30 あのコが観てきた、隠された島
いつも読んでいただき、感謝です。
翌日、ひむちゃんは朝から眠たそ~~ぉな顔、してた。
熱中し過ぎて夜更かししちゃった? それとも、気分が高ぶって眠れなかったのかな??
どっちにしても、少しでも頭を休ませてあげなきゃって思って、登校の時、ほとんど喋らなかったの。
私がお弁当を食べ終わるのを待ってたのかな、片付け始めた時、ひむちゃんが話し掛けてきたの。
「ひいちゃん、早速、島で観てきた事を話すね。 昨日の夜、お母さんと絵日記帳に色々と書き加えながら検討会をしたから、観ながら聴いてね」
「うん。 ひいかの目の前から消えたところからよね?」
「そう。 あの後、カヌーに置かれてた衣装を、洞穴に持ち込んで着たんだよ。 そのリストをここに書き出したんだけど……」
「一旦洞穴に戻ってきてたのね。 気配、全然感じなかったよ」
ひむちゃんが絵日記帳の5ページ目を開き、右下のコーナーの指差すところを読んでみる。
「あっ、これだね。 [置かれてた衣装……下着とソックス、水色のボウタイブラウス、デニムのワイドパンツ、ローヒールのローファー、カーキー色のロングカーディガン]……あっ、 イラストは描いてないんだね」
「あ、他に覚えておかなきゃいけない事が沢山あり過ぎて、これは言葉だけで書き留める事にしたの。 それでも思い出せるかな、って思って」
なるほどねー。 確かに、これだけ具体的に書いてくれてたら……。
「そうだ! ひむちゃんがこの衣装を着てる姿、イラストにしてみたいっ! 見開きで使えなかったゼロページ目に描いて、表紙代わりにしたいの!!」
文章からイメージを膨らませてイラストを描いてく……絵のスキル磨きにもなるしね。
「表紙に私の立ち姿なんて恥ずかしい~~。 でも、分かったよ。 出来るだけ可愛く描いてね」
しっかり頷いて、ラフ画を描き始める……ひむちゃんが着たらどんな感じだろうな……想像しながら描き込んでくうちに、どんどん楽しくなってきた……まるでお人形に服を着せていってるみたいだもん。
「わぁ~~、ひいちゃんのイラスト、まるで観てたんじゃないの? ってくらいリアルだよ。 私、本の表紙を飾るモデルさんになったみたいで、嬉しい~~」
私の描いた絵で、ひむちゃんを笑顔にできる……私にもまだ出来る事が残ってるんだね。
「リアルでも、この恰好してみたらどうかな? 凄く似合ってるもん……って、ごめん、話を脱線させちゃった、あはは。 で、封筒の手紙も読めたんだね。 えっと……[手紙は私宛っぽい。 難題を乗り越えてよく辿り着いたね、とか、周りの人々に助けられてるのを忘れるな、とか、上から目線。 で、この衣装を身に付けて、カヌーで島へ渡れって。 然るべき時に、然るべき場所で、然るべき衣装で、然るべき所作をもって呼び出し、論破しなさい、だったかな]……かぁ」
「とても覚え切れなくて……もっとしっかりした文章だったんだけどなぁ」
「それは仕方ないよ。 この手紙の主、ひむちゃんを島に誘導する手を打って待ち構えてるみたいな……。 ここに来るのが想定通り、って感じの文章なのが、まるで予言みたいで不気味だよ」
「うーーん……。 私、ずーーっと前から、手紙の主の思う通りに動いてきちゃってる、って事なのかなぁ……」
「あり得ないよぉ……まるで、ひむちゃんが手紙の主に操られてるみたいじゃない、そんなの。 あと、然るべき時に……ってところ、超重要ポイントっぽいよね。 呼び出すのも何だか難しそうだし、最後に論破って……」
ひむちゃんに一体何を望んでるの??
「やっぱ、この手紙の主は誰? ってところでつまづくよね。 お母さんは神様か何かじゃないかな? って言ってたけど……」
「もうこれは、考えても分かりっこないよ……話が進まなくなっちゃうから、ここは一旦置いとこうよ」
これもミステリー過ぎて無理無理。
次のページに繰っちゃうね。
「うん。 その後、カヌーで島に渡って……あっ、この島、長森島っていう名前らしいの。 で、砂浜に上陸して、山道を延々と……一本道なんだけど、2時間くらい登って……最後に神社に辿り着いたの」
その時、私とひむちゃんの背中、同時にポーーンって叩かれてビックリ!!
「おいおい、ひむかもひいかも、面白そうな話してるな。 2時間も登りが続く山道って……その長森島って何処にあるんだ? 聞いた事無いぞ」
あらら……迂闊だった……後ろに立ってたのは、きゆりちゃん。
もう、私たちの話に興味津々で、身を乗り出して聴いちゃってる。
「もぉーー、きゆりちゃん、盗み聞きはダメだよぉ」
「ごめんごめん。 知らない山の話してたら、そりゃ、山岳部員の血が騒ぐでしょ!!」
「あはは……それもそうか。 話せば長くなるんだけど……その島、ひむちゃんにしか見えないし登れないの。 きゆりちゃんも無理だし、当然、ひいかも無理なんだよ」
「な、何だ?! ひむかにしか見えない島って、また小説でも書いてるのか?」
空想の話してるって思うよね、やっぱ……きゆりちゃんの反応、至って正常だよ。
「ま、そう思うのも無理ないよ。 でもひむちゃんには、本当にひいかたちに見えないものが色々見えてるみたいなの。 その超常現象をまとめたのが、これ」
何故だろう……私、きゆりちゃんには隠さずに言っておいた方がいいって判断をしてしまったの。
ひむちゃんも止めに入らなかったし……。
丁度開いているページにある、島のイラストを見せる事にしたの。
「作り話じゃないのか、うーーん……でも、その島の絵、凄くそそられるぞ。 砂浜に上陸して、一気に登っていくんだろ? あぁ~~、うずうずする~~」
もう、きゆりちゃんの頭の中、この山をどう攻略してやろうかって事で一杯みたい……無理だから、かなり悔しがってるみたいだけど。
「あはは……難しい山を幾つも攻略してきたきゆりちゃんでも、うずうずするんだね。 私、きゆりちゃんの分も頑張らないと」
ひむちゃん、きゆりちゃんをなだめにかかってるよ。
「あぁ。 せめて、アドバイスさせてくれ。 私のアドバイスを聴いて登れた、って言ってくれれば、参加した気になれて、少しはモヤモヤが晴れそうだからな」
「うん。 またアドバイス、お願いするよ。 あと……今の話を他の子たちには絶対にしないでほしいの。 私、この話を広げたくなくて……」
「ああ、分かった。 女の約束だ。 指切げんまんでも、針千本飲ますでも、何でもするさ」
そう言うと、きゆりちゃんは私たちから離れていったの……あはは、それ、どっちも同じ事言ってるんだけどね。
「あはは……とんだお客さんが入っちゃったね。 きゆりちゃんなら約束、絶対守ってくれるよ。 じゃぁ、話の続きを聴かせて」
「そうだね。 えっと……神社に着いたとこまで話したよね。 で、その境内の真ん中で、輪っかを見付けたの」
ひむちゃんがページをめくると、7ページ目……これは新しく付け加えたんだね。
タイトルは……輪っか?? そのままね、あはは。
「えっと……[境内の真ん中で見付けた、深緑の草で編まれた輪っか。 人がくぐれそうな大きさ] かぁ……こんなの、観た事無いなぁ」
ヒントは少ないけど、単純だから、こんな感じかな。
ページの左上のコーナーに、イラストをササッと描いてみる。
「うんうん、そんな感じ。 お母さんはこれ、神社で観た事あるって。 今度、宮司さんに尋ねてみようと思うの。 で、ご本殿の中に入ると、衣装が置いてあったの」
ひむちゃんが更に次のページをめくる……8ページ目に付けられたタイトルは、衣装。
その話をしてもらう前に、どうしても引っかかる事が。
「ちょっと待って! ひむちゃん、ご本殿の中に入ったの?! 何だか入っちゃダメな場所な気が……」
「それなんだけど……独りでに開いたの、ご本殿の扉が。 まるで入りなさい、って招いてるみたいに」
ひ、独りでに扉が……今度はホラー系なの?! 夏はまだ先だよ?
「ちょっと、止めてよ! 背筋がゾクゾクするよ……。 扉が意思を持ってる?? 常識が通用しない世界だったら、何が起こっても不思議じゃないだろうけど……。 でも、よくこれだけ沢山の衣装の絵、思い出しながら描き出せたね。 しっかりブラッシュアップしてあげないと」
ひむちゃんのメモは…… [奥宮の本殿の中にある。 袴は紫色で、三着の服も綺麗に畳まれて置かれてる。 足袋、白い細い紐が三本、白い太い紐、紅い紐、ゴムも一緒に畳まれて置かれてる] ね。
ひむちゃんに、それぞれについて一つ一つ尋ねながら、想像を膨らませてイラストを仕上げていく……。
「さすが、ひいちゃん! これなら神社の人に見せても通じそうだよ。 ありがとう。 で、次のページには、別の隅に置かれてた小道具を描いたの」
ひむちゃんがもう一枚、ページをめくる。
9ページ目、タイトル、小道具。
「えっと……[奥宮の本殿の中にある。 台座の上にかんざし、扇、鈴、冊子が置かれてる。 かんざしは花が象られてて凄く豪華。 鈴は剣みたいな形をしてて、五色の紐が付いてる。 冊子は”おおはらえのことば”っていうタイトルが付いてる。 振り仮名付きだけど難しそう] かぁ」
衣装にしても、小道具にしても、巫女さんの使ってそうなものばっかなんだよね。
「かんざし、難しいはずなのに、凄く細かく描けてるもん、凄いよ~~。 お姫さまカットのひむちゃんに似合いそう。 扇と鈴は舞に使いそうだね」
こちらもひむちゃんに、一つ一つのアイテムの特徴を丁寧に聴き取って、イラストを仕上げていったの。
凄く想像力を鍛えられるよ、ひむちゃんといると。
「わぁ~~! かんざしの絵、凄く細か~~い!! どうやったらそんな上手に絵が描けるようになるの? 才能の違いを見せ付けられて、ショックだなぁ」
ひむちゃん、ちょっとしょげてるみたいだけど、私と比べるんじゃなく、自分の成長を褒めてあげなきゃ。
「ひむちゃんがしっかり下絵を描いてくれたからだよ。 コミックを貸して一ヶ月も経ってないのに、ここまで絵が上達したひむちゃんの方が凄いよ。 観ながら描くのより、頭で覚えたり、想像したりして描き起こす方がずーーっと難しいんだから。 それをここまで出来れば、もう、初心者卒業だよ」
私がそう言った時、カタカタカタって窓ガラスが揺れたような……。
「え、えっ?! また地震なの?」
そ、そんなに驚くほど揺れた訳じゃないのに……凄い驚きようだなぁ、ひむちゃん。
「一昨日も揺れたよね! 最近、多いなぁ……」
「うん。 ひいかはその時、ママと一緒にいたよ。 あの時は凄く揺れたよね」
ま、地震なんて自然現象だから、連続して起こっても不思議じゃないんだけどね。
「地震の連発も心配だけど、さっきの話、衣装も小道具も巫女さんと関係ありそうだから、ちかねさんに訊いたらどうかな?」
「なるほど! ちかねさんかぁ。 良い案だね。 考察欄に書いておくよ。 結局、神社で宮司さんとちかねさんに色々訊いてみるのが良さそう、って事だね」
「だね。 来週の日曜日、ひいかは予定無いから、朝から付き合えると思う」
「ありがとう。 私もお母さんに一声掛けてみるよ」
ひむちゃんが見る世界、どんどん現実離れしていく……私はもう、しがみつくので精一杯だよ。
本編の第42話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
絵日記帳に新たに書き込まれた事を、三人の会話に落とし込んで、リズムを崩さないように工夫してみました。
大祓詞は、一度宮司から聞いてるけど二人とも頭に残ってない、っていう設定です。




