29 あのコを信じて送り出す事しか……
いつも読んでいただき、感謝です。
「貴女の目から真剣さがひしひしと伝わってきます。 どんな話をされても信じるとしましょう」
シリアスな話をする時は表情から……宮司さんにそれが伝わったみたいよ。
ツカミはオッケーだね、ひむちゃん。
「ありがとうございます。 じゃぁ……覚えてますか? この前した、崖の下に舟が見える、って話」
「はい、もちろんです。 インパクトのあるお話でしたから」
「今日はもう一つ、話さないといけない事があるんです。 私、透明人間になれるんです。 その状態になると、私にしか見えない超常現象に触れるようになる、って事も先日知りました。 崖の下にはカヌーがあり、海の向こうには島が見えてます。 そのカヌーを使って、あの島に渡りたいのです。 カヌーの漕ぎ方は昨日、みっちり鍛えてもらいました。 それで……」
私の予想通りの話……でも、ひむちゃんの口から改めて聴くと、重みが全然違う……どう頑張っても、私には見えないし触れない……実感が無いんだもん、夢物語にしてしまいたい……そんな願いも完全に打ち砕かれるような。
「はい。 五芒転生の秘術を施された貴女の事……身の上に何が起こっているのか、私には計り知れません。 私に出来る事なら、喜んで協力致しましょう」
よしっ! 宮司さんを味方につけられたよ! もう一押しっ!!
「ありがとうございます! その……透明人間になる方法なんですけど……は、恥ずかしいんですけど……裸になる事、なんです。 何処ででも出来る事じゃなくて……その場所を用意してほしいのです」
「なるほど……そんな事情があるとなると……全く人目につかない場所が必要になってきますね」
宮司さん、真剣に考えてくれてる……変な想像されたら、なんて心配したけど、さすが、神様に仕える人。
「あ、あそこなら! どうぞ、私に付いてきてください」
宮司さんが用意してくれた場所は、お店の裏口を抜けて、崖下の平らな岩も抜けた先にある、海に面した洞穴の中だったの。
「確かにここなら人目の心配は無さそうだけど……明かりが無いんですね」
明かりは自然の光だけ……ちょっと不安になっちゃうよね。
「問題はそこなんです。 ここは自然が作った洞穴ですから仕方ありません。 活動時間が日中に限られる、という事になりますが……」
透明化したら何も持てない……灯りをここに持ってきたとしても、活動時間を伸ばせる訳じゃないんだよね。
「あと、もう一つ問題点があります。 ここが授与所の奥にある、という事です」
授与所? あ、さっき通ってきたお店の事、そう言うんだ……メモメモ。
「あっ、戻ってきた後、授与所を通らないと帰れないんでした……」
「はい、普段は施錠されていますから。 うーーん……これは一つ、手を打たないといけませんね。 ひむかさん、一つ条件を飲んでいただけないでしょうか」
「は、はい。 私に出来る事なら何でも」
「巫女のちかねにも、先ほど話していただいた話を伝えたいのです。 彼女は他の巫女よりずっと信心深いので、神懸かった貴女の事を理解してもらい、協力を得られると思うのです。 今日は彼女を授与所に配置しますので、お戻りになられましたら、裏の扉をノックしてください」
根回しね……ちかねさんなら、この前もお世話になったし、不安は無いよね。
「はい、それでお願いします!! 忙しいところ、色々とお手を煩わせてしまって……ご助力、ありがとうございます」
「では。 神々の御加護がありますように」
そう言うと、宮司さんは洞穴を後にして、授与所へと続く石段へ……。
上手く話がまとまったね! これでもう、島に渡る下準備は整った、って事だよ。
「いよいよね、ひむちゃん。 ひいか、ここで帰りを信じてずっと待ってるから、絶対、無事に戻ってきてね」
今の私に出来るのは……ひむちゃんを信じて送り出す事だけ。
「うん。 絶対約束するよ。 私にしか出来ない使命だと思うから……逃げずに最後までやり遂げたいの」
そして……ひむちゃんは私の前から姿を消したの。
見えなくなっても、きっとまだ目の前にいるはず……もうしばらく、ここでひむちゃんが置いていった服を見守り続けよう。
30分くらい経った……もうさすがに出発してるよね。
島は南にあるって事だから……今頃は太陽の光に向かってカヌーを漕いでる頃かなぁ……。
そんな事を考えてると、巫女さんがこっちに近付いてきてるのに気付いて……ちかねさんね。
「えっと……宮司さんが貴女を呼んでいるのです。 お昼ご飯をご一緒にどうですか? って」
朝早くから気持ちを張り詰めっ放しだったから、お腹が空いてきてるのに今、気付いたよ。
「はい、誘っていただき、ありがとうございます」
社務所の奥にある畳部屋……ここが宮司さんや巫女さんたちの昼食を摂る場みたい。
数人の巫女さんたちが食事の準備にせっせこ動き回ってて、さすがにじっとしてるのも気が引ける……。
「何かお手伝い、出来る事はありますか?」 って尋ねると、 「いえ、今日の貴女は客人ですので、どうぞ、ここでしばらく待っていてください」 ってちかねさんに言われて……逆に居心地悪いなぁ。
お献立は、ごはんに焼き魚、なます、みそ汁……凄~~く和な感じ。
「今日はお客人がいらしています。 まずは、正座一拝一拍手を。 その後にご唱和願います」
ちかねさんのキリッとした発声の後、配膳を前に正座し、一拝一拍手して唱和する言葉を待つ……難しくなければいいけど……。
「たなつもの ももの木草も あまてらす 日の大神の めぐみえてこそ」
これって短歌?! 私もこの前、一生懸命考えたばっかだけど、これが本物の……自分のが恥ずかしくなってきたよぉ。
「いただきます!!」
食事しながら巫女さんたちの様子をチラ見……誰も会話してないって事は、黙食ってやつね。
チラチラ時計を見るけど、全然時間が経ってない……今頃ひむちゃん、島に着いてる頃なのかなぁ……ダメダメ! 食べる事に全神経集中しなきゃ!!
じっくり味わって、しっかり完食っ。
「では、端座一拝一拍手を。 その後にご唱和願います。 朝よひに 物くふごとに 豊受の 神のめぐみを 思へ世の人」
これまた立派な……ちゃんと勉強してみよっかなぁ、短歌。
「ごちそうさまでした!!」
洞穴に戻る前に、崖の上の休憩所から海の向こうを眺めてみたの。
今頃ひむちゃん、あの辺にいるのかなぁ……島には何があって、何を見てるんだろうなぁ……。
どうして私にも同じ景色、見えてくれないんだろうな……そんな事考えてもどうにもならないのに、何度も何度も願ってしまう。
私じゃダメなの? 私だったら、ひむちゃんを一人で行かせるなんて、させずに済むのに。
心が落ち着いたところで、授与所の裏口から洞穴に戻ってきた途端、睡魔が襲ってきたの。
朝早くから濃~~い時間を過ごしてきてるし、ご飯を食べてお腹が満足したからだよね、きっと。
・・・・・・
カサカサカサ……何か乾いた音が聞こえてくる……何だろう、風で何かがこすれてる音かなぁ。
「ひいちゃん、ただいま~~!! ずっと待っててくれて、ありがとう。 私、約束通り無事に帰ってきたよ!!」
ん? これは夢じゃないよね?? ひむちゃんの声だよね!!
「ひむちゃ~~ん、おかえり~~!! 良かったぁ~~元気に戻ってきてくれて。 ひいか、それだけで嬉しいよ。 絶対疲れてるはずだから、詳しい話は今日はナシで、もう帰りましょ」
「うん!! でも、忘れないうちに向こうで観てきた物を絵日記帳に描き留めておきたいの。 今日一日貸してほしいんだけど、いいかな?」
ホントは今日は家に帰ったらゆっくり疲れを癒してほしい……でも、向こうに描き留めるものを持って行けなかったから、覚えてるうちに吐き出しておきたい、ってのも分かる。
「あっ、そうだよね。 うん! はい、これ!! でも、夜更かしは絶対ダメだよ、ひむちゃん」
絵日記帳を受け取ったひむちゃんの表情、凄く引き締まってる。
「う、うん、分かったよ。 少しでも詳しく描き残しておきたいの。 詳しい話はまた後日ね」
返事に詰まったよね、今。 これは時間を忘れて、自分に納得がいくまで描き続けそう……徹夜はダメだからね。
「うん。 お話、楽しみにしてるよ。 そろそろ授与所に向かいましょ。 ちかねさんをこれ以上待たせるのも悪いから、ね」
気が付いたら、洞穴の中に夕陽が射してて……私、だいぶ長い間、寝ちゃったみたい。
本編の第39~40話・48話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
ひむかが島に渡ってる間、ひいかにどういう時間を過ごさせるか……巫女さんたちとの食事のシーンを描きましたが、そこはちょっと違うよ、っていう意見があれば、後学のため教えていただけると幸いです。
このシーン、ひむかの帰りを待つひいかの[感覚的な時間の長さ]を、文章の長さで表現する目的で、意図的に詳しく書いてみました。




