5 あのコの話、遮っちゃった……
いつも読んでいただき、感謝です。
さぁ、いよいよだよ、新入生歓迎登山。
メモしてあるからね~。 見ながら準備……っと。
上下ともジャージ、オッケー。
お弁当に、水筒に、虫よけスプレーも、リュックにセット、オッケー。
「じゃぁ、ママ、行ってくるね~~!」
ガゼボでひむちゃんと合流して、学校の運動場へ。
春の朝らしい、少しヒンヤリした風がそよそよ、気持ちいい~~。
「いい天気だね~~。 絶好の登山日和だよ」
なになに?? ひむちゃん、そんな事言いながら、背中反らせてバンザイしちゃって。
もしかしてそれ、柔軟体操??
「うん。 でも、ひいか、ちゃんとたどり着けるかな……途中でギブアップしないかなぁ……」
私、どちらかと言うと運動苦手だから、登山なんて自信、無いの。
「大丈夫、大丈夫。 歓迎する側の立場に立って考えたら、そんな無茶なところ、選ぶはずないよ」
ひむちゃん、それっぽい事言ってるようで、何だか違うよ。
でも、私の不安を吹き飛ばそうとしてくれてるのよね? 優しい。
「それもそっかぁ~~。 歓迎会、だもんね。 しごき会、じゃないもんね」
ま、ひむちゃんに合わせて、後ろ向きな考えは止めて、明るく元気に、スマイルスマイルっ。
「みんな、揃ってるね。 はい、こっち注目!!」
冴先生の声がマイク無しでも耳に響いてくる。
「1年生が出発した後、遅れて2年生、3年生が出発します。 歩くペースがあまり遅いと、先輩たちのペースを乱すことになるから。 しっかりまとまって、きびきび歩きましょう」
きびきび、ってとこ、凄く強調して言ったよね? 今。
「えぇ~~っ。 やっぱ、しごき会だよ~~」 私の泣き言を皆で笑うんだよ~~、酷いよぉ。
「今日はこの行事のために、神尾渓谷は一般観光客の立入が制限されてるそうだ。 人混みに煩わされることなく、思う存分、自然を感じながら歩けるな。 じゃ、出発するぞ!」
自然を感じながら、かぁ。
きゆりちゃん、私、そんな心の余裕、無い……。
……とにかく、ゆっくりでも、頭を空っぽにして進もう。
そのうちきっと、辿り着くよね。
もう、前を向いて歩くので精一杯……周りを見る余裕なく、ひたすら無言で歩いてると、後ろからひむちゃんの声が。
「あれっ?! ひいちゃん、新しい髪留めしてる! かわいい!!」
あ、気付いてくれた!!
嬉しいんだけど、この必死に耐えてるタイミングで?!
「あっ、この髪留め、この前のお誕生日会の時にプレゼントでもらったの。 ”トゥインクルな双子”がデザインされてて、かわいいよね!!」
小さな頃からトゥインクルな双子が好きだから、このプレゼント、私の好みど真ん中。
東子ちゃんと朝子ちゃんのリサーチ力、あなどれない。
そう言えば、小学校の入学式の日も、ひむちゃん、髪留めを可愛いって言ってくれたなぁ……。
「ひいちゃんに似合ってるよ~~。 あっ、私もプレゼント、かわいいのもらったよ」
そうそう、それ! 気になってたんだぁ。
ここでも、双子ちゃんのリサーチ力、チェック!
「何もらったの? やっぱ、ウサギの何か、かな?」
私がひむちゃんにプレゼントする側だったとしても、そこは外さないと思う。
「えへへ。 そう! ウサギのポシェットだよ。 今日は私の勉強部屋でお留守番」
ふむふむ、ポシェットとは……これまた良いチョイス……そのアイデア、頭の中にメモメモ。
「へぇ~~、今度見せて~~」
ゴールはまだまだ見えないけど、だいぶ歩いたよ……川がさらさらと横を流れてるし、上り坂もしんどくなってきたし……って思ってたら、後ろからひむちゃんが、
「そう言えば……今日はきゆりちゃんの誕生……」 って……あっ! その話は!!
「しーーーーっ! ひむちゃん、ダメっ!! この前のアレを聞いてから、誕生日の話は禁句になってるんだから」 私がとっさに強い語調で遮っちゃったから、ひむちゃん、黙り込んじゃった……やっちゃったかなぁ。
微妙な空気感の中、何とか神尾渓谷の広場に到着……あの瞬間から私、ひむちゃんの話題を遮ってしまった事を後悔してばかりで……。
「みんな、お疲れさん。 1年生はこの辺りで整列し、上級生の到着を待つ。 向こう側に見える池の周辺で彼らが整列を終えれば、歓迎会の始まりだ」
きゆりちゃん、なんで、ケロっとしてるの~~。
私なんて、脚はガタガタだし、気持ちももやもやしてるのに。
校長先生の話とか、応援団によるエールとか、全学年によるエールソングの合唱とか……そんな後に、新入生代表の挨拶。
って言えば、やっぱ、この人だね、委員長殿堂入りの俊明君。
「本日は、このように盛大な歓迎会を催していただき、ありがとうございます。 ここに集いし12名、古河高校の輝かしい歴史を……」
か、堅苦しい……よく噛まずに読めるよね、あはは。
彼も、私の結婚式のスピーチ候補に……な~んて。
…………
集まりが解かれると、1年生は冴先生が先頭に立って、まとまって渓谷を散策する事に。
大きな池があったし、滝が見える高台もあった。
元の広場に戻ってくると、冴先生が注意事項を話し始めた。
「先生が……中から、気に入ったところを選んで、各自昼食を食べなさい。 トイレは……だけだから……。 すぐそこの橋を……に行ったり、……橋の向こう側へ……しないように! いいですね!! では、1時間半、休憩!!」
気に入ったところ? 弁当を食べるのに良さげな所、さっきの高台一択だよね~~。
ひむちゃんを誘って一緒に食べながら、さっきの事、謝らないと。
ひむちゃんは、二つ返事で一緒に食べよ、って。
「ねぇ、ここなんてどう? 凄い眺めだよ~~。 ずーーっと下の方に川が流れてて、滝があって……シャワシャワ~~って音が心地いいよね~~」
「ほんと~~、凄い眺めだね~~。 こんな景色を一人、いや、二人占めなんて、何だか贅沢な気分になれるよ。 でも……」
まるで何事も無かったかのように、あっけらかんと私の選んだ場所に賛成してくれた……よしっ!!
「でも? どうしたの? ひむちゃん」
「私は平気だけど、ひいちゃんは高いところ、大丈夫なの?」
あっ! ホントの事を言うと、高い所はちょっと……私、顔に出ちゃってたのかな?!
「ちょっとだけ怖いかな。 でも、普段は観光客がいっぱいいるんでしょ? ここで食べられるチャンスなんて、もう二度と無いかもって」
こんな最高の眺めを、ひむちゃんと二人占めできるんだから、そんな怖さ、大したことないない。
「あ~~、そう言われるとそうだね。 じゃぁ、ここで決まりだね!」
そう言うと、ひむちゃんはリュックを背中から降ろして、レジャーシートを敷き始める。
私、そこにお邪魔するね。
「じゃぁ……」
「「いただきま~~す!」」
本編の第9~10話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
第三者の言動も、聞き手によって、どのくらい受け取り方に差があるのか、っていうところを。
ひいかは結構、話を端折って聴くタイプだったり。
こういう[キャラの差別化]の方法もありかな、って。




