10 あのコに見えるもの、私にも見せて!
いつも読んでいただき、感謝です。
「今、その神秘的なものは私の右肩にいるの。 形は星形で、色は薄だいだい色で、ホログラムのように透き通ってて……。 で、私はこの子に、ほつきっていう名前を付けたの。 この前の登山の時、渓谷の休憩所で見付けて、その後、ずっと私に付いてきてるの」
あ! それでひむちゃん、あの登山の後から肩を気にする素振りを見せてたのね、納得。
イメージするのよ……星形、薄だいだい、ホログラム……。
「あ、あの……それ、聞くの、初めてよ、私」
「こんな事、話しても信じてもらえないって思って、内緒にしようと思ってたの。 ひいちゃんにはこの前白状したんだけど……」
思った通り!
ひむちゃん、やっぱ、おばさまにはまだ打ち明けてなかったんだね……おばさまも巻き込まないと。
「そう……もちろん、私はひむかの言う事を信じるよ。 確かに、それは不思議な現象よね」
「受け入れてくれてありがとう、お母さん。 信じてくれて嬉しいよ」
ほら、しっかり受け止めてくれるじゃないの、ちゃんと話したら。
そうやって自分の中に抱え込んじゃうの、良くないんだから。
「あ、あと、ひいちゃんにも話さないといけないんだけど……」
ん? ひむちゃん、私にもあるの? 顔がマジね。
「もう一つ、神秘的なものが見えてるって事に気付いてるの、私」
「え、もう一つ?」
今度は私がびっくりする番?!
「登山から帰ってきた日の夜、お母さんの書斎にお邪魔した時の事なんだけど……」
ひむちゃんの話を聴く態勢に入ろうとすると、 「……その事に触れないように、そっとしておこうって思ってたんだけど、ひむかが話すのなら……」 って、おばさまが言うの。
おばさまは知ってる話なのね……私、ひむちゃんの不思議現象の事、おばさまは全く知らないって思ってた。
「ウサギのぬいぐるみが見えたの。 昨日まで無かったものが、帰ってきたら増えてたから、私はてっきり、お母さんが昼間に買ってきたんだな、って思ったの。 でも、お母さんとの会話が噛み合わなくて……ここにあるのにって、取りにいこうとしたら、幻だった」
ウサギのぬいぐるみ?! それ、あまりにウサギが好き過ぎて、幻まで生み出してるんじゃない? って……いや、顔はずっとマジなままだね。
「そんな事があったの? それって、今もその場所に見えるのかな?」
まずは、その現象が今も続いてるのかを確認したいよね。
「きっと、見えると思う。 お母さん、書斎に入ってもいい?」
三人でおばさまの書斎に入ると…… 「うん、ある! はっきり見えるよ、ウサギのぬいぐるみ」 って、ひむちゃんが報告してくれた。
ひむちゃんにしか見えないものが、まだ他にもある……さっき文房具店で、見開き20ページもあるのを選んできた私の判断は良い方に転がった、って事ね。
リビングに戻ってくると、私は紙袋の包装を解き、絵日記帳を取り出した。
「ん? これって、絵日記帳だよね。 懐かしいなぁ。 小学生の頃、夏休みの宿題で毎日絵日記を付けた事があったけど……どうしてそれを?」
そろそろ種明かしするね、ひむちゃん。
「これにね、ひむちゃんに見えてる神秘的なものを、記録してみようって考えたの。 こうやって、ノートを見開きで使って……」
まだ説明始めたばっかなのに、 「絵日記っていう事は、絵を描くんだよね。 私、さっぱりダメだよ。 才能ないし、描けそうにないよ~~」 って、慌ててひむちゃん、無理無理って手を振ってくるんだよ?
「うん、ひむちゃんの絵が画伯レベルなのは知ってるよ。 だけど、神秘的なものが見えるのはひむちゃんだけだから……そこはひいかが代わりに描けないから、頑張っておおまかでもいいから描いてほしいの」
ひむちゃん、どうしよう、助けて~~! って顔してるよ?
でも、どうにもならないもん、私には見えないんだから。
「ノートを見開きで、4分割して使うの。 まず、それを右上のコーナーに描いてもらって……」
「あはは……ひいちゃん、確かにそうだけど……分かった、頑張って描いてみる。 で、それを描いたら?」
ふぅ~~、何とか描いてくれそうね。
「次に、右下のコーナーに説明を書き加えてほしいの。 それがどういうものなのか、みたいなのを」
「うん。 説明ならしっかり書けそうかな」
「で、今度はひいかが、ひむちゃんが描いた絵と説明と、聞き取った事を参考にして、イメージを膨らませて、左上のコーナーにイラストを描いていって……」
ここでひむちゃん、 「あのぉ……私の描いた絵に上書きして修正する、じゃダメなの?」 って、すがりつくような視線を私に送ってくるんだよ?
「ううん、ダメ。 オリジナルの絵にあるニュアンスは大切だから、残すよ」
「とほほ……残すのね」
ひむちゃん、撃沈。
「で、左下のコーナーは?」
「そこは、考察欄。 実際にひいかたちが考えたり、調べていって分かったりした事を書いていくの」
絵日記帳の使い方の説明、上手く伝わったかなぁ。
「なるほど。 このノートはひむかにしか見えないものを、他の人たちにも共有させるためのツール、って事ね」
「はい、おばさま」
さすがおばさま! 理解が早い!!
私は知ってたけどおばさまは知らなかった[ほつきさん]、逆におばさまは知ってたけど私は知らなかった[ウサギのぬいぐるみ]……それらを三人が共有できれば、何か道が開けるかも、って。
「では早速、ひむちゃんの肩に乗ってるっていう、ほつきさんについて書いていこうと思います」
そう言うと、ひむちゃん、何かを目で追ってるような仕草を見せたの。
「あれっ? ほつきが左手の甲に移動したよ……もしかしてこの子、私たちがやろうとしてる事が分かったのかな?」
私が書こうって言ったら移動……うーん……私たちの言葉を理解して書きやすいように動いたのか、それともたまたまなのか……何とも言えないなぁ。
ひむちゃんがサラサラって、ほつきさんの姿形を描き始めたけど……予想以上の画伯レベル。
「ひむちゃ~~ん、ホントにそんな感じなの? それじゃ、ノートに書く星印だよ。 大切だねこれ、みたいな」
一筆書きみたいな星形……もっとよく観察してみてよ~~。
「例えば、その先っぽって、尖ってるの? 丸みがあるの?」
「う~~ん……ちょっと丸みがあるみたいな……かな」
「全体的にそんなペッタンコなの? 膨らみとかないの?」
「う~~ん……中心はぷっくりしてるかな~~。 先になるほど細めになってるなぁ」
「目とかそう言うのは無いの?」
「あっ! あるある!! 中心からちょっと上辺り、縦に細長い目が二つ。 口は……ないかな」
「で、薄だいだいでホログラム、ね……」
大体のイメージを頭に描く。
ひむちゃんとの会話を、おばさまはくすくす笑いながら、温かい目で見守ってくれてる。
「ごめ~~ん。 私、ホントに絵心なくて……これで許して~~。 で、説明を付けるのね。 えっと……」
今度は一転、ひむちゃんの鉛筆が、躍るように紙の上を滑る。
・神尾渓谷の休憩所で発見した。
・形は星形で、色は薄だいだい色で、ホログラムのように透き通ってる。
・名前は”ほつき”。 私が名付けた。
・時々歩いたり、瞬いたりするけど、喋らない。
・腕を伸ばして、私から離れてって願うと、身体から離れる。
「こんなところかな」
「うんうん、上出来だよ。 で、ひいかがこれと聞き取りをヒントに、イラストを描いていくね」
私のターン。 ショルダーバッグから色鉛筆を取り出す。 シャカシャカっと。
「わぁ~~、上手いなぁ~~。 でもでも、もっと肉付きが良いの。 うんうん、それそれ! 良い感じ!! 目はもっとつぶらな感じ。 あ、薄だいだいメインだけど、透明感もあるの~~。 縁に近いところが明るめかな~~」
注文多いなぁ~~、もう。
でも、想像を膨らませて、見えないものを形作っていくの、凄く楽しい!!
やいのやいの言いながら十数分後……。
「うわぁ、ひいちゃんのイラスト、凄い! ほつきにそっくりだよ。 言葉にするのが難しいものでも、絵だとパッと伝わるね」
「あはは、それが絵の良いとこなのよ」
ひむちゃんの一言で、絵が描ける事を誇らしく思えてきたよ。
記念すべき1ページ目、完成だねっ!!
本編の第25話をベースに書き上げました。
☆今回気を付けた点☆
今エピソードはどうしても解説っぽくなってしまうので、できるだけ会話と心理描写に落とし込んで書くよう、心掛けました。




