表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/38

紫苑 6

 

 今日も往診。

 食欲がなくなった。

 水も飲んでいない。

 呼吸がさらに苦しそうなので、経鼻カテーテルで酸素を送ることにした。


 カテーテルを入れる時に少しいやがったけど、入ってしまえばすぐに気にしなくなった。

 しばらくしたら、呼吸が穏やかになって来た。

 「楽そうですね。良かった」

 休日なので、今日はパパがいる。


 すると、横になっていたシオンが急に起き上がろうとした。

 舞ちゃんが支えて、フセの姿勢をとらせる。

 「水が欲しいかも」

 舞ちゃんがそう言うと、ママが水の器をシオンの口先に差し出した。

 「うわ、飲んだ」

 ママが喜ぶ。

 「フードも食べないかな?」

 わたしが言うと、ママはすぐに缶詰を開けた。

 食べた。

 ママがまた喜ぶ。

 すぐに缶から次の塊を取り出した。

 続けて食べる。

 一塊のフードをママの手から食べる度に、なぜかシオンは後ろにいるわたしを振り返って見た。

 そして、何度かそれを繰り返したあと、振り返ったままシオンの視線が止まった。

 わたしをじっと見ている。

 こちらが戸惑うくらい、まっすぐにわたしを見つめていた。

 何か言いたげ。いや違う、言っている。

 でも、なにを言っているのか分からない。

 ずっとずっと視線を逸らさない。


 どれだけの時間、そんな状態が続いただろう。

 わたしの方が耐えられなくなって視線を逸らそうとした時、疲れたのか、シオンはこちらを向くのをやめると頭を床においた。




 帰りの車中、助手席からぼんやりと外の景色に目をやる。

 手をつないだアベックが、楽しそうに歩道を歩いてゆくのが見えた。


 あれは、何だったんだろ?

 じっとわたしを見ていたシオンの顔が浮かんだ。


 シオンは何を言っていたんだろ?

 考えると、なんだかとても苦しくなった。


 わたしのやってることは、正しいのかな?

 胸の苦しみは消えない。


 「シオンちゃん、絶対に笑ってましたよね。笑って先生の顔をじっと見てましたよね」

 突然、運転席の舞ちゃんが言った。


 その言葉に、わたしの胸の苦しみが少し薄らいだような気がした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ