54 フェリー入手
ジョーカーと名乗る男がこの場を去り、改めて現状を把握する。
このフェリーの船長は櫻井と言い、茅野さん、早見さんの同級生。
俺を叩いた赤髪の女性は、小清水さんという二等航海士とのことだ。
さっきはブリッジにいて、ここにはいなかったが、ホシという三等航海士もいる。
一等航海士もいたが、荷物の積み込みの最中にゾンビに噛まれてしまったらしい。
ここには機関長のナリタという男性と、一等機関士のゴトウという女性もいて、あと2人機関室にいるそうだ。
フェリーにいる乗務員は、さっきのレストランの3人を入れて、10人だけが残ったみたいだ。
お客さんで残ったのは20人位か。
さっきの海に落とした中には、その人達の家族や友達がいたそうで、俺は総攻撃を受けた。
だが、櫻井船長がかばってくれて事なきを得た。
「あのままだと我々もああなっていた。皆さんは家族を、友達を殺せますか?家族や友達に噛みつくような存在になりたかったですか?本来なら我々乗務員がやらなければならなかった事を、彼らはやってくれたのです。どうか我々に免じて許してあげていただけないでしょうか」
お客さん達は渋々ながらも納得してくれた。
船長かっこいいな。
これで俺よりも年下だというから、なお凄い。
それから俺達は、このフェリーを使い南の島まで行きたいという事と、ここに残りたければ発電所に自衛隊がいるという事を伝えた。
櫻井船長は、皆と相談するので時間をもらえないかとのことだったので、俺達はその間に船内の安全確認をしに行った。
7デッキの客室は、既に阿澄と井口で確認済みで、何体かゾンビがいたが掃討したとのこと。
7デッキの安全が確認できたので、次に6デッキにあるレストランに行き、生存者の3人にブリッジに行くように伝える。
櫻井船長から頼まれていたからだ。
3人はもう安全だとわかると、走ってブリッジへと向かった。
6デッキ、5デッキの安全を確認し、俺達は皆がいるであろうトラックデッキに向かった。
アルファードの周りに皆が集まっていたので声をかける。
「フェリーの制圧、終わったよー」
「福山さん!」
早見さんが走って来て俺に抱き付く。
何これ?
勘違いしちゃうよ?
そんなに俺に会いたかった?
でも様子がおかしいな。
早見さんはずっと俺の胸で泣くばかりだ。
「私が説明するわ」
「沢城さん。何があったの?」
「まずは車まで来てちょうだい」
車まで行くと、沢城さんがトランクを開ける。
そこにはロープでグルグル巻きにされた小学生がいた。
この子は確かイリノ君といた小学生の内の1人だったか。
既にゾンビ化している。
「この子は 久野 咲 ちゃん。発電所に残らないで付いて来たんだけど、ゾンビに噛まれてしまったの」
「福山さん!お願いします!私、守れなかったんです。守るって言ったのに」
だから早見さんは泣いていたのか。
調子に乗って勘違いしないで良かった。
俺は久野ちゃんゾンビに話し掛ける。
「生きたいか?」
(コクリ)
「ゾンビのままでも?」
(コクリ)
「わかったよ」
「ありがとうございます!福山さん」
早見さんのためならしょうがない。
もう涙は見たくないからな。
「死者の王が命じる。汝、我と契約し、隷属せよ」
(イエス ユア マジェスティ)
(ッテ、オセーデゴゼーマスヨ!)
(ナンジカン、マタセヤガルデスカ!)
怒られた。
井口といい、大橋と阿澄を見習って欲しいよ。
このままだと話せなくて不便なので、阿澄に頼んでパワーレベリングをしに行ってもらう。
外には大量のゾンビがいるから、最低でも紫目にはなれるだろう。
阿澄が久野の手を引き外に出て行く。
2人ともちっちゃいから姉妹みたいだな。
「ちっちゃくないよ!」
阿澄がいきなり振り向き言ってきた。
皆、順調に俺の心を読むスキルを身に付けているようだ。
そろそろ時間なので、残った全員でブリッジに向かう。
そこには、さっきはいなかった機関士を含む全員が揃っていた。
櫻井船長が前に一歩進み出る。
「福山さん、お待たせしました。それでは話し合いの結果を伝えますね。私達は全員フェリーに残り、皆さんとご一緒する事に決めました。よろしくお願いします」
全員とは予想外だったな。
まあ外はゾンビだらけだし、今となってはここが一番安全だろうしな。
とりあえず今日は休みたいと言う人が大半だったため、出航は明日にする事にした。
そういえば暫く休んでいなかったな。
まだあれから3日しか経ってないのだが、それ以上経っている気がする。
一番安全な7デッキをお客さん達に割り振り、6デッキに乗務員、そしていざという時に動きやすいよう、5デッキで俺達は休む事にした。
長い長い1日がようやく終わった。




