33 巫女さんの考察、そして、特訓の始まり
いつも読んでいただき、感謝です。
「じゃぁ、気を取り直して。 次は……茅の輪に、衣装に、採物に、大祓詞かぁ。 衣装の中に千早が、採物の中に鉾先鈴がある……浦安舞を連想するのは宮司と同感よ。 で、手紙の文章か……ちょっと声に出して読んでみるかな」
この手紙を読んでいる、愛しい貴女へ
様々な難題を乗り越え、長い旅を経て、よくここまで辿り着きました
現世の貴女の立ち振る舞いを、心より褒め称えます
現世の貴女、決して、周りの人々の助力に支えられている事を忘れないでください
周りの人々の情の深さに背中を押され、今があるのです
貴女はその姿を、しっかりと目に焼き付けるのです
現世の貴女は、私が遺した衣装を身に付け、私が遺したカヌーを使って長森島へ渡り、
然るべき時に、然るべき場所で、然るべき衣装で、然るべき所作をもって、私を呼び出すのです
そして、今までに得た、貴女の数多の経験を武器に、私を論破するのです
私はそれを待ち望んでいるのです
「現世の貴女、っていう言葉が不気味ね。 そう断るって事は、過去の貴女とか未来の貴女とかみたいなのもいそうじゃない? そこは一旦置いといて、8行目を考えてみたいの。 然るべき時にほにゃらら……ってところ。 ここは私、何となく想像がついたわ」
「えっ?! 何かが分かった! って事ですか?」
「ま、これも私の妄想なんだけど、また付き合ってくれる?」
さっきは羽目を外し過ぎちゃって宮司さんから叱られてたけど、ちかねさんの目が笑ってないとこを見ると、今回はマジみたい。
「あはは……今は喉から手が出るほど手掛かりが欲しいから、ぶっ飛ばない程度でお願いします」
「ええ。 では……。 [時]は大祓が行われる6月か12月の末日。 [場所]はその奥宮の本殿。 [衣装]は千早を加えた、本殿に用意されてる衣装。 そして[所作]は同じく用意されてる採物を用いて浦安の舞を舞う、ってところじゃないかな。 あと、何処かのタイミングで、神籬の前で大祓詞をお唱えするっ! ……どうよ? もしかしたら全然違ってたりするかもだけど」
これは……巫女さんの知識を結び付けないと辿り着けない推理だよ。 やるときはやる……ちかねさんって凄い!
「なるほどー! ばっちりハマってる感じがします!! ところで、ひもろぎ? って何ですか?」
「榊のような常緑樹を立て、周りを囲って神座としたものよ。 神霊を招き降ろすために、清浄な場所に作られるの。 ひむかちゃん、そんな感じのもの、本殿の中で観なかった?」
「あっ、そう言えば本殿の奥に、脚の長い台の上に、白いギザギザの紙が垂れ下がった、葉の付いた枝が置かれてました」
「それね。 白いギザギザの紙は紙垂、って言うのよ」
「はぁ……私には分からないものだらけ……何で私なんかが選ばれたのかなぁ……」
「それは幾ら考えても解ける謎じゃないわ。 でも、私の推理通りだとすると、問題が幾つか出てくるの。 浦安舞用の衣装を自力で着付けられるようになる事、採物を適切に扱って舞を舞えるようになる事、大祓詞を噛まずに唱えられるようになる事……ひむかちゃんがこれらの課題を全部クリアしないといけないって事。 しかも、もし[時]が6月末だとしたら、もう3週間ほどしか時間が残されてない。 そんな短い期間でマスターするなんて、無茶だと思うの、私は」
そうよね。 島では誰も助けてくれないんだもん、何もかもをひむちゃんが出来なきゃいけない。
着付けるのも、舞うのも、唱えるのも全部……しかもイチから、たったの3週間で。
「確かに、絶望的かもしれない……でも、私にしか出来ない事だから……選ばれてしまった使命を果たさなきゃって思うから……何としてでもやり抜きたいの!!」
感情を隠さず、これだけの強い決意を言葉にするなんて……何だか強くなったね……ひむちゃん。
「……ひむかちゃんの言葉に強いソウルを感じるわ。 決意は固いみたいね。 強い気持ちを持ってチャレンジすれば、大きな壁も乗り越えられるよ、きっと」
ちかねさんも、ひむちゃんのマジの熱意を認めたみたい。
「私は巫女だから、衣装の着付けと、採物の扱い方、浦安舞の舞い方は教えてあげられる。 大祓詞は私でも唱えられるけど、そこは宮司にお願いする方がベストかな。 細かいところを要求されたら、私じゃ及ばないかもしれないから」
ずっと聞き手に回ってた宮司さんも、ちかねさんに割り振られた役割を、 「ちかねの推測は一理ある、と私も考えます。 では、大祓詞は私が面倒を見るとしましょう。 奥宮にあるものには平仮名が打ってあるとの事ですので、お唱えするコツや注意点についてお伝えしましょう」 って、快く引き受けてくれるみたい。
「じゃぁ、早速だけど、2時頃に舞台の辺りで待っててくれないかな。 スパルタ指導になるから覚悟しておいてね」
言ってる事は怖いけど、声色にはトゲが無い……ちかねさんのいたずら心を感じるかな。
あんまりひむちゃんをビビらせちゃだめだよ、もう。
「ひぇ~~、ちかねさ~~ん、どうか手加減を……お願いしますぅ……」
ほらほら。
「ごめんごめん、冗談よ、冗談。 私、今日はお勤めが一杯あって、その時間まで手が空かないの。 ごめんね」
「それならそれまでの間、私が大祓詞をお教えするとしましょう」
「はいっ! よろしくお願いします、宮司さん!! 私、頑張ります!!」
こうなったら、私も今日はとことんまで付き合うよ。
側で見守る事しか出来ないけど……。
「ひいちゃん、ずーーっと見学ばっかりで退屈させちゃって……ごめんね」
私は何も言わず、ただ静かに首を振って、両手をグーにして両胸の前に……ガンバレポーズで気持ちを伝えたの。
ちかねさんと一旦別れ、宮司さんのレクチャーを受ける事になった、ひむちゃん。
宮司さんが奥の部屋から、冊子を手に戻ってきたの。
「ここには大祓詞の全文が書かれています。 見開きでお唱えできるよう、蛇腹に折り畳まれているのです。 一冊、貴女に授けましょう。 あ、初穂料は私が立て替えておきますので、遠慮なく受け取ってください」
「ありがとうございます。 字が大きくて、振り仮名も付いてるので、使い易そうです」
「ええ。 では、まずは予備知識無しでお唱えしてみましょうか。 私に続いて真似してみてください。 では、姿勢を正して……」
・・・・・・
「どう感じましたか? 読んでみて」
「うーーん……何度もつっかえてしまって……読み方が違うところが特に……全然ダメでした」
これは難しそう……独特のリズム感、って言うのかな。
ひむちゃんも頑張って付いていってたけど、字をなぞるので精一杯、って感じ……正直、二人の差はかなり開いてる。
「初めてでしたし、それは致し方ないでしょう。 では、ここで注意事項を幾つかお伝えしましょうか。 抑揚はあまり付けずに平たく、落ち着いてゆっくりとお唱えしてみてください。 特に旧仮名遣いのところでつまづいていましたね。 はひふへほ、はよく、わいうえお、に変わるので注意してください。 迷うようなら、目立つように丸印を付けても構わないでしょう。 あと、中ほどにある [太祝詞事を宣れ] の後は、五秒間ほど間を空けてください。 理由を深く考える必要はありません」
「平たく、落ち着いてゆっくり……分かりました。 もう一度お願いします!」
「はい、また最初からお唱えしましょう。 丸印を付けながらでも結構ですので。 では……」
・・・・・・
「先程よりスムーズになりましたね。 是非、その調子で家でもお唱えしてください。 何度も繰り返すうちに、どんどん上手くなりますから。 本番でも詞を見ながらお唱えできるのですから、慣れれば必ずや、やり遂げられるでしょう」
そうよ、これは暗記しなきゃダメ! ってもんじゃないんだよ。
冊子を見ながら、落ち着いて間違えずに読めればオッケーなんだからね、きっと。
「ありがとうございます、宮司さん。 頑張ってみます!」
本編の第44~45話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
最終試練に立ち向かうひむかの特訓がここから始まりますが、ひいか視点ではただ見守るだけ。
主人公なのに、こんなにセリフが無いなんて、ちょっと可哀想になります。




