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短編集  作者: らぶ
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3/8

光海

 どこでもいいから、とにかくどこかへ行きたかった。

 ここでなければ、どこでもよかった。


 そんな俺がたどり着いたのは、真夜中の防波堤の上だった。


 コンクリートでできた表面は思ったよりもひんやりとしていて、踏み出す度に自分の体温を自覚する。

 縁の方まで来ると、もはや水面との境界も曖昧で、このままどこまでも進んでいけるんじゃないかと、俺に勇気を与えてくれた。


 それでも、俺は一度立ち止まった。


 ひんやりとした潮風が俺の頬を冷たくなでる。

 少し湿気を含んでいて、髪がわずかにベタついた。

 潮の香りはあまりしない。それよりも鼻につくのは錆びた鉄の臭いだ。

 腫れた右目がジンジンと、鈍くその存在を主張し続ける。


 海面は夜空を映し出して、光の粉がまぶされたように輝きを放っていた。その光の粒子は、波によって砕かれては一筋の幕となって、それが何重にも重なり広がりを見せている。


 これほどのものを前にしても、俺のこころはざわめきが支配していた。

 近くを見ているようで遠くを見ている。

 落ち着いているようで鼓動はいつにもまして早い。

 

 両手を広げて、少しでも多くの海風をこの身で感じていたかった。

 この寂しい夜の中でも、打ち寄せる波の音だけはいつまでも俺を独りにしない。


 光とともにありたかった。

 できることなら、光の下を歩いていたかった。

 だから、最後に俺はその望みを叶える。


 ゆっくりと、体の力を抜く。

 次第にやさしく暖かな光が俺を迎え入れ——

 ——その光が泡とともに消えて、冷たさと寂しさだけが残ったとき。

 俺は確かに、光のなかにあった。

 

 

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