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帰り道  作者: やまと
転生、初日
9/12

第二章 3 『問題』

次から次へと問題が出てきて私は辟易としていた。


私は望んでこっちの世界に来たわけじゃないのに。

どうして私がこんなに苦労しなければならないのかわからない。悲しくなってきた。

しかし悲しんでいても帰れるわけではない。カルシュの話を聞こう。


「学会の本部があるのはここ、エルメッテ帝国ではないんだよ」

「どこにあるの?」

「精霊の地、スピリトゥスって言う場所なの」

「どこの国?」

「国じゃないの。精霊の地は魔力に満ち溢れていて、魔法に適正の高いものじゃないと魔力が逆に毒となって体を蝕んでしまう、少し危険なところなの。そこはどこの国のものではない、精霊の国と呼ばれる場所なんだよ。そこの端にあるのが学会の本部」

「誰もが行ける場所、というわけではないんだね」

「そう。身分が高ければ高いほど魔法への適性は高くなる。だから自然と学会の本部に行けるのは身分の高い人だけに限られてくるんだよ」


どうやらこの世界において身分というものはかなり大事になってきそうだ。

なんか差別みたいなものもあるんだろうか。ちょっと怖い。


「じゃあそのスピ…?なんとかに行かないとね」


そういった瞬間カルシュが私の方にビシッと指を指してきた。


「そこが問題なのよ!」


どこが問題なんだ?

首をかしげる私にカルシュはため息を付き、六法全書もどきをぱたんと閉じる。


「いい?スピリトゥスは遠い場所。そこに行くには大変な労力が必要なんだよ。馬車で何ヶ月かかることかわかったもんじゃない」

「馬車とかあるんだ」

「そこはいいから」

「移動時間が問題なの?私は時間をかけてでも会いに行きたいんだけど」

「確かに時間もかかるけどそこじゃないの」


なんなのだ。

馬車での長旅は体に大変な負担がかかると聞く。

しかし帰れるならばそのような負担も覚悟で行くしかあるまい。


「――お父様とお母様にどのように説明するかが問題なんだよ」

「――どういうこと?」

「いい?さっきも言った通り自分が別世界の人間だと明かさないほうがいいのはわかったよね?」

「うん。でもきっとあの二人はそんなことしないよ」

「うん、それは一番私がわかってる。そうじゃないんだよ」


じゃあ何が問題なのか。

カルシュはなんかよくもったいぶって喋る子だな。教師みたいだ。


「お父様とお母様は私達のことを愛してくださっている。そんな愛娘にスミレのような知らない人物が紛れ込んでいたらどのように反応するのか私も想像がつかないんだよ」

「まじで?」

「本当に。お父様はああ見えて軍人だよ。手段を選ばない可能性だってある。それに広く知れ渡っているのはそういうときは殺す、という方法なんだよ」

「いやまじそれおかしいと思うんだよね」


この世界は解決しにくいことがあったらすぐそういうことを言い出す。

もう少し平和に暮らす気はないのだろうか。

取り返しが付かない方法を一番に試すとは度胸があるとかそういう問題ではない。


「でもさ、お父様もお母様も帝国軍に所属してるってことは何かしら知ってるんじゃないの?」

「確かに、私達だけじゃ解決できないことも知っているかもしれないね」

「じゃあ話したほうがいいんじゃない?」

「万が一があった場合、私はスミレを守れない」


カルシュが落ち込むように言った。

確かに二人は超実力者。いかにカルシュが毎日鍛えていたとしても両親には叶わないだろう。

それに二人は戦闘において相性がよさそうだ。


まずインテリゲントは普通に戦闘力が高いだろう。

もしカルシュがインテリゲントを戦闘不能に追いやることができたとして、問題はサージだ。

彼女は治癒魔法の名手だという。

ただでさえ難攻不落のインテリゲントを回復させまくられてしまったらもうそれはゾンビ戦法みたいになるのではないだろうか。


それは勝ち筋が見えないというものだ。

戦う前に負けている。戦うという手段は取らないほうがいいだろう。


カルシュは私の身を案じてくれているのだ。

あの約束を是が非でも守ろうとしてくれている。

両親と戦うことも想定してまで私を――。


私は嬉しかった。素直にカルシュが私のために色々なことを考え、最善を尽くそうとしてくれていることがたまらなく嬉しかった。

そして私もそれに報いたいと思った。


「カル、いいの」

「いいって何が?」

「二人に話そう。私がクルシュではないことを。愛娘を奪ってしまってごめんなさいって精一杯誤ってみるから。それで体を返す方法を一緒に探してくれませんかってお願いしてみるの。どう?」

「でもそれは――」

「うん、ありがとう、カル。私の身は危ないかも知れないけど、でも大丈夫。だってカルの自慢の両親なんでしょう?愛娘を傷つけるような真似に早まることはできないと思うよ」

「そうかもしれないけど…」

「もし戦うことになったらカルは参戦しなくていいよ。私だけでなんとかする。お願い。そうさせてほしいの。こんなに恩があるカルに大好きな両親と戦わせるなんてそんなひどいことできない」


私は自分の気持を素直に伝えた。

きっとこの先二人の協力は必須のものとなってくるだろう。

それならば隠さず早いうちから味方につけておきたい。

もちろん危ない可能性もあるが、でもあの二人ならば大丈夫な気がするんだ。


「――私は、お父様とお母様を信じてる。お二人は、クルシュの味方だって信じてる」

「うん、信じて。そして私は、カルが私の味方だって信じてるから」

「うん、ありがとう」


これで方向性は決まった。

この家の中では取り繕うのをやめよう。

二人にありのままを打ち明け、協力してもらう。

そのために私は危険な目に合うかも知れないが、それは私が覚悟を決めれば済むことだ。


私はため息を付き、立ち上がった。カルシュもまた立ち上がる。


「さあ、二人の元に行こう。善は急げ、だよ」

「スミレは案外肝が座ってるところがあるよね」

「どうしてこんなに冷静なのか自分でもわかんないんだけどね」


いつもは優柔不断な私だが、なぜかすんなり決断できる。

きっとそばにカルシュがいてくれるという安心感が私を冷静にさせてくれているのだろう。


二人で部屋のドアを開け、二人の元へ行くために階段を降りていった。

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