夜営、それから
今、俺は1人別行動をしている。焚き火をしながら、昨日採った魚を焼いたり、金属鍋でお湯を沸かしている。
休憩後に、再移動を開始した俺達は、また魔物の領域に突入。ティルダさんを軸とした布陣で、強行突破をしていた。少しでも距離を稼ぎたかったが、魔物が多くかなりの体力を削がれてしまい、やむを得ず早めに夜営をすることに。それでも、夜営と迎撃に適した地形を見つけたのは、幸運だろう。
追手である盗賊の気配は感じられなかったが、あきらめたと考えるのはまだ早いだろう。見つかるおそれがあるので、火を起こすことができない。夕暮れにはまだ早い時間帯、特にできることのなかった俺は、1つの提案してみることにした。
「ここから離れた場所で、焚き火でもしてきましょうか?」
「焚き火?」
トレヴァーさんが不思議そうな顔をする。
「簡単に言えば、おとりですね。そこで夜営をしているように見せかけるんです」
「ふむ」
「30分から1時間もしていれば、向こうも気づくでしょうから、そのぐらいしたら火を消して戻ってきます」
「危険だわ」
ティルダさんが反対する。
「今のところ、【索敵】の範囲には盗賊がいません。彼らが、気づいてから焚き火に向かへば、当然夜になります。暗くて焚き火の後も見つけにくいし、夜動き回れば体力も消耗します。ついでに、見当違いの場所を探すので、こちらも見つかりにくくなるでしょう」
「一理あるな」
アルヴァさんが頷く。
「1人で行くの?」
アリシアさんが心配そうに聞いてくる。
「こっちの守りを減らしたくないから。1人でも大丈夫だと思うしね」
「それでも1人はだめよ。私も行くわ」
ティルダさんが1人での行動は駄目だと言い張る。
「体力の事を考えたら、無闇に歩くのは得策ではありません。ここで休んでもらっておいた方が良いでしょう。特にティルダさんは」
トレヴァーさんとティルダさんを交互に見て言う。
「でも」
「こちらには【索敵】があります。それから【俊足】【浮遊】もありますから、1人なら簡単に振りきれますよ」
「俺は、その意見に賛成だな」
タイタスさんが賛成してくれる。
トレヴァーさんを見ると頷いてくれた。
「危険だとは思うが、お願いできるか?」
アルヴァさんが確認してくる。
「はい」
アルヴァさん、トレヴァーさんと3人で、偽夜営地の候補を決めることにした。
おとりの夜営地で、火を起こす。壊れた木箱に古布と、以前拾った物があるので簡単だった。使う機会がなく【格納庫】を占拠していたので、いい感じに消費できたし。
【索敵】の範囲を念のため大きくしているが、魔物も含め特に脅威は無かった。それで、暇つぶしを兼ねて、さっき言ったように、魚を焼き始めたのだった。
『ほんと便利だよな【格納庫】。生でも腐らないし、焼いて保温も可能』
沸いたお湯も鍋ごと【格納庫】に入れて、焼き魚も1本を残し、他は全部収納する。
『向こうは火を起こせないのだから、色々借りてくるべきだったかな』
魚を食べながら思う。向こうは携帯食料を食べている頃だろう。あまり料理は得意でないが、携帯食よりはおいしく作れるだろう。あれは量も少ないしと、以前の飲みかけのペットボトルを飲みながら思った。
腹も膨らんだし、時間もそろそろ良さそうだ。
『さて、戻るとするか』
火の後始末をする。見つかりにくいように隠してから、その場を離れた。
「ただいま戻りました」
魔物を避けるため、少し大回りをしたが夜営地に到着。辺りはもう暗い。
「おう、大丈夫だったか?」
「大丈夫じゃなかったら、ここに居ませんって」
タイタスさんに、笑って返事を返す。
「ご苦労だったな」
「怪我とかない?」
トレヴァーさんとティルダさん。他の人達も集まってくる。光の魔石で少し明るくなった。
「はい。とりあえず【索敵】に、盗賊は一度も現れませんでした。魔物との遭遇もないし、何も問題ありません」
「そうか。とりあえず一安心だな」
安心からだろうか。
(ぐぅー)
誰かのお腹が鳴った。
「携帯食料は、腹が膨れないからなぁ」
タイタスさんが、お腹をさすっている。
「煙が出るから、火は起こせん。我慢しろ」
やっぱり、お腹がすいてるようだ。
「食べます?」
【格納庫】から、魚を取りだす。
「これ、どうした?」
といいながら、早速食べているタイタスさん。
「火を起こすついでに焼いてきました。魚は昨日川で採ったものです。みんなが鹿を捌いている時ですね」
他の人に手渡しながら話す。
「あと、少ないですがお湯も沸かしてあります」
鍋も取り出す。
「私がします」
アリシアさんが、お茶の準備を始めた。
「【格納庫】って便利だな」
しみじみと言うタイタスさん。
「そうですね」
と、もう1本魚を取り出して渡した。
食事を終え、ハーブティーを飲みながら、夜営の警戒について話し合いをする。多分、盗賊はここまで辿り着かないと思うが、念のためいつもより厳重にした方が良いだろうとなった。話し合いの結果、順番はタイタスさん、トレヴァーさん、ティルダさんに決まった。そして、いつもと違い俺が補助で入っている。3人が交代するタイミングで起きて、最大範囲で【索敵】を唱え、状況を確認する役目を引き受けることになった。
最後の【索敵】を終えて、眠りにつく。普通に地面の上で、毛布にくるまっていたはずなのだが。
「おはよう」
にっこり微笑んでくるティルダさん。なぜか彼女の膝の上に頭がある。
「…いつから、この状態?」
「寝ついて、すぐね」
「なぜ?」
「昨日のお礼?」
「なんで疑問形なんですか?」
彼女の返答は、語尾のトーンが上がって疑問形だった。
「さあ」
質問に答える気はないようだ。
「何故か気になるのよね」
「何がですか?」
「うーん、ケンヤ、私より年下でしょ」
「はい」
「時々ね、私より上に見えることがあるの」
まぁ、中身は実際上なんだが。
「雰囲気とか、眼差しとかがね。普段は、弟っぽく見えるのにね」
「それと、膝枕の関係は?」
「ないわよ」
「…」
あっさり否定され、真面目に付き合うのが馬鹿らしくなってきた。せっかくなので、枕の感触を楽しむことに切り替える。
「顔がゆるんでるわよ」
「真面目に考えてもしょうがなさそうなので、この状況を楽しむことにしました」
「そんな顔見られたら、アリシアちゃんの機嫌が悪くなるわよ?」
「もう、みんな起きてくる時間ですか?」
「まだ1時間ぐらいあるかしら」
「なら、このままで大丈夫ですね」
「わからないわよ?2人だけと聞いて見に来るかも」
「その時はその時です」
ティルダさんが、頭を撫でてくる。
「つまんないなぁ。もうちょっと焦ってくれないと、からかい甲斐が無い」
「からかう必要あります?」
「それは、昨日、心配かけさせた罰」
「何です、それ?」
なんかしたっけ?
「おとりで、焚き火をしに行った事」
「間違ったことはしてないですよね?」
「間違ったとは言ってないわ。心配かけさせただけ」
「なるほど。今、からかっているのは罰なだけで、他意はないと」
「他意?」
「昨日、アリシアさんと俺をからかったのは、休憩中なのに緊張しすぎていたアリシアさんの為でしょう?」
あの時の様子を思い浮かべる。
「緊張していたのは、アリシアちゃんだけ?」
「最初は俺も緊張していたと思うけど。寝ているティルダさん見ているうちに、落ち着いてしまったから。最後はからかって、楽しんでいただけでしょう?」
多分、この考えで間違っていないと思うのだが。
「ほら、そういうところがね」
「?」
「年齢に似合わず悟ったような感じで、急に大人っぽくなるのよね」
「そうですか?」
彼女の体が、少し前に傾いてくる。
「昨日の戦いでも頼りがいがあって」
顔がだんだん近づいてくる。
「おとりになるって言った時の表情だって…」
そこで、2人の唇が重なった。
それは優しい口づけだった、そっと触れるだけの。
唇はものの数秒で離れていき、しばしの間2人で見つめあう。少しして俺は起き上がると、彼女の横に座った。彼女は俺にもたれかかって、肩に頭をあずけるのだった。
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その頃、盗賊のアジトでは、
「お頭、悪い知らせが」
「何名か居なくなっているか?」
「はい、5名居ません」
昨日の決定に不満だったのだろう。日頃から、反抗的な奴らが追いかけたようだ。
「全員昨日のメンバーか?」
「いえ、1人はアジトの留守番の雑魚です。今まで、連れて行ってもらえないことに不満があったようですから」
いらない奴らが抜けたところで痛くも痒くもないが、
「この場所を放棄する。出発の準備をしろ」
アジトを捨てるのは痛かった。
「ここを捨てるんですか?」
「あの、単細胞どもが成功するとは思えん。捕まって、この場所を吐くとみた方が良いだろう」
「行先は?」
「あいつらの知らない場所があるから安心しろ」
「わかりやした。準備にかかります」
おかしい。その場限りの、ただの端役冒険者だったはずなのに。




