7 あのコの頬、私、衝動に任せて……
いつも読んでいただき、感謝です。
その夜、私はママに、ひむちゃんの事で相談に乗ってもらったの。
「何だか最近、ひむちゃん、様子がおかしくて……。 何かを必死に隠そうとしてるみたいな……。 熱を出したりして、調子が悪そうだから、何か力になってあげたいって思うのに……」
ママは私の言葉を遮らず、次の言葉を待ってくれてるみたい。
「ひいか、始めはひむちゃんに直接、最近おかしいよ、何かひいかに隠し事してる? って、言おうと思ったの。 けど、何故か、心の中でブレーキがかかるの。 それで、強く踏み込めなくて……」
そこまで話すと、ママは穏やかな声で、私を諭したの。
「そう……隠し事、ねぇ。 調子が悪い時って、他人に頼りたくなるものなのに、ひいかぐらい近くにいる親友にすら相談しない……ううん、できないのかもしれない。 ひいかそれを無意識に察して、それ以上踏み込んじゃダメなラインがある、って判断した、って事じゃないかな」
私にすら相談できないほどの悩み、かぁ……今まで、ちょっとした悩み事でも話し合ったりして、辛い気持ちを分け合ってきたのに……。
ひむちゃん、どうして壁を作るの?
直接訊けないなら、ひむちゃんの言動を観察して、何とか読み取るしかないよね。
「ママ、ひいか、どうしても心配だから、明日、ひむちゃんの家にお見舞いに行くって約束したの」
ママはそれを聞くと、優しく微笑んで、 「そう……ひいか、あまり気持ちをぶつけ過ぎないようにね。 あくまで自然に寄り添ってあげなさい」 って言った後、最後に一言加えたの。
「姉のように広い心で、妹のように慕う心で、ね」 って。
翌日。
家を出発しようとしたら、ママに呼び止められたの。
「ひいか、今日は二人にとって、凄く大切な日になるかもしれない、って思うの。 昨日、あの後、運命の女の子っていう言葉を私、また思い出してね……」
ママが感じてる以上に、私もそれ、感じてるよ。
「うん! ママ、行ってくるね!」
ひむちゃんの家に着いたのは、お昼前。
家から10分ほど……話に聞いてた通り、一本道だったから、迷わなかった。 ホッ。
初めて見るひむちゃんの家……凄く独特で、サーカスのテントみたいな形……六角形?
玄関の前で一呼吸し、自然体、自然体……自分に言い聞かせて呼び鈴を押すと、 「はーーい!」 迎え入れてくれたのは、ひむちゃん。
まずは顔色……だいぶ良さそう。
だから、 「ひむちゃん、元気そうで良かった~~」 って、明るく声が掛けられた。
「ひいちゃん、待ってたよ~~。 もう体調は大丈夫、だと思う。 どうぞ、上がって」
うん、声も張りがある……これは無理に作った明るさじゃない、かな。
ひむちゃんにリビングへ通されると目に入ったのは、奥のアイランドキッチンに立ってる、スラっと綺麗な人……あの人がひむちゃんのママなのね。
初めましての挨拶、しなきゃ。
「おばさま、お邪魔します。 いつも、ひむちゃんに仲良くしてもらってます、ひいかです」
「ひいかちゃん、こんにちは。 話には聞いてるよ。 遊びにきてくれるの、初めてだね。 今日はゆっくりしていってね」
凄く物腰が柔らかそうな人……ママよりずっと若いのかも? でも、大人の気品が感じられるよ。
「それにしても、お洒落な建物ですね。 サーカスのテントのような……有名建築家が建てたみたい」
私、今まで色んな家をイラストとかで描いてきたけど、こんなお洒落な家は想像すらできなかった。
まだまだ経験不足だな、私。
「ありがとう。 家の事、褒めてくれて嬉しいわ。 私が生まれる前に、父と母が見晴らしのいいこの丘に最高の家を建てたくて、業者さんに注文したの」
ひむちゃんのママ、満面の笑み……この家にかなりの愛着を持ってるって、十分伝わるよ。
よしっ、掴みはオッケーだねっ!
「じゃぁ、ひいちゃん、私の勉強部屋に入って」
ひむちゃんの部屋、どんなだろう……わくわく。
「台形のお部屋って、変わってるなぁ。 壁と天井に窓があって……」
外見が外見なら、内側もお洒落……私の想像力じゃ、到底思い付けないや、この造り。
それにこの部屋、本棚の存在感が凄いの!
ふと目をやると、色んなジャンルの本が立ててある。
いつもガゼボで読んでる、あの冒険ものの小説もあそこに。
「あんまりじっくり見られると恥ずかしいよぉ~~」
あっ、ひむちゃんに勘づかれちゃった。
キョロキョロしすぎたね、ちょっと。
トントントンってノックの音の後に、おばさまが、オレンジジュースが注がれたグラスと、カステラとフォークを乗せた皿を、トレーに載せて入ってきた。
「うわぁ~~、ありがとうございます、おばさま。 美味しそう~~」
この前の双子ちゃんの誕生日会といい、最近、私、甘いものに縁があるわ~。
「お母さん、ありがとう。 あまあまで、美味しそうだよ~~」
ひむちゃんも隣でニコニコしてる。 そうそう、その笑顔だよ!
「折角、訪ねてきてくれたんだもん、甘いものを食べながら、楽しんでいってね」
おばさまが部屋を出ていったのを見るや否や、二人で飛び付く。
「じゃぁ……」 「「いただきまーーす!!」」
その後、聞こえたんだぁ、おばさまが扉の向こうで、くすくすと笑ってるのが。
私たちがはしゃいでる雰囲気を、扉の向こう側で感じてくれてるんだなぁ、って。
ひとしきりお腹を満たした後、私はまた本棚に視線を移す。
「すご~~い! 本がいっぱい! ひむちゃん、読書家だね」 って、驚いてたら、 「確かに本好きだけど、中身を見てよ」 って言うの。
いやいや、漫画より小説の方が何十倍も多いよ? 凄いじゃない。
「でもでも、漫画ばっかのひいかの部屋と比べたら、字がいっぱいの本が多くて凄いよ」 って言うと、ひむちゃん、くすくす笑うの。
そうそう、さっきから気になってたんだけど、この本棚にはノートも立て掛けてあるんだよね。
大きさが違うから目立つし。
「で、ここに立ててあるノートって……」
「あぁ、それは自作小説を書いたノートだよ。 中学の頃、サークルで書いたんだけど、なかなか上手く書けなくて……」
あっ! そっか!! ひむちゃん、サークル活動で小説を書いてたんだった。
「ちょっとだけ読んでいい?」 興味津々。 読んでみたいっ! 私、登場してたりして、なーんて。
そこでひむちゃん、突然、意味不明な事を叫んだの。
「えっ? えーーっ!! ほつき、凄い! ビカビカ光ってる……」
あまりにも唐突だったから反応が遅れちゃったけど、会話、噛み合ってないよ??
しかも、ほつき? ビカビカ光ってる?? 何言ってるの???
「えっ? ビカビカ? ひむちゃん、何がどうしたの?」
……ん? ちょっと待って! そう言えば、この前もこんな感じで、突然だったよね。
そして、私の質問に、あからさまに取り乱しだして、 「あ、あへ?! な、何でもないよ~~。 妄想妄想~~」 って……あ、あへ?! 初めて聞く反応だよ、それ。
で、また妄想妄想~~って……あの時も同じように、何かごまかそうとして言ったよね、それ。
もう、同じ手は食わない! ここだ! 踏み込むタイミング!!
「……ねぇ、ひむちゃん、ホントに何でもないの?」
これでもか、ってくらい低~~い声で、眼力を利かせて、ひむちゃんを見詰めてみる。
「う? うん。 ホ、ホントに何でもな……」
ここまで来て、まだごまかし通すの?
何で……何で私に隠し事するの? 打ち明けてくれないの?? ひむちゃんから見た私って、そんな程度の親友だったの???
どんどん涙が溢れてきて、気持ちも溢れてきて……私、衝動に任せて……
パシーーーーン!!
気付いたら、ひむちゃんの頬を力一杯、平手でぶってた。
「……ひむちゃん、どうして……どうしてごまかすの? ひいか、相談して欲しいのに……」
本編の第23話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
ここは物語上、物凄く重要な場面なので、本編よりも更に時間の流れを意識的にゆっくりにしました。




