58 あのコと初めてのご対面だったのに……
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日曜日、祐子と約束した待ち合わせ場所、古河町駅の駅前広場に着いた瞬間、 「お~~い、火雷ちゃ~~ん!!」 って、通る声がこっちに飛んできたの。
あはは……右腕をもげそうな勢いでブンブン振り回して、ここにいるよアピールしてるわ。
軽く右手を挙げて応えると、私は祐子のもとへと駆けていったの。
アイドルが着るような、ピンクのフリフリしたワンピースに、ショルダーバッグには黄色いクマのぬいぐるみ……何処にいても一瞬で場所を把握できそうで、楽でいいわ。
ま、病院に着ていくのにふさわしいか、って言えば微妙だけど。
「ごめ~~ん祐子、待たせちゃったかな?」
まだ10分前なんだけど、これは後に来ちゃった人の礼儀ってやつよね。
「ううん、私もさっき来たばっかだよ。 じゃ、早速病院へレッツゴ~~!」
病院とレッツゴーって組み合わせ、あんまりしっくりこないわね、あはは。
電車で棗海岸方面へ2駅乗って、古河町立病院前駅に着いたのは、お昼前。
駅の名前通り、病院は目の前だから、歩くのは3分くらいだったわ。
病院に入るとササッと私の前に歩み出て、迷いなく受付へと向かってく祐子……結構頼りになるのね。
早足で私のとこに戻ってくると、 「面会のお許しが出たから、向こうのエレベーターに乗るよ~~」 って、手際良く誘導してくれて……普段のふんわりした雰囲気からすれば、意外だわ。
地下2階でエレベーターを降りると、そこでも受付で祐子がやり取りを交わし、面会の手筈を整えてくれたの。
「ささ、火雷ちゃん、こっちだよ」
小声で囁き気味に私に声を掛けると、祐子は広い部屋へと連れて行ってくれて、そこでしばらく待ってると、看護師さんかな、女の子を連れて入ってきたの。
「日向ちゃん、私よ、祐子よ。 ほら、黄色いクマ、ここに付けてるでしょ? 可愛いって褒めてくれたワンピ、今日も着てきたよ~~」
あの子が日向……イラストで見たのよりやつれてるような。
立ち止まったまま、祐子に視線を合わせるような合わせないような微妙な表情で、日向はぼーーっと眺めてる。
これは……何って言ったらいいんだろう……生気がない、って言うよりもっと……魂が抜けてるって感じ?
「今日は日向ちゃんにプレゼント、持って来たんだ~~。 ほら、ウサギのポシェットだよ。 文房具屋さんに特注をお願いして取り寄せてもらった限定品なんだよ~~」
祐子がそういうって事は、日向はウサギグッズが好きなんだろうな。
そう言えば、この前見た夢に出てきた日向も、ウサギ好きだって考察されてたわね。
でも、そんな好物を目にしても、日向の表情はほとんど変化が無くて……。
「日向ちゃんに似合うかな~~」
ただ立ち尽くしてる日向の前に立つと、祐子はポシェットを肩に斜め掛けしてあげたの。
「うんうん、やっぱ、日向ちゃんはウサギが似合うよね~~」
そう言いながら祐子は日向の手を取り、両手で包み込むように握手してあげてるんだけど、日向はただ祐子にされるがままで、包まれた手をぼーーっと眺めてるだけ。
「そうそう、今日は日向ちゃんに会わせたい子がいるんだぁ~~。 知ってる? 火雷ちゃんだよ」
そう言って手招きしてくれて……私が日向の方に向かって歩き出し、視線を合わせたその時だったの。
沈黙を守ってた日向が、突然、唸り声をあげて暴れ出したのは。
「う~~~~ぐぅ~~、ぐわぁ~~、ぶぁ~~」
このままだと私、襲われる……さすがに後ずさりしてしまったわ。
祐子も突然の出来事にびっくりして固まってたけど、ハッと我に返ると、看護師さんと協力して日向を取り押さえたの。
「どうしたの、日向ちゃん……こんな姿見るの、初めてだよ……」
私は部屋の隅から動けず、ただ状況を見守るだけで……。
「ごめん、祐子……私、何か日向さんの気に障る事、してしまったみたいで」
「ううん、ああなった理由は分かんないけど、火雷ちゃんが悪い訳じゃ無いと思う。 でも、これじゃ、面会はもう無理よね」
祐子は看護師さんに深く頭を下げると、私に退散するよう促してきたの。
病院を後にして駅に向かう間も、電車に乗ってる間も……祐子の頬には涙が伝い続けてて……。
私はただ、時々しゃくりあげる祐子の背中をさすってあげる事しか出来なかったわ。
その日の夜に見た夢は、傷付いた私の心を映し出すような、無茶苦茶な内容だったの。
・・・・・・
そろそろ来る頃ね……もう何十人目なのか、数えるのもとっくに止めちゃったけど、一体こんな事、あと何回繰り返せば許してもらえるの……。
近くを漂ってる気配を感じるわ……こっちに導いてあげるとしますか。
「おーーい……おーーい……おーーい!……おーーい!!」
こんなに何回も呼び掛けるのって初めてよ……今度の子は随分ぼーーっとしてるのかな。
「は、はーーい!! 誰か、私を呼んでるの?」
「そうよ。 やっと意識が戻ってきたみたいね」
「意識が戻る? 私、意識を失ってただけ? って事は、生きてるの?」
「貴女が海に身を投げて命を落としたのは事実だけど、生きてるとも言えるの」
「命を落としたけど生きてるって、どういう事なの?? 真っ暗だし、感覚も無いし、ただ、貴女の声が聞こえてくるだけ……どうなってるの?」
「生きてるのは心、って言えばいいのかな。 日向として生きてきた記憶は残ってるでしょ?」
「そう言われると……海に入水したところまでの記憶は、はっきり残ってるよ」
「貴女は生前の立ち振る舞いを”失敗”って判断されたのよ。 最後、抗えない何者かの意思によって、人生の清算を強要されたんでしょ?」
「立ち振る舞いが失敗って、どういう意味なの? さっぱり分かんないよ……。 お母さんとも、周りの人たちとも、普通にお付き合いしてきたつもりなのに……何で私がこんな目に……」
「私にも、貴女がどう立ち振る舞えば正解だったのかが分かんないの。 私の物差しじゃないから。 それに、抗えない何者か、って言ったけど、それが誰かは分かんないの。 でも、その何者かに試されてるのよ、私も、貴女も」
「立ち振る舞いとか、抗えない何者かとか……さっきから貴女が言ってる事、さっぱり意味が分かんないよ……」
「おいおい貴女にも分かるように説明していくわ。 貴女は一度の失敗だけだけど、私なんて、もう数え切れないほど……何十回も失敗し続ける日向の姿を見てきてるんだから……泣きながら教えを請いたいくらいよ」
「何十回もって、数え切れないほど、私みたいに命を落とす日向の姿を繰り返し見てきた、って事なの?」
「その通りよ。 失敗って判断された場合、何者かの強い意志によって最期は必ず命を落とすように仕向けられて、お決まりの言葉が頭に響く事になるの。 [今回の立ち振る舞いも失敗よ、日向]ってね」
「その言葉、私も最期に聞いたよ……。 ところで、さっきから凄く気になってたんだけど、貴女の声って私そっくりだなって……一体何者なの?」
「今ここで名乗っちゃってもいいけど、もう少ししたら嫌でも分かるから。 貴女の目で確かめるといいわ」
「目で確かめろって言ったって私、何も見えないんだよ? もう……一体何が言いたいの?」
「もうすぐ視覚が戻ってくるから。 その時、嫌でも貴女が今置かれてる状況を理解する事になるわ」
この後の展開は、もう数え切れないほど経験してるから。
木製のドアをコンコンコンって叩く音が聞こえ ⇒ 「お邪魔します!」 ってハキハキした女の子の声が聞こえ ⇒ ドアが開くような音が聞こえ ⇒ 木の床を踏むきしんだ音が聞こえ ⇒ 足音が数回聞こえたら立ち止まる、を繰り返すの。
「誰かが近付いてる気配を感じる……息遣いが聞こえてくるもん」
真っ暗で状況が分からず、音に過敏になってる彼女の隣に寄り添ってあげる。
ぶんぶんと風を切る音が聞こえてきたら、いよいよ来る……あの瞬間が!
「ひゃーー!! な、何か、凄い力で引っ張られた感じがーー!!」
ここで、一気に視覚が広がってくる……また幕を開けたわ、ここからの悪夢が。
隣にいる彼女は今、自分が一体何処にいるのか必死に考えてるはず。
自分の足元から、斜め前方に伸びる腕を見る事になったんだから。
「今の衝撃は、テーブルから日向の肩の方へ、強制的に身体を吸い上げられたからなの」
「日向の肩へ、吸い上げられ……って」
そう彼女が呟いた瞬間、 「ひゃぁ~~!! う、動いたーー!! もしかして、見えちゃいけないものが見えちゃってる??」 って、目の前にいる、この世界線の日向が叫び声を挙げて。
「きゃーーーーっ!! びっくりするよぉ、近くでそんな大きい声出されたら!! ……って、あれっ? ちょっと待って……この状況、どこかで見たような……あっ! 新入生歓迎登山の時、休憩所で……しかも日向の右肩にいるって事は……」
「どう? 今の状況、もう理解できたでしょ? 貴女は今、星月としてこの世界線に転生したのよ」
「えーーっ!! あの星月に、私が、転生??」
「そうよ。 今度はこちら側から星月として日向を見守る事になったのよ」
その時、外から 「1年生、集合~~!!」 って保体委員の声が聞こえてきて、日向は外へ駆けだしていく。
「このまま日向の肩の上から星月として、って事だよね……信じられないけど、今の状況は何とか飲み込んだよ。 ところで、貴女って一体何者なの?」
「私も貴女と同じで、生前は日向だったの。 だけど初代の、だけどね」
「初代の日向? 一体どういう事なの?」
「私も日向として生き、命を落とした後に、新しい日向の側で星月の中に転生したの。 で、その日向が死んだ時、そこから転生した2代目の元・日向が星月の中に更に現れて……つまり、今と同じように、星月の中に私と、元・日向が共存する、って事ね」
「転生、共存……話が難しいなぁ。 でも、それだったら、日向が転生すれば転生するほど、星月の中に元・日向が増えていく、って事になるよね?」
「それなんだけど、3代目が生まれた瞬間、2代目が消えたの。 星月の中には、初代の私が常駐し、最新の元・日向が共存するってシステムみたいね。 記憶は私が見届け続ける事で積み重なっていく……歴代の元・日向の記憶を継承してるって事になるかな」
「もう、常識なんて度外視したような能力だよね、それ……どうやって貴女はそんなの編み出したの?」
「それが、私にも全く分かんないの。 最初から有無を言わさず転生させられてて……。 こんな途轍もないシステム、人間業じゃないよ、絶対に」
「それで貴女は、何者かに試されてる、って言ったんだね……」
「こんな不可解な事、あれこれ考えてもどうにもならないよ。 それより、視界が開けた今なら、お互いの姿が見えるでしょ?」
「ああ、そう言われれば……貴女は青白く、私は薄い橙色に光り輝いてるのね。 で、姿形はお互いにそっくりそのまま日向……」
「その通りよ。 私も貴方も、日向が転生した存在、って事は共通だからね。 それと、お互いの呼び名を決めておきたいんだけど、慣例通り、私は初代、貴女は現役、でいいよね?」
「慣例通りね……もう貴女に全てをお預けするしかないもん、私。 分かったよ、貴女が初代で、私が現役、って事ね。 これからよろしくお願いします」
・・・・・・
シーンの一部は本編の第20話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
星月の転生システムを夢の中に引用しましたが、本編では現役視点だったのを、初代視点に替えて書き直すのに苦労しました。
火雷視点では知り得ない情報なので、夢の中でって事でここで初出しました。
このシーンを物語上、外す訳にはいかないのです。




