盗賊
視点変更が入ります。
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が、境目に入ります。
今日で〈ブランドン大陸〉に来て3日目。今だに街に着いていない。確か『そこまでひどい場所にはいきません』って言われたと思うのだが。ここまで街から遠いのはどうかと思う。それとも、馬車と出会えることは、織り込み済みだったのだろうか。もしくは、他にもっと近い街があったとか。
とりあえず、順調にいけば明日には着くとの事。どんな街なんだろうと、期待に胸を膨らませる。まさか、この後トラブルに巻き込まれるとは、俺も含めて誰も予想していなかった。
道が良くなったのか、昨日1日で慣れたのか。今日は、苦痛をあまり感じない。馬車は森を抜け、川沿いの道へと出た。
「この道を1.5キロほど上流へ向かうと橋がある。そこを渡ると、またUターンして下流方向へ向かう事になるのだが…ここらへんに橋があると、助かるんだよな」
アルヴァさんが言う。
「なんで、そんな上流に橋が架けられたのですか?」
「そっちには、昔使われていた旧街道が在ってな。今は魔物が多くて使われてないが」
アルヴァさんが言うには、旧街道は森の中を通るらしいのだが、そこにサップスライムという樹液を好むスライムの変種が多数生息しているとの事。餌は樹液のみなのだが、縄張り意識が強く、近くを通ろうとすると樹上から降ってくるらしい。樹上で見つけにくいうえ、矢は貫通してしまいダメージを与えにくい。魔法か、降りてきたところを叩くしかないと、厄介な相手らしい。
そんな話を聞いていたら、【索敵】に反応が出てきた。
「川の対岸、街道沿いに獣2、人2、いや3、4…獣8、人8が街道両脇にいます」
馬車が進むにつれて、また消えていく。
「街道上でなく、両脇?」
アルヴァさんが聞いてくる。
「はい。街道脇の森の中に間違いないです」
「トレヴァー!」
アルヴァさんが、トレヴァーさんと話し始める。その表情が険しい。漏れ聞こえる声に盗賊、魔物、という言葉がある。どうやらさっきのは盗賊らしい。魔物の話が出ているところを考えると、街道と旧街道、どちらに進むか話しているのだろうか。
橋にあと少しというところで、トレヴァーさんが後ろにいる2人のところへ。アルヴァさんは、馬車のみんなへ話し始める。
「この先、街道沿いで盗賊の待ち伏せがある。確認できただけでも8人。このまま飛び込んでも、こちらに勝ち目はないだろう」
アルヴァさんが、そこで一旦切る。
「トレヴァーと相談したが、旧街道を使うことにした。魔物に対しては、ケンヤが【索敵】で確認。ティルダが魔法で仕掛ける。追手がかかる可能性もあるため、迷っている時間はない。このまま一気に進む」
橋を抜け、街道は無視し、そのまま森へと続く道へ馬車が向かう。【索敵】範囲に、魔物は探知されていない。しばらくはこのまま進めそうだ。
旧街道は多少荒れてはいたが、馬車が進めないほどではなかった。使われ無くなったとはいえ、元々しっかり作ってあったのだろう。
「右前方3本目、左向きの枝、高さ3、数2」
「…見えた。【氷爆】」
氷の塊が、サップスライムに飛ぶ。1匹にあたると、そのまま爆発。もう1匹も巻き込んで、地面にたたき落とす。
「フンッ」
「ハッ」
タイタスさんとアルヴァさんが、間を置かずに2匹へ近づき、森の中へ弾き飛ばす。1匹は倒したようだ。もう1匹は、ダメージを負ったからだろうか。生きてはいるが、森の中から出てくる気配がない。
「セイッ」
トレヴァーさんの声も後方から聞こえる。
500メートルあたりから、徐々にサップスライムが出始め、進行速度は遅くなっている。
陣形は、右前タイタスさん、左前アルヴァさんが、それぞれ馬で進む。御者台はアリシアさん、ティルダさん自分の3人。馬車を操るのはアリシアさんで、ティルダさんと自分は並んでいる。樹上の魔物の正確な位置を教えるためだ。馬車荷台後方にはアリシアさんのお母さんとお兄さん。そして、殿はトレヴァーさんが任されている。
基本的に樹上の敵は、魔法の先制攻撃で倒している。地面にいるスライムは、叩き飛ばして殺していない。追手が来た場合、足止めになるからだ。進みは遅いが、着実に進んでいる。
2時間は進んだろうか。アルヴァさんに声をかける。
「一度、追手の有無を確かめますか?300メートルぐらいなら、30分限定で出来ますけど」
「頼めるか」
「はい…【索敵】」
魔力を込め、半径300メートル分の範囲が浮かぶ。
「追手8確認。道がカーブしているので、500メートルぐらいはありそうです。それから、追手の周囲に魔物反応多数。しばらくは足止めが効きそうです」
「わかった」
「それから、こちらは50メートルも進めば、一旦魔物の領域から出られます」
「一気に引き離すチャンスだな」
「もうひと踏ん張りか」
アルヴァさんとタイタスさんの目が輝く。
「もう少し、頑張ってください」
魔法の打ち過ぎで、疲労の濃いティルダさんを支えながらはげます。返事こそなかったが、しっかり頷きを返してきた。
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「だぁー、なんだよこの数は」
「あいつら、ここを通って行ったんじゃねえのか」
盗賊たちは、大量の魔物に道を阻まれていた。
川向こうを通る行商の馬車を確認し、街道で待ち構えていたが、なぜか馬車は旧街道へ行ってしまった。こちらに気付いたのだろうか。予想外の行動に追撃が遅れたが、相手は荷物を積んだ馬車だ。スピードは遅いし、魔物に道を阻まれる。対してこちらは、馬で足も速いし、魔物が討伐された後だから、さっさと追いつく…はずだった。
部下の1人が寄ってくる。
「お頭、こいつはいったい…」
「多分だが、あいつらの中に空間魔法の使い手がいるんだろう」
「それじゃ、待ち伏せが感づかれたのはそのせいと」
「あぁ。それから、この魔物の群れ。【索敵】が使えれば、樹上の敵も気付けるからな。落ちてくるこいつらの対処も可能だろう」
「追いつけますかね」
「とりあえず、こいつらを倒してから考えるか。最悪、魔石とアイテムが手に入るしな。樹上のこいつらは厄介だが、地上であればそれなりに美味しい稼ぎにはなるさ」
「奴らはあきらめると」
「これだけのことができる奴らだ。襲ったら、こっちだって無傷じゃ済まねえだろう」
「寝込みを夜襲すれば?」
「それも【索敵】でばれるだろうよ」
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魔物の囲みを抜け、一気に加速した馬車は、そのまま1時間ほど走り休憩に入る。盗賊が来てもいいよう、見つかりにくい場所に隠れ、なおかつ迎撃のしやすい場所に陣取っている。
俺自身は【索敵】中心で、いつもと変わらない為あまり疲れていない。非戦闘員4人もいつも通りだ。ただ、戦闘していた4人はさすがに疲れたようだ。特にティルダさんの疲労がひどい。休憩に入った途端、御者台でそのまま倒れ込むように寝てしまった。なぜか俺の膝枕で…。しょうがないので、しばらくそのまま放っておいた。
15分ぐらいしただろうか。全く動く気配がなく、ぐっすり寝ている。顔を覗き込むと、寝顔が可愛い。
若返った今の俺は、ティルダさんより年下。彼女から見れば、レベルも低いし弟のような存在なのだろうか。出会った当初から、そんな感じの扱いを受けている。
ただ、実際の俺から見れば年下。そんなお姉さんっぽく振る舞っているところが、微笑ましいというか可愛いというか。
動くことができず暇だった俺は、つい頭を撫でてしまった。
「コホンッ」
アリシアさんの咳ばらいが聞こえた。
首を向けると、ジト目でこちらをにらんでいる。
「何をしているのですか」
「いや、その…癒されるというか、ほら疲れたので…」
「ケンヤさんは、【索敵】だけですし、いつもとそんなに変わらないのでは?」
「緊張していたというか、ね」
目が冷たい。今のアリシアさんなら、水魔法の【氷玉】ぐらいなら、唱えられるのではないかと思う。
睨み合い、いや一方的に睨まれている状態が続き、どうしようかなと思っていると、タイミングよく…なのだろうか。ティルダさんが目を開ける。
「気分はどうですか?」
声をかける。
「だいぶ良くなったわ」
と言いつつ、起き上がる気配はないティルダさんだった。
「この枕、とても落ち着くわ」
「そうですか?ならそのまま使っていていいですよ」
もう、どうにでもなれといった感じであるが。
そこで、ティルダさんがアリシアさんに目を向ける。
「うらやましい?」
「別に…」
「妬いてる?」
「妬いてません!」
完全にからかっていた。
「この状況で、すごいですね」
まだ状況が良くなったとは決して言えないのに、この軽さ…正直そう思った。
ティルダさんは笑っていた。
「もう少し、眠らせてもらっても?」
「良いですよ」
「さっきは、とても気持ち良かったわよ」
「?」
「頭撫でてたでしょ」
ばれていた…
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結局、魔物を倒しては進み、倒しては進みを繰り返し、気づけば夕刻になっていた。ここらが潮時だろう。
「今回は、あきらめて街道の拠点に戻るぞ」
「お頭!そいつはねぇーぜ。ここまでやったんだ。追いかけるべきだ」
「そうだっ」
部下達から不満の声が出る。
「この時間だぞ。このままここで野宿してみろ。魔物に囲まれるぞ。」
「一気に追いかけて、夜襲すればいい」
「本気で言っているのか?夜の旧街道を突破できると」
「むっ」
部下は声を詰まらせるが、別の奴が声を上げる。
「だったら、街道を使って街まで追いかける」
「街の近くで事を起こすのは面倒だ。騎士が出てくる可能性もある」
「しかし…」
「今回はあきらめろ。魔石とアイテムで我慢しろ」
とりあえず、押し黙らせることには成功したが、かなり不満なようだ。
『面倒な獲物に手を出しちまったなぁ』
今後の事を考えると、憂鬱になるのだった。




