51 もう、廃墟なんて呼ばないわ
いつも読んでいただき、感謝です。
これで光り輝く絵日記帳編の前編を語り終え、第5章は完結です。
そんな二人のやり取りを見てた私に、月美さんは、 「じゃぁ、いよいよ家の中を案内するね」 って声を掛けると、ポーチから玄関の鍵を取り出して、ドアを開けてくれたの。
「あれっ?! 明美さんちの鍵、どうして月美さんが持ってるんですか?」
「ああ、これね。 さっきの話の続きになるんだけど、明美が亡くなって誰もいなくなったこの家を私が買い取ったのよ。 自分の貯金だけじゃ全然足りなかったから、お父様に援助してもらってね。 生前、明美は常々言ってたの。 両親が残してくれたこの家が大好きだし、凄く愛着があるの、ってね」
私がずっと持ち続けてきた廃墟のイメージ……探検ごっこで見たのは凄く幼い頃だったし、ママからの情報も鵜呑みにしてたから、実際より朽ち果てた景色を脳裏に植え付けてたのかな。
実際に今、目の前にすると、凄く綺麗に維持されてて驚いたもん。
「明美さんの生前の想い出が沢山詰まった家……それまでも引き継ぐなんて……どこまで強いの? 二人の心の結び付きって」
「それだけ私にとっては大切で、命の恩人でもあるの、明美は。 私はここが荒れ果ててしまわないように、まめに掃除をしに来てるの。 明美が天からちょっと里帰りした時に、ホッと一安心してもらえるようにね」
「これだけ整ってたら、何時明美さんが立ち寄られてもくつろいでいけますね。 それにしても、命の恩人、とまで言い切れるなんて……」
「あら、大袈裟でも何でもないのよ。 明美がいなかったら私、ホントに自分を見失って狂ってしまいそうな時期もあったんですから。 夫を亡くした後は失意のどん底だったのよ」
「お互いにお互いの試練を、手を取り合って乗り越えてきたんですね。 明美さんじゃなきゃ月美さんを救えず、月美さんじゃなきゃ明美さんを救えなかった……ホントに強い絆」
「ええ。 私は夫を突然亡くし、明美は旦那さんと無念のうちに別れた……お互いに順風満帆な夫婦生活を送れなかったし、不遇だったから」
「何て辛い過去を私……。 ごめんなさい……古傷をえぐってしまうような過去を思い出させてしまって……」
「いいえ、違うのよ。 私が火雷さんに聴いてほしかったの。 ここにいるんだから、明美の思い、明美への私の思いを一緒に共有したくてね。 ひょっとしたら今、そこで明美が立ち聞きしてるかも、なーーんて」
玄関から中に入り、下駄箱に靴をしまって、奥の扉を開けて中へ入ると、不思議な形の部屋に出たの。
真ん中にスタイリッシュなテーブルと椅子、奥にはカウンターキッチンが配置されてるから、ここがリビングよね。
家の中心に位置するこの部屋は何と六角形で、その六面の壁のそれぞれにドアが付いてる……何てデザイン性の高い構造なの? 私の美的感覚が凄く刺激されるのを感じるわ。
家の外から見たら建物が六角形だったのは、それでだったのね。
更に私をびっくりさせたのは、部屋の隅々までチリ一つ無く綺麗な事。
月美さんの話だと、明美さんが亡くなってから相当な年月が経ってるはずなのに、そんなのを全く感じさせない。
今にも明美さんがキッチンから出てきて、テーブルに料理を並べそうなほど……よっぽど入念に掃除してるんだろうな、月美さん。
「火雷さん、こっちにどうぞ。 ここが明美の書斎よ」
玄関に繋がる扉から見て左向こうの部屋に入ると、小さな机に椅子、本棚、そして…… 「これがこの前言った[ウサギのぬいぐるみ]よ。 どう? 火雷さんの描いたイラストそっくりでしょ?」
「ホントだ……全くそのまんまですね。 このぬいぐるみ、明美さんに贈ったってこの前聞きましたけど、これと同じぬいぐるみって、この世に二つとあるものでしょうか……」
聞きようによっては、凄く失礼な事を言ってしまった事に気付いてハッとしたんだけど、月美さんは特に表情を変えなかったの……ホッ。
「このぬいぐるみは月宮神社、つまり私の家の御神使さまをモチーフにして、誰にも真似できないように手の込んだ作り方をしてるのよ。 それは耳……そこには針金が仕込んであって、使徒さまの耳の造りを細かく再現してるんだから、きっと誰にも真似できないって、自信を持って言えるわ」
絵日記帳にあったイラストのぬいぐるみ、やっぱ、あっちの世界でも月美さんが作ったものに間違いないって、これで確信したわ。
「月美さん渾身のぬいぐるみを私……失礼な事を言ってすいませんでした」
非礼を詫びて頭を下げたんだけど、 「いいのよ、火雷さん。 このコに興味を持ってくれただけで、作った甲斐があったなって、嬉しいんですから」 って、逆に微笑みを浮かべてさえくれて。
「あの……触ってみても良いですか?」
「ええ、どうぞ。 でも、耳にはなるべく触れないでね」
そろっと背中を撫でてみると、凄く毛並みがサラサラしてて、肌触りが良いの……細かい所まで相当丁寧に作り込まれてるって分かるほど。
「凄い! 本物のウサギもびっくりするほどリアルですね」
「ま、大袈裟ね、うふふ。 今の火雷さんの顔、あの頃の明美の驚いた顔とちょっと重なっちゃったわ。 特別な贈り物だから妥協したくない! って一心で作ったものだから……。 今から考えたら、中学生の頃の私って、一つの事に没頭したらとことんまでのめり込んでたんだな、って」
「あはは、スーパーJCだったんですね、月美さんは」
その後、月美さんは他の部屋も案内してくれたの。
玄関に繋がる扉から時計回りに、明美さんの寝室⇒明美さんの書斎⇒浴室と脱衣所⇒巌さんの書斎⇒巌さんの寝室……どの部屋も綺麗に維持されてて、今でも生活感を感じられるほどだった。
それぞれの部屋の様子を目にしっかり焼き付けて、月美さんと玄関で別れる事にしたの。
「私のお願いを聴いてくれてありがとうございました。 飛び込みのゲストがちょっと賑やかしましたけど」
「いえいえ。 そうね、ゲストさん、ちょっとかき回して帰られましたね、うふふ。 でも、凄く楽しかったわ。 昔の想い出に少しの間でも帰られて」
「あはは……ママも考えるところがあって付いてきたみたいだったし。 これからも親子共々、よろしくお願いしますっ!」
「ええ、こちらこそ。 ではまた。 何かあったらまた連絡を取り合いましょうね」
月美さんのその言葉を聞いて、私は深々と頭を下げると、明美さんの家を後にしたの。
夕陽を浴びて生き生きと浮かび上がる家……もうここの事、廃墟なんて呼ばないわ。
その日の夜、夢を見たの……あれっ? 私、条件を満たしてたのかな?
「ねぇ、ゆら、今回の私ってどっかで祈ってた? 思い返してみても思い当たらなくて……」
「うーーん……ゆらも。 私にも欲しいな……そんな、強い絆で結ばれた親友が、みたいな事は火雷が言ってたけど……」
「いや、それって私の願望でしょ? 前に一度試してみたじゃない。 『期末テストで紀洋君に勝てますように』 って。 あれはダメだったのよ」
「そうだった。 自分に、って言うのはアウトなのかな」
「思い返してみるよ。 今まで祈ったのって……明美さんと画家さんでしょ、月美さんと亡くなった旦那様でしょ、そして、ちかねさん……で、今回は?」
「うーーん……ゆらにも分からないよ。 でも火雷、一つ発見した事があるの。 同じ人じゃなくて、それぞれ違う人について祈ってるなって」
「ああ、そう言われると……。 じゃぁ、これからはその人たち以外で祈らないと進めない、って事になるのかな」
「絶対とは言い切れないけど……ねぇ、火雷、絵日記帳に何度か出てきてるのに、まだ一度も会ってない人がいるの、気付いてる?」
「ええ。 宮司さんでしょ? それと、絵日記帳の持ち主の[私]よね。 そこは探ってみる必要はあると思うんだけど、私が気になるのは、逆に絵日記帳に出てない人も条件に入ってるっぽい事なの。 それに一人、祈ったけど違ってた人がいた、って事も忘れちゃダメだよね」
「登場してない人……どちらかと言うと、そっちの方が多いくらいだよね。 違ってた人も何かヒントにならないかなぁ。 この人たちの共通点って、何なんだろう」
「共通点? そっかぁ……そこを考えるのも大切よね。 あるなしクイズみたいに考えてみますか。 夫婦関係が2組に、ちかねさん……うーーん……ダメね、全く分かんないわ」
「この夢から覚めた後、次にどんなページが見られるようになるのか……それを待ってからだね」
「そうね。 ゆらのアドバイス、凄く参考になったわ。 ありがとう」
「いえ、力になれてゆら、ホッとしてるよ。 じゃぁ、ぐっすり眠れますように。 おやすみなさい」
☆今回気を付けた点☆
絵日記帳の残りのページを如何にシナリオに結び付けていくか……頭ではおおまかには組み立ててはいるんだけど、文章に起こすのはホント難しいです。




