55 明美さんの記憶の追体験だったのかな?
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その日の夜、夢の中でゆらに尋ねてみたの。
「この前、ゆらが出てこない夢を見たの。 こうして話すようになって初めての事だったんだけど、ゆらが私に見せたものなの?」
「ううん、違うよ。 ゆらにはそんな力、無いもん。 でも、火雷は何でそう思ったの?」
「この前見た夢って、明美さんとか宮司さんとか、会った事すら無い人たちが出てきたでしょ? 夢って、脳が記憶の整理をする時に生まれるもの、って思ってるから、違和感があって」
「うーーん……違和感かぁ。 でも、話には出てきてたでしょ? 知らない分、想像で火雷が二人の声や姿を生み出した、って見方も出来るんじゃないかなぁ」
「想像で、ねぇ。 結局、宮司さんに直接会えなかったから、想像した声や姿が正解かどうかは確かめられなかったけど……。 こういう見方はどう? あの夢って、絵日記帳の世界で明美さんが体験した記憶を、私が追体験したっていう」
「明美さんの記憶の追体験?」
「そう。 どっちの世界でも、明美さんが子宝に恵まれなかったのは同じで、その後、こっちの世界では絶望に負けて命を絶ってしまったけど、向こうではその前に幼子を預かる事によって生き長らえた……」
「パラレルワールドだから、可能性として無いとは言えないって、ゆらは思うよ」
「うん。 そして、明美さんに育てられた日向さんが……」
「ここまで成長した、って言うのね、火雷は。 でも、こっちの世界では日向は月美さんの娘なんだよね。 お互いの世界の間に、こんなに劇的な差って起こるものかなぁ。 じゃぁ、その仮定が正しいとしたら、向こうの世界の月美さんはどうなっちゃったの?」
「そこなのよねぇ……。 月美さんの父親であるはずの宮司さんは、夢の中で日向さんの母親、つまり月美さんの事を思い出せない、って言ってたわ。 しかも、戸籍にも名前が無かったって……やっぱ、矛盾が生じるわね、この推理じゃ」
「うん。 でも、色々考えを巡らしていく火雷の姿勢は凄いなぁ……ゆら、感心したよ」
「ま、私も持てる力を出し惜しみしたくないからね。 今、こうやってゆらと話してる夢なんて、もっと不思議だと思ってるんだけど」
「あはは、それを言われると言い返せないよ」
「ま、いいわ。 ところで、そろそろ期末テストが近付いてきてるから、それが終わるまでは私、この活動を中断するわよ。 いい?」
「うん。 ゆらのために沢山時間を割かせてしまってごめんね。 火雷の健闘を祈ってるよ。 今度こそワンツーフィニッシュを打ち崩せるといいね」
「結構なプレッシャー、かけてくるわね。 分かったわ、ゆらのその望み、叶えてあげようじゃないの」
「うん! その意気だよ、火雷!! 応援してるからね~~。 じゃぁ、ぐっすり眠れますように。 おやすみなさい」
翌日、絵日記帳に変化が起こってないかペラペラめくってみたんだけど、どこも変わってなくて。
いや、そんなはず無いわ……って思ってもう一度入念に探したら、裏表紙を一枚戻ったところに、イラストが描かれたページが新しく浮き出てたの。
この絵日記帳、20枚綴じ込みで、今まで9ページ目より前にしか浮き出てこなかったから、そんな空白続きのページのずっと後なんて……無警戒になり掛けてたわ。
今回も見開きのページじゃないとこだから、おまけ程度に描かれたものかな。
タイトルは[サプライズ!]。
【コメント】
・ひむちゃん、宮司さん、ちかねさん、みづるさん、きゆりちゃん、そして、私
このコメントに書かれてるのと同じ、6人の立ち姿が描かれたイラスト。
一体、どういう集まりで揃った顔ぶれなんだろう……皆が皆、満面の笑顔で……サプライズ!って言うほどだもん、よっぽど楽しい催しだったんじゃないかな。
絵のタッチからみて、これは絵日記帳の世界の私が描いたものに違いないわ。
挙げられた名前の順番通りに、左から描かれてるっぽい。
だって、一番左の子は、おもて表紙に描かれてた[ひむちゃん]こと、日向そのものだし、その右隣の男性は、夢の中で明美さんが話し掛けてた宮司さんに似てるし……ま、かなり年を重ねた感じだけど、衣装が全く同じだもんね。
ん? 危うくスルーするとこだったけど、宮司さんがもしこの姿なら、私が夢で見た姿にかなり近いわ。
夢の中の日向は2歳で、このイラストのは私と変わらないくらいなんだもん、それと同じだけの年月が経てば、宮司さんもこの姿に……明美さんの記憶の追体験説、成り立つ可能性、あるんじゃない?
宮司さんの右には、日向より少し年上かな、気品のある顔立ちの女の人……月美さんにちょっと似てるような。
この人がちかねさん、って事になるのかしら。
その右隣は……あーーーーっ! この人、棗海岸で私を追ってきた人だわ!!
あの時、みづるさんは大会に出てるからここにいない、なんて言ってたのに、本人だったんじゃない!
私、上手くやり過ごされちゃってたのね……悔しい~~。
ま、あの時の私、誰が見ても怪しいヒトだったから、自業自得か、あはは。
で、その右は……こ、これ、木柚梨そのものじゃない!
確かに名前にも挙がってるから間違いないんだろうけど、このグループにどう絡んでるの?
木柚梨って言えば去年、1年生ながら山岳部の全国大会で優勝したメンバーの一人……今や、学校で知らない者なんていないほどの有名人よ。
部活一本な、ストイックなあの子が、このメンバーでつるむなんて、想像できないわ。
で……実は一番最初に目に入ってたんだけど、敢えて最後にじっくり眺める事にした、一番右隅にいる私……向こうの世界の自分。
初めて目にしたんだけど、間違いなく私だわ……でも、ちょっと違って見えるのよね。
その一番の要因は髪型かな……ボリュームのあるツインテ、そんな髪型にしてみようなんて、全く思い付きもしなかったわ。
世界が違うと、自分であって自分じゃないような違うセンスも生まれてくるものかしら……面白いわね。
テスト期間が明けたら、唐突に登場した木柚梨にも当たってみるか。
ま、こっちの世界の木柚梨が、何か知ってるなんて到底思えないんだけどね。
日向は……状況的にかなり会うのは難しそうね。
週明けの日曜日、私は早速、髪型を無造作ヘアーからツインテにチェンジしてみたの。
見た事のない私の髪形にびっくりしたのか、ママも 「どうしたの、急に! 何か心境の変化でもあったの?」 って尋ねてくる始末。
「そこまでじゃないけど、絵日記帳からヒントを得たの。 ちょっとアイデアを借りちゃった、向こうの世界の私に」
「向こうの世界の私?? 火雷、その絵日記帳って、一体何なの?」
「それが分かったら苦労しないわよ。 一番混乱してるの、私なんだから」
期末試験は来週の月・火・水曜日。
今週は復習に集中させてもらうわ。
最近は絵日記帳に関わり過ぎて勉強の時間が取れなかったから、知識があやふやになってるとこも多いし……そういう時は基礎から固めなくちゃね。
特に数学は順々に積み上げていかないと破綻しちゃうから。
理系魂、思う存分燃やしきれると良いなぁ。
木曜日の夜、勉強の合間にキッチンに冷えたお茶を飲みに降りた時、ママが誰かと電話してたの。
こんな遅い時間に珍しいなぁ……なんて思いながら、飲み終えて勉強部屋に戻ろうとしたら、電話が終わったみたい。
「火雷、ちょっといい? パパも」
勉強の邪魔にならないように気を遣うママが、それでも私の足を止めたって事は、結構重要な話なのかな。
「ママね、明日、月宮神社に行く事になったの。 月美ちゃんが相談したい事があるんだって」
ああ、相手は月美さんだったのね。
それにしてもこんな夜遅くになんて、らしくないなぁ……それだけ急ぐ案件なのかしら。
それにはリビングでゆっくりくつろいでたパパもびっくりしたみたいで、 「明日って、そんな急に? 一体神社に何の用事なんだい?」
「うーーん……何でも、どうしても私に手伝ってほしい事があるみたいで……」
「月宮神社……手伝ってほしい事……。 どうしてもママに、って言うくらいだから、もしかして……」
「そうなの。 巫女舞を指導できる人がいなくてね、だって。 昔取った杵柄、ね」
「あはは……そういう事ならパパは何も口出しできないな。 ママの思う通りにするといいよ」
何、このパパとママの阿吽の呼吸みたいなのは。
「ねぇ、ママ、話がずんずん進んじゃって分かんないよ。 どういう事なの?」
「明日、月美ちゃんに会って詳しく訊くんだけど、どうも人手不足みたいね。 何でも、いつも手伝ってもらってる親戚の娘さんが国家試験を控えてて、自分も娘さんの世話に時間を取られて大変みたいよ」
ああ、国家試験を控えてるって言えば、ちかねさんの事ね。
娘さんは日向……しかも、お父様も病院でリハビリ中……そりゃ、手が回らないはずよ。
「ママ、あの時月美さんに会った事で、こんな風に繋がったんだよね。 何とか力になってあげて」
「まぁ、火雷ったら、随分と月美ちゃんの肩を持つようになったわね。 そのつもりよ、可愛い妹みたいなもんだもん」
何だろう、私、この時ほどママが頼もしく見えた事、無かったわ。
☆今回気を付けた点☆
夢で見た明美の記憶の追体験を、絵日記帳の世界での出来事では? って推測させる文章運びに苦心しました。




