39 あのコの背中、押せるかな?
いつも読んでいただき、感謝です。
金曜日の帰り、約束通り、ひむちゃんちまで一緒に向かう。
「折角ここまで来てくれたんだから、私の家、寄っていってよ」
でも私は、 「誘ってくれて嬉しんだけど、明日はお互い朝早いんだし、特にひむちゃんは体調バッチリで臨まないといけないんだから、ごめん、遠慮するよ」 って断ったの。
「あ、それもそっかぁ……じゃぁ、仕方ないよね。 ひいちゃんの気遣いを大切にするよ。 ここで少し待っててね」
ひむちゃんはそう言ってドアの奥に消え、入れ替わりにおばさまが出迎えてくれたの。
「ひいかちゃん、また来てくれたのね。 ひむかから色々と話は聞いてるわ。 ホントに色々と助けてくれてありがとう。 ゆっくりおもてなししたいところなんだけど、体調が優れなくて……。 またにさせてね」
「今日はひむちゃんの用事で寄っただけですから……それよりおばさま、お身体大丈夫ですか? 明日、ひむちゃんがやるべき事をこなして戻ってきて、おばさまの体調も戻ったら、その時はよろしくお願いします」
「ホントは私も明日、付いていってあげたいのに……。 私たちは無事を祈る事しかできないけど、もう一度ここで、三人で顔を合わせられるわ、きっと」
そんな会話をしてると、ひむちゃんが衣服一式を抱えて戻ってきたの。
「ブラウスもパンツも……ホントだ! イラストとほとんど同じ!!」
「うん。 明日、コーデをお披露目するから、楽しみにしててね」
「イラストと、実際に着てるとこ観るのとじゃ、全然印象が違うんだろうなぁ……。 あっ! ひいかも明日、ちょっとしたサプライズを用意してるからね。 楽しみにしてて」
「えっ?! サプライズ? って、何だろう~~。 お互いに楽しみが出来たね、明日の朝」
ひむちゃんの表情が明るくなった。 早速勝ち点1ね、よしっ!
「うん。 じゃぁ明日、洞穴でね。 つまづかないように気を付けてね。 って、透明化しててもこけたら怪我しちゃうのかなぁ……」
「うーーん……分かんないけど、足元には十分気を付けるよ。 また明日ね、バイバイ」
いよいよやってきた……[然るべき時]って思われる日が。
今日はこの町の記念日だから、町内の全部の学校がお休みなの。
ひむちゃん、朝8時に家を出るって言ってたから、私はそれよりもっと早く出発しなくちゃ。
実は今日のお出掛けの事、ママに話しそびれちゃったの。
「ママ、おはよ~~。 今日もまた、ひむちゃんに付き合って神社に行く事になったの。 この荷物を預けるから、持ってきてねって頼まれてて」
ママがもし、このボストンバッグについて尋ねてきたら、どうすればいいんだろう……。
中身はもちろん、ひむちゃんの着替えなんだけど、預かってる理由を超常現象なしではどうしても上手く説明できそうになくて。
「おはよ、ひいか。 随分早いわね、今日は。 最近、毎週のようにひむかちゃんと神社に行ってるのね。 最近まで全く縁が無い場所だったのに……これも何かのお導きなんでしょうね。 とことん付き合ってあげなさい。 それにしても大きなバッグね。 中に何が入ってるの?」
「中身は着替えだって言ってたよ。 勝手に開けれないから詳しくは分かんないけど」
「着替えね……そうなんだ。 でも、どうして自分で持って行かずに、ひいかに預けたんだろう」
ほら、来ちゃったよ、その質問……どう説明しよう……私がどぎまぎしてると、 「特に理由は言われてないのね。 それならいくら考えても出てこないわよ。 すぐに分からないって言った、って事にしておくわ」
私が必死に言い訳を探してるの、お見通しだった……でも、スルーしてくれたのね。
「いいわよ、理由なんて。 ひむかちゃんがひいかに頼み事をした、ひいかはそれをやり遂げる、それでいいの。 役目を果たしてらっしゃい」
「うん、ありがとう、ママ。 ひいか、頑張って行ってくるよ」
神社に辿り着くと、石段の終点に既にきゆりちゃんが待ってたの。
「よぉ、ひいか。 朝早くからいい汗かいて、清々しい気分だぜ」
あはは、世の中のありとあらゆる運動をトレーニングに変換しちゃう、きゆりちゃんの運動部魂には、一生頭が上がらないよ。
「おはよー、きゆりちゃん。 ひむちゃん、まだ来てないよね?」
あっ、私、姿が見えないひむちゃんが来てるなんて誰にも分かりっこないのに、変な事訊いちゃった。
「ああ、見てないぞ。 で、サプライズってくらいだから、どっかに隠れるんだよな。 どこでスタンバったらいいんだ?」
そんな細かい事、ツッコまないか、きゆりちゃんは。
「そうそう、ちょっと付いてきて。 今から宮司さんに話をつけに行くから」
「おいおい、今からかよ。 行き当たりばったり感満載だな」
あはは、そこはビシッとツッコまれちゃったよ。
社務所に向かう途中、鳥居の側でみづるさん発見。
「みづるさん、おはようございます! 朝早くから付き合っていただき、ありがとうございます」
「おはよう、ひいか。 いやいや、私こそ、ひむかのハレの門出に臨める場に立ち会わせてくれて嬉しいわ」
「ところで、今から宮司さんに事情を話しに行くんですけど、一緒に付いてきてくれませんか?」
「何っ?! まだ手筈が整ってないって言うの? 結構行き当たりばったりなんだな、ひいかは」
「あはは……」
隣できゆりちゃんも苦笑いしてる……ダメ出し連発なんて、恥ずかしいなぁ。
三人で社務所に入ると、丁度宮司さんがそこにいたの。
「おやおや、これはひいかさん、おはようございます。 初めて見る方々もご一緒なんですか。 ここに入ってくるとは、一体何のご用向きなのでしょう?」
「おはようございます、宮司さん。 突然押し掛けてすいません。 実は今日、ひむちゃんを見送るのにサプライズを考えたんです。 隣にいる二人は、ひむちゃんにカヌーの扱い方と、山の登り方を教えてくれたんです。 超常現象に関わる事情も、二人とも知ってます」
「サプライズ、ですか。 私も、ここにおいでの皆さんも、ひむかさんの運命に立ち会う者。 いいでしょう、一緒に見送ろうではありませんか」
「はいっ! ありがとうございます。 この後、ひいかがこの着替えを洞穴に持って行き、ひむちゃんが着て実体化する計画になってるんです」
「実はそれは私の発案なんですよ。 ひいかさんにお願いして無事に協力が得られた、という訳ですね。 それなら話の流れは想像できます。 その後、ここへひむかさんを連れてくるのでしょう?」
「はい。 ここで、皆でひむちゃんを驚かせたいなって」
「それなら一人、大切な人が足りませんね。 ちかねも、その頃にはここへスタンバイさせるとしましょう。 それで、到着はいつ頃なのでしょうか?」
「ひむちゃんは家を8時に出るって言ってました。 30分くらい後だと思います」
「なるほど、分かりました。 ひむかさんは姿が見えないのですから、いつ、どこで見られてるか分からないのが怖いですね。 不意にここに立ち寄られたら、サプライズは台無し……私たちは奥の部屋に待機しておくのが無難でしょう」
よく考えたら、一方的に私たちの姿を見られるって事もありえる……宮司さん、冷静だなぁ。
「あはは、今もどこにいるのか分かんないから、ひいかは洞穴に急いだ方が良さそうですね。 ここへひむちゃんを連れてくるまでの間、そこで待機をお願いします。 ひむちゃんの出発を後押しできるような感動的なサプライズ、頑張りましょう!」
洞穴の中で待機してる時に思ったんだけど、ここってホント、何にも無くて。
せめて、ひむちゃんが服を置く場所くらい用意してあげたいな、って思って、宮司さんにお願いして小さなテーブルを運び込んで到着を待ったの。
2~30分くらい待ったかな……目の前に置かれた下着が独りでに動き出したの。
「わわっ! ひむちゃん!! 分かってても、モノが飛び回るのにはビックリしちゃうよ、あはは。 おはよ~~。 大変だったでしょ? ぬいぐるみ抱えてここまで来るの」
「おはよう、ひいちゃん。 驚かせちゃってごめんね。 うん、1mもあるもん、足元が見えにくくてちょっと怖かったけど、しっかり抱きかかえて持って来れたよ。 今、ここに置いたところ」
姿を現したひむちゃんが床の方を指差してるけど、もちろん私には何も見えませ~~ん。
私が運んできた衣服をしっかり着込むと、ほとんどイラストのイメージ通りの立ち姿に。
「わぁ~~、スタイリッシュで凄くおしゃれ~~。 凄く似合ってるよ~~。 ひむちゃんの新しい魅力、ここに発見だよ」
「あはは、ありがとう。 お披露目が遅くなっちゃって……。 でもこれ、私のセンスじゃないから……そこが残念だなぁ」
「でも、誰のかは分かんないけど、コーデのバリエーションが増えたよね。 ひむちゃんのセンスとして吸収しちゃうといいよ。 じゃぁ……出発の前にちょっと寄ってほしい所があるんだけど……少しだけいいかな?」
「寄ってほしい所? うん、いいよ~~。 何処なの?」
敢えてそれにはもったいぶって答えず、ひむちゃんを社務所に連れて行ったの。
本編の第49話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
明美が[然るべき日]に神社に行けない理由を付加しました。
由美子がひいかの言動を不審に思うシーンは、本編を書いた時に自分が思った感想を付け加えたものです。




