32 宮司さんから巫女さんへバトンタッチ
いつも読んでいただき、感謝です。
「お待たせしました。 それでは……この最後のイラストなんですけど……本殿の隅に色々な小物が置いてありました」
「ほほぅ……これは、間違いなく巫女舞で用いる採物ですね。 しかも、鉾先鈴が描かれている事から、浦安舞を舞うためのものです。 その鈴には三種の神器が象られており、神からそれらを借りて舞う、という神聖な意味が込められている……浦安舞専用のものなのです。 桧扇も用意されているようですし、間違いないでしょう」
「とりもの、って言うんですか。 ところで浦安舞って、どういう舞なんですか?」
「浦は”こころ”を、安は”安らぎ”を意味し、平和を願う為に作られた舞、と言われています。 大祓でも舞われる事が多いのですよ」
「平和を願う……舞……」
「これは巫女である、ちかねに尋ねてみられるといいでしょう」
「はい、後で訊いてみます」
ひむちゃんと宮司さんの話、どんどん神社にまつわるディープなものに……今までひむちゃんから聴いた他の超常現象も、そっちに関わってる気がする。
だとしたら、何で神社に縁の無かったひむちゃんを、手紙の主はわざわざ選んだんだろう……。
「それと、採物と一緒に、”おおはらえのことば” っていうタイトルの冊子が置かれてあったんですけど……」
「ああ、それは先ほど私が申し上げた大祓の際に、犯した罪や穢れを祓うために唱える祝詞なのです。 高天原に神留り坐す、から始まるものですが、ここに描かれている冊子には振り仮名が付いていましたか?」
「はい、付いてました。 ですけど、読み方が難しそうで……上手く読むのは無理そうです」
「聞き慣れない言い回しが多く、それでいて旧仮名遣いですから……すらすらお唱えするのには鍛錬が必要になるでしょう」
「宮司さん、私でも練習すれば、ちゃんとお唱えできるでしょうか……」
「少しずつ慣れていけば、きっとできるようになると思いますよ。 それにしても……貴女がその神社で観てこられた不思議な物の数々……全体をぼんやりと眺めてみると、全てのピースを頭の中で繋げられそうな感じがします」
えっ?! 宮司さん、何か凄い事に気付いたっぽい??
「今までの話に繋がりが見えた、って事ですか? 是非是非教えてください!!」
「あ、はいはい。 ここまで貴女から聴いた話は、どうも大祓に関わるものばかりなのですよ。 茅の輪をくぐり、大祓詞を唱え、浦安舞を舞うための衣装を着て、専用の採物を用いる……それらがそこには予め準備されている、そう思えるのです」
「うーーん……それらを私がこなすように、手紙の主に求められてる、って事でしょうか?」
「貴女が手紙の主に求められている……と、言いますと?」
「はい。 実は崖の下にあるカヌーに手紙が置かれてたんですけど……あっ、そうだ! あの手紙の内容、一字一句正確に絵日記帳に書き留めたいんですけど、もう一度、あの洞穴を使わせていただけないでしょうか」
「そこに、その事柄が書かれている、と言うのですね。 分かりました。 それなら、授与所へご案内しましょう」
・・・・・・
「宮司さん、調べ物を済ませたら、すぐここへ戻ってきます。 まだお話ししたい事が残ってるんです」
「そうですか、分かりました。 では、それまでの間に、私はちかねを呼び寄せるとしましょう。 彼女に教えてもらいたい事、手伝ってもらいたい事があれば、お願いしてみてください」
宮司さんと授与所で別れると、私たちは裏口から出て、洞穴に向かったの。
そこでひむちゃんが透明化……私は待ちぼうけになるけど、近くにひむちゃんがいるはずだから、心細くはないからね。
3~4分くらい待った頃、目の前に現れたひむちゃんは……どういう訳か、下着姿。
「ひいちゃん、ここに例の手紙を持って来たの。 全部で10行あるんだけど、正確に絵日記帳に書き込んでいきたいから、消えたり現れたりするけど……ちょっと待っててほしいの」
えっと……ひむちゃんが言いたいのって、透明化して文章を1行覚え、現れて絵日記帳にそれを書き出す、って言うのを繰り返す、って事かな。 じゃぁ……。
「分かったよ。 ひいか、その間、後ろ向いてるから、そのミッションに集中して」
「ひいちゃん、ありがとう」
・・・・・・
「ひいちゃ~~ん、完成したよ~~。 私、記憶力に自信が無いから……時間がかかっちゃってごめんね」
「ううん、手紙の内容をきっちり書き取るの、凄く重要だと思うから」
「ありがとう。 じゃぁ、戻りましょ。 私事に協力してくれてる人たちを、待たせっぱなしにしちゃ申し訳ないから」
授与所に戻ってくると、宮司さんとちかねさんが私たちを迎えてくれたの。
「ああ、戻られましたね。 例の手紙の内容はしっかり書き写せましたでしょうか。 ここにちかねを呼びました。 先ほど貴女からお伺いした話をかいつまんで伝えたところ、とても興味津々なようですよ」
「お二人とも、ようこそお参りくださいました。 宮司から話を聴いたのですが……貴女がそのような神懸かった力をお持ちなんて、にわかには信じられなくて。 絵日記帳に詳しく記録している、と聴きましたが、見せていただけないでしょうか」
ちかねさんがそう言うと当時に、宮司さんが、 「ここだと、他の巫女たちのお勤めに支障をきたし兼ねませんので、どうぞ、こちらにおいでください」 って言って、私たちを授与所の外へ追い立てたの。
おおっぴろげにしたくない話だから、気兼ねなく話すには場所を変えた方が良いよね、確かに。
結局、私たちとちかねさんは、宮司さんに社務所へと案内されたの。
「ちかねさん、このノートです。 どうぞ」
社務所に戻ってくると、ちかねさんも加わって、謎解きの続き。
「ありがとうございます。 少しお借りします……このウサギのぬいぐるみのイラスト、前に見せていただいた事がありましたね。 なるほど、あの時のノートなのですね……」
丁寧にページを繰っていって、じっくり時間をかけて読了。
「ここの沖にこんな島が見えているのですか……。 茅の輪、巫女の衣装、そして採物……観た事がない人が、想像だけでこれほどの絵は描けないでしょう。 やはり、貴女は特別なチカラをお持ちだと認めざるを得ません。 貴女を信じましょう」
何とか、ちかねさんを話を聴いてもらえそうな雰囲気に持っていけたね。
ホッとしたよ……だって、言葉遣いに凄く心の距離を感じるんだもん……そこんとこが凄く心配だったんだ、私。
「ところで、貴女のリュックにぶら下がっているウサギの根付、どこで手に入れたのですか?」
はっ? シリアスな話をしてる最中に、突然そんな話、ぶっこんでくるの?? どう考えても関係ないでしょ。
「えっ?! この根付、ですか? 古河町にある文房具店で買ったんです。 新作を見付けて、ついつい……」
ひむちゃんも、さすがにどぎまぎしてるよ……宮司さんも、何でツッコまないの?
「そこで気に入って、買ってくれたの?」
買ってくれた? いや、それより……言葉遣い、崩れてない?
「……あ、はい。 私、ウサギが大好きだから……この子も可愛くて、お気に入りなのです」
「ホントに?! ありがとーー!! 実はその子、私の手作りなの。 文房具店に私の作品を並べさせてもらっててね。 あっ、ついつい言葉が……ま、いっか。 言葉、崩していい? 私、ひむかちゃんに親しみが湧いてきちゃって……」
ナニナニナニ?! この変わりよう!!
ちかねさんの心を開くほどのパワーがこの子に……こんな運命の繋がり方、ある??
「この子、ちかねさんの手作りだったんですか! あはは……偶然って怖いなぁ。 堅苦しくない方が私も話しやすいので、助かります、あはは」
「あ、ごめんごめん、話を戻さないとね。 ひむかちゃん、私が思った事、並べてみてもいい?」
「はい。 是非、お願いします」
「まず、私が引っ掛かったのは、奥宮の存在ね。 この神社には別の主祭神さまがおいでなのに……じゃぁ、奥宮の主祭神さまって、どの神様なの? って」
「さっき、同じような事を宮司さんも言ってました。 でも確かに、島にあった道案内にはそう書かれてたんです」
「うーーん……もし、無理くり辻褄を合わせよう、って考えたら……例えばさぁ、大昔に海の向こうにその島……長森島だったかな、が存在してたんだけど、地震だか何だかで海に沈んじゃった……長~~い年月が経って、島の事が忘れ去られて、主祭神が分からなくなった後の宮司さんが別の神様にしちゃった、とか」
この人、実はとんでもない妄想癖の持ち主だった……あはは。
でも、変な角度から見てたら、真実が見えてきた! なーんて展開もあったりするもんなぁ……ま、漫画での話なんだけど。
「わぁ~~、ちかねさん、凄い想像力ですね~~。 じゃぁ私、島が沈む前の、大昔の長森島に足を踏み入れてきた、って事になるのかなぁ?」
あちゃ~、真に受けてる人がいるよ、ここに一人。
「これこれ!! 妄想とはいえ、私の祖先が無礼を働いたような大それた事を、軽々しく口に出すものではありませんよ、ちかね!!」
あ、そっか! ちかねさんの妄想って、何気に宮司さんの祖先がダメな事をした、って言ってるようなもんじゃない!!
そりゃ、怒るわ、幾ら冷静な宮司さんでも。
「す、すいませんっ、宮司!! 神様、私が浅はかでした。 どうぞ無礼をお許しください!! 今のは私のただの妄想……それに関してはお手上げだわ」
私、ちかねさんってキャラ、一生掴めそうにないわ、あはは。
本編の第43~44話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
ちかねの豹変ぶりは原作通りなんだけど、実際にこんなに変わる人がいたら怖いよね。




