光海
どこでもいいから、とにかくどこかへ行きたかった。
ここでなければ、どこでもよかった。
そんな俺がたどり着いたのは、真夜中の防波堤の上だった。
コンクリートでできた表面は思ったよりもひんやりとしていて、踏み出す度に自分の体温を自覚する。
縁の方まで来ると、もはや水面との境界も曖昧で、このままどこまでも進んでいけるんじゃないかと、俺に勇気を与えてくれた。
それでも、俺は一度立ち止まった。
ひんやりとした潮風が俺の頬を冷たくなでる。
少し湿気を含んでいて、髪がわずかにベタついた。
潮の香りはあまりしない。それよりも鼻につくのは錆びた鉄の臭いだ。
腫れた右目がジンジンと、鈍くその存在を主張し続ける。
海面は夜空を映し出して、光の粉がまぶされたように輝きを放っていた。その光の粒子は、波によって砕かれては一筋の幕となって、それが何重にも重なり広がりを見せている。
これほどのものを前にしても、俺のこころはざわめきが支配していた。
近くを見ているようで遠くを見ている。
落ち着いているようで鼓動はいつにもまして早い。
両手を広げて、少しでも多くの海風をこの身で感じていたかった。
この寂しい夜の中でも、打ち寄せる波の音だけはいつまでも俺を独りにしない。
光とともにありたかった。
できることなら、光の下を歩いていたかった。
だから、最後に俺はその望みを叶える。
ゆっくりと、体の力を抜く。
次第にやさしく暖かな光が俺を迎え入れ——
——その光が泡とともに消えて、冷たさと寂しさだけが残ったとき。
俺は確かに、光のなかにあった。




