67 絵日記帳の世界のあのコ[6]
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「親友の事になると目の色が変わるのね、日向」
「当然でしょ! 貴女にも分かるでしょ? 心を許した友達がどれだけ大切かって事は!!」
「なるほど、これは上手く逆手を取られたわ。 彼女を含め、貴女を支え、背中を押してくれた人たちに心から感謝するわ。 貴女は先ほど、人間が知恵を生かして繁栄を目指す事は、自然の摂理に反するものではない、と言ったわね。 因果律を操作するのは、私の能力というべきもの。 その同じ口で、それを生かす事を否定するのはどうなのかしら?」
「そんなの、屁理屈よ!! 貴女のその能力は、繁栄を目指してるもんじゃない!! 確かに人間は、能力に驕り高ぶって地球に共生する他の生命体の事を蔑ろにしてきたのは否定できないわ。 でも、だからと言って、殲滅してしまおうなんて……熊は人間の生命を脅かすおそれがあるから、予防的に殲滅してしまえばいい、っていうのと変わらない、短絡的な考えじゃない! 貴女の驕り高ぶりでしかないでしょ!!」
「うふふ、驕り高ぶり、ねぇ……人間を殲滅する事、それは私と思念体の総意なの。 自然界の繁栄の為に私は尽くしているのよ。 立派に繁栄を目指してるじゃない!!」
そんな邪な考え、どうして神さまは誇らしげに言えるの?
「自分の悪行を正当化しないで!! 貴女はさっき、人間の驕りを裁くって言ったよね。 でも今の貴女は、人智を超えた能力に任せて“世界そのもの”を自分の理想通りに作り替えようとしてるじゃない!! それこそ、驕り高ぶってるって思わないの?」
「うむむむ……まぁいいわ、私の驕り高ぶりって事で」
「開き直ってるんじゃないわよ!! それで、人間を消し去って、貴女は一体この世界をどうしようって思ってるの? そこが知りたいわ」
「私のかけた呪詛によって全ての人間が消え去った地域から順々に、この五次元の世界へと切り離して聖域化していってるのよ。 ここは人間には認知できない場所……現世から切り離されたものはもちろんの事、それに関連する記憶や記録も含めたあらゆるものが、元から存在しないものとして因果律が書き換わるの。 凄いでしょ、私の壮大な計画。 うふふ」
「ああ、なるほどね。 人間が消え去った長森島は、そうやって現世から切り離されて、人々の記憶からも消されてしまったって訳ね。 狂気じみてるわ、そんな計画!!」
「聖域化を勝ち取った場所は、今後は絶対、人間に手出しなんてさせないわ。 その第一歩が長森島。 月宮神社の本来の主祭神っていう事もあって、元々が神域で、私たち神職の者以外は足を踏み入れる人がいなかったから、すぐに聖域化できたわ。 その影響で、島が存在してた場所は海に置き換わって大渦が生まれ、月宮神社の主祭神は天之御中主神に差し替えられ、関連する記憶や記録は抹消されたのよ」
「記録が抹消……前に図書室で借りてきた月宮神社に関する本にあった意味不明の空白はこれだったのか! 全てが始めから無かったものになる……」
「その通りよ。 そうやって断片的に次々と聖域化していく事で、この五次元の世界で、地球を本来の自然界のあるべき姿に再構築しようとしているのよ、私は」
「今の説明で、貴女の目指してるものは良く分かったわ。 でも、もう一度最初に立ち返って考え直してみてよ。 貴女の旦那さん……いや、私のお父様は、そうする事によって救われるの? 貴女のそもそもの願いは、お父様とのささやかな幸せを分かち合って、明るく楽しく生きる事じゃなかったの?」
「……そ、そこを突かれると……言い返せないわ」
「貴女は一度も振り返る事なく、盲目的に突っ走っていって、こんな取り返しのつかないような大罪を犯してしまったのよ。 じゃぁ、この五次元に身を置いてる貴女も、それと同じ原理で世界の記憶から……」
「ええ、その通り、私自身も例に漏れず、よ。 私に関連する記憶や記録は、現世から抹消されたの。 輪廻を繰り返した貴女なら、思い当たる点が色々と浮かぶでしょ?」
「……父から忘れられ、娘の成長を側で見守っていく喜びを捨て、自分の足跡が世界から消え去る事を覚悟してまで……何て辛い茨の道を選んでしまったの? 貴女……いや、お母様は」
しょ、初代さん……今、神さまの事を……。
「日向……貴女、こんな私の事をお母様と……呼んでくれるのね」
「ええ……ホントは、はらわたが煮えくり返るほど憎いから、このまま冷たく接して、もっと完膚なきまでに叩きのめしてやりたい、って思ってるわよ。 でも……無名神になってしまう前の、生前のお母様の話を聴いてると、例の不幸な”事故”さえ無かったら……って思うの。 立派な志を持ち続けながら神職を全うする、気高い心の持ち主の、私が誇れるお母様だったはずだ、って。 素顔のお母様が知りたい、って途中から思い始めたのよ」
「日向……貴女って”子”は……私の想像の上を行くのね。 今日まで待った甲斐があったわ」
「お母様が望んだんじゃない、もう。 だけど、無名神と化して犯してきた数々の行いは到底許されるもんじゃないわ。 でもね、まだやり直せると私は思うの。 人間の心がまだ残ってる、今のお母様ならね」
「……ひ、日向……ううう……」
す、凄い!! 初代さんの心の籠った言葉が刺さったみたいで、神さま、涙を流してるよ。
「人間の心があるから、そうやって涙が流せるのよ。 ところで一つ、根本的な事をお母様に訊きたいんだけど……」
「わ……私に……訊きたい事?」
「ええ。 そもそも、因果律を操作するほどの力を持ってるんだったら、旦那さん……私のお父様が事故に遭わないようにも出来たんじゃないのかな、って」
「冷静に考えれば、その通りかもしれないわ。 しかしあの頃は、そんな安定した精神状態じゃなかった……それほど、亡くなった夫の姿は無残だったのよ。 それ以前に、今の私にはそれが出来ないの。 私を取り巻く思念体が絶対にそれを許さないから」
「あ……思念体が許さない、か。 もしそれを許したら取り込む隙を失い、自分たちの存在が危ぶまれるから……。 お母様、私に一つ、考えがあるんだけど、今から私がする事を、そこでずっと観ててほしいの。 何があっても、止めようとせずに。 お願い!!」
「……分かったわ、日向。 約束するわ」
初代さんがこっちに向かって歩いてくる……一体何を始めようとしてるんだろう。
「ねぇ、現世の日向、今貴女が身に付けてるその衣装、ここに来た時に着てた衣装に着替えてほしいの。 いい?」
この巫女さんの衣装が必要って事なのね……もちろん、反対する理由なんてないもん。
私は初代さんに言われた通り、無言で着替えたの。
「ありがとう、現世の日向。 ではお母様、この衣装を借りるね」
初代さんの着替え、びっくりするくらい手際が良くて、しかも、仕上がりも完璧。
そして、神籬の前に立って二拝二拍手すると、手を合わせて目をつむり、 「祓え給い 清め給え 神ながら守り給い 幸え給え」 って唱えて一拝し、 「たかまのはらにかむづまります すめらがむつかむろぎ かむろみのみこともちて やほよろづのかみたちをかむつどへにつどへたまひ……」 と、そらですらすらと大祓詞を読み上げ始めたの……完璧すぎるよ。
それを聞いた神さまは、 「あ、ああ……う、うぅ……」 って苦しそうに唸りながら、頭を抱えてしゃがみこみ始めたの。
一体、神さまの身に何が起こってるんだろう……。
大祓詞を唱え終えると、初代さんは続いて、台の上に置かれてる檜扇を手に取って、浦安舞を舞い始めたの。
全く無駄がなく、流れるようで、それでいてメリハリも利いてる……本当はこんな動きなんだ。
自分の拙さが恥ずかしくなってしまうよ。
「お母様っ!!」 舞い終わった初代さんは、うずくまってる神さまの側にサッと歩み寄って、 「今、人類が溜め込んできた穢れを祓い清めるように願いながら、大祓詞を奏上し、浦安舞を奉納させていただいたよ。 所作はお母様には遠く及ばないかもだけど……あはは。 お母様を取り巻く思念体って、生命体の怨念っていうより、人類の穢れのようなものじゃないのかな、って考えたの。 苦しかったかな……でも、よく耐えて見守ってくれたよ……もう少しの我慢だからね」 って、話し掛けると、初代さんは姿勢を正して、 「無名神よ、子供を愛し、慈しむ神よ、貴女の本来の姿を現したまえ!!」 って、神籬に向かってゆっくりと力強く唱えたの。
それに反応したのかな、 「え、えっ……う、うぅ……」 って、神さまはもがき始めたの。
「お母様、私は今、言葉によって無名神の神性を地母神という枠にはめたわ。 さっきの話では、人間に認知されたら神性が制限される、って事だったよね。 これでもう無名神は思念体の呪縛を離れ、地母神の一柱として私に認知された……んじゃないかな??」
「日向、貴女って子は……私の想定以上に成長してくれたのね……憎まれるべき事を沢山してしまったのに……それでも私の事を……ありがとう。 私の力が及ばなくなって、本来の神々の大いなる意思によって、世界は別の姿に組み替えられるでしょう。 私という存在もどうなるか……その行く末は分からない……全てを委ねるしかないわ」
「はい。 私もお母様をかばって救い出した罰を神さまから受ける事になるかもしれないけど、それは覚悟の上よ。 もう過去の事は綺麗さっぱり水に流すから。 私はお母様の期待に応えられた、かな?」
「ええ。 それはもう、立派に。 ありがとう、私を救ってくれて!! 組み替えられた世界線では、日向の本当の母親でいたいわ……それはもう、叶わない夢かもしれないけど……」
「私も……お母様の娘になって、その愛を一身に受けたいわ。 沢山辛い思いをさせられたけど、それを全部上書きしてくれるくらいの、沢山の愛を!!」
初代さん、やり遂げたのね……お母様の期待どおりに、ううん、期待以上の論破を。
隣にいる前代さんなんて、声は出せないけど泣いちゃってるもん。
私も色々と辛い思いはしたけど、こんな結末に辿り着けて、報われたかな、って思えるよ。
でも……きっと、もう元の世界には戻れないよね……この話、誰にも伝える事ができないけど、お母さん、ひいちゃん、きゆりちゃん、ちかねさん、宮司さん、みづるさん、無事に私、お勤めを果たせたよ。
ごめんなさい、面と向かって報告できなくて。
私も覚悟を決め、前代さんの手を引いて、神さま、いえ、お母様と初代さんの側に歩み寄ると、4人で寄り添って、神さまの裁きの時を待つ事にしたの。
・・・・・・
本編の第53話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
論破バトル、もっと白熱させたかったけど、私の文章力では難しかった。
第40話の裏でひむかが取った行動の全てをここに提示しました。




