50 月美さんとママの、遠い過去の関係
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月美さんと廃墟で会う約束をした土曜日がやってきた。
一緒に付いてく! って気合い満々のママが出てくるのを玄関の前で待ってたんだけど、一向に出てこないの。
「もーーっ! ママ、遅いよーー!! 目上の人を待たせる訳にはいかないんだからっ!!」
私が叫んだのと同時に、やっとママが出てきたんだけど……。
「な、何なの? そのワンピ……どっから引っ張り出してきたの?? 久し振りに会うって気合い入ってた割に、随分地味なの選んじゃって」
モスグリーンって言うのかな……普段は明るめの色の服を好んで着てるのに、どうしたの今日は。
「火雷、このワンピはとっておきのなんだから、ケチをつけちゃダメよ。 ママなりの考えがあるんだからね、これには」
「ママなりの考えって……私には分かんないわ、そのセンス」
廃墟に向かう小径を並んで歩いてる時も、ママのワンピが気になっちゃって。
何だか周りの草と同化しちゃってるし。
緑系のを選ぶにしたって、もっと明るいトーンのもあったでしょ……私の美的センスが受け入れるのを拒んでくるんだよね。
そんなもやもやした気持ちで廃墟に辿り着くと、月美さんが玄関の前で待ってくれてたの。
「こんにちは、火雷さん。 あら、てっきり一人でここへ来るものとばかり思ってたんだけど……」
月美さんにとっては想定外の状況のはずだもん、そういう反応になるわよね。
「ご、ごめんなさいっ、月美さん! 話を聴いたママがどうしても付いていきたい、って言うから、ついつい……」
月美さんは、しどろもどろになりかけの私じゃなく、隣にいるママを、首を傾げながらしげしげと眺め始めたの。
「うーーん……その独特な色遣いのワンピース、何処かで見たような気がするんだけど……」
月美さんもあのワンピの色、変に感じるよね?
ちょっとホッとしてると、私の前に歩み出たママが、両腕を自分の背中に回すと、月美さんを下から覗き込むような姿勢をとりながら、 「こんにちは、月美ちゃん。 ご無沙汰し過ぎちゃって、私が誰か思い出せないのかな?」 って、挑発気味に言ったの。
月美さん、深く考え込んじゃって……。
「月美ちゃんですって?! ご無沙汰してる? そのワンピース…………あーーっ!! 貴女は[深緑の舞姫]!」
何何? しんりょくの……舞姫?? しんりょく……あぁ、モスグリーンの、深い緑色って事ね。
「その二つ名を私に付けたの、月美ちゃんだったじゃない。 そうよ、由美子よ。 ヒントになった? このドレス」
「お姉ちゃん……懐かしいわぁ。 あの頃の姿でまた私の目の前に現れてくれるなんて……思い出すのに時間掛かり過ぎちゃったけど、仕方ないわ。 まさかここで出会うなんて思わないもの」
二人の、時を超えての再会ね……ちょっとだけだけど、二人の関係性を感じ取れたわ。
「さすがにちょっと驚かせ過ぎちゃったわね。 ごめんね、月美ちゃん。 最近、娘から名前を聞くようになって、交流が始まったって知って驚いてたの。 話には聞いてたけど、元気そうで良かったわ」
「火雷さんとの出会いは本当に偶然だったの。 そんなちょっとしたきっかけで、お姉ちゃんにまで繋がるなんて……めぐり逢いって不思議なものね」
「ええ。 こうして久々に縁が繋がったんだから、これからは大切にしたいわ」
二人の挨拶が一通り終わったのを見計らって、 「ねぇママ、深緑は分かったとして、舞姫って何なの?」 って訊いたら、月美さんがこの質問に答えたの。
「お姉ちゃん……いえ、由美子さんは私が子供の頃、月宮神社で巫女のアルバイトをしてた時期があったの。 当時は今よりイベント事が多くてね。 巫女舞も年に何度か、参拝客を前に奉納してたの。 何人かいた巫女の中で、由美子さんが群を抜いて上手く舞ってたものよ」
「へぇ~~、あんま身体を動かすの、得意じゃなさそうなママが~~?」
「こらっ、火雷! ママだって若い頃はキレッキレに動き回ってたんだからね」
「キレッキレって……あはは。 そんな伝説があるなんて、ママを見直したよ。 それより月美さん、ママが我がまま言ってここにいても良いんですか?」
「もちろん大丈夫よ。 まさかの登場にはさすがに面食らったけど、由美子さんなら大歓迎だわ。 それにしても……何度も言うけど、巡り合わせってホント、不思議なものね」
「ホントそうね。 最初、ここに来るの、迷ったのよ。 長い間ご無沙汰してたから、今更月美ちゃんに合わせる顔なんてないな、って」
「私も由美子さんはどうしてるかなって、ふと気になった事もあったの。 こうして会えて良かった、って心から思うわ」
「そうね、思い切って付いてきて良かった。 これだけ密に火雷と会うようになったのなら……仲良くしてあげてほしいの」
「もちろんよ、由美子さん。 火雷さんが娘さんだって知ったからには、なおさら親しく交流していきたいわ」
ママは始めから、月美さんと私との仲を取り持つのが目的で付いてきたのよね、きっと。
「ママが付いてきたの、良い方に転がって良かった~~」
ママを見るとウインクなんかしてるし、もう。
「ところで月美ちゃん、一つお願いしてもいい?」
「あ、はい、私に出来る事なら」
「由美子さんって呼ばれるの、何だかよそよそしく感じるわ。 出来れば昔の様に、お姉ちゃん、って呼んでくれないかな?」
「え~~、この歳になって、お姉ちゃん、って呼ばせるの~~? 私だって恥ずかしいわ、うふふ。 でも……そう呼んでって、お姉ちゃんが言うんだったら」
「お姉ちゃん、火雷さん、ちょっとこっちに来てくれる?」
月美さんに導かれるままに付いていくと、そこは明美さんのお墓の前。
「このお墓、私が建てたのよ」 月美さんの告白を聞いたママは、 「月美ちゃんが? 家族でも親戚でも無いんでしょ?」 って驚いてる。
「ええ。 明美は幼い頃にお母様を亡くし、高校を卒業する直前にお父様まで亡くして、親戚もいなくて身寄りが無かったから。 離婚して命を絶ってしまった後、私が寄り添ってあげないと、って思い立って」
この家にはそんな過去が……それで誰もいなくなっちゃったんだ。
「詳しいいきさつは分かんないけど、明美さんって方、そこまで追い詰められるような、辛い人生を強いられてたのね。 そんな中で、ずっと寄り添ってくれる親友に出会えて……せめてもの救いになって良かったわ」
ママは明美さんの事をここで初めて聞いたみたいだけど、頬には涙が伝ってて。
「お姉ちゃん……明美の為に涙を流してくれるの? その思い、あの空の向こうまで届いてくれるかな。 私も家庭と学校との両立で大変だったけど、明美の事を考えたらそんな事言っていられない! って、頑張れたの。 母親を亡くして、家の神事のお手伝いで忙しくなって、学校にはなかなか馴染めなくて……そんな私にいつも側で寄り添ってくれた……明美は心の支えだったわ」
お互いに寄り添い合い、支え合う、心から親友って呼べる人、かぁ。
私は……小学校に入学した当初、引っ込み思案でクラスメイトの誰にも声を掛けられなかった……それがトラウマになって、友達を作るのが苦手になって、独りで何でもこなせるように強く生きる事を選んできちゃったから。
「私にも欲しいな……そんな、強い絆で結ばれた親友が」
私の口から出てきたのは、心の奥底に閉じ込め続けてきた本心。
「火雷さん、私には、何時か出来るよ、なんて無責任な事は言えないけど、心の底から願い続けたら、きっと神様が良縁を結び付けてくださるはず……心から祈ってるわ、そんな人が火雷さんの前に現れる事を」
玄関の前にもう一度三人で戻ってきた時、ママが、 「夕御飯の支度もあるし、そろそろ私は退散するわ」 って切り出したの。
「お姉ちゃん……そうね、名残惜しいけど……」
「私もよ。 元々は月美ちゃんと火雷の会う約束だったんだから、何時までも私がここにいるのはおかしいよね」
「確かに、このままだと火雷さんとの当初の約束がうやむやになってしまいそう。 これでこれからも会えるきっかけが出来たんだし、お姉ちゃんとは今日はここまでに……」
「ええ。 火雷が作ってくれたきっかけ……今後は何かあれば、私にも声を掛けてくれればいいわ。 火雷を通してでもいいし、電話で直接でもいいし」
「電話……ひょっとすると、近いうちに相談ごとをお願いするかもしれないから、番号、教えてほしいかな」
そう言うと月美さん、ママと番号を交換し合ったの……何だかいいなぁ、こういう二人の関係も。
「これでまた縁が繋がった、って事でいいかな? これからも火雷をよろしくね、月美ちゃん」
「はい。 火雷さんともお姉ちゃんとも、縁を深める事ができたはずだから。 今後もよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。 じゃぁ、またね、月美ちゃん」
「はい、お姉ちゃんも。 今日はもう少し火雷さんをお借りします」
別れの挨拶を終えると、ママはスキップしながら小径へと消えていったの。
あれって、童心に帰って喜びを表現してるのかしら……ママもお茶目なとこ、あるんだね、あはは。
☆今回気を付けた点☆
このエピソードで初めて、火雷が親友が欲しいって願い始めます。
他にも、由美子と月美の再会シーンには、幾つかの伏線を張る目的があります。




