世界の間
2016.2.13
レイアウト修正
気づくと、一面真っ白な世界にいた。前後左右に、上も床もすべて白。何もないだだっ広い所だった。
『ここはどこだ?いつの間にこんなところへ来た?いや夢か?』
自分自身を見てみると、コートに靴、リュックの重さから買い物した物も入っているようだ。喫茶店を出て買い物をし、家のドアを開けたあたりまでは記憶がある。ただ、その後の記憶がない。靴を履いていて、買い物した物をまだ持っている事を考えると、玄関に入ったところで異変があったと考えるのが、妥当なようだった。夢でなければだが。
もう一度周囲を見てみるが、先ほどと同じ真っ白のまま。
『何もない、か。生物もいなければ、構造物もなし。何なんだここは?』
と、思っていると
「転生の者が来るには、まだ数年あったはずなんだけど…」
と、いきなり声が聞こえた。
驚いて声が出そうになるが、なんとか飲み込み辺りを確認する。
声はしたはずなのに、やはり何も見えなかった。
「探しても、私は見えないわよ」
そう言われても、悲しいかな。声がすれば、つい探そうとしてしまう。
「もう一度言うけど、見えないわよ」
念を押されてしまった。余裕があるのだろう。笑っているような、楽しんでいるような雰囲気が感じられる。
とりあえず、探すのはいったん諦めるとして、どうすればいいのか?声をかけられたのだから話すべきなのだろうか?いったい何から話すべきだろうか?短い思考がたて続けに頭を過る。
混乱した思考をまとめ、少し落ち着く。見えない人…いや見えないのだから人ではないだろう。うん、状況判断は多少できている。少しは冷静になってきたようだ。
今のこの状況で出来る事は、話しをする事だけだろう。そう思い、人外?化け物?に声を掛けようとした。が、
「今、失礼なこと考えなかった?」
と、先制されてしまった。心でも読まれたのだろうか?
「いえ、何も失礼なことは考えてはいませんが」
と、白を切る。
「本当に?」
「はい。人として順当な考えをしただけだと思います」
「一応、人としての順当な考えってものを聞いてもいいかしら」
「姿のない者といえば、普通は人ではないと思います」
「それで?」
「心を読む可能性もあることを考えると…」
「考えると?」
「妖怪、化け物あたりが妥当かと」
「ひどい!!」
叫ばれてしまった。
反応からして、心までは読んでなかったようだ。雰囲気から察しただけか。
「こんな優しくて可憐な声で…」
「可憐ですか?」
「なっ!」
「まあ、優しく可憐な声として…悪魔のささやき?」
「…」
沈黙してしまった。しゃべりだす気配がない。少し遊びすぎただろうか。
「冗談はこのくらいにして…」
一拍、間をあけてから質問をしてみる。
「これは夢でしょうか?」
「…」
やはり反応はない。機嫌を損ねたか、ショックをあたえすぎたか。
質問していてなんだけど、夢ってことはないだろうと、感覚的にわかってはいる。
ここは、もう一度会話してくれるように、声をかけてみることにした。
「もしもし?」
「…」
妖怪、化け物、悪魔…まぁ、悪魔は冗談だったが、人じゃない者といえば、あとは天使とか神様ぐらいしか考えつかない。
「女神様、お姿は見せて頂けないのですか?」
「…」
優しくて可憐な声、なんて自分で言うくらいだからなぁ。
「きれいなお姿見てみたいなぁ」
「!」
わずかに反応あり。
「駄目ですか?」
綺麗な女性を見たいというのは本心だ。演技しなくても心はこもっているし、嘘も言っていない。これで駄目なら次は…どうしよう?
返答がなく心配になり始めたころにやっと、
「残念だけど、こちらから姿を見せることはできません」
と、反応があった。
「あなたみたいな失礼な人は初めてです」
呆れたような口調で言われてしまった。
「申し訳ありません。」
素直に謝っておくことにしたが、
「大体ですね…」
と、なんか話が長くなるというか、流れが悪い方へ向かいそうな予感がしてきたので、
「しかし、相手に姿を見せないのだって、失礼ではないのですか?」
と、一旦会話を切るように仕向けた。
「それは…」
「なんかこっちを見て、笑っていたというか、楽しんでいたようにも感じましたし。理由があって姿が見せられないらしいのは理解しましたけどね」
あまり言うと、また黙ってしまいそうなので、ほどほどで収めておく。
そして話題を変えるため、質問を始める事にした。
「とりあえず、ここはどこでしょうか?」
「世界と世界の間ね」
「家に戻れるのでしょうか?」
「今ここからは、地球に戻ることはできないわね。」
なんとなく予想はしていたけど、いざ言葉にされるとそれなりにショックは受ける。
「こちらからも質問なんだけど、あなたはどうやってここに来たの?」
「それは、どちらかというとこちらが聞きたいのですが」
と返す。
そういえば最初に『転生の者が来るには、まだ数年あったはず』とか言っていたが、何かイレギュラーな事態だったのだろうか?
「数年おきに転生者を送る作業があって、その時はこちらから地球の人を召喚するのだけど、今はその時期じゃないの。あなたは召喚されたのでなく、自分から来たのか誰かに送られてきたはずなの」
「最後の記憶は、家のドアを開けたってところです。気づいたらここにいました」
「心当たりとか…何か道具を持ってたりしない?」
心当たりなんてないけど、荷物は全て鞄の中にある。とりあえず鞄を開けて確認してみることにした。鞄を開けてすぐに、青く光るものを発見。光っていたのは《運命のダイス》だった。
「これですかね?」
鞄の中から《運命のダイス》をとりだす。
「それは!」
女神(仮)は驚いた…ように感じた。見えないから雰囲気的にだが。
そういえば、正体は何なのかまだ聞いてなかったなぁと、少し思考が脱線した。
「《運命のダイス》と聞いてますが?」
「確かにそうね。それをどこで?」
「喫茶店でもらいました」
「喫茶店?」
戸惑ったような、不思議に思っているようなそんな雰囲気。何か変なことを言っただろうか?まぁ、見た目が古い宝石っぽい感じなので、古物商から買ったとか美術館にあったとかの方が、納得しやすい代物ともいえるか。
「まあ、いいわ。それが何だか知っている?」
「ステータスを決定するとか、決まった場所でしか使えないとかですか?ブランドン大陸という架空の大陸の設定ですが」
「大体合っているわね。ブランドン大陸は架空ではないし、この場所へ導くアイテムってのが付け加えられるけど」
「!」
ブランドン大陸が実在する?どこに?そういえば、ここは世界と世界の間って言っていたっけ。そうすると、地球とは異なる世界、異世界があるっていう事か?
「少し話を戻すけど、さっき私は『今ここからは、地球に戻ることはできない』と言ったのは覚えてる?」
「はい」
「ここからいけるのはブランドン大陸だけなの。そして地球に戻れる可能性があるとすれば、それはブランドン大陸からだけ」
「つまり、ブランドン大陸に行けということですか?」
「そういう事ね」
こうして、俺は異世界に行くことが決まった。
「ブランドン大陸に行くにあたって、まず《運命のダイス》を使って、ステータスを設定します」
「ステータスですか?」
「簡単に言うと、4回ダイスを振ってもらいます。1回目で魔法とスキルの習得。2回目でレベル決定。3回目で年齢決定。4回目で金銭、アイテムや装備の費用を決めます。それと、ダイスは1回振るごとに小さくなります」
「小さくなる?」
「たとえば、1回目で10が出た場合、2回目は30-10=20で20面のダイスになります」
「与えた能力の分だけ減るってことですか?」
「そういう事です。最大で30の恩恵が受けられることになります」
「初めに30が出たら?」
「もう一度振り直しですね。正確には28以上出たらやり直しです」
「27がでたら、あとは各1ずつってことですか?」
「そうなります」
振り直しとか、随分いいかげんな決め方だなと感じる。
「例えば、魔法とスキル27個で強くなったりとか?」
「ありえます」
「年齢27で残りが各1の最弱とか?」
「ありえます。年齢も含めてすべて1ってことも」
「…なんか《運命のダイス》って極端ですね」
「だから、運命なんでしょう」
身も蓋もない返事が返ってきた。それでも、疑問に思ったことを言ってみる。
「それにしても、振り直しの可能性とか不備が多いような気もしますが…」
「まあ、人が作り出したレプリカですからね、《運命のダイス》は」
「レプリカなんですか?」
変な設定が出てきた。
「もともとのアイテムは《神のダイス》と言います。こちらは、少し前にお話しした転生者が使用するダイスです。面の数は12です」
「12…随分と恩恵が少ないですね」
「こちらは使っても小さくならないんです。金銭やアイテム系の恩恵はありませんが、3回振れますので、恩恵は36と少し増えます」
36面のダイスにした場合、年齢が高すぎるとステータスが低くなるし、そもそもせっかく転生したのに長生きできず楽しめない。逆にステータス系の場合は、極端に高くなると他者とのバランスが悪くなる。適度な上限を設定することによって、調和をとるわけか。振り直しもないようだし。
「レプリカってことは《運命のダイス》を作った人は、《神のダイス》を知っていたってことですよね?」
「はい。作ったのは転生者ですね」
「何のために作ったのでしょう?」
「それは…せっかくだから向こうに行ってから調べてみては?」
何か知っているようだったが、はぐらかされてしまった。
「逆に《運命のダイス》を使った人って、どのくらいいるんですか?」
「過去に1人だけいましたね」
「以外に少ないですね」
「まあ、神の作った物を真似るわけですからね。そう簡単に作れません。作り手も材料も最上級でなければ。」
言われてみれば確かに納得。あと聞くことはあるだろうか?
「他に補足があるとすれば、未成年の場合、向こうでは14歳以下になりますが、希望するなら孤児院辺りに行くように便宜をはかります」
「15歳以上は?」
「適当な場所に転送されます」
「モンスターの群れの、ど真ん中とか?」
「…さあ、どうでしょう?」
変な間があった。姿が見えないだけに、冗談なのか本気なのかわからない。
もしそんなことになったら…。
「大丈夫ですよ。さすがにそこまでひどい場所にはいきません」
「は、はい…」
「ふふっ、最初の方で色々言われましたからね。これぐらいは返させてもらわないと。」
化け物とか悪魔とか言って、からかったからなぁ。
何者なのかまだ聞いてなかったので、ここらで確認しておくか。
「ところで確認なのですが、女神様でよろしかったのでしょうか?」
「えぇ、その認識で合っています」
「名前を伺っても?」
「女神ウィッシュです」
英語に当てはめるのが正しいかわからないけど、願い、希望ってところでいいのかな?
「それでは健也さん」
「俺、名前名乗りましたっけ?」
「私、女神ですから」
女神を強調されてしまった。
「そろそろダイス振りましょう」




