生活費、武器
2016.2.13
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「左3、右前、2、1」
「【氷玉】」
「次、右4、左、3、2」
「【氷爆】」
連続で仕留めるティルダさん、調子が良いようだ。
「進行方向100メートルの範囲に、サップスライムは居ないです」
アルヴァさんに報告する。
「了解、このまま進む」
魔物がいつ出現するかわからないので、そこまでスピードを上げずに進む。
盗賊は諦めたのか追ってこないようだ。何度か【索敵】で確認しているが、姿を見せなかった。アルヴァさん達の話では、旧街道は危険なので夜営の準備は必須で、また、夜間の移動をするとなると相当リスクがあると。なので、この時点で姿を見せないのであれば、盗賊側は夜営の準備が無く、街道へ戻っていったのだろうと。
追手が絶対ないとは言い切れないが、それでも今までのような強行突破をする必要はないだろう。急いだところで、今日中に街に着くのは不可能。ならば安全に進もうといったところである。
「ティルダさん絶好調ですね」
「そうね、調子良いわ」
こちらの指示に、的確に対応しているし、反応も速い。
「なんか2人とも、とても呼吸が合っています」
アリシアさんが、こちらをじっと見ている。
「うーん、こっちは指示出してるだけだしなぁ」
「それだけですか?」
アリシアさんの追及が続く。
「余計な言葉を省いて、指示の出し方を短くしたとか」
「…」
「えっと、それ以外に何か?」
「いえ、何でもないです」
今朝の事、見られてないとは思うのだが、勘が鋭いのだろうか。
ちなみに『左3、右前、2、1』は、『街道左側手前から3本目の木、右手前に向いてる枝、地面からの高さ2メートル、1匹』になる。
昼の休憩、みんなの表情が明るい。盗賊の影響が無くなったおかげだろう。それと、少しばかりだが、昼飯が豪華になったのもあるかもしれない。
今日の夜営も、念のため焚き火は控えることになっている。ただ、昼の時間に調理して【格納庫】に収納するので、温かい料理は食べられる。昼食が少し豪華になったのは、昨日の夜に食べる予定だった食材の一部を、焚き火で一緒に今調理したためだ。
お昼に鹿肉、贅沢だ。やっぱり3食必要だよなぁ、とつくづく思う。お金はしっかり稼がなくては。という訳で、商人であり冒険者でもあったアルヴァさんに、少し聞いてみる。
「駆け出しの冒険者の稼ぎってどれくらいなんですか?」
「駆け出しか?1日に100Gってところだ。月に5日休むとして、1ヶ月2,500Gってところだろう」
「生活費は?」
「安宿が50G、1食あたり20G。朝晩食うとして、1日だいたい90Gだ。そうすると1ヶ月で2,700Gだな」
「駆け出しだと200Gマイナスと」
「ああ。休日は多少ないと正直きつい。その結果、野宿したり食費を削る。駆け出しはそんな感じだ」
「ギリギリ生活できる範囲と」
「いや、それに衣服、アイテムや装備品、それから武器の手入れにかかる費用がプラスされる。駆け出しは、普通に働くより稼ぎが悪いし、装備品の分だけ金がかかる」
「そんなに甘くはないと」
「そういう事だ」
話を聞くと、一般市民で月3,500G、慣れた冒険者で4,000Gらしい。日本円に換算すると、1ヶ月¥35,000とか¥40,000。やたらに安いと思ったが、話を聞いてみると、衣食住にかかる費用のうち、住にかかる費用がかなり安いようだ。さっきも安宿50Gって言っていたしな。魔物が多数いて、活用できる土地は限られているものの、それでも人口に対して土地の広さはかなりあるのが理由だろうか。
頭の中を整理していると、目の前にコップが出される。
「ありがとう」
アリシアさんから受け取る。
「ケンヤさんは冒険者に?」
「今のところ、何ができるかわからないからね。戦闘は少しできるから、冒険者をしながら街の暮らしを見て、俺にできることを見極めるのがいいかな」
そう答えて、コップに口を付ける。
「街で暮らす…例えば、このまま護衛を続けたりはしないのですか?」
「それも悪くはねえよな。【索敵】も【格納庫】も旅するのに適していると思うぜ」
タイタスさんも言ってくる。
「面白いとは思うんですけど、護衛として働くにはまだ力が足りない。レベルが低いと思うんですよね」
「そんなことないです。私達、十分助かっています。ケンヤさんいなければ、盗賊に捕まっていたと思います」
「今のままだと、サポートができるってだけなんだよな。戦う事が出来ないから、いざというときに守れない」
「私の事、ウルフから守ってくれた」
「あれは奇襲で運が良かっただけ。正面切っての戦いじゃないからなぁ」
コップの中身を飲み干し、話を続ける。
「ここでレベルを上げるには、騎乗での戦闘技術が必要だし」
「確かに、移動しながらの戦闘が多いからな。俺らの場合は」
「それに騎乗は応用。基本の戦い方を覚えるのが先。そうすると、街に腰を落ちつけて戦闘を積むのが良いという結論になりますね」
タイタスさんに言うと、頷いている。
そこで、今まで黙って聞いていた、アルヴァさんとトレヴァーさんが口をはさむ。
「そうだな。【索敵】も確かに助かるし、得意な分野での分担も大事。だが、普通に戦える程度の強さも必要だ」
「それに、街の中で適職を見つける事ができるかもしれないからな。わざわざ、危険な冒険者になる必要もないだろう」
「そういった意味で、少し街に住んで見極めるのが良いだろう」
「はい」
「街には、数日滞在するから、その時に多少の戦闘訓練につきあえる」
「こっちも、街の案内するくらいの余裕はある」
「よろしくお願いします」
アリシアさんが、何か言いたそうにこちらを見ている。
俺としては、本音を言ってしまうと、アリシアさんと一緒に行動した方が良いと思っている。有紗さんとの関係がゼロと言い切れない現状、〈フォレスト〉への情報へと、繋がるかもしれないから。だが、今の自分には力が足りない。《運命のダイス》で、もう少しレベルを高くできていれば良かったのにと思う。
結局、言葉が見つからなかったのだろう。アリシアさんが口を開くことはなかった。
夕方には少し早い時間、森の中で魔法を唱える声が響く。
「【ダブル・水矢】」
ハニービーに向けて、2本の矢が飛ぶ。狙い違わず命中し、さらに飛散した水は、周りにいたハニービーにふりかかり、動きを鈍らせる。
「【攻撃】」
「【氷盾】」
攻撃を仕掛ける前に、自らの能力を引き上げると同時に、ティルダさんから氷の小楯の支援を受ける。
「ありがと」
敵に向かって走り出しながら、短く礼を言う。残る相手は4匹のハニービー。1番右の相手に、《ハンマースピア》で左から袈裟懸けに切りすてる。水で動きの鈍ったハニービーは、簡単に切られ地面に落ちる。すかさず左から襲ってきたハニービーには、左腕の【氷盾】で針を弾き返し、よろめいたところを下がった刃で逆袈裟にする。
「【氷矢】」
貫通性の高い矢が、俺を狙っていた別のハニービーの体を突き抜ける。水に濡れていたそれは、体を凍らせ地面へ落下。その上を飛び越えるように、こちらから最後の1匹へ近寄り、刃を突き刺す。
6匹の相手に、30秒といったところか。
続いて、さらに奥にいるクイーンビーに向けて移動する。
「どうしますか?」
「動きは鈍いけど、攻撃力は高いわ。交わしながら戦うこと。それと、翅は意外と固いからはじかれるかも」
「わかりました」
「それじゃいくわよ【氷爆】」
木立が邪魔で魔法の狙いがつけにくい。近くで爆発させ、体勢を崩させるのが目的のようだ。魔法と同時に、右方向から回り込む。木が邪魔で横に武器を振れない。
「ヤッ」
縦に切りつけるが、避けられる。そのまま、突きを入れなおすが
(ガキッ)
翅に当たり鈍い音がして弾かれた。軽い攻撃は効かなそうだ。その場で旋回するようにして、クイーンビーがこちらに向く
「【水弾】」
唱える声が聞こえると同時に、左後方へ飛び退る。
「ギィィー」
直撃をくらったクイーンビーが、耳障りな声を上げ、魔法の飛んできた方へ振り返る。
その間に、木を目くらましに背面へと移動した俺は、横に大きくハンマーを振る。重量の足りない分を補うため、セットしてあった水魔石に手を添えながら。
(ブォン)
大きな風切り音をたてながら、内部に水を含み重量の増えたハンマーはクイーンビーを吹き飛ばし、木に激突させる。
とどめを刺しに行きたいところだが、武器の重みに体勢が崩れてしまう。
「【氷玉】」
代わりに、ティルダさんの魔法がとどめを刺した。
おとりの焚き火の準備をする。今回は、ティルダさんと2人だ。ここら辺は魔物が少し多い事と、昨日より夜営地の危険度が低いのが理由だ。
「その武器変わってるわね」
火を起こしながら聞いてくる。
「武器の事は詳しくありませんが、これって変ですか?」
「さっきの戦い方を見ていても、今一わからなかったけど、どんな武器なの」
「そうですね。この武器は…」
拾った事、武器の形が変わる事、重さはそんなにない事などを言いながら、簡単に形を変えて見せてみる。対話ができることだけは伏せておく。念話は所持者としかできないらしいので。
「形が変形する武器なんて聞いたことないわ」
「やっぱりそうですよね。使い方は試行錯誤しているところです」
「うーん、さっきの戦い方を見てると、少し無理があったように思う」
「わかってはいるんですけど」
《木杖》をみせながら言う
「魔法を使うからロッド持っていますが、攻撃魔法が無いので、ただの重さの軽い鈍器にしかなりません」
「そうね」
今度は《黒蜜》をみせ、小さな剣を作りながら言う
「自由に形は変わるけど、大きなものを作ると強度が下がるので、結果小さい武器になりますね」
「だから2つを合わせて、大きさと重さを調節していると」
「はい。手持ちはこれしかないので」
【格納庫】から、夕飯を取り出しながら答える。
2人で夕飯を食べながら、話は続く。
「ロッドについては、指輪や腕輪などに変更した方が良いわね」
「武器でなくアクセサリーですか?」
「そう。武器として使いやすい杖なんかもあるけど、ケンヤの場合直接攻撃できる魔法が無いから。普通に戦える武器を持っていた方が良いと思うし」
「魔法の種類偏ってますからね」
「魔法効果を上げる剣なんかもあるけど高いからね。普通に腕輪とかでいいかなと思う」
「武器は?」
「そうね…【俊足】を自分にかけて使うくらいだから、移動の邪魔にならないよう、小さめの物が良いと思う。それにその変形する武器を適度に付加して使えばいいのかな」
「そうすると、シンプルな形状の方が良いですかね」
「何種類かあっても良いんじゃない?【格納庫】があるんだし」
そうですね、と頷きながら食事を終えるのだった。




