62 絵日記帳の世界のあのコ[1]
いつも読んでいただき、感謝です。
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今日は6月30日、ついに来たわ、[然るべき時]って考えられる日が。
丁度、古河町の記念日で、町内の学校はどこもお休み。
朝、目が覚めると、私はパジャマ姿のまま、真っ直ぐリビングへ。
キッチンに立ってたお母さんが声を掛けてくれたの。
「おはよう、ひむか。 いよいよ言ってた日が来たのね。 お母さん、ひむかの好きなモーニングセットを、腕によりをかけてスペシャルに仕上げたから。 お腹一杯食べて、頑張ってらっしゃいね」
テーブルの上を見ると、こんがり焼かれたトーストに、ケチャップのかかったスクランブルエッグ、新鮮なレタスとプチトマト、厚切りのハム、そしてミルクティー……今日は特別な感じに見えるよ。
「わぁ~~、美味しそう~~! お母さん、朝早くから私の為にありがと~~。 今日は私にしか出来ない使命だと思って、絶対やり遂げてくるよ。 じゃぁ、いただきまーーす!!」
今日はこれが最後のお食事になるかもしれないから、しっかり腹ごしらえしなきゃね。
はやる気持ちを抑えつつ、意識して味わいながら、用意してくれた食事を平らげたの。
「ごちそうさま、美味しかった~~。 じゃぁお母さん、透明化すると話せなくなるから、ここで挨拶しておくね。 行ってきまーーす!」
「行ってらっしゃい、私の自慢のひむか。 いつもの儀式もここでやりましょか」
「じゃ」 いつものように目を瞑って、お母さんと額同士を合わせて、 「「今日も良い一日になりますように!」」 声を合わせて朝の儀式を済ませると、私は寝室に戻り、衣服を脱いで透明化し、勉強部屋に立ち寄ってウサギのぬいぐるみを持ち出すと、玄関から出ていったの。
家を出て、ガゼボの手前の三叉路を左に曲がって古い参道に入ると、私は月宮神社へと向かう。
透明化するにはこうするしかないんだけど、誰の目にも私は見えないって分かってても、やっぱり何も着ないで外を歩くのって恥ずかしい……。
「あっ、ほつきが光った……何だか、久し振りだなぁ。 私を励ましてくれてるのかな」
今でも謎の存在なのよね、ほつきって。 時々光るのって、何か伝えようとしてるのかなぁ……。
葉桜の小径を通り抜け、辛~~い上りと下りの石段地獄を抜けると、やっと神社に到着。
早速、宮司さんが練ってくれた計画通りに洞穴に向かうと、既にひいちゃんが私を待っててくれてたの。
何時の間にか用意された簡易テーブルの上に、私が昨日ひいちゃんに預けた衣服が丁寧に置かれてて。
「もしかしてこのテーブル、ひいちゃんが手配してくれたのかな」
ひいちゃんの目の前でこんな事を呟いても、聞こえてないんだけどね。
私は家から抱えてきたウサギのぬいぐるみを地べたに置くと、下着を着けて実体化したの。
「わわっ! ひむちゃん!! 分かってても、モノが飛び回るのにはビックリしちゃうよ、あはは。 おはよ~~。 大変だったでしょ? ぬいぐるみ抱えてここまで来るの」
「おはよう、ひいちゃん。 驚かせちゃってごめんね。 うん、1mもあるもん、足元が見えにくくてちょっと怖かったけど、しっかり抱きかかえて持って来れたよ。 今、ここに置いたところ」
ひいちゃんが持ってきてくれた衣服をササッと着ると、 「わぁ~~、スタイリッシュで凄くおしゃれ~~。 凄く似合ってるよ~~。 ひむちゃんの新しい魅力、ここに発見だよ」 って、ひいちゃんが私のコーデを穴が空きそうなほど眺めるんだよ? 恥ずかしいなぁ。
「あはは、ありがとう。 お披露目が遅くなっちゃって……。 でもこれ、私のセンスじゃないから……そこが残念だなぁ」
「でも、誰のかは分かんないけど、コーデのバリエーションが増えたよね。 ひむちゃんのセンスとして吸収しちゃうといいよ。 じゃぁ……出発の前にちょっと寄ってほしい所があるんだけど……少しだけいいかな?」
「寄ってほしい所? うん、いいよ~~。 何処なの?」
ひいちゃんが黙々と先を歩いて行っちゃうから、私も遅れないように付いていくと、着いたのは社務所だったの。
中に入ると…… 「ひむちゃんを連れてきたよ~~」 っていうひいちゃんの声を合図に、クラッカーがパンパーーンって炸裂して、紙吹雪が舞ってきた……何、何~~っ?!
宮司さんとちかねさんがここにいるのはまだ分かるんだけど…… 「きゃっ! えっ?! あれっ?! 何でここにきゆりちゃんがいるの? みづるさんまで」 さすがにびっくりしたよ。
「やぁ、ひむか、おはよう! この前、ひいかに教室で誘われてな。 どうだ、ビックリしただろ?」
「私も、棗海岸まで出向いてお願いしに来たひいかの熱意に押されてね。 ひむか、ちょっと見ないうちに、存在感マシマシになったみたい……風格すら感じるわ」
「ひいかが二人をここに誘ったの。 これがひいかのサプライズ。 ひむちゃんを皆で励まして送り出したいな、って思って」
「ちょっとひいかちゃん、私たちの紹介はしてくれないの?」
そう言うと、ちかねさんがひいちゃんの横につかつかと歩み寄ってきて。
「ま、有っても無くても、私も励ましの輪に混ぜてもらうつもりだけどね。 ひむかちゃん、いよいよね。 目の前で可憐に舞う姿を観れないのが、すっごく残念だわ」
「まぁまぁ、ちかね。 この前、立派に舞っている姿を観たのですから、良しとしなさい。 ついにこの日が来ましたね、ひむかさん。 もう、準備は万全なのですか?」
宮司さんはいつものように、ちかねさんをたしなめながら、落ち着いた口調で私に話し掛けてくれて。
「ひいちゃん、皆……ありがとう。 これからの事を思うと、独りで心細いんだけど、背中を押してもらえて、一杯勇気をもらえて……凄く元気が出たよ。 私なりに準備は整えられたと思います。 宮司さんからは茅の輪のくぐり方と大祓詞の唱え方を、ちかねさんからは巫女衣装の着付け方と浦安舞の舞い方を、みづるさんからはカヌーの操縦の方法を、きゆりちゃんからは登山のコツと心得を、そして、ひいちゃんはいつも側にいて私を支えてくれた……皆から教えてもらったものを向こうで全部ぶつけて、もう一度ここに戻ってきます!」
私は宮司さん、ちかねさん、みづるさん、きゆりちゃんと握手を交わしてから、最後にひいちゃんをぎゅっと抱き締めたの。
「それじゃぁひいちゃん、行ってくるね。 いつもありがとう……感謝しかないよ」
「うん。 ひいかも、ひむちゃんと一緒に色んな事を体験するうちに、凄く変われたんじゃないかなって……ひむちゃんの一番そばで、ひいか、輝けたって思うの」
「私も、ひいちゃんの気持ちに応えなきゃ、って思い続けてきたから……私の一番そばには、いつもひいちゃんがいたから、ここまで頑張ってこれたって思ってるよ」
そして、皆の方に向き直って、 「皆の思いを背負って、使命を果たしてきます! では……行ってきます!!」 って力強く宣言してから、私は社務所を後にしたの。
「「行ってらっしゃい!!」」 皆の声を背中で聞きながら。
ここから先はもう誰も頼りにできないのよね……孤独な戦いになるけど、頑張らなくちゃ。
洞穴に戻ると、衣服を簡易テーブルの上に綺麗に畳みながら脱いでいき、カヌーに遺されてた、島へ渡るための服装に着替えていく。
バッチリ身なりを整えると、家から持って来たウサギのぬいぐるみを抱きかかえて、長森島へとカヌーを漕ぎ出したの。
みづるさんから教わった、カヌーを漕ぐテクニックをしっかり生かして島に渡ると、きゆりちゃんからの山登りのアドバイスを思い出しながら、長~~い上り坂をひたすら登り、月宮神社の奥宮に辿り着いたのはお昼過ぎ。
手水舎で手と口を清めてから、宮司さんに教えてもらった作法通りに茅の輪をくぐって、見よう見まねで覚えたお母さんの作法通りに拝殿をお参りすると、この前と同じように、独りでに本殿への扉が開いたの。
「ここまでは順調よね、きっと。 ここからが本番よ」
自分に言い聞かせるように、気合いを入れ直してみる。
巫女さんの衣装を着るのは、ちかねさんの教え方が凄く上手かったお陰で、今ではもう迷う事無く出来るようになったのよね。
「なるほど、これがちかねさんが言ってた、ひもろぎっていうものなのね」
私は神籬の前まで歩くと、宮司さんから教わった唱え方のコツを思い出しながら、大祓詞をお唱えしたの。
そうしたら、神籬がピカーーって輝き出して……。
「す、凄~~い! 何て神々しい輝き……祝詞を上手くお唱えできた、って認めてもらえたみたいで私、嬉しいよ」
その前で、衣装の上に略装束を身に付けて、舞衣装が完成。
私、上手く舞えるかなぁ……ちょっと不安だけど、この前と同じようにベストを尽くして頑張るよ。
小さな台の上に鉾先鈴をスタンバイさせて、檜扇を手に持つと、心を落ち着かせてから浦安舞を舞い始めたの。
この前と違って演奏が無いから、リズムを取るのが難しいなぁ。
それでも、何とかやり切ってホッと一息吐いた時、神籬から更に光が溢れてきたの。
「わっ、まぶしい……一体、何が起ころうとしてるの?」
光が落ち着いてくると、何処からともなく女性と思われる声が聞こえてきたの。
「幾つもの難題を乗り越え、長い長い旅を経て、よくここまで辿り着きましたね、私の愛しい日向よ」
本編の第49話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
一部分、このスピンオフの第40話とオーバーラップさせてます。
あの後、火雷たちと別れた日向がどういう行動を取ったのかをここで明かしていきます。




