34 着付けの特訓
いつも読んでいただき、感謝です。
2時までにはまだまだ時間がある、って事で、ひむちゃんと月宮神社前駅まで歩いてみる事にしたの。
私たちって、電車でここに来た事無いもんね。
門前町っていうのかな、石畳の道の両脇には小さなお店が一杯。
そこの中から、うどん屋さんを選んで、お昼御飯を食べたの。
麺はしっかりで噛み応えがあって、味は薄味でスルスルってお腹に入っていく……いい感じにお腹が膨れて、社務所に戻ってきたのは、2時ちょっと前。
予告通り2時に現れたちかねさんは、軽く宮司さんと打ち合わせした後、私たちを奥へと案内してくれたの……ここって先週、昼食を戴いたお部屋ね。
「じゃぁ、ひむかちゃんにはここで着付けの特訓を受けてもらうわよ。 ビシバシいくからね~~。 ひいかちゃんは……申し訳ないけど、見学ね」
今日の私はとことん見学……ホント、大人しくしてるイイ子だね。
「さっき、宮司に予備の衣装を使う許可をもらったから、今からこれはひむかちゃん専用ね」
ちかねさんが指差す先には、ひむちゃんがイラストで描いてたのとそっくりな衣装が綺麗に畳まれて置かれてる。
これは滅茶苦茶、女子心をくすぐるわ。
「わぁ~~、ありがとうございます~~。 早速、どうやって着るのか、教えてくださいっ!」
「ぐいぐい来るね~~、その意気よ。 じゃぁ、まずは下着姿になって。 あっ、靴下も脱いでね。 そこからスタートよ」
「はい、分かりましたっ!」
ひむちゃんの表情が生き生きしてる……そりゃそうか、憧れの服装が出来るんだもんね。
ちかねさんがどれだけ手際よくひむちゃんを着付けていくか……折角だから、私も横からじっくりと観察してみよっと。
「準備できたみたいね。 これから、ひむかちゃんをマネキンに見立てて、衣装を着せていくからね~~。 じゃ、まずは足袋を履いて……これは簡単ね。 それから襦袢を……こうやって着て、腰紐で結ぶの」
私もどこまで観て覚えられるか、勝手に真剣勝負よ。
「次に、重ね襟ね。 赤い襟をこう……襦袢の襟とは少しずらしてね。 で、腰紐で結ぶ、っと。 その上に白衣を着るの。 こうやって……しっかり腰紐で結んで、伊達締めをその上に巻く、っと」
何度も腰紐で締めてる……巫女さんの衣装って、がんじがらめなんだね、結構。
「うん、ここまでは何とか大丈夫そうです」
「よしよし。 ここでいよいよ袴の登場よ。 前身頃を持って、脚を通すの。 高さは……こんなもんね。 で、紐を背中側から巻いて、お腹の前でこう折り上げて、背中で蝶結び、っと」
「あわわっ! 何だか、急に難しくなってきた……」
ダメダメ、私も付いていけなくなってきた……ゲームオーバーだわ、私。
そんな事を考えてたら、ちかねさん、明らかにスピードを落として……きっとここは難しくてつまづくって分かってるんだろうなぁ……優しい。
「めげずに付いてきてね。 今度はこのヘラをここへ通して、後身頃を腰の上まで持ち上げてっ……後ろから紐を引っ張り出して、前でこう折り上げて、ここを通して……上下に引っ張って締めて、輪を作って蝶結びしたら、完成っ!」
って思ったら、わざと駆け足で完成させてきた?!
でもこれ、いじめてるんじゃなくて、ひむちゃんをもっと本気にさせるための演出なんじゃないかな……。
「あわわわわっ……ちかねさ~~ん、覚え切れないよぉ~~」
ひむちゃん、半べそかいてる……何だか掌の上で踊らされてるみたい。
「分かったわ。 じゃ、袴の着付けを最初からもう一度、ゆっくりやってみせるからね」
・・・・・・
「何となく……何とか付いていけてる、と思います」
いや、自信無さげ感満載なんだけど……そんな事言ったら、きっとちかねさんなら、先に進んじゃうよ?
「じゃぁ、その言葉を信じて先に進むわよ。 最後に千早を羽織るの……紐はこんな風に結んで……っと。 はい、出来上がりっ!」
「あわわわわわわっ……今、指、どうやって動かしたんですか?! あやとりみたい……難しいよぉ」
ほらほら、中途半端に分かったふりなんかするから、ますますパニクっちゃってるじゃない、もう。
「ひむかちゃん、一回で覚えようとしてる? 慌てないの。 これから袴と千早を自分で着てもらうんだけど、10回繰り返すんだから。 詰まっても怖がらなくていい。 記憶力を全力でぶつけてチャレンジしてみて」
「は、はい……やってみます」
他人が猛スピードで成長する姿を、私は目の当たりにしたの。
1回目こそ、数え切れないほどちかねさんにアドバイスをもらいながら、注意されながら、ゴールに辿り着いてたのに、10回目には完全にひむちゃん独りで着れるようになってるんだから。
「やっぱり、つまづきながらでも、実践しながらチャレンジする方が、覚えられるものなんですね」
「そうなの。 自転車に乗れるようになるのに似てるかな。 何度も失敗しながら身体で覚えるのが一番手っ取り早いって私は思うの。 厳しかったでしょ……スパルタっぽく鍛えて、ごめんね」
何気にコーチングの能力も凄いんだけど……ちかねさんって上に立つ人って感じがする。 カッコ良過ぎだよ。
「あと、残りはゴムと花かんざしか……ひむかちゃんは髪がしっかり長いから、この位置で一本に束ねられるね。 で、頭にかんざしを、っと。 はいっ、完成よ!! それにしても巫女衣装、凄く似合ってるわね。 私より可愛いなんて、嫉妬するわよ」
これが、巫女衣装を完全装備したひむちゃんかぁ……まるで……。
「まるで、巫女さんになるために生まれてきたんじゃない、ってくらい……ひむちゃん、凄い似合ってるよ、その衣装」
ついつい言葉に出しちゃった……今日は口出ししないぞ、って思ってたのに。
「もう、二人ともぉ。 そんなに似合ってるのかな? 私も鏡で観てみてもいい?」
ひむちゃん、部屋の隅にある立ち鏡の前にテクテク歩いていって、セルフチェック。
「わぁ~~、私、巫女さんの衣装を着てるよ~~、夢みたい」
さっきの努力に免じて、ちょっとの間、ナルにさせてあげよう。
「これで衣装の着付けはバッチリだね。 あとは忘れないよう、まめに復習するのよ。 イメトレでも良いけど、ここに来て本物を着るのがもっと良いね」
「はい! きちんと反復します!! ここに来れば、また着させてもらえるんですね。 ありがとうございます!」
「で、舞なんだけど……これはそう簡単にはいかないわ。 割と長いの……10分くらい。 それだけ沢山の動作を覚えなきゃいけないんだからね」
「10分、ですか?! 長いなぁ……私、覚え切る自信、持てないよぉ……」
「まだ始めてもないのに、そんな弱気でどうするの! さっきみたいに、気持ちだけでもガガッと来ないと!! じゃぁ、採物から説明するね。 これが桧扇で、これが鉾先鈴。 扇はこう持って……開く時は、こう。 で、鈴は、ここを親指以外の四本の指で握って、鳴らす時は親指の方へ引き込む感じで、こう。 五色の紐を鈴緒って言うんだけど、緑が上になるように心掛けながら、反対の手で持つの。 じゃぁ、やってみて」
シャン、シャン……何て澄んだ音色なの……心の奥にまで響き渡るみたい。
「うんうん、なかなか筋が良いね。 って言うかひむかちゃん、ホントに初めてなの?」
「は、はい、全く初めてです。 でも、舞はデジャブを感じるっていうのか……観た事があるような気がするんですよ」
「うーーん……つくづく不思議な子ね、ひむかちゃんって。 時間が来ちゃったから、残念だけど、今日はここまでね。 舞の練習、今日のうちに始めておきたかったなぁ……」
「私のために時間を割いていただき、ありがとうございました。 また、来週の日曜日に来ます」
「でも、3週間くらいしか残されてないんでしょ、時間……そんな、まったりペースで練習してマスターできるほど、簡単なものじゃないわ」
[時]が今月末なのか、年末なのか……それもあくまでちかねさんの推理なのに、どういう訳か、ひむちゃんより焦ってるように見える……これって、きゆりちゃんと同じなのかなぁ。
自分はどう頑張ってもその場に行けないから、ひむちゃんに思いを託す、みたいな。
そんな事を考えてたら、宮司さんが部屋に入ってきたの。
「ちかね、そろそろお勤めが終わる時間ですよ。 惜しいかもしれませんが、今日はここまでに致しましょう」
「分かりました、宮司。 って事だから、今日教えた事はしっかり家で復習して身に付けてね。 舞の練習には全面的に協力するから、私。 こんな事言うの、変かもしれないけど……そうする事が[神の思し召し]のように感じるのよ」
「神の思し召し……はい! 私もご厚意に応えられるように頑張ります!! 宮司さん、ちかねさん、今日は長い時間、有難うございましたっ!!」
「はい。 ひむかさんが使命を果たされるために、手伝える事があれば喜んで協力させていただきます。 では、帰り道、お気を付けて」
「ひいちゃん、朝からずーーっと付き合ってくれてありがとう。 私の事ばっかりで、ずっと見学させちゃって、退屈させちゃったよね……」
「違うよ、ひむちゃん。 ひいかは自分から望んで、ひむちゃんの側にいるんだから。 ひいかはそうする事が使命だ、って気がしてるから」
神社でほとんど口が利けなかった分、いつもよりマシマシにお喋りしながら、夕空の下をゆっくりと帰っていったの。
本編の第45話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
巫女衣装の着付けの描写を、ひむかが慣れない事に格闘する姿を描くために、意識的に詳しくしてます。
読む際は、軽く読み流してください。




