65 絵日記帳の世界のあのコ[4]
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さすがに信じられなくて、 「神さまが私のお母さんだなんて、そんなはずないよ!! だって、私のお母さんは……ずっとずーーっとお母さんだけだもん!!」 って、私は神さまに必死に抗議したの。
「現世日向も、他の二人も、よく聞きなさい。 私は確かに貴女を産んだのよ……それはどの世界線でも決して揺るがない真実。 もちろん、生んだ直後に手放してしまったから、貴女の母親だ、って名乗る資格が無い事は重々承知しているわ。 ところで、貴女がここに持って来たそのウサギのぬいぐるみ、それを見て、生前の懐かしい日々の一コマを今、思い出したわ」
「このぬいぐるみはお母さんの書斎にあったの。 これも他の人には見えない超常現象の一つだから、ここに持ってくる意味がきっとあるって思って……生前の神さまとこれには、どういう繋がりがあったの?」
「それは私が中学生の頃、大切な親友の為に何ヶ月もかけて、神社に祀られている”神使さま”をオマージュして作り上げたものよ。 巫女のお勤めの忙しさに追われ、学校で孤独だった私に、いつも彼女は仲良く寄り添ってくれたわ。 神社にある私の家に遊びに来てくれたし、逆に丘の上にある彼女の家にも遊びに行ったし……。 そんな彼女の誕生日に、感謝の気持ちを込めてプレゼントしたの。 今でも彼女の大喜びした顔が脳裏に浮かんでくるわ。 彼女、ウサギには目が無かったからね。 その彼女が……どの世界線を覗いてみても、貴女の母親を願い出てしまうのよ。 私の父に向かって、 『私、この子を育てたい!! 私の手で、私の愛情で、立派に育てたいの!!』 って。 これは運命なんだって。 こういう道を選んだ私への罰なんだって……そう思ったわ。 日向、今となっては、貴女は私の親友、明美の立派な娘よ」
長い長い神さまの独白を聞いても、到底私は納得できなくて。
「そ、そんな……そんなの、嘘だよーー!! お母さんがお母さんじゃなかったなんて、嘘だよーー!! わぁーーーーーん」
泣きじゃくる私に、初代さんが側に来て、諭すようにゆっくりと語り掛けてきたの。
「ねぇ日向、落ち着いて思い返してみて。 前に宮司とお母さんが月宮神社で交わしたやりとりを。 『実は……ひむかさんとも、ほんの小さな頃にお会いした事があるのですよ』 って宮司さんがポロっと漏らした時、お母さんが、 『えっ?! あづちさん、そこまで……』 って、慌てて制するような反応をしたよね。 あの時の前後の会話や、妙に親しかった状況を考えると……ね? それと、お母さんがつい最近まで、日向に家から月宮神社に向かうあの参道への立入を許さず、遠ざけた事も……神さまが言ったようないきさつが過去にあったって考えれば、辻褄が合うでしょ?」
初代さんの言う事は分かるんだけど、理解したくない……だって私、今まで信じてきたものが音を立てて崩れてしまったみたいな虚しさを感じてしまって……。
呆然としてる私の様子を見た神さまは、 「やはりこの話は、現世日向には刺激が強過ぎたようね……貴女と明美の絆は、どの世界線の日向よりも固かったから……。 こうなる事を見越していたから、私は先に貴女に話を訊いておこうと思ったのよ。 もう貴女とは冷静な話し合いは無理ね。 これから先は前代日向と現世日向には傍観者になってもらうわ。 初代日向……私が生きた世界線の娘よ、貴女は私に言いたい事が山ほどあるのでしょうね。 それをぶちまけなさい。 膝を突き合わせて語り合いましょう!」 って言って、静かに私に引導を渡したの。
「螯ゆス輔↑繧狗匱隧ア繧りィア縺励∪縺帙s !!」
神さまが何やら聞き取れない言葉を発すると、私は声を出せなくなってしまったの。
一番可哀想なのは、同じく声を封じられたっぽい前代さんだよ。
だって、ここに来て、ほとんど喋らないうちに退場させられちゃったんだもん。
これから先は、神さまと初代さんとの一騎打ち……手紙に書いてあった論破って、やっぱり私のお役目じゃなかったのね。
私は二人の対話をしっかり見届けようと思うよ。
「さて日向、まずは貴女に謝っておきたいの。 貴女にかけた足枷……検閲の呪法と、前代日向に先んじて話し掛けるのを禁ずる呪法……自分の意のままに出来ない、もどかしい思いをさせる事は重々分かってたのに強いてしまった事を」
「そうよ!! その足枷のせいで私、ただの傍観者にしかなれなかった……日向を救い出すアイデアを思い付いても伝えられず、何度も何度も死を目の当たりにして、どれだけ心を痛めつけられたか!! 泣いたか!! 心が折れそうになったかっ!!」
「本当にごめんなさい……こんな残酷なシステムを作り上げてしまって。 貴女の心を痛め付けるって分かっていたのに……私は、それでも自分の目的の為には必要だと、当時は考えてしまったのよ」
「謝って済むような残酷さじゃなかったわよ!! その道を選んじゃダメっ! って叫べず、手を差し伸べてあげる事も出来ずに何度も何度も……何て酷いやり方を思い付いたの、貴女は!!」
初代さん、怒りで声が震えてる……それだけ数え切れないほどの辛い目を味わってきたって事なのね……。
「果てしない過酷な時間の旅を貴女に課してしまって、本当にごめんなさい!! 何百回でも何千回でも謝るわ。 しかし貴女は、些細な物事ではぶれない心の強さを、その体験から得られたのも確かなのよ」
「心の強さ? 地獄のような無限ループに放り込まれて、ただただ辛い思いをさせられてばかりの体験で?? 心が壊れそうになっただけじゃない! それが娘を成長させる教育だって言うの? 私は貴女の道具じゃないのよ!!」
初代さんは最初からずっと怒り全開で、神さまに向かって前傾姿勢で、今にも喰いついていってしまいそうな勢いで……。
「貴女の言う通りよ、日向。 お腹を痛めて産んだ娘にさせる事じゃなかったわ。 だけど、貴女の心が鋼のように強く育ってもらわなければ私は……その事を優先し、道具のように扱ってしまった事、本当に自分本位だったわ」
気圧されっ放しの神さまは、手をついて謝ったままの姿勢で、頭だけあげて、 「その手段として、星月を使った転生システムを作り上げたのも私……因果律を調整し、貴女の死後、神尾渓谷の休憩所に転生するようにセッティングしたの。 そこを転生ポイントに選んだのよ」 って、言葉を続けたの。
「転生システム……それで日向が転生する度、あのポイントからリスタートしてたのね。 因果律を調整するなんて、どれだけ凄い力を使えるの? 貴女は」
「その力は人智を超えた、神業によるもの。 転生システムの核である星月の体内で、前代日向との共存が始まった貴女は、私の思惑通り、ただただ眺めるだけの輪廻を繰り返し始めたわ。 その裏で私は生前の私物を適切な場所に再配置して、ここで貴女の到着を待つ事にしたの。 でも、当初数回は、貴女は長森島ですら現世日向に目撃させる事が出来なかった……その様子を見た私は、主体的に物事を判断し、現世日向を導いていく役割を担う前代日向にとって、ひらめく材料が少な過ぎると思ったの」
「ひらめく材料だって? ああーー、それで、日向に試練を乗り越えさせる素質を持つ人たちの名前を、途中の世界線から、漢字から目立ちやすい平仮名に変えてみたり、それらの人々が、長森島に渡るのに必要なスキルを日向に与える役目を終えたタイミングで地震を起こしてみたり、日向が死を迎える直前に7体の石像を出現させ、地震の回数分、後ろを向かせたりしたのね。 でも、ひとこと言わせてもらっていい? ワンチャンしかない現役、貴女の言う前代日向に、地震とか石像とかの意味を検討させるなんて無理でしょ。 私は気付いてても教えられないし……貴女の与えたヒントは欠陥だらけだったのよ」
「さすがね、日向。 全部見抜いてたのね。 今更だけど、ヒントの構築が甘かった事、謝るわ。 あと、日向の本能に、生前の私が浦安舞を舞う姿を刷り込ませ、舞を観る事でそれが呼び覚まされるように施したのも、因果律の操作によるものなのよ」
「そういう事だったのね、歴代の日向が皆、初見で踊れそうな気がしたって言ったのは。 舞の習得の速さもあり得なかったし、上達後の動きも申し分なかったし。 私にも同じ能力が備わってたとはいえ、そこまでは勘づけなかったわ」
そっかぁ、それで私、覚えるのが早かったんだね……自分の才能だって思っちゃってたよ。
本編の第51~52話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
無名神と初代日向との親子バトルが始まりましたが、ちょっと無名神が弱すぎだよね(笑)
冷徹になり切れてない、ってところを感じ取ってくれると嬉しいです。




