第3章 一年前の話 その2
「あぁ、だから今年はいつもより『奪者』が多かったのか」
何気なく放った安藤の一言に、天崎は目を剥いた。
行き倒れていたサンタを介抱した翌日の午前、冬休みの課題を早々に終わらせるため、天崎は安藤の自宅を訪れていた。
課題を進めている途中、昨夜の出来事に対して愚痴を漏らしたところ、先ほどのセリフが返ってきたのだ。さも当然のように納得する安藤の態度を目の当たりにしてしまっては、驚くのも無理はない。
「安藤……お前、サンタクロースとか『奪者』とか知ってんの?」
「当り前さ。僕は下界を調査するために魔界からやって来た悪魔だぞ。それくらいのことを調べないでどうするんだ」
「それもそうか」
言われてみれば納得だ。毎年行われている行事を、安藤が知らないわけがない。
「とはいえサンタクロースや『奪者』のことも、そこまで詳しくないよ。僕も実際に会ったことがあるわけじゃないし、君はなかなか貴重な体験をしたと思う」
「したというか、今まさに現在進行形なんだがな」
サンタの手伝いである『奪者』の駆除は、午後三時あたりから始めると言っていた。なんでも『奪者』の活動が活発になるのは、日が暮れ始める頃らしい。
課題を終えた後、謎の生命体を駆除するために街中を歩き回らなきゃいけないことを思い出した天崎は、どっと疲れたように肩を落とした。
「つーか、人間社会を観察しに来た大悪魔様が『奪者』なんて謎の生命体を野放しにしといていいのか?」
「問題ない。それも含めて人間の社会生活だ。『奪者』が現れたのは三百年も前なんだろ? 大きく変化があって困るのは、僕が生まれた十六年前以降の話だ」
「そういうもんなのか。じゃあ、サンタクロースが実在するって世間に知られても何の問題もないのか?」
「できれば今と変わらず隠れて活動してほしいところだけどね。まあサンタの存在がバレたのであれば、それはそれで仕方がない。ただ……」
と言って、安藤は眼鏡の位置を直した。
「歳を取るにつれて、サンタの存在の認識が変わるみたいだよ」
「どういう意味だ?」
「例えば純粋な幼児なら『サンタは実在する!』って信じるだろ? んで、僕らくらいの歳になれば『サンタなんているわけがない』と一笑するようになる。でもね、サンタクロースを信じなくなった大人でも、子供を持った親の大半はこう思うようになるらしいんだ。『あれ? サンタって本当は実在するんじゃないか?』ってね」
「マジか」
だが、よくよく考えてみれば不思議なことではない。
昨日のサンタクロースは、毎年子供たちにプレゼントを配ると言っていた。つまり子を持つ親は、自分が用意した物とは別のプレゼントが子供に行き届いていることになる。
そんな状況を目の当たりにしては、サンタの存在を信じたくなるのも無理はないが……高校生の天崎にとっては、今は知る由もない話だった。
「んじゃあ、今年この地域の子供たちにプレゼントが届かないのはマズいんじゃないか? 親が不思議に思っちまうだろ」
「だから、それも含めて人間の社会生活なんだってば。サンタが『奪者』の駆除をサボったことも含めてね。残念だけど、今年はプレゼントを諦めてもらうしかない。……っていうか君、もしかして僕にも手伝わせようとしてるわけじゃないよな?」
「ギクッ」
あからさまに目を泳がせた天崎を見て、安藤は深いため息を吐いた。
「手伝うわけないだろ。なんで無関係の僕がボランティアしなくちゃならないんだ」
「ちょっとくらいいいだろ、大親友ぅ。24日までだからさぁ。お互い彼女もいなくてどうせ暇なんだから、俺と遊ぼうぜ」
「暇だからどうかとかじゃなくて、単純にやらされるのが嫌なんだ。自分のケツくらい自分で拭け」
「それはサンタに言ってくれよ……」
とはいえ、サンタクロースの依頼を受けてしまった天崎の自業自得でもあるのだが。
手を揉んですり寄っていく天崎を、安藤は足の裏で撃退した。
「さぁ、さっさと課題を進めるよ。年末年始は実家に帰るんだろ? 運ぶ荷物を減らしたいなら、早くやれ」
「へーい」
課題を見てほしいとこちらからお願いした手前、安藤の機嫌を損ねるのは得策でないと判断した天崎は、素直に引き下がったのだった。
午後三時。おののき荘の軒先でサンタクロースと待ち合わせた天崎と円は、自らのヘンテコな恰好をまじまじと見回していた。
「……なにこれ」
「『奪者』を視認、駆除するための防具服でござる。それがないと、普通の人間には『奪者』を知覚することもできないでござるよ」
サンタクロースから渡されたのは、赤と白を基調とした三角帽子と分厚いマント、そして腰の高さほどもあるステッキだった。言わずもがな、サンタクロースのコスプレである。
「今から『奪者』を駆除するために、街中を歩くんだよな? ……この恰好で?」
「何を恥ずかしがってるでござるか。この時期なら何も変ではござらんよ」
「そうはいっても……」
駅前や市街地ならいざ知らず、『奪者』の駆除は住宅街で行うのだ。何もカモフラージュになっていない。
途中でクラスメイトに出会いませんようにと、天崎は切に願うのだった。
「では、ついて来てくだされ。一通り説明するでござる」
「おー!」
「…………」
やる気に満ちた円の掛け声に合わせ、天崎もまた無言で拳を上げた。
おののき荘を出発したサンタは、そのまま適当に街の中を歩いていく。
「本来ならトナカイが移動と索敵、サンタが駆除の役割を担っていたんでござるが……まあ、いないものをどうこう言っても仕方がないでござるね。こうやって地道に歩いて、クリスマス当日までにできるだけ『奪者』を減らすしか……」
「あっ!」
聞きたくもない愚痴を聞かされている最中、円が唐突に声を上げた。
天崎とサンタは、円が見つめている方向へと視線を移す。民家の塀と電柱の隙間に、奇妙な黒い靄が蔓延っていた。
「うわっ、なんだこれ」
「これが『奪者』でござるよ」
逃げる様子はないので、じっくり観察してみる。
大きさは小型犬程度。かろうじて顔と腕と脚が見分けられそうな気がしないでもないが、それが生物と言われても違和感を覚える。まるでスライムのように、その黒い靄は原形を留めることなく流動しているのだ。
「『奪者』を見つけたら、こうするでござる」
そう言ってステッキの先端を黒い靄へ向けると、そのまま胴体へと突き刺す。貫かれた『奪者』は「ピギー」と小さな断末魔を上げながら浄化されていった。
「こんな感じでござるな。『奪者』はこちらが視えていることに気づいてないし、変に追いかけなければ逃げることもござらんので、駆除自体は簡単でござる」
「それは分かったんだけどさ。あんた今、まったく気づいてなかったよな?」
天崎も他人のことは言えないが、サンタは真横にいた『奪者』を完全に素通りしようとしていた。円が声を上げるまで、まったく知覚できていなかったように。
そう指摘すると、サンタは目を泳がせながら口笛を吹き始めた。
「そ、それは天崎殿たちに見つけてほしくて……」
「くだらない嘘つくなら、もう手伝わんぞ」
「だって仕方がないでござる! さっきも言ったでござるが、主な索敵はトナカイがやっていたでござるからな! 拙者だけでは、見逃しがあるのは当然でござる!」
開き直られた挙句、逆ギレされてしまった。
少しくらい見落としがあるのは天崎も承知している。そうでなければ、トナカイがいなくなっただけで仕事ができなくなったと嘆いたりはしないだろう。
ただ老人が涙目になりながら言い訳をかますその姿は、さすがにドン引きだった。
「にしても、円嬢はすごいでござるな。即座に『奪者』に気づくとは」
「また変わり身が早えな。……ま、いいや。円、今後もその調子で頼む」
「えっへん」
二人が褒めると、円は腰に手を当てて得意げに鼻を鳴らした。
円が『奪者』を簡単に発見できたのは、座敷童特有の能力か、それとも子供だからか。どちらにせよ、『奪者』を見つけ出すのは問題なさそうだ。
「では駆除の効率を良くするため、ここからは二手に分かれるでござるよ。天崎殿と円嬢はあっち方面。拙者はこっち方面からスタートするでござる」
交差点に辿り着くと、サンタが左右を指で差して提案してきた。
二手に分かれること自体は天崎も賛成だ。その班分けも。ただ、どうしても釘を刺さなければ気が済まなかった。
さっさと先へ進もうとしているサンタの背中に向けて、疑わしげな視線を投げる。
「お前、サボんなよ?」
「ギクッ」
大きく肩を揺らしたサンタが、慌てて振り返った。
「サ、サボるわけがなかろう! 今までサボってきたからこそ、このような非常事態に陥っているんでござるよ。同じ轍は踏まんでござる!」
「……ならいいけど」
本人がそう言うのなら、もう何も言うまい。
天崎と円はサンタと分かれ、『奪者』の駆除を開始したのだった。
それから二時間ほど、天崎と円は街中を散策していた。
サンタクロースがサボっていたためか、それとも『奪者』の繁殖が異常に早いからなのかは分からないが、奴らは至る所に生息していた。電柱の裏、垣根の中、車の下など、たとえ『奪者』を視認できる防具服を着ていたとしても、物理的に見落としそうな場所に潜んでいることが多かった。
こりゃ民家の中にもすでに潜伏されているだろうなと思いつつ、天崎は無心で『奪者』の駆除に励んでいく。
主な作戦としては、歩きながら円が『奪者』を見つけ、天崎がステッキで突き刺して浄化させる。その繰り返しだ。天崎だけでは六割以上も見落としがあったため、円を連れてきたことは正解だった。
そんなこんなで約二時間、日も暮れてきた午後五時あたりで、一休みするため二人は公園のベンチに腰を掛ける。自販機で買ったジュースを渡しながら、天崎は円に訊ねた。
「『奪者』の駆除は順調だな。疲れてないか?」
「うん」
子供の体力は無尽蔵だもんな。なんて感心しながら、天崎も自分の飲み物に口をつける。
ただ順調とは言いつつも、『奪者』を例年通りまで減らすことはまず不可能であると、天崎は開始前から理解していた。
はじめに地図で確認したのだが、あの風俗サンタが担当する地域はかなり広大だった。一ヶ月間ちまちま進めていくならともかく、たった二日、しかも三人足らずでどうこうできる範囲ではない。この地域の子供たちには悪いが、今年は諦めてもらうしかないなと、天崎はすでに心の中で謝っておいた。
「そうだ。唐突で悪いんだけど、円は正月どうする? 俺と一緒に実家に行くか?」
「じっか?」
「ここから一時間くらい電車を乗り継いだ、海沿いにあるんだ。まあ座敷童のルールで長距離移動ができないって言うんなら、おののき荘で留守番しててもらうしかないんだけど……」
「いく! 東四郎のじっか、いく!」
けっこう即決だった。瞳を爛々と輝かせ、まるで遊園地にでも連れってもらえるように胸を躍らせていた。
「分かった。大丈夫なら一緒に帰ろう」
あとは両親に対してどう説明するかだな。
などと考えながら、天崎は空になった缶をゴミ箱に放り投げる。見事入ったところを確認してから立ち上がった。
「んじゃ、もうちょっと休憩したら再開するか」
円のジュースが残っていることを確認し、天崎は大きく背筋を伸ばした。
すると突然、マントの裾を引っ張られる。
「ん? どうした?」
「ねえ、あれ」
呼びかけた円本人は正面を見据えたままだった。
不思議に思い、天崎は円の視線を辿る。
闇が降りた公園内。まばらに設置されている街灯が地面を淡く照らしているものの、その周囲の暗闇までは晴らしてくれない。だが光の届かない闇の中に、何か異様な物体が佇んでいるのは明らかだった。
フェンスとグランドを隔てる生け垣の手前。天崎たちがいるベンチから少し離れた場所に、二メートルくらいの大きな陰が、ぼんやりと存在していた。
「……あれも『奪者』だよな?」
目を凝らした天崎が疑問の声を上げるのも当然だった。
姿形はともかく、今まで駆除してきた『奪者』は小型犬程度のものばかりだったのだ。大きくとも、せいぜい天崎の腰くらいの体長しかなかった。
しかしグランドの端にいるのは約二メートル。どう小さく見積もっても、天崎の身長は超えているだろう。
「夜になると活動が活発になるって、そういうことだったのか?」
サンタも『奪者』の大きさについては、特に言及していなかった。小さいものしかいないとは言っていないし、向こうから危害を加えて来ないという言質も取ってある。つまり『奪者』は陽が沈むと、その体積を膨らませるのかもしれない。
「どのみち、駆除しないわけにはいかないよな。円はそこで待っててくれ」
すでに知覚できているので、駆除は天崎だけで十分だ。
ステッキを手にした天崎は、恐る恐る巨大な『奪者』へ近づいていく。その間、『奪者』はまったく動く様子がなかった。ただ呆然と、置物のように地面に鎮座するのみ。
他の『奪者』と同じだ。天崎がステッキを向けても逃げようとはせず、まるで駆除されることを受け入れているように微動だにしなかった。おそらくコイツもただデカいだけで、習性は変わらないのだろう。こちらが気づいていることに気づいていないのだ。
じりじりと距離を詰める天崎は、同時に警戒心も高めていく。
そして――手の届く範囲まで近寄ってみて初めて気づいた。
「まさかコイツ……小さい『奪者』が集まってできてるのか?」
二メートルもあるその『奪者』は、一個の個体ではなかった。
外敵から身を守るため、多くの小魚が集まって巨大な魚を演出しているのと同じ。その『奪者』もまた無数の『奪者』が身を寄せ合い、一個体のように見せているのだ。
あまりの不気味さに、天崎は身を硬直させていた。
石の下に巣食うダンゴムシみたいなものだ。一匹だけなら可愛らしいものの、無数に蠢いている光景を目の当たりにしては、嫌悪感が先に来てしまう。
そして、その一瞬の硬直が悲劇を招いた。
今まで呆然と佇んでいた『奪者』が、ゆっくりと天崎の方を向いたのだ。
しかも――。
『ミツケタ』
声にならない声……まるで泥沼から湧き出た泡が音程を奏でているような濁った音で、『奪者』が何かを囁いた。
「なん……ぐっ……」
突然、天崎の胸に衝撃が奔った。『奪者』の腕に相当する部分に殴られたのだと理解するのと同時に、彼は後方へと吹っ飛ばされる。その威力は、力士の張り手をゆうに超えていた。
背中から倒れた天崎は、全身を砂まみれにしつつも即座に体勢を整える。
ダメージはゼロ。しかしあまりに予想外な攻撃だったためか、次の行動に対する判断がかなり鈍っていた。
「『奪者』は危害を加えてこないんじゃなかったのかよ! あのクソジジイ!」
危険じゃないのは昼間だけ? 夜になったら狂暴になるのか?
どちらにせよ、これは完全にサンタクロースの落ち度だ。嘘つきやがって!
混乱しながらもステッキの先端を向ける天崎に対し、『奪者』が動く。
『ミツケタ』
もう一度、先ほどと同じ音を発した『奪者』が唐突に駆け出した。
向かうはベンチ。座ったままこちらの様子を窺っている円の方へと、漆黒の巨体が迫る。
「なっ!?」
決して常軌を逸脱したスピードではない。天崎でも十分追いつける程度だが、その巨体に見合わない俊敏性と、『奪者』の意外な行動に驚きリードを許してしまう。
「円! 逃げろ!」
慌てて叫びながら、天崎もまた無我夢中で駆け出した。
ステッキを振り上げ、槍投げの要領で『奪者』に向かって投げつける。見事に右脚らしき場所に命中したものの、『奪者』の勢いは止まらない。右脚を構成する数体の『奪者』が浄化されただけだ。
「くそっ!」
投てき物を失った天崎は、それでもなお全力で突っ走る。
何故『奪者』は円を狙うのか。追いついたとしても勝ち目はあるのか。疑問は多々あれど、今は円を守りたい一心で、ただ『奪者』を追うのみ。
と、その時だった。
ズドオオオオオォォォン!!! という衝撃音とともに、いきなり『奪者』が爆発した。
「今度は何だってんだよ!」
周囲一帯に舞い上がる砂埃から顔を守りつつも、天崎にはしっかりと視えていた。
何か大きな物体が、まるで隕石のように遥か上空から降ってきたのだ。直撃した『奪者』は集合体の姿を維持できなくなり、無数の小さな個体に分裂して周囲へと四散する。そのまま蜘蛛の子を散らすように、闇の中へと消えていった。
その様子を視界の端で確認しながらも、天崎は降ってきた物体を注視する。
「お、お前は……!?」
治まっていく砂埃の中心に佇んでいたのは、二足歩行をするトナカイの着ぐるみだった。
「へー。じゃあ、トナカイさんに助けてもらったんだ」
隣の席に座る月島が、感心したような声を上げた。
時は戻り今年の23日。補習と補習の合間の休憩時間に、去年のクリスマスにあった出来事を話したのだ。
そもそも何故、月島が補習を受けているのか。気になって訊ねてみたところ、「て、転校生だからだよ。はは」と目を逸らしながら答えたのを見て、それ以上は話題に出さないことを心に決める。人には他人に触れてほしくない領域があるのだ。
「そうそう。それからなんやかんやあって解決できたんだけど、今年もサンタの手伝いをすることになってさ。悪いけど、明日は補習が終わったらすぐに準備しなくちゃいけないんだ」
天崎が去年の話をすることになったのも、月島がおずおずといった感じで「あ、天崎さん……明日の夕方って、空いてないかな?」と訊ねてきたからだ。残念ながら先約があったので、その旨を説明していたのである。
しかし予定があると耳にしたにも関わらず、月島は安堵しているようだった。
「……よ、よかったぁ。他の女の子との約束があったわけじゃないんだね……」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないよ」
慌てて両手を振る月島の態度に、天崎は首を傾げた。
ただ胸を撫で下ろしたのも束の間、月島は再び決意を固めたように表情を強張らせ、上目遣いで訊ねてくる。
「じゃ、じゃあ明後日……25日のお昼とかはどうかな?」
「25日?」
天井を見上げた天崎は、明後日の予定を思い出してみる。
確か昨夜、リベリアと約束を交わしたはずだ。ただそれは午後八時までに彼女が働いている店に行けばいいのであって、それ以前の予定は何もない。少なくとも日が暮れるまでに帰れば問題ないだろう。
「昼なら空いてるよ。どうかしたのか?」
「あっ、えっと、その……」
一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに俯いてしまう。どうやら天崎の予定が空いていたことに喜んだはいいものの、次に発するべき言葉を上手く見つけられない様子。
そのまま根気強く待っていると、大げさに息を呑んだ月島が言葉を絞り出した。
「観たい映画があるから、よ、よかったら一緒にどうかなって……」
「映画かぁ」
なんとなしにぼやいたのだが、月島は否定的に捉えたようだ。
先ほどよりも大きく両手を振り、しどろもどろに今の発言を撤回しようとする。
「ご、ごめん。クリスマスに映画なんて、嫌だよね! 今のは忘れて……」
「いや、行こう。月島が観たい映画ってのを、俺も観てみたい」
「ホント!?」
上ずった声とともに表した狂喜乱舞は、ここ最近では一番の喜びようだった。
こうして天崎と月島は、周りで聞き耳を立てている他の補習生の苛立ちに気づくことなく、映画の約束を取り交わしたのだった。




