17 あのコが神隠しに……
いつも読んでいただき、感謝です。
ひむちゃんと一緒に、ずっとベンチに座って待っててくれたおばさまの所へ。
あのベンチに、一体どんな思い出があるんだろう……気になるなぁ、おばさまの青春の一コマ。
「お母さん、カヌー体験、楽しかったよ~~。 今日は乗ってるだけだったけど、今度は実際に漕いでみたいなぁ」
「あらら、早歩きといい、カヌーといい、ひむかが身体を動かす事に興味を持つなんてねぇ」
ひむちゃん、最近、何だか変わってきてるよね。
おばさまも変化を感じてるのかな……驚きと喜びの混じったような、優しく見守るような……そんな顔してるよ。
「じゃぁ、そろそろ温泉に向かうとしますか」
電車に乗って、もう一駅向こう……棗温泉駅に着いたよ。
今日イチのお楽しみ! ここって砂蒸し風呂で有名なんだよね。
施設に着くと、受付を済ませて、更衣室へまっしぐら。
ロッカーはどこを使ってもいい、って事だから、ひむちゃんの隣にしよっと。
ワンピースを脱いで綺麗に畳んでたら、隣で、 「あわわ、またほつきが動き出したよ。 何か、今度は凄く動きが大きい~~。 右肩から左肩をビシバシ往復しだしたよ。 これは……」 って、ひむちゃんが騒ぎ出したの。
ひむちゃんを見ると、まだ来た時のまんまの格好だけど……何なの、今度は。
「また何かを伝えようとしてるのかな、ほつきさん」
ほつきさん、絶対、意志を持ってるよね。
でも、分かんないのよ……ひむちゃんからジェスチャー情報を聞くだけじゃ、何を伝えようとしてるのか。
だから、 「海岸では、ああしたらああだったから……もしかして、イヤイヤしてるんじゃないかな」 なーんて、まーーた当てずっぽうな事、言っちゃったよ。
「えっ?! イヤイヤしてるの、これ? って事は、降ろされたくない、と。 でも、ほつきの目の前で服を脱ぐのは嫌だよ~~。 だって、男の子かもしれないもん」
ん? ひむちゃん、イヤイヤっていう言葉、拾った?
ほつきさんを降ろそうとしたら、拒否られた? って?? ……全然意味分かんない。
それにひむちゃん、ほつきさんには性別があるって思ってるみたいな?
まさか、星形の謎ホログラムにそんなの無いでしょ……とか考えてると、ひむちゃん、何だか腕を中途半端に伸ばしながら、 「わわわ、さっきより往復するスピードが上がったよ。 これは、ひいちゃん的に考えると、全力イヤイヤなのかな?」 とか、言い出したよ。
あれっ? もしかしてひむちゃんも推理ごっこ、始めたの?
じゃぁ、お付き合いするしかないよね。
もしかしてほつきさんって、言葉を理解できるのかな……試す方法は、っと。
「うーーん……そうかもしれないけど……じゃぁ、言い方を変えて尋ねてみるね。 ほつきさんって、女の子なのかな?」
ひむちゃんの肩の辺りを見ながら、ほつきさんに話し掛けてみる……何も見えないけど。
「星月がクルクル回り出したよ。 これは……」
クルクル? その反応って確か……。
「さっき、海岸でも同じ動きしてたよね。 あの時はああだったから……きっと、そうそう! って事じゃない?」
「へぇ~~、ほつきって女の子なの? ホントにそうなら、私の右手の上に行って、そこでクルクル回ってみてよ」
あはは、ひむちゃんもほつきさんを試してるよね、それ。
「わぁ~~、ホントに右手の上でクルクル回りだしたよ! 凄い、私、ほつきと会話が出来たみたい!!」
ひむちゃん! ほつきさんが女の子だって言ってるとしても、自称だからね、自称!!
でも私、一つ重要な事に気付いたよ。
これってほつきさん、意志を持ってるだけじゃなく、言葉も理解してるって事だよね。
「って事は、ほつきは肩から離れたくない、風呂に付いていきたい、って事を言いたいのね? ……分かったよ。 恥ずかしいけど」
良かったぁ~~、このままひむちゃんが更衣室でまごまごしてたら、砂蒸し風呂、いつまで経っても入れないもん。
私もそろそろ入りたいし、おばさまをずっと待たせっ放しにしちゃってるんだから、準備するよ。
脱いだ服を綺麗にロッカーに収めて、浴衣をバッチリ着込んで、タオルを手に持って出発しようとしたら……あれっ?! 隣にひむちゃんの気配、感じないよ?
つい2~3秒前までいたよ、ここに……ひむちゃんが脱いだ服、ロッカーに入ってるし。
「えっ?! えーーっ! ひむちゃん? ひむちゃーーん!!」
更衣室だって事も忘れて、大声出しちゃったよ。
もしかして、ほつきさんみたく、ひむちゃんも見えなくなった、とか?
ひむちゃんがいた辺りを目掛けて、ぶんぶん腕を振り回してみたけど……何の感触もない……これはヤバいヤツじゃない?
私、神隠しに遭う人、目撃中って事??
怖い、怖いよ~~、ひむちゃんが蒸発したよ~~!!
「おばさまーーーー!!」
ここからおばさまの所に辿り着くまでの間、私、何をどうしたのか全然記憶が無いの。
「どうしたの、ひいかちゃん……随分な慌てように見えるけど……」
「おばさまぁ~~。 ひ、ひむ……ひむちゃん! ひむちゃんが……」
「ちょっと落ち着いて。 深呼吸! ひむかがどうかしたの?」
「あ、はぁ、はぁ……ふぅ……。 ひむちゃんが、目の前からいなくなったの! 消えたの!!」
「消えた? 消えたって、どう消えたの? どっかに行った、って訳じゃないのよね?」
「は、はい……こんな事言うの、おかしいかもだけど……突然消えたの……2~3秒の間に、目の前から」
おばさまは言葉で上手く伝えられない私の様子を見て、冗談ではなさそう、って受け止めてくれたみたいで……。
時間の感覚がおかしくなっちゃって……それほど経ってなかったのか、それとも凄く長い時間が経ったのか……その後、ひむちゃんが私たちの前にやってきたの。
「ひいかちゃんから聞いて、びっくりして……ひむかが突然、目の前から消えたって」
おばさまの声は真剣そのもの……本気でひむちゃんを心配してる事が私にも伝わってくる。
「ひむちゃーーん! 良かった~~!! 突然、神隠しにあったよって、びっくりしちゃって……何がどうなったのよぉ~~」
「ごめんなさい……私にも何が何だか……今でも心臓がバクバクしてるの」
ひむちゃん自身も突然の事で取り乱してるみたい……こんなんじゃ、今はとても、まともな話し合いなんて出来っこないよ。
それを察したのか、おばさまが機転を利かせてくれたの。
「ほっとけない出来事だけど、まずは落ち着きましょ。 考えるのは後でじっくりするとして、折角ここに来たんだから、まずは砂蒸し風呂を楽しみましょ」
「はい。 ひいか、少しの間でも、頭を空っぽにしたいです。 考えれば考えるほど、頭がグルグル混乱しそうだもん……」
ここはおばさまの心遣いに乗っかりましょ。
凄い眺め……海岸のあちこちから蒸気がもくもく……何だか、地球の息遣いを聞いてるみたい。
従業員の男の人に案内されて、私たち三人、横並びに横たわるよう言われたの。
仰向けになった私たちの身体、どんどん砂を掛けられて埋もれていく……とにかく今は、あの事は考えない、考えない……砂と一緒に心の底にでも埋めてもらおう。
砂蒸し風呂って、想像してた以上に温かいんだね……サウナみたいに息苦しくないし、私、好きかも。
「温か~~い。 もう汗が全身から吹き出してるよ」
ひむちゃんが言う通り、私も浴衣の下はどんどん汗でびっしょりになっていってるの、分かるよ。
「ひむかの言う通りね。 身体の中の悪い物が吸い出されて、何だかお母さん、若返りそうよ」
おばさまって、見るからに健康そうだし、若々しいもん、悪い物なんてあんまり無さそうだけど。
それよりか、私の方が……。
「おばさまは十分若いよ~~。 ひいかこそ、徹底的に悪い物、吸い出されて欲しいよ」
くすくす笑う声が聞こえた来た……良かったぁ、少しでもみんなの心を和ませる瞬間を作る事ができて。
ポカポカで、凄く心地良くて……ざわついた気持ちが少し落ち着いた頃に10分経ったのに気付いて、ガバッと起き上がって、砂を振り払って脱出。
更衣室に戻る途中にあるシャワーで、身体にベタベタ張り付いてる砂を綺麗に落として、天然温泉へ。
すっごく汗かいたから、その中に悪い物が滲み出て、身体から追い出せたよね、きっと。
いつもより何倍も念入りに身体を洗って、悪い物は外!!
で、温泉成分を目一杯、身体に取り込むの。 良い物は内!!
なーんてやってたら、凄く長風呂しちゃった、あはは。
更衣室で服を着て、私たちは棗温泉を後にしたの。
電車の中ではみんな無口になってた……私は、あの出来事が何度も頭の中をリフレインして……。
本編の第32~33話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
ひいかをパニックに陥らせる状況と、ひいかに砂蒸し風呂を楽しませる状況……この両立が難し過ぎる。
本編では[脱衣所]と表現していましたが、浴衣に着替えるので[更衣室]に訂正し、統一しました。




