第一章 4 『紅』
――殺される、そう、思った。
カルシュからの殺気を肌で感じる。殺気とは、このように皮膚をちりちりと焼くものなのか。
カルシュは少しだけ間をおいて私に言った。
「何をほうけているの。防御魔法を展開するなら今よ。それとも私の魔法を直撃して生き残れると思っているの?」
厳しい言葉を聞いた。
いや、生き残れるとは思っていません。
でも私は悲しいことにその防御魔法とやらを使うことができないのだ。
「防御魔法、できません」
「そう、なら死ぬだけだね」
カルシュは一瞬止まった魔力をまた動かした。
カルシュの、手のひらに集まる。赤く、染まる。熱を、帯びる。
カルシュの手の中で見えない魔力は紅い炎となってこの世に具現化される。
「言い残すことは」
もっともらしい問をカルシュに投げかけられ、私はもう諦めるしかなかった。
ひどく、死が他人事のように思える。自分が今窮地に立たされていることなど忘れてしまいそうになるほどに現実逃避が成功してしまっていた。
「――体を、返せなくてごめんなさい。あと、死にたくないです」
率直な意見を述べる。
ひどく冷静な自分に自分で驚く。気持ち悪い。
カルシュはすっと目を閉じて刹那、考える。
そして目を開け、こちらを真っ直ぐな瞳で見つめる。紫紺の瞳と目が合う。
「…きれい」
そう呟いた。最期に見るのはアメジストのような透き通った瞳。
「――フランメ」
詠唱が、聞こえる。
カルシュの手のひらに集められた炎は鳥の形となり私にまっすぐ飛んでくる。
音もない。早すぎて瞬き一瞬で私の前にたどり着いたその炎の鳥は私が想像するフェニックス、不死鳥そのままだった。
刹那、鳥の羽ばたく隙間からカルシュの顔が見える。
さっきまでまっすぐに私を見据えていた紫紺の瞳は悲痛に歪められ、形の良い唇は固く結ばれていた。
そうだ、この子たちはまだ幼い。人を殺すのにもまだ耐性とかついてないのかもしれない。
何よりも愛する妹が知らない人に乗っ取られた恐怖、怒り。
カルシュは、辛かったろう。
そんな簡単なことも想像できなかったのかと悔やまれる。
そんな後悔の一瞬を経て、世界が赤く染まる。
私の体は、熱に包まれていった。




