46 画家さんと一緒に廃墟へ
いつも読んでいただき、感謝です。
その夜、夢が見れなかったの……凄くショックだったわ。
今までみたいに、絵日記帳に関わってそうな場所に行って、そこで出会った人と話しして、その中で出てきたヒトの事を祈ったのに……確信してたのに……。
スタンスが違ってたのか、それとも、何か他にも条件があるのか……せめて方針だけでも立てたいのに。
仕方ない、別の角度からアプローチしてみるしかないか。
日曜日、[月宮神社の崖下にある平らな岩]ってキーワードをピックアップして、そっちを当たってみる事にしたの。
もう棗海岸は可能性が薄そうだし、実物のカヌーも見付けられてないしね。
家を出て5分ほど緩やかな坂道の小径を歩くと、古びたガゼボがあるんだけど、そこで男の人が一人、頬杖をついて物思いに耽ってたの。
こんな所で他人を見掛けるなんて滅多に無いから気になって……だって、せいぜい私たち家族くらいだもん、この道使うのって。
身なりは軽装だから、山の奥深くに行くって訳じゃなさそうだけど……一体、ここらに何の用事なのかしら? なんて思ってると、ふと声を掛けられたの。
「こんにちは。 おや? 貴女は何処かで……あっ、棗海岸でお会いしたお嬢さん!」
ん?! 棗海岸で会った? よーーく顔を見てみると……。
「あーーっ、あの時の画家さん?」
「はい。 実は昨日、棗海岸でお嬢ちゃんを見掛けたんだよ。 詳しいいきさつは知らないけど、有名な競技カヌーの選手と話してたよね?」
えっ?! 私、おじさんがいるの、全然気付かなかったよ。
「あはは、見られてたんだ……ちょっと訳あってね。 ま、塩対応だったんだけど」
昨日の事を思い出すと、自分ながら無謀だったなって、今更恥ずかしさがこみ上げてきちゃった。
「お嬢ちゃんの姿を見て、そう言えば昔の話をしたな、って思い出して……今日は思い立ってここに来たんだよ」
そう言われると、誰かを訪ねるつもりなのか、前の時と違って服装が整ってるわね。
「昔の話? どんな話したっけ……。 こんな所に入ってくる人って滅多にいないんだけど、何か用事でここまで?」
すると画家さん、凄く神妙な表情で、 「あ、はい……この先にある家に行こうと思って……」 って、三叉路の北の道を指差すの。
この三叉路は、南は古河町の街並みへ……私が学校に行くのに毎日使ってる道だね、西は私んちに繋がってるんだけど、北は……。
「あの~~、そっちの道の先には廃墟が一軒あるだけよ。 六角形の変わった形の家だけど、私が知ってる限り、放置されたまま荒れ果ててるって……」
「えっ?! 廃墟だって?! そんな、そんなはずは無い!!」
何、この取り乱しよう……事実を言っただけなのに、ただ事じゃないわね。
「ちょ、ちょっと! 落ち着いてよ!! ホントなんだから。 小さい頃に私、探検ごっこで近付いた事、あるんだから」
「お嬢ちゃん、とても信じられないよ、そんな話。 この目で確かめない事には」
そう言うと立ち上がり、横に置いてた綺麗なバラの花束を両手に抱えて、北へ向かおうとするの。
「ちょっと、マジで行くの? あそこへ。 手入れもされてないだろうし、危ないって」
私の言う事なんて聞き入れてくれそうにないほど、しっかりした足取りで向かおうとする……私、どうすべき??
「あ、あーーっ、ちょっと待ってよ!! 私も付いてくから。 独りで行くの危ないし、今どうなってるのか個人的に確かめたいし」
「こんなオジサンに付いてきてくれるなんて、いいのかい? お嬢ちゃん。 オジサンは心強いけど……」
「ええ、私も興味あるから。 それと、私の事は火雷って呼んで。 お嬢ちゃんなんて、ムズがゆ過ぎるわ」
ガゼボから廃墟までの小径は緩やかな上り坂になってるんだけど、道の両脇の草は腰の高さまで背丈が伸びてる……誰も手入れする人なんていないんだから、そりゃそうよね。
「火雷ちゃん、この先にある家なんだけど、20年ほど前にオジサンも住んでた事があるんだよ」
「えっ?! 住んでた事があるって事は、持ち主さんなの?」
いや、持ち主だったら、廃墟になってる事を知らないなんて、あり得ないか。
「いいや、そこは想い出のひとの……元の奥さんの家なんだよ。 訳あって、結婚生活は数年で終わってしまったんだけどね……」
急に話が重くなっちゃったわね。
「元の奥様……そういう事か……。 それで今まで近付けなかったのね」
「はい。 今から思えば、酷い事をしたと思ってます。 子供が授かれなかった責任を、一方的に彼女に押し付けてしまって……。 別れた後も後悔と反省の日々を過ごしてきて、合わせる顔も無いと思ってきたのです」
「子供は天からの授かりものだもん、それが原因で別れたんだったら、凄く寂しい話だわ。 女性として軽蔑しそうになるけど、今のおじさんの姿を見てると、不思議とそんな気持ちが湧いてこないわ」
「ありがとう、火雷ちゃん。 でも、廃墟だなんて……信じられない。 彼女の実家なのに……一体何があったっていうんだろう……」
私、おじさんにあの事、言うべきなんだろうか……。
「あの……そこに住んでた人……昔にママから聞いたんだけど……首を吊って……」
それを聞いたおじさんは足を止め、呆然と立ち尽くしちゃった……やっぱ、言うべきじゃなかったわ。
「そ、そんな……他の人と結ばれて、幸せな家庭を築いてるとばかり……妄想でしかなかったのか……」
それでも再び廃墟に向かって歩き出すと、さっきより歩調が速くなって……まるで、真実から目を逸らさず、目に焼き付けに行くかのように。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!! 私、変な事言っちゃった……」
「いいや、いいんだよ、火雷ちゃん。 オジサンがしっかり懺悔しないといけないんだから。 このまま家まで付き合ってくれるかい?」
私は黙って頷いたの。
こんな状態のおじさん、放っておく訳にはいかないわ。
廃墟に辿り着くと、私の想像は軽く裏切られた……雑草がボウボウに生えてるはずって思ってたら、さっきまでの小径とは違って、家の周りは凄く綺麗に手入れがされてて、しかも、廃墟もそれほど傷んでないように見えたの。
「家も庭も綺麗じゃないか、火雷ちゃん。 本当に誰も住んでないのかい? オジサンにはどう見ても手入れされてるようにしか見えないんだけど」
「あ、あはは……私も聞いてた話と違って戸惑ってるの。 誰か住んでるのかな……あれっ? おじさん、あそこ見て!」
私が廃墟、いや、家? の裏側に見付けたのは……お墓??
色鮮やかな花々が墓前に手向けられてる。
おじさんの後について近付いてみると、 「あ、ああーーっ! 明美ーーーーっ!! どうしてこんな……赦して、赦してくれ……ううっ」 って、何とも言えない声で叫んだから、私ももっと側に寄って確かめてみたの。
[私の大切な親友 貴女が愛したこの場所で どうぞ安らかに眠ってください]
裏を見ると、 [明美 行年25歳] って彫られてる。
「おじさん……」
声の掛けようが無いわ……心が落ち着くまで、そっと見守ってあげる事しか。
墓の前でずっと座り込んでうなだれてるおじさんの横で、私はそっと手を合わせたの。
「明美さん、どうぞ安らかにお眠りください。 そして、ここにいるヒトを赦してあげてください」
どれくらい時間が経ったんだろう、手に持ってたバラの花束を手向けると、漸く墓の前からおじさんが立ち上がったの。
本人に手渡すはずだったバラの花束……墓前にお供えする事になるなんて……。
「ありがとう、火雷ちゃん。 自分の非をこれほど悔やんだ事は無いよ。 遅過ぎた……何もかも。 せめて家の周りを一周させてもらおうと思うよ。 あの頃の幸せな想い出を思い返しながら」
そう言うと、おじさんはゆっくりした足取りで、6面にあるそれぞれの窓の前で立ち止まっては中を覗き込んで……そして、玄関の前に戻ってきたの。
「付き合ってくれてありがとうね、火雷ちゃん。 あの頃の明美の笑顔、もう取り戻せないんだな……」
「明美さんの分も、おじさんが笑顔で暮らせればいいのよ。 彼女もきっと、そういう姿を空の上から眺めたら安心できるって思うから」
「ああ……オジサンはもう少しここにいるよ。 火雷ちゃんは暗くならないうちに家にお帰り」
ま、家はここから10分くらいなんだけどね。
この様子なら、もう独りにしても大丈夫かな。
「おじさんも気を付けてね。 じゃぁ、また何処かで」
私はしっかり手を振って、この場を後にしたの。
ところで、お墓を立てたの、誰なんだろう。
親友って……家族じゃない人が墓を建てるなんて事、あるの?
昨日、棗海岸に出掛けて行ったの、無駄じゃなかったわね。
そこでおじさんが私を見掛けなければ、この今日の出会いは無かったんだから。
☆今回気を付けた点☆
前の世界線では、ひむかの母親だった明美の、この世界線で置かれた状況を開示しました。
どうしてこうなったのか……その開示はまだ先の話です。




