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夜明け、負傷者

 せっかく2人きりだったのに、真面目な話で時間が終わってしまった。いや、おとりという仕事をしていたわけだし、当たり前なのだが。

「戻りました」

 警戒中のタイタスさんに声をかける。

「おう、お疲れ。みんなあっちの方にいる」

 右の方を指しながら答えてくるので、そちらに向かう。

「少し時間がかかったな」

 トレヴァーさんが聞いてくる。

「クイーンビーの群れを含め、数回戦闘になりまして」

 ティルダさんが報告し、俺が【格納庫】から魔石とアイテム《蜂針》《蜜玉》《琥珀翅》を出して渡そうとすると

「それは、持っていていいぞ」

 と押し返された。

「良いんですか?」

「本来の護衛とは違うからな、構わない」

 ティルダさんを見ると、

「私はいいから、好きに使って」

 と言われたので、【格納庫】に仕舞うことにした。

「《琥珀翅》はクイーンビーのレアだったな」

「手に入りづらいんですか?」

「レアではあるが、クイーンビーは結構いるから、貴重ってほどでもないな。魔法職の装備品に使われるから、金がたまったら加工してもらうといい」

「ありがとうございます」

 魔法職に適した素材だからくれたのか。


 夜間警戒は昨日と同じ体制であったが、気温が低かったので、今回俺はテントの中で寝ている。3回目の【索敵】を終えてから2時間ほど経った頃、寒くて起床時間より1時間早く目が覚めた。こっちに来てから、朝を迎えるのは4回目。いつも早めに目は覚めてはいたが、寒くて目が覚めたのは初めてだ。

 毛布から這い出し、テントを出ると、軽く身震いがでた。空を見上げると、厚い雲が覆っており風も強い。

「おはよう」

 警戒中のティルダさんに挨拶する。

「おはよう、早いわね。膝枕でもご所望かしら?」

「それも魅力的だけど、ちょっと違うかな」

 笑って、【格納庫】からお湯の入った鍋とコップを2つ、それに《蜜玉》をとりだす。鍋に《蜜玉》を入れてとかし、コップに入れ渡す。

「温かい」

「そうだな」

「甘い」

「そうだな」

 静かに飲む。特に会話をするでもなく。ただ時間だけが流れる。


 俺のコップが空になったころ、背後に気配を感じる。

 のんびりしていて、【索敵】を見ていなかった。

 後ろを振り返ると、アリシアさんがいた。

「何…しているの?」

 暗くてよく表情が見えないが、声が固い。

「寒いから、差し入れをしに来た」

 努めて、明るい声で返す。

「飲む?…て、コップが無いな」

【格納庫】に仕舞っていた鍋を再度出すが、予備のコップがない。どうするかと思っていると、つかつかとこちらに歩いてきて、俺の手からコップを取り上げて、こっちへ出してくる。

「って、それは俺のコップなんだが」

「んっ」

 他にどうしようもないので、そのまま注ぐ。

 無言で飲み始めるアリシアさん。

「モテるわね」

「コホッ」

 からかうティルダさんに、むせるアリシアさん。

「はいはい。そちらさん、おかわりは?」

「その反応はつまらないなぁ」

 とコップを出してくるので、残りを注いだ。

「温かい」

「そうだな」

「甘い」

「そうだな」

 アリシアさんの言葉に返事をする俺。そのやり取りを聞いて、くすっと笑い俯くティルダさん。怪訝な顔でアリシアさんがティルダさんを見るが、笑いが止まらないのか、片手でお腹を押さえ、コップを持つ手は震えている。

「こぼすぞー」

 といいながら、コップを取り上げる。こちらを涙目で見上げながら、

「もう少し気の利いた返事はないの?」

 と言ってくる。

「そうはいってもなぁ」

 アリシアさんが、どういう事?って顔をして、こちらを見ている。

「さっき、全く同じやりとりをしてな」

 と説明する。

「2人とも似ているんだな」

 と言うと、ティルダさんとアリシアさんがお互いを見つめ、そして笑った。

 2人の様子を見て、こちらもつられて笑う。

「くしゅっ」

 アリシアさんが、かわいいくしゃみをする。温かい物を飲んだとはいえ、やっぱり寒い。【格納庫】から毛布をだそうとしたが、

「アリシアちゃん、こっち来て」

 と、自分のくるまっている毛布を開けて、ティルダさんが抱き寄せた。仲が良いなぁと見ていると、

「入りたい?」

 と聞いてくる。

「違うよ。姉妹みたいに仲が良いなって思っただけだ」

「本当は入りたいくせに」

「その大きさじゃ、3人は無理だろ」

「入れれば入りたいんだ」

 ため息をつく。

「2枚あれば3人いけるわよ。【格納庫】に毛布あるんでしょ?」

「なっ、なんでそれを…」

「さっき取り出そうとしてた」

 毛布を取り出し1人で羽織ろうとすると

「3人の方が温かいよ」

「1人でいい」

「ノリ悪いなぁ」

「ノリって…」

 結局、2人の間に引っ張り込まれ、起床時間になるまで3人で過ごすことになった。


 北に向かっていた道が、徐々に東の方にカーブしていく。

「曲がり始めたってことは、あと2キロも進むと、街道に出る」

 御者台のアルヴァさんが言ってくる。ティルダさんは馬に乗り、魔物退治の体制から、通常の旅仕様にもどっている。

「本来通る予定だった道ですか?」

「そうだ。そこで、気になることが1つあるのだが…」

「先日の盗賊、ですか?」

「向こうの方が足が速いから、街道を使って先回りすることが可能だ」

 そこで、一旦区切る。

「ただ、街から近い。馬鹿じゃなければ、そんなところで襲ってくる奴はいない。街の警備隊の守備範囲になるからな」

「もし、居た時の作戦は?」

「まずは、ティルダとケンヤのコンビで魔法狙撃、相手の数を減らす」

「相手に、魔法使いがいる可能性は?」

「少ないな。居れば、先日の追撃で追いつかれていただろう。例え居たとしても、空間魔法が使えるこちらが有利だ」

「それだと前回の街道でも、有利に戦えたってことになりませんか?」

「いや、あの時は相手側の人数だけで、編成が全く分からなかったし、街道自体に罠などの細工があったかもしれないからな。追いつけなかったことから、そこまで能力が高くないとわかったし、さらに街から近い場所では、街道沿いに大掛かりな罠を仕掛けることはできない」

「なるほど」

「それに、さっきも言ったように、ここで襲ってくる可能性は低い」

「馬鹿じゃなければ?」

「そうだ」

 ここで戦闘になる可能性は低いうえに、勝率も高いってわけか。何事もなく街まで行ければ良いのだが。

 街道まであと1キロというところで、人の反応が出た。

「前方100メートルの旧街道上、1人反応あります」

 低速で進んでいた馬車が、さらに遅くなる。

「【索敵】最大で、周囲を確認してくれ」

「わかりました【索敵(サーチ)】」

 半径300メートルに範囲を拡大して確認。

「他には誰もいません」

「了解、トレヴァー」

 馬車は停車し、トレヴァーさんがタイタスさんと一緒に先行する。

 しばらくすると、左肩を怪我した男性を1人連れてきた。左耳も無いが、血が出ていないところを見ると、古傷なのだろう。

「冒険者だそうだ。ハニービーに襲われて怪我したらしい」

 トレヴァーさんが報告してくる。しばらくアルヴァさんと2人で相談している。

 対応が決まったのだろう。2人がその男に声をかける。

「こちらは今、盗賊に狙われている最中でな。お前の事が信用できない。街に連れて行くなら、手を縛らせてもらうが構わないか?」

「賊に狙われているなら、俺も戦えるが」

「すまんが、信用できん」

「人手は多い方が良いだろう」

 男が食い下がってきた。

「駄目だ。縛っていいなら、治療をして連れて行ってやるがどうする?」

「…わかった。それで構わない」

 男は条件をのんだ。

「タイタスは縛って荷台に連れて行け。アリシアは【治癒】を」

 アルヴァさんが指示を出す。タイタスさん達が作業している間に、俺は2人のところへ行く。

「ちょっといいですか」

「どうした」

 アルヴァさんが聞いてくる。

「さっきの人、8人の盗賊の中にはいなかったですね」

「ん、どうしてそんなことがわかる?」

 トレヴァーさんが聞いてくる。

「戦闘には関係なかったので、言ってませんでしたが、実は刻印魔法も使えます」

 2人とも、驚いたようにこちらを見る。

「刻印魔法の一種に【目印(マーク)】というのがあります。【索敵】と併用して使うのですが、念のため盗賊に目印をつけていたんです」

 と、説明した。本当は【目印】の上位版の【付箋】を使い、盗賊と書き込んである。【付箋】はさらに【鑑定】スキルも必要なのだが、【鑑定】を持っていることを伝えてないので、【目印】で誤魔化しておくことにした。

「まぁ、たとえ冒険者だとしても、ハニービーで怪我するレベルなら、足手まといだと思います。危険の可能性を残すよりは、縛ったままの方が良いかと」

 と加えると、2人は苦笑していた。

 自称冒険者の対応が済み、警戒度を高め再出発。距離にして200メートルほど進んだところで、

「300メートル先、5人います。そのうち4人は先日の盗賊です」

 再度停車することになった。


**********


「お頭、もしあの5人が成功したらどうしますか?」

「例え今回は成功したとしても、そのうち捕まるだろう、あの脳筋連中ではな。こちらの情報が漏れると面倒だ。バラバラに行動している時に、1人ずつ始末していく」

 本来なら、追いかけてさっさと始末したかったが、腕っぷしだけは強い奴らと、団体で殺り合うと被害が大きくなる。個々に潰すのがベストだろう。

「わかりやした。それにしても、今回の拠点は街に近いっすね」

「ここは、街と襲撃拠点の連絡用に作った場所だからな。街道沿いの拠点は、また別に作ることになる」

「しばらくは、街での活動に?」

「ああ」

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