紫苑 6
今日も往診。
食欲がなくなった。
水も飲んでいない。
呼吸がさらに苦しそうなので、経鼻カテーテルで酸素を送ることにした。
カテーテルを入れる時に少しいやがったけど、入ってしまえばすぐに気にしなくなった。
しばらくしたら、呼吸が穏やかになって来た。
「楽そうですね。良かった」
休日なので、今日はパパがいる。
すると、横になっていたシオンが急に起き上がろうとした。
舞ちゃんが支えて、フセの姿勢をとらせる。
「水が欲しいかも」
舞ちゃんがそう言うと、ママが水の器をシオンの口先に差し出した。
「うわ、飲んだ」
ママが喜ぶ。
「フードも食べないかな?」
わたしが言うと、ママはすぐに缶詰を開けた。
食べた。
ママがまた喜ぶ。
すぐに缶から次の塊を取り出した。
続けて食べる。
一塊のフードをママの手から食べる度に、なぜかシオンは後ろにいるわたしを振り返って見た。
そして、何度かそれを繰り返したあと、振り返ったままシオンの視線が止まった。
わたしをじっと見ている。
こちらが戸惑うくらい、まっすぐにわたしを見つめていた。
何か言いたげ。いや違う、言っている。
でも、なにを言っているのか分からない。
ずっとずっと視線を逸らさない。
どれだけの時間、そんな状態が続いただろう。
わたしの方が耐えられなくなって視線を逸らそうとした時、疲れたのか、シオンはこちらを向くのをやめると頭を床においた。
帰りの車中、助手席からぼんやりと外の景色に目をやる。
手をつないだアベックが、楽しそうに歩道を歩いてゆくのが見えた。
あれは、何だったんだろ?
じっとわたしを見ていたシオンの顔が浮かんだ。
シオンは何を言っていたんだろ?
考えると、なんだかとても苦しくなった。
わたしのやってることは、正しいのかな?
胸の苦しみは消えない。
「シオンちゃん、絶対に笑ってましたよね。笑って先生の顔をじっと見てましたよね」
突然、運転席の舞ちゃんが言った。
その言葉に、わたしの胸の苦しみが少し薄らいだような気がした。




