56 あのコの影を追って
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その翌日、ママから、月宮神社で月美さんから正式に依頼を受けた、って聞いたの。
リビングの椅子に座り、右手に鈴を持って、シャリンシャリンって澄んだ音を響かせてる。
「ママ、それって巫女さんが舞で使う道具なんだよね?」
そう言えば前に絵日記帳で見た、小道具のイラストにそっくりだわ。
「そうよ、これは鈴。 しかも、鉾先鈴っていう、浦安舞の時にしか使わない特別なものなの」
そうだった、そんなような事が書かれてたの、思い出したよ。
「浦安舞って、そんなに特別な舞なの?」
「そうねぇ……浦は”こころ”を、安は”安らぎ”を意味してて、平和を願う為に作られた舞だそうよ。 ママも若い頃に一所懸命覚えたんだから……懐かしいわぁ」
「平和を願う、かぁ。 そのお陰で、家族みんなが平穏な生活を送れてるのかなぁ」
「あら、火雷ったら、そんな事言うなんて、ちょっと変わったわね。 以前は神様なんて全く興味無いって感じだったのに」
「うん……確かにそうね。 絵日記帳を手にする事になってから、何かと神様を意識して祈ったりする機会が増えてるもんなぁ」
「へぇ~~、火雷もちょっとだけ、ママの血を引いてるんだ」
「ちょ、ちょっとだけじゃないわよ。 完全に引いてないと、私、何者なの? ってなっちゃうじゃない!」
「こらこら、言葉尻を捕らえないの。 血は争えない、って言えばいいの? 正真正銘、火雷はママとパパの娘なんだから」
「あはは……冗談だよ~~。 ところで、そこにあるのは扇なのよね? 金ぴかで凄く豪華!」
「そうよ、これも特別な扇なのよ。 ここに描かれてる鳥は鳳凰で、昔の中国では優れた皇帝が現れる時に姿を見せる、って言われてたそうよ。 そこから、人生の転機になるような良い事が起こる前触れに、って考えられるようになったみたい。 その鳳凰が松の枝を咥えてる姿が描かれてるのよ。 格式が高いでしょ?」
「鳳凰って、凄く縁起の良い存在なんだ。 さっきの鈴と言い、この扇と言い、実際に見るのとイラストとでは感じるものが全然違うわ」
「実際、これらの採物を手にしたら心が引き締まるの。 心を清らかに整えなくちゃ、って」
「ママ、その鈴と扇って、神社から借りてきたものなの?」
「もちろんよ。 普段は月美ちゃんの従姉妹の巫女が使ってるものをね」
日曜日は家での勉強にしっかり充てたわ。
12月になって、いよいよ日に日に寒くなっていく……私、あまり得意じゃないのよね。
小さい頃なんて、毎年のようにあかぎれを両手に作ってたし、何かと気分も億劫になっていく……お日様からパワーが貰えなくなるのも関係してるのかしら。
それにしても、化学の元素記号はアルファベットだし、物理の計算式はギリシャ文字が一杯出てくるし、ホント覚えにくいよね。
ここは日本なんだから、いっそのこと、漢字とかにしてくれないかしら。
水素は水、炭素は炭、酸素は酸とか……でも、もしそうだったら、化学式書く時、画数が多過ぎて大変だわ……つまらない事考えずに集中しよっと。
そう言えば、ママは随分朝早くから神社にお出掛けしていったなぁ。
何でも、昔の感覚を取り戻すとかで、朝の掃除から参加するんだとか。
仕事が休みのパパも、ママに付いていったし、家には私だけ。
ま、夫婦でお出掛けできる機会が出来たんだし、邪魔しちゃいけないわね……勉強に集中集中っと。
月曜、火曜、水曜と期末テストに全力をぶつけたところで、早速、そそくさと教室を後にしようとしてる木柚梨を捕まえてみたの。
「木柚梨~~、ちょっと待ってぇ~~」
あはは、ちょっと驚いた顔してるわ。
「ん? 誰が私を呼んだのかと思ったら、火雷か……随分珍しいな」
「ああ、そうだね。 木柚梨は私とは住んでる世界が違い過ぎるから、声が掛けづらくて」
「いやいや、同じ星に住んでる人間だから。 確かにせかせか動き回ってて捕まえにくいか。 で?」
「あ、木柚梨って、去年学校を辞めちゃった日向さん、知ってる?」
「日向か、ああ、知ってるぞ。 去年の新入生歓迎登山で調子を崩した時、保体委員の私が介抱したからな」
「なるほど……実は私と日向さん、小学校の頃から一回も同じクラスになった事が無かったみたいで」
「何? まるで同じ星に住んでないみたいだな、あはは。 よっぽど日向と相性が悪かったんじゃないか?」
やり返されてしまった……やるな、木柚梨。
「相性って……たまたま巡り合わせが良くなかっただけだ、って思うんだけど。 あ、それで、日向さんの事について教えてほしいの」
「別に良いけど、どうしたんだ、急に。 もう日向は学校には来ないんだぞ」
「そうなんだけど、ちょっとね。 噂で突然口が利けなくなったって聞いて、どうしてそうなったのかが急に気になったの」
「ああ、それなんだが、私にもよく分からないんだ。 神尾渓谷で集合場所に使った広場、覚えてるか?」
「はっきりとは覚えてないけど、トイレとかログハウスとかがあったような」
「ああ。 そのログハウスから日向が独りで出てきた時から、様子がおかしくなったんだ。 視線が定まらず、ぼーーっとした感じでな。 私が何を尋ねても答えてくれずで。 口は動いてたんだけどな」
「やっぱ、声が出なくなった、って事ね。 何か衝撃的な体験でもしたのかな?」
「それが分からないんだ。 あの後、私もログハウスに入ってみたんだけど、特に変わったところなんて無くてな」
「ふ~~ん……ありがとう、木柚梨。 あ、もし知ってたら、日向さんが仲良くしてた友達を教えてほしいんだけど」
「仲良く、かぁ。 そうだな、それなら祐子かな。 よく二人でつるんでるとこを見たからな」
「祐子……隣のクラスの可愛い子ね。 有難う、参考になったわ」
「ああ、じゃぁな。 何だか分かんないけど、健闘を祈ってるぞ」
そう言って右腕を高々と挙げながら、木柚梨は教室を出ていったの。
早速隣のクラスに向かい、祐子の姿を探してみると……4人で固まってだべってるグループの中心に見付けたの。
「あの~~、祐子~~」
「えっ、私?! 火雷ちゃんが私に声を掛けてくるなんて、珍しいなぁ」
私、声を掛ける度に珍しいって言われちゃってるわ……もっと幅広い交流を頑張らなくちゃ。
「あはは、びっくりさせちゃってごめん。 ちょっと祐子に訊きたい事があって……」
「私に?! 勉強の事ならムリだよ~~。 火雷ちゃんには敵わないもん」
「いやいや、期末試験、さっき終わらせたばっかじゃない。 しばらく充電期間よ」
「あ、良いなぁ、その言葉。 いただきっ! 私なんて年中充電期間だよ」
いやいや、それ、自慢にならないから。
「あ、ごめん。 お友達の間に入っちゃうの、悪いからまたにするわ」
「ううん、折角声を掛けてくれたんだもん。 話を聴くわ」
祐子がそう言うと、周りにいた3人の女の子は目配せしながら散っていったの。
「何だかだべり会のお邪魔しちゃったみたいで……ごめんね」
「いいのいいの。 彼女達とはまた明日もだべれるんだから。 火雷ちゃんとは何年かに一回、あるかないかだもん」
「そんなにレアなの、私との会話って。 祐子と喋ってると、ほのぼのとしてて自然と笑顔になるわね」
「そう? そう言われると嬉しいかな」
この子のペースに引き込まれ続けてると、話が進まないわね。
「あはは。 そろそろ本題に行くわよ。 訊きたいって言ったのは、日向さんの事なの。 木柚梨から祐子が仲良くしてたって聞いてね」
すると祐子の表情がみるみるうちに曇っちゃったの。
「日向ね……学校を辞めちゃって一年以上になるのに、まだ覚えてくれてた子がいたんだ……嬉しいよ。 で、私に何を訊きたいの?」
「うん。 知ってたら教えてほしいの。 日向さんは今、どうしてるのか。 急に気になって……」
「いいけど……火雷ちゃんって日向ちゃんと仲良かったの? あまり喋ってるとこ、見た事無いんだけどなぁ」
「ううん、実は一度も同じクラスになった事が無かったんだけど、ふとしたきっかけがあって、今になって気になっちゃって……」
「ふとしたきっかけ……かぁ。 ま、やんごとなき事情があるみたいだね」
やんごとなきって……言葉のチョイスもなかなか面白いわね。
「日向ちゃんは去年の6月で学校を辞めちゃったの。 最初は言葉が喋れなくなって、その後、ぼーーっとする事が増えてきて、辞める頃には魂が抜けたみたいになっちゃって……」
月美さんが言ってたのと同じだわ……身近で日向が変わっていくのを観てたのね、祐子も。
「木柚梨にも少し訊いたんだけど、どうしてそうなったのか分からないって」
「うん。 私もさっぱり……。 訊こうとしても話せないんだもん。 私、今も時々お見舞いに行ってるんだ」
「お見舞いに? ねぇねぇ、何処の病院にいるの?」
「わわわ、詰め寄ってきた~~! 古河町立病院にいるんだけど……地下の、特別なとこに入れられてて……お見舞いって言うより、遠くから眺めてるだけになるんだけどね、いつも」
「そうなの……特別な、ねぇ……。 祐子、厚かましいお願いかもしれないけど、今度お見舞いに行く時、私も連れてってくれないかな?」
「えっ? 仲良くしてた私ですらあまり反応が返ってこないのに、火雷ちゃんだったらなおさら……あ、ごめん。 私の勝手な判断だね、これは。 いいよ。 今度の日曜日に行くから、朝10時に古河町駅で待ち合わせましょ。 それでい~~い?」
「その時間なら大丈夫よ。 ありがとう、祐子。 よろしくお願いするわ」
上手く会話が繋がって、ここまで辿り着けたわ……いよいよ日向に会えるかな、これで。
☆今回気を付けた点☆
絵日記帳の世界で活躍させた人たち、こちらの世界ではちょい役が多いですね(笑)




