全て同じ幅ですよ」
アリシアさんが笑っている。多分、俺の違和感の正体に、気づいているのだろう。
「人通りが少ないってだけじゃなくて、本当に広いような気がするんだけどな。アリシアさんは、俺の疑問について知ってそうだね」
「はい。多分わかると思います」
「それって何?」
あっさり降参して、聞く。
「他の通りには、道の真ん中に露店があるからじゃないですか」
「そっか。今みたいに道の中心を、他の通りじゃ歩けなかったな」
言われてみれば納得だった。
「東通りは、露店が禁止されていますから」
街の中心部が見え始め、他の通りのざわめきが聞こえてくる。
「他の通りの方が、楽しそうだね」
「はい。私もそう思います」
説明だけじゃなく、面白味のない通りを、先に片付ける事も考えていたようだ。
「次は、北通りを進みますね」
「よろしく」
東通りと違い、人が多く喧騒が激しい。アリシアさんに少し近づいて、北門に向かって道の右側を歩いていく。
「北通りは、東側に役所やギルド、西側に食料品や飲食店が並んでいます」
「ギルドには2回行ったから、通ったことはあるけど、ここの店並びにも理由があるの?」
「はい。ありますよ」
その時、冒険者ギルドから団体が出てきた。周りがごちゃごちゃ混雑して、アリシアさんと離れそうになる。とっさに、手を取りこちらに引き寄せた。驚いたようなアリシアさん。
「はぐれると大変だから、このまま行こう」
「は、はい」
手をつなぎながら、歩くことにする。場所と時間の影響だろうか。飲食店の多い通りで昼時、いつもより明らかに人が多い。
アリシアさんの顔が少し赤いが、これは人ごみに当てられたというより、手を握っているからだろう。一応聞いてみる。
「大丈夫、どこかで休む?」
「い、いえ、平気です。このまま歩きます」
顔の赤みが、少し増したような気もするが、まぁ、このままでいいだろう。
「さっきの続きですが、東側に役所が並んでいるのは、単純に貴族の住居が東側にあるからです。ギルドがあるのも、手続きや相互連絡などの便宜上の理由ですね」
「なるほど、そのまんまだ」
何の捻りもなかった。というか、そのぐらい自分で気づけと思ってしまった。
「それから、食糧品を扱うお店が多いのは、街の北にある穀倉地帯の影響です。収穫物を、北部に集中させて管理しているので、北通り近辺に自然と集まってきます」
「街中を縦断するより、耕作地近くの方が管理も楽だもんな」
「付け足すと、農業に関わる人のほとんどは、街の北西側に住んでいます」
「北東側は貴族ってことだね」
「はい」
返事をするアリシアさんと、通行人が当たりそうになり、少し自分側へ引き寄せる。
「それにしても、混んでるな。昼ご飯は、一般的にあまり食べないって聞いていたけど」
「平民でも、食べる人はそれなりにいます。それに、今日は休日なので、いつもより多いかと」
「休日の、家族サービスってところか」
そういえば、家族連れもそれなりにいる。
「あと、ここは役所が多いですから。近場で軽く食事をしようと、通りの向かい側のお店へ、向かってますね」
「今日って休みだったよね?」
「花ノ日なので、通常はお休みです。ただ、3月末日ですから、仕事が片付いてない方が、多いのかもしれませんね」
異世界にも、月末処理や年度末決算なんて言葉があるのだろうか?その前に、3月が年度末は一緒なのか?あまり、異世界っぽくない単語だなと、思ってしまった。
そんな感じで話をしていると、北門に辿り着いた。折り返しながら道の真ん中、露店に目を向ける。
「歩いてて思ったけど、この通りの露店は食べ物が多いね」
「そうですね。良い香りがします」
「せっかくだから、俺達も食べよう」
返事を聞く前に、手を引っ張り露店に向かう。昼時で、どこも混雑している。体が押されて密着し、ちょっと恥ずかしそうにするアリシアさん。はぐれないよう、しっかりと手を握る。
「何も考えず人混みに入ったけど、何かお勧めの物ある?」
「2つ先にある、三角形の生地を売っているお店、あれが良いと思います」
見ると、クレープのようなものを売っているのが見える。
「わかったけど…」
人混みが多くて、進めない。俺1人なら何とかなるが、ここで別れたら合流が大変そうだ。
「ちょっと強引だけど、このまま行くしかなさそうだね」
アリシアさんを背中側に移動させ、右手を引っ張って俺の腰にまわさせる。
「しっかり掴まって」
声をかけると、反対側の手をおずおずとまわして、俺のお腹の前で両手を組む。その手に左手を添え、右手で人混みをかき分ける。思った以上に進みにくい。
やっとの思いで露店の前に着き、商品を見る。
『ピザ?』
【鑑定】スキルが、ピザと表記するのに驚いた。よく見てみると、クレープよりも生地が厚い。ピザをクレープのように巻いてあった。
『まぁ、戸外で歩きながら食べるには、巻いてあった方が食べやすいか』
と、納得しつつ金を払って、2つ購入。右手も使えなくなり、体で押し分けるように、通りの端へと向かった。
人混みを抜け、余裕が出てきたところで、添えていた左手を離す。
「アリシアさん、もう大丈夫です」
気づくと、おずおずとまわされていた手は、しっかりお腹に巻き付き、体は背中にぴったりくっついている。そう、ぴったりと…
『さて、どうしたものか。このままでも良いような悪いような…』
何て考えていたのだが、幸せは長く続かなかった。
何となく視線を感じたので横を見ると、数メートル先に数少ない知り合いが居た。そういえば、ここは彼女の職場の近くだったな。
「こんにちは、ディアナさん」
「…昨日はティルダと一緒で、街から居なくなった途端に、別の子を連れ歩くとは」
何気ない風を装って挨拶をしたが、反応が冷たい。いや、この状況を見たら、普通はそうなるか。
「えっと、アリシアさんの事は知らないですか?アルヴァさんの娘さんの」
「あ、その娘がタイタスの言っていた」
よし、なんとかうまく誤魔化せ…
「それで、その状況は?」
駄目だった。
とりあえず、真っ赤な顔のアリシアさんから、解放してもらう。その後、ディアナさんへ、さっきまでの状況を説明?それとも言い訳?
恥ずかしくて、逃げだしそうなアリシアさんの手を握りながら、
『これじゃ説得力無いよなぁ』
何て思いながら、ディアナさんの休憩時間切れを待つのだった。




