間 章 とある人魚と『完全なる雑種』の出会い その4
年が明けてから三日ほど空いた後、シオンは再び誠三の家を訪れていた。
「お、おはようございます!」
「おう、おはよ。って言っても、もう昼だけどな」
とはいえ誠三の方も夜遅くまで年始の深夜番組を観ていたので、ついさっき起きたばかりだった。欠伸混じりの眠たげな声になるのも無理はない。
しかしシオンを取り巻く違和感には、すぐに気づいた。
「あれ? 今日はジョージさんと一緒じゃないのか?」
「はい……」
はきはきした挨拶はどこへやら。まるで悪戯をした子供が親に叱られるように、肯定の声は深く沈む。
「もしかして、まーた一人で地上に来たのか? この前みたいにサメに襲われても知らんぞ。ま、いいや。入れよ」
「あ、あの、実を言うと一人じゃないんです」
「?」
首を傾げた誠三はシオンの背後を覗き込む。
どこからどう見ても一人だった。
「あっ、違うんです。一緒に来た方は、海岸で待っててもらっていますので」
「海岸で待ってる? ジョージさんじゃないんだよな? 別に連れてきてもよかったのに」
「そうなんですけど、わざわざこちらまで歩いてきてもらうのも悪かったので……」
「?」
シオンの言いたいことが汲み取れず、誠三は再び首を傾げた。
すると彼女は、まるで愛の告白でもするかのような勢いで誠三の手を取った。
「天崎さん! その……もしよかったら、人魚の里に行きませんか!?」
「人魚の里?」
まったく事情が呑み込めない誠三は、当たり障りのない正論を返した。
「人魚の里って、シオンが住んでる所だろ? 海底にあるんだよな? 人間の俺が行けるわけないだろ」
「それが行けるかもしれないんです!」
自信満々に身を乗り出すシオンを避けるように、誠三は上半身を仰け反った。
友人を自分の家に招待したいという気持ちは理解できる。しかし生身の人間が深海にある人魚の里へ行くなど、どう足掻いても不可能なのだ。
もしかして以前の獣人のように、俺が人魚になれると勘違いしてるのか?
そう問いただそうとしたのも束の間、シオンが誠三の手を強引に引いた。
「とにかく、海岸まで来てください!」
「お、おう……」
まあ海岸までは付き合ってやるかと、誠三はシオンの赴くままに従った。
海が見える位置まで行くと、大きく見渡すまでもなく、待ち人らしき姿を見つけた。
防波堤の端に座っていたのは、妙齢の女性だった。背が高く、青みがかった髪が潮風に煽られ揺らめいている。ただ寒さが身に染みるこの時期に、肩を大きく露出したワンピースしか着ていないのは、違和感極まりなかった。
近寄っていくと、誠三とシオンに気づいた女性が立ち上がった。
「まさか……」
もしかしてシオンの母親なのか? と、危うく訊ねそうになった。
見た目は三十代後半と歳相応であるものの、振り向いた顔つきがあまりにもシオンと似ていなかったからだ。ほんわかな雰囲気のシオンに対し、その女性はキリッとした顔立ち。二人に血の繋がりがないことは、誰の目にも明らかだった。
シオンにとって、母親に関することはデリケートな話題のはず。こちらから率先して切り出さない方がいいだろう。
「こんにちは。私の名前はヨミ。今は脚があるけど正真正銘の人魚だよ。よろしくね、坊や」
「どうも、天崎誠三です」
挨拶を交わしながらも、誠三はシオンに向けて『どちら様?』といった意味の視線を送る。すると彼女は有名人でも紹介するように、興奮気味に答えた。
「この方は、人魚の里の外れに住んでる魔女さんなんです! いろいろなすごい研究をしてる方なんですよ!」
「すごくはないよ、シオンちゃん。変な研究ばかりやってるせいか、他の人魚たちからも爪弾き者にされている身でね。まあ静かに研究できるからいいんだけど」
そう言って、ヨミは自虐的な笑みを見せた。
彼女の素性は判明したものの、事情は未だ分からないままだ。
「で、人魚の魔女さんが俺に何の用ですか?」
「それがね、シオンちゃんに訊ねられたんだよ。あんたを人魚の里へ招待したいから、人間を人魚にする方法はないかとね」
「はあ……」
呆れた誠三は、困り果てた眼差しをシオンに向けた。
しかし彼女は本気のようだ。期待を込めて輝く瞳が眩しい。
仕方がないので、一応訊いてみる。
「……できるのか?」
「私も最初は渋い顔をしたよ。そんな方法あるわけないと突っぱねたさ。あんたの名前を聞くまではね」
「俺の名前?」
問うと、ヨミがずいっと顔を近づけてきた。
「坊や、『完全なる雑種』なんだろ?」
「知ってるのか?」
「天崎と言えば『完全なる雑種』の家系として有名だからね。知ってる人は知ってるさ」
まあ変な研究をしていると自分で言うくらいだから、天崎家が『完全なる雑種』だと知っていても何ら不思議ではない。特に隠しているわけではないし、こうやって昔から海の近くに家を構えているわけだし。
ただヨミの思惑には、なんとなく察しがついた。
「まさか俺の珍しい血を研究したいから、シオンに協力したんじゃないだろうな?」
「何を言ってんだい。見返りがなきゃ、こんなお願い聞き入れるわけないよ」
隠そうともしないヨミの本音に、誠三は頭を抱えたのだった。
「で、どうすんだ? 人魚の血統を覚醒させるにしても、一ヶ月は練習が必要だぞ。今すぐ海底に行くなんて絶対に無理だ」
「そんな時こそ荒治療だよ」
ヨミはどこから取り出した小瓶を、これ見よがしに誠三の前へ突き付けた。
中には濁った液体が入っているようだ。
「それは?」
「人魚の血統を無理やり覚醒させるための薬だよ。粉末状にした人魚の鱗を水に溶かしただけの代物だけどね」
「人魚の鱗……なんかイヤだな」
人間で言ったら皮膚や爪みたいなものじゃないかと、誠三は顔を顰めた。
「そんな物で人魚になれるのか?」
「もちろん絶対じゃないさ。むしろ可能性は限りなく低い。薬とは言ったけど、人魚の遺伝子を刺激することを期待しただけのものだからね」
「……安全なんだよな?」
「副作用なんてあるわけないよ。ま、失敗したら腹くらいは壊すだろうさ」
「…………」
押し黙った誠三は、いろいろと考えを巡らせていた。
今まで様々な種族の遺伝子を覚醒させてきた。きっと人魚にもなれるだろう。
しかし自分はもうすぐおののき荘に帰る。あの地域は海から遠いため、休日を利用して練習することもできそうにない。友人を人魚の里に招待したいというシオンの願いは、だいぶ先になってしまうだろう。
ならば多少のリスクを犯しても、できる限りのことは試すべきなんじゃないだろうか?
そう決断するやいなや、誠三はヨミから小瓶を受け取った。
「分かったよ。飲めばいいんだろ、飲めば」
考えているだけでは迷いが生まれるばかりだ。
小瓶の蓋を開けた誠三は、中身を一気に呷った。
「……苦い」
「つまり良薬ってことだね」
決死の覚悟を笑い飛ばすヨミに、誠三は少しばかりイラッとしたのだった。
それはさておき、意識を自分の内へと向けてみる。得体の知れない液体が食道を通っていく感覚を除けば、特に変化があるようには見えなかった。
「……何も変わらんぞ」
「そりゃそうさ。海水に触れなきゃ分からんよ」
「確かに」
どこから海に入ろうか。まだ飛び込む勇気はないから、砂浜まで歩くかな。
そう思って、方向転換しようとしたのだが……。
ヨミがワンピースを脱ぎ始めていることに気づいた。
「どぅえ!!??」
あまりに突拍子もない行動に目を剥いた誠三は、言葉を失って固まってしまった。
そっかぁ。すぐ裸になるつもりだったから、こんなクソ寒い中でワンピースだったのかぁ。しかも下着も付けてないようだし、準備がいいなぁ。
などと明後日の方角を向いて現実逃避する誠三の視界の端で、ヨミの大きな乳房がボロンと零れた。
「何やってんだい? あんたも早く脱ぐんだよ」
「シオン! 痴女の魔女が何か言って……って、お前もか!」
「へ?」
見れば、シオンもまた衣服を脱いでいる途中だった。
ちょうど発育途中の胸が露わになったところだったので、誠三は慌てて顔を隠す。
「天崎さん、何してるんですか?」
「人間の男性はね、女性の裸を見ると興奮してしまうんだよ」
「あ、だから人間は服を着る必要があるんですね!」
ヨミの教えに納得しながらも、シオンはそのまま全裸になってしまう。
「あんたら人魚は恥じらいとかないのか!?」
「生まれてこの方ずっと裸の種族に何を言ってるんだい?」
「そうだとしても! もうちょっと気を遣ってくれよ!」
「心配しないでも、誰も来やしないって。ほら、早く服を脱いでこのトランクに入れな。物陰に隠すから」
無理やり脱がしに来るシオンとヨミの魔の手を振り払った誠三は、渋々ながらも自分の衣服に手を掛けた。一応、見渡せる範囲に人はいない。しかし時間が経てば経つほど、誰かが訪れる危険は増すだろう。
「ええい、ままよ!」
涙混じりの意気込みを上げながら、誠三はお天道様の下で全裸になった。
「うぅ、変な性癖に目覚めたらどうしよう……」
「男なら堂々としてな。ほら、行くよ。こっちへおいで」
服をトランクに収めたヨミを先頭に、一同は砂浜に降りていく。
そして穏やかな波打ち際に立った誠三は、大きく深呼吸をして一歩踏み出した。
「行くぞ」
つま先が海水に触れる。それと同時に、ゆっくりと人魚化が始まった。
癒着した両脚が硬化し、薄い氷の膜が張り付いていくように、鱗が浮かんでくる。その変化は腰の辺りまで及び、最終的に誠三の両脚は綺麗な魚の尾へと成った。
「大丈夫みたいだ!」
その報告を受けたヨミは胸を撫で下ろし、シオンは喜びのあまり飛び跳ねたのだった。
「じゃあ、そのまま潜ってごらん」
ヨミの指示に従い、誠三は海の奥へと進んでいく。
頭が海水に浸かる際、最初は息を止めていたのだが、当然長くは続かない。諦めて息を吐き出したところ、不思議なことに、海の中でも地上と同じように呼吸ができた。
「すげぇ。これが人魚なのか……」
しかも声などの音も普通に聞こえる。肺呼吸なのかそれ以外なのか、自分でも判っていないことも含め、誠三は今まで経験したことのない未知の世界を味わっていた。
「天崎さん、行きましょう!」
人魚化したシオンが誠三の手を引き、猛スピードで泳ぎ出す。
あまりにも速すぎたためか、誠三の顔が水圧に負けて歪んだ。
「待て待て待て待て」
まるで戦闘機にでも乗ったような感覚。危うく失神するところだった。
「こらこら、シオンちゃん。こっちの坊やは、たった今人魚になったばかりだよ。少しずつ身体を慣らしていかないと」
「……はーい」
不機嫌を露わにした返事だったものの、シオンは素直に手を離してくれた。自分が人の脚に変化した時のことを思い出したのかもしれない。
ただ誠三が無事に人魚化できた喜びで、未だ興奮が冷めていないのだろう。自分のペースで泳ぎ出した彼の周りを、シオンは落ち着きなく回り始めた。
「ほお? 初めて人魚になった割には上手く泳ぐじゃないか」
「元々泳ぐのは得意だし、他の種族の血統を覚醒させるのも慣れたもんだからな」
「ふーん」
視線を逸らしながら答える誠三を見て、ヨミはニヤニヤと含みのある笑みを浮かべた。
「こんな婆の裸でも、やっぱり気になるかい?」
「婆って歳でもないだろ」
「人間の男にとっちゃ、人魚の里は楽園だよ。大抵の女性は美人だし、みんなトップレスだしね」
「…………」
無意識に期待してしまった自分を恥じ、誠三は顔を背けたのだった。
だいぶ沖合に出たところで、誠三は改めて周りを見渡してみる。
群れを成す小魚、色とりどりの海藻、地上では滅多に見ない形の岩々。今までテレビでしか観たことのない世界が、誠三の目の前に広がっていた。
「……やっぱサメどころか、人間よりデカい魚すら見かけないよなぁ」
シオンと出会った日のことを思い出す。
彼女はサメに追われて陸に打ち上げられたと言っていた。しかし、こうやって人魚の里へのルートを辿ってみても、それらしき姿は見つからない。
「もしかして遠くの海から迷い込んできたサメだったのかな。だとしたら、めちゃくちゃ運がなかったよな……」
不謹慎ながらも、誠三は鼻で笑ってしまった。
そんなことも考えながら一時間近く泳いでいると、ふと真下に大きな亀裂があることに気づいた。海底の渓谷とでも言うべきか。幅は数十メートルはあり、中は真っ暗で何も見えない。その巨大さから、まるで地球の口であるような錯覚に陥った。
「ここからは一気に光が届かなくなるから、ちゃんと離れずについて来るんだよ」
どうやら亀裂の中に入るようだ。
シオンとヨミに先導されながら、誠三もまた闇の奥深くへと潜っていく。
視覚はまったく当てにならないが、障害物があるかどうかはなんとなく分かる。スピードさえ出さなければ衝突することはないだろう。
二人から離れないよう、慎重に進んでいく。すると唐突に視界が開けた。周囲に明かりが灯ったのだ。
照明の正体は、岩肌から生える奇妙な形をした植物だった。まるでチョウチンアンコウの誘引突起のように、ぼんやりと周囲を照らしていた。
「さすが深海。珍しい植物もあるもんだな……」
説明がないということは、それだけ人魚にとって当たり前の存在なのだろう。人間が地上を案内する際、いちいち街灯を説明しないのと同じだ。
「それじゃあ、私はここまでだね」
唐突に止まったヨミが、名残惜しそうに言った。
「どうしたんだ?」
「さっきも言ったけど、私は人魚の里でも爪弾き者だからね。あんまり大手を振るって泳げないんだよ。それに私が一緒にいるところを誰かに見られたら、シオンちゃんにも迷惑がかかるだろうからね」
「そっか」
自分のことを魔女やら爪弾き者と言う割には、意外と常識があるようだった。変人認定されているのは、研究内容のせいなのかもしれない。
「ヨミさん! ありがとうございました!」
「いいんだよ。自分の為でもあったしね」
深々とお辞儀をするシオンに、ヨミは優しげな笑みを送った。
「私は自分の家に戻るから、地上に帰る時は一声かけてくれると嬉しいね」
「え。もしかして俺、解剖とかされちゃう感じ?」
「なんでさ。もう目的は達成したから、何もしやしないよ」
「?」
意味が分からず、誠三は首を傾げた。『完全なる雑種』に興味があったんじゃないのか? それとも間近で血統の覚醒を確認できたから、それで終わり?
どちらにせよ、ヨミが嘘を付いているようには見えなかった。
家の方角を教えてもらった後、ヨミとは別れてシオンと二人きりになる。すると彼女は、いきなり誠三の腕を引っ張り始めた。
「天崎さん! まず最初に、私のお父様に会ってください!」
「お父様!? なんで!?」
「いえ、その……初めてできたお友達を紹介したいと思いまして……」
「あぁ、友達としてね。うん、そりゃそうだよな」
「?」
盛大に勘違いした誠三は、誤魔化すようにそっぽを向いた。
にしても、シオンのお父上にご挨拶かぁ。と、誠三はバレないように肩を落とす。確かシオンは妾の子。お姉さんたちとも関係が良くないと言っていたし、他人の複雑な家庭事情を目の当たりにすると思うと、今からキリキリと胃を痛める誠三だった。
シオンの案内の元、彼女の家へと直行する。
人魚の『里』といっても、想像とはまるで異なっていた。
人里のような見晴らしの良い景色が広がっているわけではなく、周りはごつごつした岩に囲まれている。いくつもの横穴が窺えることから、思ったよりも複雑な地形になっているに違いない。
おそらく横穴の先は他の人魚の住まいになっているのだろう。しかし近くに何かがいる気配は感じれど、シオンの家に到着するまで誰かと遭遇することはなかった。
薄暗く閉塞感のある海底を泳ぎ続けていると、やがて周りと比べてひと際大きな岩が視界に入る。どうやら中は空洞になっているようで、シオンは側面に開いた穴からすっと身を滑り込ませた。
「お父様! お友達をお連れしました!」
元気な声を上げるシオンに続き、誠三もまた岩の中へと入っていった。
高校の教室くらいの広さはあるだろうか。発光する植物が一面に生えているためか、視界の確保に困ることはない。ただ家具らしい家具は置いておらず、ベッドを模したような平らな岩が一つあるだけだった。
そして今、シオンの父らしき人魚が、その岩に寝そべっていた。
誠三よりも二回りは大きい巨躯。蓄えられた口髭のせいで年齢は分かりにくいが、おそらく五十代くらいだろう。シオンに姉がいることを考慮すれば、それほど的を外していないと思われる。
彼は仮眠中だったのか、シオンの声で目を覚ました様子だった。
「シオンか。友達を連れてきた、だと?」
「はい! 以前お話しました、人間のお友達です!」
シオンの言葉を聞くやいなや、彼は目を丸くした。
「人間? 何故こんな海底に人間がいるのだ?」
「え、えっと、それは……」
急に尻込みしたシオンが、チラチラと誠三の方へ視線を送ってくる。
その仕草の意味はすぐに理解できた。彼女は他人に説明できるほど、『完全なる雑種』の知識に明るくないのだ。
まあ助け船くらい出してやるかと、誠三は自分の素性を簡単に話した。
「実は俺、人魚の血も入ってる『完全なる雑種』なんです。自分の遺伝子にある血統なら、その種族になることもできて……」
「『完全なる雑種』? その種族になる?」
驚きのあまり完全に覚醒したシオンの父が上体を起こした。
疑問形でオウム返しをするも、『完全なる雑種』という単語を知らない感じではない。どちらかといえば、珍しい物を初めて目の当たりにしたような反応だった。
誠三の全身をまじまじと観察した後、シオンの父は深く思案を始める。
そして眉間を指で抓みながら、低い声で訊ねてきた。
「天崎という名の『完全なる雑種』がシオンの友人になったことは、ジョージから報告を受けている。同時に、貴様は初めて人魚と遭遇した様子だったことも聞いた。シオンと貴様が出会ってから、まだ一週間。『完全なる雑種』とは、一朝一夕で他の種族になれるものなのか?」
「それは……」
思わず言葉に詰まってしまう。
それで答えは得たと言わんばかりに、シオンの父は大きく落胆した。
「なるほど、ヨミの仕業か」
「――ッ!?」
聡いな。と、誠三は舌を巻いた。
理屈に合わないことが起きたら即座にヨミと結び付け、名前を出して相手の反応を見る。要は単なる鎌かけだが、今の狼狽でヨミの関与を確信したに違いない。
「あれほどヨミとは関わるなと言ったはずだが……」
「お父様! 違うんです。天崎さんを里に招待するためには、どうしてもヨミさんの力が必要だったので……」
「その嘘は先ほどその小僧が否定したばかりだぞ」
彼の言う通りだ。時間をかければ血統の覚醒はできるのだから、わざわざヨミの力を借りる必要はない。ヨミを頼ったのは、誠三が下宿先に帰る前に招待したいという、シオンの自己都合だった。
「で、でも、ヨミさんは決して悪い人ではありません!」
「そういう問題ではないのだよ、シオン。ヨミと繋がっている人間を野放しにしておくわけにはいかない」
シオンの父が手を上げた、その時だ。
壁の穴から人魚が二人、ものすごいスピードで侵入してきた。
一人はジョージで、もう一人は似たような体格の男性人魚。呆気に取られている誠三の腕を拘束すると、あっという間に床へ押さえ込んでしまう。
「ジョージさん! リュージさん!」
背後からシオンの悲鳴が飛んでくる。
すると聞き覚えのある声が耳元で囁いた。
「大人しくしてください、天崎さん。主様の命令です」
「放せ!」
ジョージの警告を無視し、誠三は抵抗を試みる。しかしビクともしない。自慢の腕力も、脚のない人魚の姿では十全に発揮できないようだ。
「やめてください! 天崎さんは私のお友達です!」
シオンの悲痛な叫び声が遠い。どうやら彼女も誰かに捕まえられているらしい。
身動きの取れない誠三は、無理やり首を捻り、シオンの父親を睨み上げた。
「おい! ヨミが何をしたかは知らんけどな、親だったら娘の友達くらい自由に選ばせてやれよ!」
「……そうか。この状況で自分の身を案じるわけではなく、シオンのために憤ってくれるのだな?」
「は?」
「貴様と議論を交わすつもりはない。この人間を牢へ連れて行け」
「はい」
冷たく命令を下したシオンの父親に、ジョージは静かに頷いた。
そうして誠三は、複数の男性人魚に囲まれ、牢屋へと連行されていくのであった。




