61 渾身の絵日記帳検討会
いつも読んでいただき、感謝です。
その日の夜、夕食を摂ってから勉強部屋に戻ると、私はゆらが言ったとおり、絵日記帳を開いて内容を検討してみる事にしたの。
あ、ゆらの正体が初代の日向さんだって事は聴いたんだけど、やっぱ、ゆらって名前の方がしっくり来るんだよね、名付け親は私だし。
それに、入院中の日向さんもいて混乱しちゃうから、今までどおり、ゆらって呼ぶ事にするわ。
ゆらは、誰が生み出したのかも分かんない星月っていう存在の中で、数々の世界線の日向さんの行動を側で見守ってきたんだったわね。
そして、この絵日記帳は、ゆらにとっての最後の世界線で、生きた日向さんが書いたもの……ゆらは、星月の中から、絵日記帳に記されてるような日向さんの行動をずっと観察してた、って事になる……まずは、この大前提を頭に入れておかないとね。
夢の中であれだけ喋ってたゆらが、星月は喋れないって書かれてるのは、どう考える?
敢えて喋らなかったのか、それとも言葉を封じられてたのか……有効な手掛かりは持ってないわ……この件はパスね、うん。
そして星月は、日向さんに超常現象を見せる役割を担ってる……って事は、この絵日記帳に書かれてるものの幾つかは、超常現象に当てはまるのかな……どちらかと言うと、普通に存在するものの方が多いように思うんだけど。
日向さんを透明化させる? って言うのも、私が今持ってる情報じゃ、全く手掛かりが無いからパスだわ、ふう。
絵日記帳の世界線では、日向さんのママは明美さん、って事は前に考察したとおりだけど、現実では月美さんなんだよね……ママが変わるほどの大きな差分って、どういういきさつがあって起こったんだろう。
私が見た夢では、日向さんが2歳の頃に明美さんが引き取って育てた、って話になってたけど、それより前に何か大きな秘密があるんじゃないかなぁ。
でも、そこを探るのは無理なのよねぇ……。
ウサギのぬいぐるみは、月美さんと明美さんとの友情の証として存在してる、って話もあったわね。
明美さんが住んでた家で、月美さんに現物を見せてもらったけど、これも普通に存在してた……超常現象って呼べるものかしら、疑問ね。
ゆらがお母様って呼んでたのって、ホントに明美さんなんだろうか……前にゆらが言ってた、神様が出てきて罰を与えるほどの大きな過ち……話のスケールが大き過ぎて、どうも明美さんのイメージと結び付かないのよね。
カヌーに関しては全く手付かずだけど、長森島なんて連絡船で手軽に行けるほどの場所なのになぁ……敢えてそれを使わない理由が分かんないのよねぇ。
それにそもそも、長森島なんてあんな大きなもの、超常現象じゃなきゃ見えないなんてあり得ないでしょ。
ダメねぇ、どうしても先入観が入ってしまうわ……。
月宮神社の奥宮には、実際に私も足を運んでみたのよね。
普通に存在してるものを、神社で一番偉い人が否定する……神社とか主祭神とか、一般に知られてる事に対して嘘を吐く意味なんて、到底思い付かないわ。
茅の輪くぐりについてはママに訊いたばっかだけど……ここに書くって事は、超常現象っていうより、何かしら重要だって日向さんが考えたからなのよね、うーーん……大祓詞に関しては、まだ手付かずだけど、ちょっと気になるのは、どっちも犯した罪や穢れを祓うっていう点では似てる、ってとこね。
罪を祓う、かぁ……ゆらのママが犯した罪……繋がってない訳じゃないけど……。
そして、奥宮で日向さんが見付けた衣装と小道具……これらは浦安舞を舞う時に使うもの、っていうのはママからも裏が取れてる話よね。
ここまでの事を頭に入れて、一番不可解な手紙の内容を考えてみるとしますか。
日向さんがカヌーの中で手紙を見付けるシーンを、最初、私は宝探しゲームの一コマだって考えたんだけど、そうすると文章が重過ぎる、って感じたのよね。
文頭の[愛しい貴女]……これって、相当強い愛情を持ってる相手に向けての呼び掛けだよね。
名前じゃなくて貴女ってところが、ちょっと畏まってるって感じはするけど。
家族ほどじゃないけど、日向さんに向けた、包み込むような温かさを感じるわ。
[現世の貴女]って言うのが、この手紙を発見した日向さんを指してる、って事は明白ね。
だって、日向さん自身が私宛てっぽい、って考察してるんだもん。
そして、それとは別に[貴女]って呼ばれてる人……これは日向さんとは違う人だと考えるわ。
現世の、っていう言葉を付けないって事は……対照的な表現を考えたら、この[貴女]は現世じゃない貴女って事になるけど……。
文面から読み取ると、日向さんに寄り添って、この場に居合わせてる人、って事よね……そして同時に、文頭の愛しい貴女にも繋がっていくのよね。
長い旅を経て……一見、このカヌーを見付けるまでの過程の事かな、って思わされたんだけど、もしかするともっと大きな意味……星月の中で何十代もの日向さんを見守ってきた、ゆらの事を指してる、って考えられないかしら。
仮にそうだとすれば、現世じゃない貴女にも、この場に居合わせてる人にも、当てはまりそうだけど……でも、そう考える為には、手紙の書き主が、意味不明な星月のシステムを知ってる必要があるのよね。
ちょっとこの線で考えるのは、詰めるのが難しいかな……他に居合わせてる人の情報も無いし、この件も保留ね、はぁ。
そして、手紙の書き主を呼び出す手順は、私が遺した衣装を身に付け、私が遺したカヌーを使って長森島へ渡り……って、ん? ちょっと待って! 私が遺したって、この手紙の書き主、既に亡くなってるって事にならない??
これって、長森島で亡くなった手紙の書き主を蘇らせる作法だったりするのかな。
呼び出す、って表現が生き返らせる事の隠語として使われてるとしたら……オカルトじみてるわね。
私が住むこの世界だと、長森島で亡くなったって聞いたのは安民さん……日向さんの父親だから、愛しい貴女っていう畏まった表現に少し違和感は感じるけど、可能性が無いとは言い切れないわ。
でもそれだと、遺した衣装が女物だって事が引っかかるのよね……自分が着てたもの、って決めつけるのも良くないのかもしれないけど、どっちにしても、手紙の書き主を特定できるほどの有力な情報は無いわね……うむむ。
それで、長森島に渡った後に、然るべき時に、然るべき場所で、然るべき衣装で、然るべき所作をもって、なのよね。
これに関しては、すぐ後に答えが記されてるわ。
時は6月か12月の末日。 場所は奥宮の本殿内、衣装は千早を加えた衣装、所作は鉾先鈴を加えた採物を用いて浦安の舞を舞う……どれもこの絵日記帳で採り上げられたものばかりね。
これらの条件を満たして、手紙の書き主を呼び出した日向さんがするのは、その人を論破する事……ツッコみたいとこは一杯あるんだけど、蘇らせてまで戦わせる論点って、一体何なんだろう。
いや、見誤るところだったわ。
論破するのは日向さんじゃなくて[貴女]……つまり、側にいる誰か、ね。
ダメだ、空想をいくら働かせても、あまりに世界観がぶっ飛び過ぎてて、何一つ上手く考察できなかったわ。
絵日記帳には記載が無いけど、実際、論破は果たせたのかな。
そんな事を考えてるうちに、頭がオーバーヒートして、強い眠気が襲ってきたの。
神様、私の頭では、これくらいの考察で精一杯みたいです……おやすみなさい。
☆今回気を付けた点☆
今回は絵日記帳の内容について、火雷に考察させました。
得られた情報の範囲で、自分だったらこう考えるかな、って感じで文章に起こしてみました。




