第2章 化け猫からの依頼
土曜日の午前十時ごろ。外行きの恰好をした天崎は、おののき荘の庭先で暇そうに突っ立っていた。昨日安藤と約束した通り、ヴラド三世らが居たとされている市営団地の廃墟に行く予定なのだが、今はリベリアの支度が終わるのを待っているのである。
女の準備に時間が掛かるのは吸血鬼も同じかぁ……などとは思っていない。今日みたいな雲一つない青天の下を歩くのはリベリアにとって命に関わるため、おそらく日焼け止めを念入りに塗っているのだろう。日中に吸血鬼を外出へ誘うなど、無理を言っている立場の天崎が文句を言えるはずもなかった。
特にすることもなく青空を見上げていると、唐突に二階の部屋が開いた。中から出てきた円が、勢いよく庭先へと降りてくる。
すると今度は一階の部屋の扉が開いた。外へ出てきたのは大家……ではなく、何故か鬼のお面を被ったミルミルだった。
二人は庭先で合流するやいなや、持っていた豆を投げ合い始める。
「おにはそとー」
「福は内でちー」
鬼の面を被った奴が座敷童に向けて豆を投げるのはいかがなものかとも思ったが、二人のやり取りを見て今日が何の日だったか、天崎はようやく思い出した。
「あぁ、そっか。今日って節分だったか……」
なんとなく漏れた天崎の呟きには、どこか哀愁が漂っているようだった。
「節分に何か嫌な思い出でもあるんですか?」
ふと横を見ると、準備を終えたリベリアがいつの間にか側に立っていた。
首が隠れるほどのハイネックのニットセーターに、動きやすそうなデニムのパンツ。目的が廃墟探索とだけあって着飾ってはいないのだが、今日のリベリアの頭には、天崎も初めて見るつばの広いUVハットが乗っかっていた。
軽く挨拶をした天崎は、リベリアの問いに答える。
「いや。ほら、俺の友達に酒井っていう鬼がいるだろ?」
「あっ……」
それを聞いただけで、リベリアは察してしまった。
節分とは、鬼――すなわち邪気を外へ追い出す一般的な行事だ。つまり正真正銘の鬼である酒井太郎は、この日ばかりは友人たちから除け者にされていたのではないだろうか? そして天崎は、そんな仲間外れにされている友人を思い出して心を痛めているのではないだろうか。
そう思いを巡らせたリベリアは、それ以上は何も言えず、ぐっと言葉を飲み込んだのだが……どうやら予想は外れていたようだ。
顔面蒼白になった天崎が、震えた声で過去のトラウマを語り出した。
「酒井の投げる豆はショットガンみたいな威力があってさ、俺も含めて友達みんなめちゃくちゃ青あざ作ったことがあったんだよ。ホント、あの時はマジで目に入らなかったことだけが奇跡だった……」
「うわぁ……」
実際に酒井太郎と戦ったことのあるリベリアだからこそ、その凄惨な状況をより鮮明に想像できたのだろう。苦い顔をしたリベリアは、素直にドン引きしたのだった。
庭先で豆まきを楽しむ円とミルミルに別れを告げてから、二人はおののき荘を出発した。
「天崎さん。現場で睡魔に襲われてもいけませんので、すみませんが私の手を引いてってくれませんか? 歩きながら仮眠します」
「ん」
吸血鬼だから日中に眠たくなるのは仕方がないが、ずいぶんと器用なことをするものだ。ただ以前にも同じようなことをしていたので、天崎も特に疑問を持つことなく受け入れる。手を引くくらいなら何の支障もないだろう。
とそこで、ふと悪戯心の芽生えた天崎が意地悪そうに口元を歪めた。
「お姫様抱っこなら運んでやってもいいぞ」
「えっ、本当ですか!? 是非!!」
「……悪い、冗談だ」
「ぶー」
予想以上の食いつきに怯んだ天崎は、不貞腐れるリベリアから目を背けた。
前に同じ提案をしたリベリアに対する意趣返しだったのだが、どうやら男女ではまるで立場が違ったらしい。こんな白昼堂々金髪美少女をお姫様抱っこするなど、想像しただけで天崎の羞恥心は耐えられそうになかった。
結局、天崎はリベリアの手を引いて歩き出した。
しかし大して進んでもいない距離で、彼は立ち止まってしまう。リベリアの柔らかい手の感触を意識してしまい、脈拍が上がっていることに気づいたからだ。
まさか自分は……緊張している? いや、間違いない。なんせ肌と肌が直に触れ合っているのだ。こんなもの、意識しないわけがない。
手汗や体温など、緊張がリベリアに伝わっていたら恥ずかしいなぁと思いながら、天崎は恐る恐る振り返った。
「なぁ、リベリア……」
「ぐがー」
「…………」
大口を開けて鼾をかくリベリアを見た瞬間、心拍数が一気に正常へと戻っていった。
意識していた自分がバカみたいだと言わんばかりにため息を吐いた天崎は、再び前を向いてリベリアの手を引いていく。
だがしかし、さっさと顔を逸らした天崎が目にすることはなかった。薄目を開けたリベリアが、悪戯が成功したように舌を出したことを。そしてリベリアのポケットの中にUVカットの手袋が収まっていることも、彼は知る由もなかった。
「目的の市営団地はA棟からH棟までの八棟で、そのすべてが各階六部屋の五階建てだ。神上の魂は、E棟の三〇五号室にいたらしい」
安藤と合流した天崎とリベリアは、現場近くのファミレスで軽めの昼食を取った後、簡単な説明を受けながら目的の市営団地へ移動していた。
横二列、縦四列に並ぶ鉄筋コンクリートの住宅は、日当たりを考慮してか、棟と棟の間隔が非常に広かった。その間のスペースには駐輪場や駐車場、さらには子供が遊ぶための小さな公園も設けられ、経営していた頃はそれなりに見栄えの良い住宅地だったことが見受けられる。
しかし当然のことながら廃墟となった今では駐車場に車などなく、駐輪場には錆び付いた放置自転車が転がっているのみ。コンクリートの壁は数十年単位で手入れされていないことが分かるほど黒ずんでおり、場所によっては窓ガラスが割れている部屋もある。
これだけの土地を持て余すのはもったいないから、さっさと取り壊して何か別の施設でも造ればいいのに。と、全体の景観を眺める天崎は、高校生ならではの感想を抱いた。
「中に人がいる気配は……ありませんねぇ」
瞼を閉じ、耳を澄ませていたリベリアが眉間に皺を寄せて呟いた。
「分かるのか?」
「息を潜ませていたりしたら分かりませんが、少なくとも足音や話し声は聞こえません」
「ま、俺たちがここに来るってことは誰も知らないはずだし、誰かが隠れてるってこともないだろ」
石神の情報から、ヴラド三世が神上立人の肉体を乗っ取った場所というのは間違いないだろう。しかし奴らがずっと同じ場所に留まっているとも思えない。事実、こうやって簡単に見つかってしまったのだから。
なので天崎は、奴らの隠れ家や拠点なのかを見極めるためではなく、ただ単に何か手掛かりが残っていないかを調べに来たつもりだったのだが……横にいる安藤は、あまり良い顔をしていなかった。
「いや、油断は禁物だよ。僕たちは常に監視されている、くらいの警戒心は持っていても損はない」
「つってもなぁ……」
もちろん安藤の言うことも一理ある。というか天崎としても全面的に賛成だ。敵がいた場所に乗り込むわけだから、慎重になりすぎて困ることはないだろう。
ただもしそうならば、天崎たちが団地の敷地内に入っていることもすでにバレているはず。警戒も大事だが、同時に開き直りも肝心であるというのが天崎の考え方だった。
「さて……」
気を取り直した天崎は、どういう計画を立てているのか安藤に訊ねた。
「早速現場のE棟から見ていくか?」
「そうだね。天崎とリベリアさんは、そこを中心として徐々に探索範囲を広げていってくれ。僕はまず、住宅の周りに結界を張る」
「別行動するってことか? 大丈夫かよ」
「真昼間だし、屋外だからたぶん大丈夫だよ。何かあったらすぐに呼ぶ。まあ、また天使の亜空間に囚われでもしたら、どうすることもできないけど……そのつもりなら奴らも最初からやってるだろうしね」
「確かにな」
今を狙わずとも、各々一人になる時間などいくらでもあるのだ。常に警戒しろと言った安藤だが、そこら辺は割り切っているようだった。
「君こそ、リベリアさんから離れるなよ」
「分かってるよ」
別れを告げて、安藤は住宅の外回りへ、天崎とリベリアはE棟へ向かった。
この住宅団地は、棟の両端に外階段がある。そのため各階は一本の長い通路となっており、各部屋の扉がまっすぐ並んでいるのだが……。
「うわっ、汚ねえ。ジャージとかにしときゃよかったな」
「ですねぇ……」
三階の端から通路を見通した天崎は顔を顰め、リベリアもまた同意するように頷いた。
屋外に面している通路は長年の雨風に晒され続け、コンクリートの元の色が分からないほど黒ずんでいる。さらに、どこからか飛ばされてきたビニール袋や腐敗した枯葉などが床に散乱していた。
廃墟というだけあって覚悟はしていたが、実際に目の当たりにするとやる気が失せる。夜じゃなかったのがせめてもの救いかなと思いながら、天崎とリベリアは目的の三〇五号室まで足を進めた。
部屋の扉は鍵が掛かっていないどころか、半開きの状態になっていた。最近誰かが訪れたというよりは、元々壊れていたように見える。
恐る恐るドアノブに手を掛けた天崎は、軋む扉をゆっくりと開け放った。
「お邪魔しまーす」
廃墟とはいえ、元々は他人が住んでいた家なのだ。意味がないとは分かりつつも、最低限の礼儀は忘れない。ただ雪のように積もる埃の上を素足で歩く勇気はなく、二人は土足で上がり込んだのだった。
「っていうか今さらだけど、手掛かりって何を探せばいいんだ?」
「さぁ? 足跡とかじゃないですかね?」
「じゃあダメじゃん」
すでに廊下を数歩進んでいる天崎が狼狽した。仮に足跡があったとしても、自分たちが踏み荒らしてしまっては見分けがつかないだろう。
「まあまあ。ヴラド三世たちがここを訪れたのは間違いないようですし、私たちも警察ではないので、足跡程度じゃ何も分かりませんよ。廃墟にあるには似つかわしくない何かを探してみましょう」
「その何かってなんだよ……」
問うも、リベリアからは明確な回答は得られなかった。
ひとまず二人は、廊下を抜けた先にあるリビングへと足を踏み入れる。十二畳はあるリビングは思ったよりも広く感じられた。
というのも、家具がほとんどないためだ。食事をするためのダイニングテーブルが端にあるだけで、あとは薄汚れたフローリングの床が広がるのみ。角に残っている朽ち果てたテレビラックが、この部屋に住んでいた家族の生活感を少しだけ漂わせているくらいだ。
「こっちにも部屋があるな」
引き戸の先は和室となっていた。
長年放置された畳は完全に腐っており、リビングよりも酷い有様だった。踏んだら床が抜けるんじゃないかと思わせるほどだ。
「とりあえず手分けして探るか。んで、何も出なかったら両隣の部屋も見に行こう」
「そうですね」
お互いが視界に入る位置なら大丈夫だろう。そう判断して天崎はそのまま和室を、リベリアはリビングを調べ始める。
と、その時だった。
「なんや。まーた変なお客さんが来よったんかいな」
「「!?」」
お互い相手のものではない声を耳にし、天崎とリベリアは反射的に身を固めた。引き戸の敷居辺りで背中を合わせた二人は、全神経を使って五感を研ぎ澄ませる。
「今の声、リベリアも聞いたよな?」
「えぇ。天崎さんも聞こえているなら、そう遠くはないみたいですね」
とはいえ、この部屋に誰かがいるならリベリアが気づいてもおかしくはない。
もしかして先日ヴラド三世たちが唐突に姿を消したように、どこか別の空間から誰かが移動してきたのでは? と想像した天崎は、すぐにでも動けるよう身構えた。
すると同じ声が再び耳に入る。
「そんな警戒せんでもええて。こっちや、こっち」
今度ははっきりと声の場所を特定できた。
和室の端にある、年季を帯びたタンスの上からだ。
「……猫?」
そう。天崎たちに語り掛けていたのは、一匹の黒猫だった。
タンスの上でリラックスしている黒猫が、黄金色の瞳をこちらに向けている。
「猫が喋りますかね?」
リビングの方を向いていたリベリアも黒猫を確認し、訝しげに首を傾げた。もっともな疑問だが、一度ならず二度までも聞こえたのだから疑いようもない。タンスの裏にスピーカーでも隠されていないかぎり。
「猫は猫でも、妖怪の類と思ってくれて構いやせんよ。儂は猫又じゃ」
「猫又?」
聞き返すと、黒猫は自らの存在を証明するかのように、二股に別れた尻尾をこれ見よがしにゆらゆらと動かし始めた。
確かに普通の猫ではない特徴だが、人語を扱っているのを聞いてしまった以上、もう驚くようなことでもない。
リベリアに目配せした天崎は、周囲の警戒を彼女に任せて、猫又に訊ねた。
「それで、猫又が何でこんな所に?」
「ありゃりゃ? 普通、猫が喋ってたら、もっと取り乱すと思うんだけどねぇ」
「生憎、妖怪は見慣れているもんでな」
「ふーん?」
つい先日、天崎は殺人鬼への復讐のために行われた百鬼夜行を目撃したばかりだ。さらに妖怪でなくとも、人間でない種族は数多く見てきた経験がある。喋る猫が現れたからといって、驚きこそすれ取り乱すことなど今さらだった。
相手が落ち着き払っていることに面白味がないと感じたのか、猫又は早々に話を戻した。
「なんで猫又がこんな所にいるのか問われても、それはむしろ儂のセリフなんじゃがな」
「?」
呆れられた理由が分からず、天崎は眉を寄せる。
その様子を見た猫又は、「やはりこちらから説明せにゃならんか」と呟き、大きくため息を吐いた。
「儂はずいぶん前からこの廃墟を寝床にしとるだけだよ。お前さんたち、市の職員でもなんでもないんだろ? だったら儂と同等の立場どころか、むしろ不審者はお前さんたちの方だとは思わんか?」
「……そういうことか」
猫又の方も勝手に住み着いているとはいえ、土地や施設の所有者でもない人間にとやかく言われるのは快く思わないのだろう。しかも相手側も不法侵入であり、自分の寝床に土足で上がり込んできたのだ。文句の一つや二つ言いたくなるのも当然だった。
「えーっと、すまない……すみませんでした」
「ぷぷぷ。天崎さんが猫に敬語で謝ってる」
「…………」
猫又というくらいだから、かなり長く生きてると思って敬語を使っただけなのだが……そういえばリベリア相手にも普通にタメ口だから別にいいかと、天崎は後ろで嘲笑っている相棒を睨みつけた。
「して、お前さんたちは、こんな廃墟で何をしとるんじゃ?」
「俺たちはちょっと調べ物をしに来ただけだよ」
「調べ物?」
勝手に寝床に入ってしまった謝罪の意味も込めて、天崎は正直に答えた。
「何日か前に、ここで密会していた奴らのことを調べてるんだ。何か手掛かりになる物が残ってないか、ダメ元で足を運んだんだけど……」
「あぁ、あの怪しげな四人組のことかね?」
「知っているのか!?」
興奮した天崎が一歩踏み出すと、腐っていた畳が少しだけ沈んだ。
対する猫又は、なんでもないことのように眠たげな欠伸をかます。
「そりゃ知ってるじゃんよ。儂はここに住んどるんだから」
「何か会話とか聞いてないか?」
「姿を見せんように隠れとったから、よく聞こえんかったなぁ。たとえ聞いてたとしても、もう覚えておらんよ。儂には関係のないことだし。ただ身体を乗っ取るだの、受け取るだの言っとって……」
そこで猫又は、意味深に言葉を区切った。
そして思い出し笑いでもするかのように、ニヤニヤと表情を緩める。
「コートを着た老人が倒れてたお兄さんに触れた途端、ヒュッと消えてしまったのさ。その場にコートと、被っていた帽子だけを残してね。ってことは何かい? あの老人、コートの中は素っ裸だったってわけかい? 今時そんな露骨な変態がいるもんだなと、ついつい笑ってしまったさ。なはははは」
たまらず笑い出してしまう猫又を尻目に、天崎とリベリアは無言で視線を合わせた。
おそらくヴラド三世が神上立人の肉体を乗っ取った現場だったのだろう。
「老人は消えて、倒れてた奴はどうなったんだ?」
「立ち上がって、笑いながらどこかへ行ってしまったよ。その後のことは儂は何も知らん。ただ老人と同じコートを着たお兄さんがちょくちょく来るから、ここに住んでる儂としては迷惑極まりないんだけどねぇ」
たぶん戸塚のことだ。だが天崎には、奴が未だこの廃墟に足を運んでいる理由が見当もつかなかった。
「頼む。そいつがここで何をしているのか、教えてくれないか?」
「儂も知らんよ。この部屋だけでなく、他の棟にも行ってるみたいだかんね」
「じゃあ今度また来た時に、監視とかしてくれない……かな?」
「ふーん?」
唸った猫又が、こちらを値踏みするように見下してきた。
さすがに図々しいお願いだったかなと、天崎は言ってから後悔する。寝床を踏み荒らした見知らぬ人間の頼みなど、普通は引き受けてくれるはずがない。鼻で笑われて一蹴されるのがオチだろう。
だが天崎の予想に反して、猫又は割と快く首を縦に振った。
「ええよ。お前さんたちが儂の条件を呑んで、定期的にこちらへ足を運ぶのなら、協力してやらんこともない」
「条件?」
「そこの窓から下を覗いてみ。犬が一匹おるじゃろ?」
尻尾で窓を指す猫又の指示に従い、天崎は頭を出して階下を見下ろした。
駐輪場の屋根のせいではっきり見えないが、確かに犬らしい動物が一匹いる。何かを探すように緩慢な動作で歩き、匂いを嗅いでは次の場所へ移動しているようだった。
「三日くらい前から住み着いた野良犬みたいでな、お前さんたちにはあの犬をどうにかしてほしいんじゃ。躾のなってない野良犬が近くにいるなど、怖くておちおち外も歩けん」
憤慨したように言う猫又。けどお前だって勝手にここに住みついてるじゃないかと、危うく天崎は失言しそうだった。
「どうにかするって、どうすればいいんだ?」
「どうするかはお前さんたちに任せるよ。儂はただ、あの野良犬をこの団地から追い出してくれればそれでいいんじゃ」
「追い出す、か……」
腕を組んで追い出す方法を思案していると、猫又が大きく伸びをした。そして天井に開いた穴へ向けて、タンスの上から跳躍する。
天井裏へ軽々と潜り込んだ猫又が穴の隙間から顔を覗かせた。
「それじゃ、期待しておるよ」
「あっ、おい。待てって」
慌てて制止するも、時すでに遅し。猫又の姿が消えるのと同時に、天井裏を駆けていく足音が遠のいていった。




