武器屋へ(ドーン武具店)
「ここが、目的の武器屋よ」
ティルダさんに案内されてやってきたのは、〈ドーン武具店〉と書かれた、厳つい看板を掲げる、古く年季の入ったお店だった。
用件は、《木杖》に代わる、魔法用の装備を購入するため。昨日、資金がそれなりに入ったので、戦闘訓練前に寄ることになった。
「とりあえず、護衛の代金と報奨金の分配をする」
夕食の後、護衛3人と俺はアルヴァさんに呼ばれ、護衛料をもらうことになった。
「報奨金って何ですか?」
隣のティルダさんに聞く。
「盗賊を捕まえて、警備兵に引き渡したでしょ。それで、街からお金がもらえるの」
「昨日門の前で、警備兵にまた来てくれと頼まれているの、見ていただろう。今日行ってきたのだが、その用件が報奨金だった」
トレヴァーさんも教えてくれる。
「とりあえず報奨金だが、盗賊の捕縛、アジトの検挙、馬の買い取り、冒険者救出でちょうど10,000G。これは5人でそのまま等分するので、1人2,000G」
アルヴァさんを含め5人、直接戦闘に参加した人で分配するようだ。
ちなみに内訳は、盗賊(下っ端)500、盗賊(一般)1,000×4、アジト検挙1,500、馬500×5、冒険者救出500×3。盗賊の自白でアジトを見つけられたのも、こちらの手柄になるらしい。冒険者の分はギルドからの謝礼だそうで、人質2人と攻撃に参加していた人も合わせて3人との事。冒険者の彼は、盗賊には含まれなかったようだ。
「あとは、それぞれに護衛料を渡す」
俺の護衛料は、数えると3,900Gあった。普通の冒険者が1ヶ月4,000Gだったはず。夕方から合流した、初日を合わせても5日間。いくらなんでも高すぎないか?疑問に思って内訳を聞いてみると、日給200×5日、手当300×3日、アリシアさんの救出1,000×2回と返事が返ってきた。
「日給…いや、全体的に高くないですか?」
内訳を聞いても、もらい過ぎのような気がしてしまう。
「普通の冒険者が、1日160G程度と言われているんだが、【索敵】の貢献度を加えて高くしてある。手当は後半3日間の事だが、魔物、盗賊との戦闘、夜営地のおとり役、夜間警戒の補助等だな」
そんなものなのだろうか。そのまま悩んでいると、
「そんなに気にすることはない。冒険者ギルドと商人ギルドの契約で、だいたい金額の取り決めがされている。手当については、公正な判断のもと、商人ギルドの積立から払われるしな」
トレヴァーさんも言ってくる。話をまとめると、日給は、冒険者のレベルと能力で決まり、俺は【索敵】を含め魔法やスキルの能力から高めになった。手当はギルドが判断し、今回は日給の1.5倍相当、危険度が高いと判断されたらしい。
アリシアさんの救出については、値段をつける基準が無い。命の値段?未来の値段?色々考えたところで、判断しようがなかった。冒険者救出が500Gだから、家族を救ってもらったから、それより高いくらいに考えておこう。
納得できる、できないじゃなく、この世界ではそれが当たり前、と思うことにした。いくら考えても、結論が出そうもないし、結果も変わらなそうだから。
それにしても、商人ギルドの積立があるのには驚いた。話を聞いてみると、地球で言えば保険のような物みたいだ。いつ起こるかわからない、突発的な事態には、共同で対処しているようだ。
長い間迷っていた俺を見て、ティルダさんが笑っている。
「真面目に考え過ぎ。どうせ考えるなら、お金の使い道で悩んだら」
「お金の使い道かぁ」
「明日、装備品を見に行かない?」
そんな流れで、5,900Gの収入を得た俺は、武器屋に来たのである。
扉を開けて入る。店員が1人、カウンターの向こうにいる。
「いらっしゃい、ティル」
「おはよう、ドナ。ドーンさんはいる?」
「今日は、ちょっと出かけてる」
「そっか。そしたら、とりあえずドナに紹介しておけばいいかな」
そう言って、こっちを見る。
「ケンヤ・モリ、魔法使いです。よろしくお願いします」
頭を下げる。
「私は、ドナ。ここの店員で、この店の親方の娘。それと、ティルダの友人でもあるから。よろしく」
笑いかけてくるのは、小柄な女性、どうやらドワーフみたいだ。
「それで、ティル。今日は装備品を見に来たの?それとも別の用件?」
「ケンヤの装備品を見に来たのだけど。別の用件って何?」
「てっきり彼氏の紹介かと」
「それなら、最初にドーンさんの確認しないでしょ」
「それもそっか。相変わらず、色気のない冒険者生活をしているのね」
「人の事言えるの?」
「私は街で暮らしてるもの。声かけてくれる人くらいいるわよ」
「かけてもらっても、どうせ付き合ってないんでしょ」
「まあね。でもティルよりましでしょ」
「はいはい」
「だいたい、タイタスさんだってギルドの…」
話が盛り上がっているようなので、適当に見て回ることにする。最後のタイタスさんの話題が気にはなったが。相手は、ディアナさんだったりするのだろうか。
青銅、鉄、鋼鉄、それに少ないが銀の武器、防具が並んでいる。本で読んだときには、魔法銀もある様だったが、ここには並んで無いようだ。それにしても、銀製品は高い。青銅と鉄で約2倍、鉄と鋼鉄で約5倍、鋼鉄と銀で約10倍に値段が上がっていく。
つい、素材にばかり目がいってしまった。崖下で拾った壊れた武器が【格納庫】にあるので、素材として売れるのか、どのくらいになるのかと。いかん、本来の目的を忘れてしまったようだ。
気を取り直して、アクセサリーを見ることにする。指輪、耳飾、髪留、胸飾、首飾、腕輪など色々な形がある。どれも、戦闘ステータスを上げる効果がある。効果も悪くないようだが、俺が必要としている物が無かった。
魔法使いが使う杖の類は、魔法の効果を上げ、魔法の起動速度を助ける働きがある。それに匹敵するような効果のあるアクセサリーは、残念ながら1つもなかった。
「良いのありそう?」
2人が寄ってくる。さすがにドナさんの前で、『良い物が無い』とは言えない。
「自分の目的に、合いそうな物はないですね」
「やっぱり、そうなるわよね」
ティルダさんは、予想していたようだ。
「どういうこと?」
ドナさんが聞いてくる。
「杖と同じくらいの能力のある、アクセサリーを探しているんですが」
「ケンヤは、魔法使いだけど、攻撃魔法が使えないから、自分を補助魔法で強化して戦うの。だから杖じゃなくて、通常の武器を持つから、杖の代わりになるアクセサリーを必要としているわけ」
ティルダさんが補足する。
「なるほどね。ここにあるのは、サポートするアクセサリーだからね。メイン武器に相当するものとなると、特注になるわね」
「一般的には、作られてないのですか?」
「需要がないからね」
俺のスタイルは、特殊な部類に入るようだ。攻撃魔法が使えない、魔力の強い魔法使い…俺は、前衛、後衛どっち向きなんだろうか?
「ちなみに、需要のない理由は?」
解決の糸口に繋がるものがないか、需要が無い理由を聞いてみる。ドナさんが顎に手を添えて、考え込みながら言う。
「まず、メインの武器並の能力を持つアクセサリーを作ったとするわね。それが1,000Gだとして、メインの武器も1,000G。両方装備して、合計2,000Gかかりました。次に、2,000Gで1つの武器を作ります。そこで前者の2つの武器と、後者の1つの武器を比べると…」
「後者の方が強いと?」
「そういうこと。そこまで強いアクセサリーを買うなら、次の武器を考えるのね」
「なるほど」
「もちろん、とても強い武器を持っていて、それに見合った強いアクセサリーを欲しがる人はいるわよ。でも、上位の一部の人だけだから、高級武具を扱うところにしか置いてないわ。この近辺だと、王都まで行かないと無いわね」
王都には、そのうち行きたいけど、それまで武器無しはなぁ。
「次に、魔法使いが杖を選ぶ理由だけど」
一度区切ってから、話し始める。
「魔法使いが杖を持つのは、もちろん何かあった時に、身を守る打撃武器として使えるのもあるけど、一番の理由は、武器の大きさと魔法効果の関係ね」
「武器の大きさと魔法効果?」
「武器が大きいと、材料を多く使う。そして、材料が多くなると、魔法への効果も多くなる。つまり、材料の量が魔法の効果に比例するってこと。アクセサリーのように小さいと、魔法への効果も小さくなってしまうわ」
「そうなんですね」
「一応、杖と同等の効果を発揮するアクセサリーが、作れないわけじゃない。杖と同量の材料を用意して、それを加工して力を凝縮する。そして、その材料をアクセサリーにする。ただ、技術が必要で、加工する費用が高くつくの」
「具体的にどのくらい?」
「最終的に、杖の1.5倍の値がつくわね」
「そのくらいで出来るんですね」
思ったよりも、高くなかった。
「いや、1.5倍あれば、もっと良い杖を買うのが普通よ」
確かにそうなんだが。ティルダさんを見ると、
「普通ならそうだけど、ケンヤのステータス構成なら、そっちの方が合ってると思う。今までの戦い方を見た限りではね」
賛同は得られたようだ。
「さっき技術が必要と言っていたけど、ここでも作れますよね?」
ティルダさんは、アクセサリーが無いことを予測していた。それなのにここに連れて来たってことは、ここは技術力の高いお店って思っていいだろう。
「もちろん大丈夫よ」
思った通りの返事が返ってきた。
「今はマスターが居ないから、帰ってきたら私から話をしておくわ。明後日以降なら、いつ相談に来てもらっても、大丈夫だと思う」
「わかりました」
とりあえず、何とかなりそうだ。後は、お金がどのくらい必要になるのかだが。馬車に有った金貨も結構あるし、大丈夫だろう。
「私は、明日から4月の下旬まで、街を離れるから。ドーンさんに、よろしく言っといてね。帰ってきたら、多分依頼に来ると思うわ」
「わかった。伝えておくわ」
結局、今日は買物ができなかったが、明後日に期待することにしよう。




