26 あのコと離れ離れの土曜日
いつも読んでいただき、感謝です。
このエピソードから第4章に入ります。
次の日、二人でガゼボまで帰って来た時、 「明日、学校が終わったら、棗海岸に行こうって思ってるの。 みづるさんに会って、カヌーの漕ぎ方を教えてもらおうかな、って」 って、ひむちゃんが唐突に言ったの。
何だか行き当たりばったり感満載なんだけど……。
「そんな突然行って、みづるさんに会えるの? それに……」
「ひいちゃんの言いたい事は分かるよ。 会えたとしても、相手にしてもらえるかどうか分からないよ? でしょ?」
喋ってる途中で被せてくるなんて……いつもの、おっとりひむちゃんじゃない。
「そうだよー。 無駄足になるかもだし、みづるさんの都合もあるだろうし、迷惑を掛けちゃうかもだし……。 それでも行くの? 行かなきゃいけないの??」
どうしてだろう、私、本気で止めに入ってる……ひむちゃんがやりたい、って思ってる事なのに。
「うーーん……そこはイチかバチかなの。 会えなかったり、相手にされなかったりした時は、タイミングが悪かった、って割り切る覚悟で行こうと思ってるの」
どうしてそこまで……いつもの計画的なひむちゃんからは考えられないよ。
何だか、明日じゃなきゃ間に合わない、って焦ってるみたいで……。
「ひむちゃん、行き当たりばったりに動くより、みづるさんとバッチリ約束してからの方が良いんじゃないかなって、ひいかは思うんだけど……」
私、押されちゃってる……ひむちゃんの決意の強さに。
「うん、それもよく分かってるよ。 それでも明日、どうしてもチャレンジしてみたいの。 そうしないと心が収まらない、って言うのか……」
別に時間は逃げないのに……何にそんなに急かされてるの? でも……ひむちゃんを止めるだけの強い理由が、私には無くて……。
「そっか……それじゃ、行ってみるしかないね。 ひいかは明日、一緒に行けないの……予定があって」
別に私と一緒に行くなんて、ひむちゃん、一言も言ってないんだけど……どうしたんだろう、私からそんな事言っちゃうなんて。
「そっかぁ……。 仕方ないよね、こんな直前だし、無謀だし……」
一緒に行こうって、考えてくれてたんだ……そんな悲しそうな顔されると、私、辛いよぉ。
突き放した、みたいな感じになっちゃったかな……。
「ごめんね。 明日は親戚と会う予定があるの」
「そうなんだ……そんな大切な用事なら仕方ないよ。 ひいちゃん、絵日記帳を明日一日貸してくれないかな? みづるさんに見せたいページがあるの」
「もちろんオッケーだよ。 はいっ! バッチリ活用してね」
みづるさんに会うの、超常現象絡み確定! って事だよね、これ。
カヌーの漕ぎ方を教えてもらうっていうのも……島を目指す為、って事だよね、きっと。
そんな事、絶対しなくちゃダメなの? 止めさせてしまいたいよ。 でも……。
「ありがとう、借りるね。 あと、日曜日はひいちゃん、予定はどう? 朝から神社に行こうって思ってるんだけど……」
ほらやっぱ来た!! その日、島に渡る覚悟なんだ、きっと。
もう、止められないのね、この流れ……それなら、せめて、Xデーはひむちゃんの近くに……。
「日曜日? うん、予定、空いてるよ。 朝からだね、分かったよ」
その夜、ママから明日の事について訊いたの。
「明日、夏美と海愛ちゃんがこっちに来るんだけど、待ち合わせは朝10時、古河町駅なの。 そこから私と夏美の大事な用事を済ませて、昼1時頃から駅の近くにあるカフェでランチを食べる予定にしてるから、ひいかは学校からそこに直接合流して欲しいの。 いい?」
「学校終わったら直、って事ね。 分かったよ。 で、カフェの名前、何っていうの?」
「アルターフルス。 あっ、アルファベットでこう書くの。 この紙を渡しておくわ。 レンガ造りのお洒落な建物で目立ってるから、すぐ分かると思う」
ママから受け取った紙には、 [Alter Fluss] って書かれてる。
「なるほど! これでアルターフルス、って読むんだね。 大丈夫、これなら読めるよ。 意味は分かんないけど」
土曜日の下校時間、私からひむちゃんに声を掛けたの。
「ひむちゃん、駅まで一緒に行かない? ひいか、その近くにあるカフェで親戚と待ち合わせてるから、同じ方向なんだ~~」
「そうなんだー。 ちょっとの距離でも一緒に歩いてくれると心強いよ。 行こっ!」
駅前の商店街を歩いてると、ひむちゃん、薬局の前で存在感をアピールしてるウサギの置物の前で立ち止まって、何やらベタベタ触り始めたの。
そう言えば、前に冴先生から聞いた話、思い出したよ。 これかぁ。
「ひむちゃん、それ、何してるの?」
「あ、やっぱりこんな事してたら変だよね。 もしかしたら、他にも超常現象が潜んでないかな~~、なんてね」
ああ! そういう事ね!! 触ろうとして空振ったら超常現象発見! みたいな……そのやり方、手当たり次第って感じだね、文字通り。
「うん……端から見てると、おかしな子だって思っちゃうよ、それ。 でも、さすがにその子はただのハネ太。 超常現象でも何でもないと思うよ」
「ま、そうだよね~~。 でも、目に見えてる物がどれもこれも、そのまま信じられなくなっちゃって……」
そんな何でもかんでも疑ってたら、ひむちゃん、神経がすり減っちゃうよ。
そうこうするうちに、ママが言ってたレンガ造りのカフェが見えてきたの。
[Alter Fluss] って書かれた、お洒落なプレートも店頭に懸かってるしね。
「ひむちゃん、ひいかの待ち合わせ場所、ここだから……。 みづるさんにバッチリ会えるよう、祈ってるからね! グッドラック!!」
「うん! ありがとう、ひいちゃん。 じゃ、行ってくるよ!!」
ひむちゃんの背中を見えなくなるまで見送って……私も今日のミッション、開始っ!!
カランカラ~~ン……ドアを開けると、お洒落な音色がお出迎え。
フロアは私の歩調に合わせて、軽くミシミシって軋む音が……年季が入ってる、レトロな雰囲気のカフェって、大人の場所だなぁ。
ウエイターさんが近付いてきたんだけど、肩越しに私に向かって手を振る人たちが……彼の仕事、取っちゃったみたい。
奥のテーブルには、ママとおばさん、海愛姉が既に座ってスタンバってる。
お冷が注がれてるガラスのコップがしっかり汗かいてるから、しばらく待っててくれたみたい。
ペコリと頭を下げて、まずは先制の挨拶だよね。
「こんにちはー! お久し振りです、ひいかです!!」
「こんにちは、ひいかちゃん。 まぁ~~、高校生になって、魅力的になったわね~~。 ツインテールも凄く似合ってるわよ」
「おばさん、ありがとう。 最近、この髪型に変えたんです。 クラスの子たちにも好評なんですよ」
おばさんだけじゃなく、海愛姉も続けて、 「その髪のボリューム感がうらやましい……私もフワッとさせたいわぁ」 って、髪を褒めてくれたの。
どっちかと言うと、この髪質、コンプレックスなんだけど……褒めてもらえるとやっぱ嬉しいな。
「でも、海愛姉もシニヨンでお団子作りなんて、うらやましいです。 スタイリッシュな大人って雰囲気で、似合ってますよ」
「ま、私の場合は飲食店で働いてるからね。 この髪型がフィットするのよ」
皆の会話をずっと聴いてたママが、 「まぁ、二人とも、無い物ねだりねぇ。 個性的でどっちも凄く似合ってるんだから」 って、仲裁に入っちゃった。
自分より良いところを相手に見付けると、それ良いなぁ~~って思っちゃうのよね。
ママが手をパンパン打って、 「じゃ、そろそろランチにしましょ。 注文はそれぞれセルフでね。 お会計は私が持つから、心配しないでね」 って……ま、ホーム側の親が持つのが自然よね。
「じゃぁ、ひいかは……このジャンボフルーツパフェをお願いします」 あはは、ちょっと甘いものに目がくらんじゃった。
すると、すかさず海愛姉が、 「おっと、さすがはJKね! がっつりデザート系で来たかぁ」 なんて冷やかしてくるの。
「そういう海愛姉は、何頼むんですか?」
「私は、シーフードドリアかな」
その流れで、ママもおばさんも、食事系のものを……ランチって昼御飯だって事、意識してなかったよぉ。
だってここ、カフェだもん……あはは。
・・・・・・
「ごちそうさまでした。 ひいか、お腹一杯になりました」
「いい食べっぷりね。 甘いもの対決したら、確実に負けるわ、私」
「も~~っ! 海愛姉ったら~~!! 冷やかしがキツいですよぉ」
私と海愛姉のやり取りを聴いてたママが、 「まぁまぁ。 仲が良いわね~~。 海愛ちゃんもペロッと平らげちゃってたんだから。 食欲旺盛対決は引き分けよ。 じゃ、そろそろ出ましょうか」 って、またまた仲裁に……そう言うママだって、オムライスを完食してるんだからね。
本編の第38話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
スピンオフのオリジナルキャラ、夏美と海愛の設定は、与える役割を先に考慮してから練りました。




