59 心の深い傷を少しでも……
いつも読んでいただき、感謝です。
今回の夢、一体何だったの?
転生なんて、ミステリーを通り越して、ファンタジーじゃない。
リアルでは到底起こり得ないストーリーだったんだから、ハナから無視したいとこだけど、それがそうもいかないのよね……だって最後、神尾渓谷の例の休憩所が舞台になってるって分かっちゃったんだから。
記憶にしっかり残ってるうちに、出来るだけ考えてみる事にするわ。
小説と違って、もう一回見たくても見れないもの。
登場人物が3人いたけど、みんな日向なのよね。
まず、休憩所で星月を発見した日向でしょ?
それから、生前の立ち振る舞いを失敗だって何者かに判断された挙句、海で命を落とした日向は[元・日向]で、星月の中に転生したのよね。
で、その元・日向を星月の中に迎え入れたのが、何十回も日向の死に直面してきたっていう初代の日向で、この二人は星月の中に共存してる、っと。
でも、どういう仕組みで星月の中に転生し、誰がそんなシステムを作り上げたのかは誰も知らないなんて……これに関してはイミフ過ぎてお手上げだわ。
でも、いくつか引っかかる点があるのよね。
まず、絵日記帳にあった[ほつき]に関する記述……神尾渓谷の休憩所で発見した、っていう一文とぴったり符合してるし、日向が[おそらく意思を持ってると思うし、言葉を理解できるとも思う]って記してたのも、中にこの二人の日向がいるんだから当てはまりそうだし。
それと、[舟その2]に書かれてた手紙の内容……[現世の貴女の立ち振る舞いを、心より褒め称えます]とかってやつ。
最初読んだ時は深い意味が考察できない文章でしかなかったけど、[立ち振る舞い]っていう共通のキーワードが出てきたとこをみると、絵日記帳の世界と私が見た夢の世界ってリンクしてるって考えられないかしら。
ひょっとすると私、絵日記帳の持ち主である日向の追体験をさせられたんじゃないかな?
この3人の日向は、みんな一度ずつ日向として生きてる訳だから、そのうちの誰か1人が持ち主とか……うーーん……。
その日の下校時間。
私、その後、祐子はどうしてるんだろう、ってどうにも気になって、隣のクラスに寄ってみたの。
丁度良いタイミングで委員長の智子と目が合ったから尋ねてみると、祐子は今日一日、体調を崩して休んでるって教えてくれて……昨日、あれだけのショッキングな出来事に巻き込まれたんだもん、心に深い傷を負ってるんじゃないかな、やっぱ。
同じ場所に居合わせて、事情を知ってるのは私だけなんだから、声を掛けて少しでも祐子の気持ちをほぐしてあげたいって思うんだけど……こういう時は電話じゃなく、直接面と向かい合ってじゃないと、それができないって思うのよね。
智子に、祐子をお見舞いしたいから家を教えてほしいの、ってお願いしたら、凄く不思議そうな顔されちゃって……確かに、普段からそれほど密なお付き合い、してないもんなぁ。
昨日の出来事をかいつまんで智子に話したら、それなら私も行く予定にしてたから一緒に行きましょう、ってオッケーしてくれたの。
お互いに委員長をしてるから、クラスメイトを心配する気持ちが前面に出ると、心に響きやすいのかな。
ピンポーーン……祐子の家に着き、玄関にある呼び鈴を鳴らすと、しばらく間があった後、ママと思われる女性が出てきたの。
「こんにちは、お母様。 突然の訪問、失礼します。 祐子さんのクラスで委員長を務めております、智子と申します。 体調が優れず学校を休むとの旨を担任から伺い、今日は見舞いに上がりました。 隣のクラスの委員長から同伴したいとの申し出があり、こうして二人で参った次第です」
ささっとママと挨拶を交わす智子……さすがね。
「火雷です。 昨日、一緒に町立病院へ日向さんのお見舞いに行った時の事が気掛かりだったところに祐子が学校を休んだって聞いて、居ても立ってもいられなくなって……」
「あーー、貴女が娘が言っていた火雷さんなのね。 昨日のいきさつについてはある程度聞いています。 娘にはショックが強過ぎたみたいで……昨夜からずっと部屋で寝込んでしまって」
「ごめんなさい、私が無理に連れて行ってほしい、って祐子にお願いしたがために、こんな事に……」
まずはとにかく頭を下げたかったの。
「いえいえ、貴女に非があるとは思えないわ。 どうして日向ちゃん、そんな反応を見せたのでしょうね……激高するなんて想像もできない、穏やかで明るい子だったのに……不幸な出来事だったと受け止めるしかないわ」
「日向さんと良い関係だった分、なおさらあの変わりようを見て、祐子の心に刺さっちゃったのかな?」
「そうね。 娘は今も、その出来事を受け入れられないままでいるみたいで……」
「服装やアクセサリーも、日向さんの記憶に残ってるものを、って考えてたみたいで、忘れられたくないって気持ち、祐子から伝わってきてたから……大切な友情の間に割って入ってしまって、私……」
「貴女も昨日の事で心に傷を負っているみたいね。 自分を責めないで」
「はい……。 私の事よりも、祐子の気持ちの乱れを少しでも癒したくて、ここに来たんです」
「貴女は強いのね。 昨日の件を一緒に体験していない私では、娘に声は掛けてあげられても、心に寄り添うのは難しくて……」
「おばさま、私にその役目、任せてください」
私がそうお願いした時、ママの後ろに丁度祐子が現れたの。
見た目にも気落ちしてるのが伝わってくるほど……私、上手く接する事、できるかなぁ。
「祐子さん、突然ごめんね。 体調が心配だったからお見舞いに来たの。 隣のクラスの委員長も一緒よ」
智子は、私が一緒にここにいる事を、さりげなく祐子に紹介してくれたの。
「智子ちゃんと……火雷ちゃんまで?! わざわざ私に会いに来てくれたの?」
「ごめんね祐子、いきなりお邪魔したりして。 昨日の事が心に引っかかってるんじゃないかって、ずーーっと気掛かりで……どうしても直接、顔を見ながら声を掛けたくて」
「火雷ちゃん……私の事を心配してくれてわざわざ……ありがとう。 そうなの、私、昨日の日向ちゃんの姿があまりにもショックで……」
「去年、日向さんに異変が起こった後も、ずっと側に寄り添ってきたのよね、祐子は。 日頃から溜めてきた辛い思いを、私が爆発させるきっかけを作っちゃって……ホントにごめんなさいっ!!」
私、躊躇なく玄関で土下座してた……例え思い当たる原因が自分に無いとしても。
「だ、ダメだよ、火雷ちゃん!! そんなに謝らないで!! 私が連れて行ったのが失敗だった、って考えるのがもっと辛いんだから」
「あ……分かったわ、祐子。 ところで、聞いてもらいたいお願いが一つあるんだけど、いいかな?」
「お願い? うん、私に出来る事だったら。 言ってみて」
ここでゆっくりと深呼吸して、意を決する。
隣では智子が、一言も挟む事無く、私の言う事、やる事を見守り続けてる。
「じゃぁ……少しだけハグ、させてもらってもいいかな」
「ハグって、えっ?! さすがにそれは恥ずかしいよ~~」
そう言われても、私はじっと表情を変えず、祐子の目を見詰め続けたの。
「……私の為、なのよね? 分かったよ、お願いしても、いいかな?」
「ありがとう、祐子。 でも、私の為でもあるの。 とにかく酷いの、心のザワザワが」
私がそう言ってる間も、祐子は緩い直立不動の姿勢をとったままで。
黙って頷いてくれたのを確認して、私は両腕を祐子の背中に回したの。
十秒くらいそのままでいた頃かな……祐子の身体が震え出して、しゃくりあげる声が聞こえてきて……。
「わ、私、どうしちゃったのかな……勝手に涙がボロボロ出てきちゃったよぉ……」
「祐子、今までずーーっと溜め込んできた日向さんへの辛い思いを、ここで全部吐き出しちゃってよ」
私にそう言われて心の堤防が決壊したのか、ハグされたまま、祐子は遂に声を上げて大泣きしちゃったの。
「私、心から願うわ。 日向さんが元気な姿に戻れますようにって」
「ありがとう、火雷ちゃん。 日向ちゃんが元に戻ったら、周りの人たちもきっと笑顔になるはず。 明るい未来を想像したら、ちょっと元気が出たみたい、あはは。 私までが笑顔を失っちゃダメだよね」
良かった……祐子の表情と声色に、ちょっとだけ明るさが戻ってきたみたい。
ずっと私たちの様子をそっと眺めてたママにも安堵の表情が浮かんで。
「智子さんも、火雷さんも、娘の力になってくれてありがとう。 前向きな気持ちを取り戻す事が、心の傷を癒す薬になると思うわ。 祐子、学校に貴女の事を思ってくれる味方がいるんだから、明日からはもう大丈夫よね?」
「うん、智子ちゃんとは前からだけど、火雷ちゃんともこんなに仲良くなれて……雨降って地固まる、って言うのかな、こういうのって、あはは」
「何だか違う気もするけど、ま、そういう事にしときましょ。 祐子の表情が明るくなって、これで私も心の支えが取り除けそうだわ」
祐子にそう言うと、私はママに向き直って、 「おばさま、今日は押し掛けた形になっちゃったけど、これも日向さんが作ってくれた縁だと……これからはどうか、祐子と仲良くさせてください」 って、前向きなお願いをしたの。
「良かったわね、祐子。 こんな良いお友達と巡り合えて」
「うん、ママ。 ありがとう、智子ちゃんに火雷ちゃん。 また明日、学校でね~~」
「ええ。 また学校で。 可愛いは正義、の祐子さんに、涙は似合わないんだから」
ママと一緒にずーーっと大人しく一部始終を見守ってた智子も、ホッとしたみたい。
私も、祐子の心を癒してあげられて、上出来な一日になったよ。
「祐子さんとのやりとりをずっと傍観させてもらったけど、火雷さんって、相手の気持ちに寄り添える人だったのね。 なるほどなぁ……私、今回定期試験で貴女に負けたけど、心でも負けてたわ」
「智子……私、勉強では貴女には一生叶わないって思ってたの。 でも最近、気持ちが凄くアグレッシブになって、色んな事に頑張ってみよう、って思えるようになってきたの。 貴女にライバルって思ってもらえるように、これからは頑張るわ」
「ライバルがいる方が心の持ちようも違ってくるもの。 分かったわ、これからは切磋琢磨しながら頑張りましょ」
智子と一緒の帰り道、話しながら歩いたんだけど、考えてみたら、ここまで面と向かってお喋りした事って無かったわ。
絵日記帳を拾ってからの私……色んな事が好転してるんじゃないかな、って思えるわ。
☆今回気を付けた点☆
火雷と祐子の会話を書き上げるのに苦戦しました。
そこに重点を置き過ぎたために、祐子の母親と智子は傍観役に徹してもらう事になりましたが(笑)




