第二章 5 『作戦会議』
「まず、この先どのように活動していくかについてだが」
インテリゲントが会話を進める。
今は家族で会議中だ。議題はこのさきどのように動いていくか。
「大賢者に話を伺うというのが定石なのでは?」
サージが口を開く。
やはりみんな自分たちの知識だけではどうにもならないときは大賢者に頼ろうとするのだろう。
「大賢者の使者様に謁見する方法を探すのが一番の近道なのではなくて?」
「いや、それはそうなのだが、問題があるのだ」
「――私達の仕事、ということでしょうか」
「そうだ」
どういうことなのだ。
夫婦間だけで交わされるやり取りの中で、私が理解できたことは何一つとしてない。
二人の仕事は確か帝国軍であろう。それがなにか問題でもあるのだろうか。
「最近は平和で私達が動く必要がない。一般兵は動けど、私達が動く必要があるような大事は起こっていない」
つまり今二人は暇なのか。
「私は教官の仕事がございます。しかし今は進級試験が終わった時期なので少し長いお休みをいただいています」
つまりふたりとも家にいるということだろう。
「それはそれでいいのだが、大賢者の知恵を賜るということはスピリトゥスに行かなければならない。それは長旅だ。私は万が一の国の大事のために長い事留守にするわけにはいかない」
確かに。帝国軍の実力者は普段は暇かも知れないが必要になった時すぐに出られるように準備をしていなければならないのか。
「それもそうですわ。ならば私がさらに長期休暇をいただいて二人を連れていくというのは?」
「…」
インテリゲントが黙り込む。
そして考え、考え、言いにくそうに口を開いた。
「その――3人だけでは心配ではないか」
…こやつ、本当に家族が好きなのだろう。
3人だけで行くには心配だから自分もついていきたいと。
案外可愛いところがある人じゃないか。
「まったく。インテリゲント様、私だけでは不足だとおっしゃいますか」
「いや、そういうわけではない。サージの実力は私が一番よく知っている。しかし、もし3人に何かあったら私はどうすればいいのだ」
なんか、威厳のある父というイメージだったのに崩れてきた気がする。
どこまでも家族が大好きで、家族を優先したいのだろう。
それでも手放せない仕事をしているという責任感からインテリゲントは困っているのだろう。
「大賢者に頼るという方法以外に、なにか案はないのですか?」
聞いてみた。
このままでは平行線なのだろうと感じたので少し方向性を変え、会話の進展を待つ。
「そうね、大賢者に頼るという方法以外なら――インテリゲント様」
「――ああ、そうだな。王宮の図書館という手がある」
「王宮の図書館?」
王宮に図書館があるのか。それはただの図書館ではなさそうだ。
国に関する数多の本の他に、きっと秘密の知識とかがたくさんあるのだろう。
本好きの私からしたらぜひ行ってみたいスポットだ。
「王宮の図書館ならばお父様ほどのご身分でしたらいつでも申請をかければ入れるのではないですか?」
カルシュが口を挟む。
なるほど。王宮の図書館とは誰でも入れるという気軽なものではないのだろう。
確かに王宮にあるということならば平民などが簡単に踏み入っていい場所ではなさそうだ。
だがインテリゲントは名誉ある人だから王宮の図書館とやらに立ち入るには申し分ない身分なのだろう。
それなのになぜこんなにも渋っているのか。
「確かに私は王宮の図書館に入るのは簡単だ。しかし、私達が言っているのはそこではない。これは内密にしてほしい情報なのだが、その図書館の地下に、普段は明かされぬ、王族ですら入れるものが限られている知識の書庫があるのだ」
「そんな図書館が…」
「噂ではその知識とは大賢者にも劣らぬほどのものだそうだ。世界中のことや普段は禁忌とされ触れ得ぬことまで。その図書館に入ればこの世のすべての知識を手に入れられるとも言われている」
盛大な話が来た。
そんな図書館があるというのはすごいことだが、王族でも入れない人がいるというのは、私達では到底入ることができないものであろう。
「だから、これは最終手段にしておこう。それに実際に立ち入った者はその図書館について話すことを禁じる誓約がかかるから、その地下の図書館についての情報は限られたものだ。そんなものは存在しないという人までいるほどだ」
つまり、あまり期待はするなということか。
期待したとしても入れないから仕方ないが、そういう手も不可能だけどあるという風に覚えておこう。
「他には、そうですね、吟遊詩人の話を聞くとか」
「あれはおとぎ話を語り歩くという者たちなのではないですか?」
カルシュが疑問を投げかける。
サージはカルシュに微笑みながら言った。
「確かに吟遊詩人はおとぎ話を伝え歩く者たちなのだけれど、火のないところに煙は立たないと言うわ。吟遊詩人の話は作られたものやただの英雄の伝説だったりするけれど、その中に実は本当のことだった、という話もあるのよ」
「そんなことがあるのですね」
「ああ。吟遊詩人本人も先祖から代々語り継がれてきているものを歌っているから何が本当でどのように作られたのかはわからない話も多いそうだ」
「しかし、ある冒険者が吟遊詩人の話を聞いてある洞窟に向かうと、そこに眠っていた神竜を目覚めさせることができたそうだ。その冒険者が国をおこし、今も繁栄している。それがファフニール王国の始まりの伝説とされているものだ」
すごいな、ドラゴンと一緒に作った国か。
なんかドラゴンの恩恵を受けながら国を運営しているのだろうか。
「竜国家の伝説ですね。その国の始祖であせられる冒険者様がお亡くなりになられた後はその神竜、シュガールが国を治めているのですよね」
「そのとおりだ」
まじか、ドラゴン本人が国を治めているらしい。
ドラゴンって国の守護神みたいなイメージだったが実際に国を治めるとこがあるのか。
「あの、ずっと疑問だったんですけど、どうして冒険者様の名前が出てこないのでしょうか」
「一説によると冒険者様は一般階級の身分だったことを気にして自らは王にはならなかったから名前が構成に伝わることがなかったということもあるわ。しかし他の説によるとその竜国家の伝説は現在の王の作り話だから冒険者様の名前が出てこないと考察するものもいるらしいの。真実は竜のみぞ知る、ってところね」
でっちあげかもしれない話ということか。
確かにかなりできすぎた話ではあるかもしれないが、よくアニメとかで見る設定だ。人が竜を従えるというのは。
この世界ではあまり浸透していない設定なのだろうか。
「――話がそれたな、吟遊詩人の話は私の方でも集めておこう。しかし皆気をつけるように。異世界については禁忌としているところも少なくない。慎重に動いたほうがいいだろう」
「はい」
サージとカルシュが口を揃えて言う。
私もインテリゲントを見て深く頷く。
「異世界という世界を知らない人も多いほどのものよ。情報を集めるのはきっと難しいわ。だから時間をかけて確実にいきましょう」
少しだけ違和感を感じる。
確かに私からしたらこっちの世界が異世界だが、こっちの住民からしたら私の来た世界のほうが異世界なのだ。
「じゃあまずは情報収集といこう。時間がかかるだろうからいつも通りの日常を過ごそう。大賢者の知識を授かりに行くことにもなるだろうからその時のためにカル、スミレ、二人を厳しく鍛え上げる。万が一の場合にも自分の身は自分で守れるようにな。そしてその時が来たら必ず家族全員で行こう。そうできるように私も色々手を回してみよう。何年後になるかわからないがな」
「え、そんなに時間がかかるものですか?」
「当たり前だろう。大賢者の使者様の出される試練を突破するためにも知識、教養、そして様々な技術も身に付けなければならない。一朝一夕ではできないことだ」
気が遠くなりそうだ。
一体私が帰るのはいつになるのか。
そういえばこっちの世界の時間の過ぎ方と私がいた世界の時間のズレはどのようになっているのだろうか。
もし私があっちの世界で突然消えてしまったということになっていたら家族にも心配されるだろう。
そうなればいち早く帰りたいところだが時間がかかりそうだ。
高校も中退になっていなければいいが。
そう思いながら、家族会議は終わったのだった。




