紫苑 10 シオン~その言葉に想いを寄せて~
いつもの場所でいつものように眠っている姿。
いつまでも続くと思えてしまう日々。
それでも、終りはやってくる...。
そして、その時がくる。
夜の診察のあと、忘れ物がないか確認して、わたしたちは出かけた。
いつもの道を通り、いつも通りの時間で到着する。
少し前に飲んだ薬が効いていて、いつもの場所でいつものようにシオンは寝ていた。
でも、薬の効果がなくなれば、また苦しみだすのだ。
昼間見た時より、さらに痩せたような気がするな。
シオンの手を握る。
シオンの温かさ。
血管が出ることを確認して、ゆっくと手を戻す。
そして、わたしは準備を始めた。
「こんなことしないでって、シオンは言ってないですか?」
ママが涙を浮かべながら言った。
うしろでパパも涙ぐんでいる。
「今までありがとうって、言ってますよ」
わたしは笑って応えた。
神様は最後のシナリオを決めた。
わたしはそれにただ添うだけ。
だから、冷静な気持で職務を全う出来る。
よく頑張ったね、シオン。
そしてママもパパも。
もう必要のなくなった酸素濃縮機を抱えて、助手席からぼーっと外を眺めながら帰路につく。
窓の外は、すっかり見慣れた景色。
でも、この見慣れた景色も、これで最後だ。
それにしても、毎日毎日、よく通ったな。
何が、そうさせたのだろう。
何日か前に、じっとわたしを見つめていたシオンの顔が浮かんだ。
この季節、ハロウィンが来るたびに、思い出すのかなぁ。
この往診がいつまでも続くような気がしてたけど...。
やっぱり終わっちゃったな。
もう、こんなことが出来るのも、きっとこれで最後。
わたしのなかで、ひとつとっても大きなものが確実に終わったような気がした。




