待ち伏せ
馬車を止め皆で集まる。俺は、敵の配置と簡単な地形を紙に書く。
「街道左手に2人、右手に3人います。右手の1人以外は、先日の盗賊です」
「盗賊の新たな仲間か?それと前回は他にあと4人いたはずだが」
「ここから半径300メートルには、誰もいません」
「そうか。とりあえずは5人が相手か」
「作戦はどうする?」
「街道両脇の森は、木の密集度はそれほどでもないから、うまくすれば魔法が届くな」
「左はティルダとケンヤ、敵の気づかない遠距離から攻めろ。その後、右側へ攻撃。右は当てるより、威嚇と思えばいい」
「「はい」」
「右は、アルヴァ、タイタス。右への魔法攻撃の後に突入。俺は、敵の状況で左右どちらにするか決める。馬車はここに置いていく」
「ケンヤは、随時【索敵】での警戒を怠るな」
「はい」
「後は…右に1人追加人員がいると言ったな?」
「はい。3人の真ん中にいます」
「念のため、魔法に注意。以上だ」
2手に分かれ、それぞれ森の中へ移動を開始した。
藪の陰に身をひそめる。隙間から見える景色を確認し、声をかける
「ここに、しゃがんで」
ティルダさんが、無言でしゃがむ。
「他より幹の色が濃い木が2本、並んで見えると思うけど、わかる?」
「あれで、あってるのかしら?」
彼女の背後にしゃがみ、右腕をそっとつかむ。そして、肩越しに藪の先をにらみ、目標に手を向けさせる。
「腕の向く先に見えない?」
「ん、わかった」
「さらに視点を右にずらすと」
「横顔が見えたわ」
「もう1人は、さらに右に見えるはず」
「うん」
確認ができたところで、手を離そうとするが、彼女の手が震えているのに気付いた。
「どうした?」
「人に魔法を打つのは、初めて」
声も少し震えている。
こんな時、何を言えばいい…
「人になんか向けたくない…当たり前のことだと思うよ。代わりに俺ができれば良かったんだけど、ごめん」
「それは」
「でも、打たないとみんなを守れない」
右手は腕をつかんだまま、左手で彼女を後ろから抱きしめる。
「俺にできることは、このまま腕に手を添えるだけ。そして、魔法を打った反動を、人に向けて放った感触を共有することしかできない。そういう形でしか一緒に背負えないけど、それじゃ駄目か?」
抱きしめている左腕に一度顔をうずめると、ティルダさんは前を向いた。
「ありがとう」
彼女の右腕に力がこもる。
「【氷弾】」
戦闘が始まった。
先制攻撃はうまくいった。数発の魔法を、たて続けに左側の2人へ放ち、戦闘不能にすると、右方面へ移動、攻撃を仕掛ける。
「【ダブル・氷爆】」
少し間隔を開けて展開している3人の敵に対し、広範囲魔法で傷を負わせあぶりだす。
「【岩玉】」
こちらの魔法の発射点を見て、盗賊側からも魔法が飛んでくる。
「【防御】、《円盾》」
魔法とはいえ岩の塊。物理防御を上げ、《黒蜜》を硬質の盾に変えてティルダさんの前に飛び出す。
(ガキンッ)
岩が金属にあたり甲高い音をたてる。たいして大きくもない岩を盾で弾いた。遠距離から飛んでくるなら、簡単に対応できる。
その間にタイタスさんを先頭に、こちら側の前衛3人も突入する。
「【岩弾】」
先ほどより大きく速い岩の塊が、俺を目がけて飛んでくる。
「【氷壁】」
魔力を込め、強化された氷の壁が俺の前に現れ、岩を受け止める。
「ありがと」
「あんまり無茶しないで」
壁の陰から木立に移動し、相手に見つからないよう駆ける。そして、そのまま3人の援護に向かう。【索敵】で見る限り、向こう側は乱戦になっているようだ。魔法使いが混じっているから、接近戦になれば苦戦することはないだろう。最初に攻撃した左の2人も、負傷して動けないままだ。
その時【索敵】に妙な動きがあることに気付いた。馬車の方から2人、こちらに向かってきている。何が起こっている?
「馬車側から誰か2人歩いてくる。3人はそのまま残っている」
ティルダさんが、驚いてこちらを見る。
「トレヴァーさんたちに伝えて。俺が様子を見てくる」
「危険かも」
「【索敵】あるから、位置の把握ができる。俺の方が適任だ。大丈夫」
「…わかったわ。気をつけて」
「うん、そっちも無理しないで」
森の中を隠れながら移動する。とりあえず《円盾》を解除、50センチ程の《短棒》にして、接近戦が可能なようにしておく。
『【攻撃】【俊足】』
そろそろ見えてくるはず。対処しやすいよう、小声で自分を強化する。何が起こっているかわからないが、誰であろうとも戦闘地域に近づけさせるわけにはいかないだろう。
**********
「タイタス、右へ回り込め。アルヴァは左のをそのまま押さえてくれ」
作戦はうまくいっている。先制の魔法が功を奏し、優位に立ちまわっている。魔法使いが居たのは予想外だったが、ここまで接近すれば問題ない。
相手は人なれした盗賊だったが、相性が良かったようだ。タイタスは腕力で敵を圧倒しているし、アルヴァの相手は剣なので武器の相性が良い。
そういえば、ティルダは人と戦うのは初めてだったのを忘れていたが、大丈夫だったようだ。それとも、ケンヤがうまくサポートしたのだろうか。あいつは年齢に似合わず、妙に落ち着いているところがあるからな。
考えながら移動していると、こちらに背中を向けている魔法使いを見つける。
「動くな」
魔法使いの背後から、剣を突きつける。
「い、命だけは、助けてくれ。俺はあいつらに人質を取られて、無理やりやらされているだけなんだ。頼む」
「そんな芝居に騙されるか」
「本当なんだ。抵抗はしない。縛ってくれて構わない」
膝をつき、頭の上に両手を上げて懇願する魔法使い。とりあえず、手を縛ることにする。
そういえば1人だけ、街道にいた8人の盗賊以外の者が混じっていると言っていたな。
「一応聞いてやる。お前は盗賊でないなら何者だ」
「冒険者だ。仲間が人質になっている」
先ほど拾った男を思い出す。
「そいつは、左耳の欠けた男か」
「仲間は女だ…左耳の欠けた男!そいつは盗賊だ!」
「!」
その時、ティルダがこちらに駆けてくるのが見えた。
**********
「全員動くな!」
後ろを向くと、妹が首を絞められてぐったりしている。
「そこの女、縄で他の奴の手足を縛れ。早くしろ。変なことしたら、こいつの首をへし折る」
冒険者と名乗っていた男は、縄抜けができるようだった。己自身を縛っていた縄を、こちらに投げてくる。
「ほどけるような結び方はすぐわかる。時間稼ぎなんかも考えるな。1分で2人を縛れなければ、こいつの首を折る」
小細工をする時間はない。言われたとおりにするしかなかった。母と兄を見ると、同じように思っていたのだろう。私に対して頷いていた。
母と兄を縛り終わったとき、男は妹を見ていた。
「畜生、気絶して運びにくい。面倒だけど、このまま引き摺っていくしかないか」
「まってください。妹に乱暴しないで。人質なら私がなります」
首を絞めたまま引き摺られたら、妹が死んでしまう。
男はこちらを見て考えていたが、引き摺るのが面倒だったのだろう。
「変なこと考えるなよ。後ろに手を回しておとなしくしていろ」
私は後ろを向いて、おとなしく手を背後に回す。男は近づいてくると、私の手を縛り、乱暴に引っ張った。
「さっさと歩け」
どうやら戦いの場に、人質として私を連れて行こうとしているようだ。向こうに着くまでに、何とかしなければと思ったが、この状態で自分にできることなんて、思い浮かべることができなかった。逃げたとしても、妹達がまだいる。ましてや、手を縛られていては、倒すことなんて到底できない。
思い付いたのは、せいぜい歩みを遅くして、時間を稼ぐことだけだったけれど、
「ちんたら歩いてんじゃねぇ。さっきの妹でも俺は構わねぇんだぞ」
そう言われたら、ゆっくり歩くことすらできなかった。
私が素直に歩いていると、男はぶつぶつと独り言を始めた。
「あいつら、いくら偽装が必要だからって、おれの肩を槍で突きやがって。くそ腹立つ」
やっぱり、盗賊の仲間らしい。
「せっかくアジトから出たっていうのに、結局また下っ端扱いかよ。これじゃ何のために出てきたんだかわからねぇ」
男の意識がこちらにあまり向いていない。もう一度、何かできないか考える。
その時、ふとケンヤさんを思い出した。ケンヤさんなら【索敵】で気づいてくれるかもしれない。馬車を離れて、2人歩いているのに気づけば、絶対変だと思うはず。それに、かけるしかない。私にできることは、その時が来たら、うまく動けるようにすること。
だけど、そんな風に思っていたら、
「それにしても、こいつ、上玉だよな」
男の意識が、こちらに向いてくる。
「こいつを攫ってずらかるか」
予想もしなかった男の言葉に、私はうろたえる。
「おっと、声出すんじゃねえぞ」
男は向きを変えて、別の方向へ歩き出そうとした。




