43 長森島で出会ったねぎさん
いつも読んでいただき、感謝です。
次の日の朝、絵日記帳をチェックしてみると、6ページ目が見れるようになってたの。
やっぱこれ、5ページ目以降も続いてるんだ……最後は何ページなの? 先が見えないって不安だわ。
タイトルは [6)島その2] ……また長森島?
【コメント】
・4ページ目に描いた島を、月宮神社から観たもの。
・波が立ってない所が、筋のように島に向けて伸びている。
【考察】
・長森島っていう名前。(カヌーにあった手紙に書かれてた)
・山道は一本道で、2時間弱位ひたすら登ると、最後に神社(月宮神社奥宮)がある。 途中、水飲み場がある。
☆月宮神社奥宮については、今度、宮司さんに尋ねてみよう。
・奥宮の存在はあり得ない。(宮司さん談)
・主祭神は長森島という事になってしまう?
(月宮神社の主祭神は《あめのみなかぬしのかみ》という神様だそう)
月宮神社からの長森島の眺めなら、ついこの前、写生大会で目に焼き付いたばっかだけど、このイラストのアングルだと、崖の上から描いてる感じね。
波が立ってない所って何? そんな事、起こり得ないって思うんだけど……創作も入ってるのかな?
実際に島に渡って、あの山、登ったんだ……持ち主さん、よっぽど気に入ったみたいね、長森島が。
でも、あそこかぁ……ガチの山登りになるし、がっつり一日かかるなぁ……足跡を辿るのも大変だわ。
奥宮の存在はあり得ない、ってどういう考察なんだろう……月宮神社の宮司さんに、主祭神も含めて聞き込みするしかないか。
具体的に人物が登場したのって初めてだし、キーマンになりそうだよね。
カヌー? 手紙?? これらについては全く手掛かり無し……でも、そんなの見なくても、この辺りの人なら長森島を知らないなんてあり得ないんだけど……他の町の人なのかな。
明日は文化の日で学校休みだし、仕方ない、行ってみるとしますか。
パパとママには、何だか急に気が向いたから長森島に行く事にした、って言っておいたの。
まだ絵日記帳の事、信じてもらえてないからね。
翌日、古河町駅から西行きの電車で一駅、古河港駅に着くと、祝日とあってか、普段とは違ってそこそこ人が行き交ってたわ。
そこから桟橋まで歩き、長森島行きの渡船に乗って、揺られる事5分……麓に降り立ったの。
絵日記帳通り、山道を登るとしますか……ま、ロープウェイとか無いから、それ一択なんだけど。
山の中腹まで来ると視界が開けてて、対岸の古河町を一望できる休憩所があったの。
左方に棗海岸、正面に古河町の街並み、それらの間の奥に神尾渓谷……そして右方に月宮神社……ここから眺めると、小ぢんまりとした街のコンテンツが全部詰まってて面白い。
持ち主さんも、この景色を眺めたのかな?
スケッチしたいっていう衝動を抑えつつ、更に登ると、古びた神社が見えてきたの。
これが月宮神社奥宮なのね……存在があり得ないとか書かれてたけど、普通にあるじゃない。
初めてここまで来たけど、結構大変だった……持ち主さんは小学生じゃないわ、絶対。
お参りの仕方はよく分かんないけど、取り敢えず鳥居の前でお辞儀して境内へ向かって……ふと後ろを振り返ると、丁度正面に月宮神社が見えるようになってるんだね。
他の参拝客の見よう見まねで参拝を済ませた後、奥の方へ続く小径にも足を伸ばしてみる。
行き止まりまで歩くと、色鮮やかな花々が手向けられた立派なお墓が建ってて、墓石を見ると、戒名と共に、 [貴方が愛したこの場所から、私たちの行く末を優しく見守っていてください] って彫られてて、裏には、 [禰宜 安民 行年三十才] とある。
しばらく眺めてると、ママより少し若そうな女性がこっちに向かってきたの。
「道に迷われたのですか? ここはお参りする場所じゃありませんよ。 ご本殿はあちら側です」
「すいません、さっきお参りは済ませました。 ただ、小径の先が気になっちゃって……歩いてきたら、綺麗な花が華やかに供えられてるなぁって、眺めてたんです」
「そうでしたか。 ようこそお参りくださいました。 このお墓は夫のものです。 不慮の事故で、若くしてこの島で命を落としてしまいました。 もう、18年ほど前の話になります」
「それは……ご愁傷様でした……つかぬ事を伺ってしまって、失礼しました」
「いえいえ、見ず知らずの方とは言え、こうして来ていただいたのです、きっと夫も喜んでいる事でしょう」
「そうだといいんですが……。 ところで、墓石の裏側に禰宜? って彫られてますけど、どういう意味なんですか?」
「あぁ、それは[ねぎ]って読むの。 神職に就いてた頃の職名で、私と同じなのです」
「ねぎ……身分みたいなもんなんですね。 って事は、貴女も神社の人なんですか?」
「ええ。 月宮神社で禰宜をしています」
「そうなんですね。 ついこの前、高校の写生大会でお世話になったばっかです、月宮神社。 あはは」
「写生大会……ひょっとして貴女は古河高校の生徒さん?」
「はい、2年の火雷って言います。 巫女さんに無理をお願いして、授与所の裏から崖の下に降りてスケッチしました」
「ああ、ああ!! そういう生徒さんがいたって巫女から聞いたわ。 貴女なのね、うふふ」
微笑みが凄く柔らかくて、心が和む感じがする……それに、初対面でこんなに会話が弾むなんて……何て話しやすい人なの?
「あはは……場所にはこだわりたくて、他の子たちが選ばないとこを探したんです」
「こだわりね……あそこからなら、この島もよく見えたでしょう。 ここは月宮神社の主祭神なのよ」
ん? その話って、宮司さんを探して尋ねようとしてたヤツ! これはラッキーだわ!!
この話題なら、別に宮司さんにこだわらなくても、神社の人ならいいはずよね。
「あれっ?! 月宮神社の主祭神って、《あめのみなかぬしのかみ》じゃないんですか?」
「誰から聞いたの? その情報。 いえ、主祭神は長森島です。 貴女が口にした名は凄く偉大な神話の神様なんだけど、主祭神ではないわ」
あわわわわ……何よ、この絵日記帳の考察。
嘘つかないでよ、冷や汗かくじゃないの、もう!!
ここは急いで否定しとかなきゃダメね。
「あ、社会の自由研究で他人から聞いて……間違った情報だったんですね」
「ええ。 良かったわ、発表前に間に合って。 神社にまつわる事なら私に訊いてね。 私は月美と言います」
「間に合って助かりました、あはは……。 月美さん、ねぎさん……っと……めもめも。 困ったら尋ねに行きます。 あのぉ、旦那さんの墓前に手を合わせていってもいいですか?」
「どうぞ、きっと夫も喜ぶ事でしょう。 ありがとう」
私は安民さんのご冥福を祈って手を合わせたんだけど、この場合、神様に祈るの? 仏様に祈るの?? ……ま、厚かましいかもだけど、両方に祈らせてもらうね。
さすがに古河港駅まで戻ってきた頃には、脚がパンパンに張っちゃって……神社に向かう元気も無くなっちゃったから、家に帰る事にしたの。
「火雷、今日は朝早くから家を飛び出していったけど、長森島に行ってきたのよね?」
ママがそう尋ねてきた直後に、 「うん。 それなんだけど、パパとママに言っときたい事があって……これからする話は冗談じゃなくて、大真面目なの」 って、先に二人に釘を刺したの。
当然パパは、 「お、随分仰々しい前振りだな。 どんな話なんだい?」 って、身構えるよね。
「この前、神社で拾った絵日記帳の話、したよね。 その夜から変な夢を見るようになって……」
「何だ火雷、まだあの話、続いてたのか」
「絶賛継続中よ。 あの時、中身が何も書かれてないって言ったよね。 でも、夢を見た後、断片的にページが浮き出てきて……。 それをヒントにアクションを起こして、何らかの課題をクリアできたらまた変な夢を見て、別のページが浮き出て……ってルールみたいなの、この絵日記帳」
「ごめん火雷、もう一回だけママに確認させて。 ホントのホントに冗談抜きで言ってるのよね?」
「うん、だからまずは聞いて。 例えば今回は長森島について書かれたページが浮き出てきたから、実際に足を運んでみたの」
「確かにこの前、絵日記帳に書かれてる内容を教えてくれたら信じてあげられるかも、とは言ったけど……それで、何か成果はあったの?」
「そのページに書かれてた山頂の神社まで行ってお参りしたんだけど、脇道に逸れた所にあるお墓の前で偶然、神社の人に声掛けられて、ちょっとお話したの」
「火雷、ちょっといい? その人って偶然出会った人なのよね? 課題に関係なくない?」
「うん、全然偶然。 私も関係ないかも、って内心思ってるんだけど、もしかしたらそういうの出会いに課題が隠されてる可能性だってあるんじゃないかな、って」
「どう行動すれば正解なのか分からない……ぼんやりし過ぎて骨が折れそう、そのシステム」
「ノーヒントなんだもん……答え合わせは、今夜夢が見れたら、って事になるんだけど……」
「でも、成功へのご褒美で次のステップに進めるなんて……火雷がのめり込みそうな、巧みなシステムだわ」
ママ、変なとこに感心してる、あはは。
「そう、それなの! 何だろう、難問を解いた! っていう達成感が、私を動かすのよね」
「パパからもいいかな? その夢の事なんだけど、どういう感じなんだ?」
「どういう感じ? うーーん……女の子の声で、青白い人魂が話し掛けてくるの。 今まで2回見たんだけど、継続性も再現性もあって……会話も出来るの。 ゆらって名前を付けてあげたら喜んでくれたし、意志を持ってるんじゃないかな」
「継続性があって、会話もできる、か……」
「うん。 自分が誰なのかっていう記憶を失ってるみたいだけど。 まるで私の夢の中の住人みたい、って言うのかな」
「うーーん……夢に棲みつく人魂といい、夢と連動してページが開放されていく帳面といい、現実離れし過ぎてて、パパも素直には飲み込めないぞ。 でも、火雷は真剣だな。 ま、どこまで協力できるかは分からないけど、何かあったらパパにも相談しなさい」
「ありがとう、パパ、ママ」
パパもママも、私の言う事をちょっとずつ聞き入れる態勢になってくれつつある……これからも根気強く粘っていくしかないか。
☆今回気を付けた点☆
この世界線の火雷は、絵日記帳に描かれた別の世界線との違いを全く受け入れられてません。
この世界線の常識に当てはめて、情報の取捨選択をする……そういうスタンスにしました。




